AWS Well-Architectedに基づく設計実践:基本から詳細まで徹底カバー
以下では、基本設計と詳細設計の両方をまとめています。大きく6つの視点(運用優秀性、セキュリティ、信頼性、パフォーマンス効率、コスト最適化、持続可能性)に分け、まずは基本設計の要点を整理し、その後に詳細設計で押さえるべき細部を付け加える形にしました。両フェーズを通して確認すれば、AWS上でのシステムアーキテクチャ全体像をより具体的かつ確実に設計・実装できます。
1. 運用優秀性 (Operational Excellence)
1-1. 基本設計
-
モニタリング設計
- CloudWatchメトリクス:CPU、メモリ、カスタムメトリクス等をサービスごとに選定。
- アラーム閾値:CPU使用率80%など、通知先SNS/Slackを事前に決める。
- ログ運用:CloudWatch Logsに送るログ種別と保持期間を検討。外部解析基盤やカスタムメトリクス生成も考慮。
-
運用ダッシュボード
- CloudWatch Dashboard:主要KPIや稼働状況を可視化。
- 異常時リカバリ:ダッシュボードからのワンクリック操作(Lambdaなど)で対処できる仕組みを盛り込む。
-
ログと可観測性
- 構造化ログ:標準出力/標準エラーへの書き出し。コンテナならFluent Bit等で集約。
- 分散トレーシング:AWS X-RayやOpenTelemetryを活用してサービス間の可観測性を高め、トレースIDで問題を追跡可能に。
-
運用ツール統合
- AWS Systems Manager (SSM):Run Command、Parameter Store、Secrets Manager、Automationドキュメントで運用のコード化と自動化を進める。
- No human error:人的ミス削減の仕組み(手順の自動化、集中管理)を具体化。
-
デプロイ/リリース手法
- ECS:ローリングアップデート、ブルーグリーン、カナリアなど適切な手法を選択。最小稼働タスク数と同時更新数を設定し、無停止リリースやロールバックに備える。
- Lambda:バージョン&エイリアスでカナリアデプロイ、API Gatewayのステージ構成など、サービス固有設定を詰める。
1-2. 詳細設計
-
CloudWatchアラームの具体化
- CPU 80%が5分続いたらスケールアウト、95%が10分続いたら緊急通知、などしきい値と連続データポイント数を明示。
- CloudWatch Anomaly Detectionやカスタムメトリクス(例:キュー長)のアラーム設定も検討。
-
ダッシュボードと運用ツール実装
- CloudWatchダッシュボードをJSON定義化し、Terraform/CloudFormationで構築漏れを防止。
- AWS Systems Manager Automationで「EC2再起動」などをワンクリック化し、運用効率を高める。
-
通知とチケット連携
- SNS→Slack/Teams/PagerDutyへの通知フローを整備。
- 必要に応じ、Lambda経由でフォーマット変換し、自動チケット起票(JIRA/ServiceNowなど)も実装可能に。
-
デプロイパイプライン実装
- CodePipeline + CodeBuild + CodeDeploy/ECSなどでCI/CD構築。Blue/Greenデプロイのトラフィックシフト割合、失敗時ロールバック設定を明確化。
- LambdaはAWS SAMやServerless Frameworkでリリースをコード化し、カナリアリリースのウェイト時間や評価基準も設定。
-
インフラ変更管理
- GitリポジトリでInfrastructure as Codeを管理し、Pull Requestレビュー→mainマージで自動適用の運用ガイドライン。
- 変更失敗時のロールバック手順(CloudFormationスタックロールバック、Terraform state管理)も定義。
2. セキュリティ (Security)
2-1. 基本設計
-
アクセス制御とIAM設計
- 最小権限:Lambdaごと/サービスごとに実行ロールを個別化し、不必要なリソース操作権限を与えない。
- 管理者IAMロール:権限範囲やElevated権限取得プロセスを明文化。
-
ネットワークセキュリティ
- VPC/SG/NACL:原則許可制で最小範囲のCIDRに限定。
- Kubernetes利用時:ネットワークポリシーでPod間通信を制御し、最小限に抑える。
-
暗号化と鍵管理
- S3暗号化:デフォルト暗号化オン+KMSのCMKを必要に応じ使用。
- EBS暗号化:アカウント全体で自動暗号化を有効にして常に暗号化ボリュームを使用。
- KMSキーの管理:ローテーション設定やキーにアクセスできるIAMを明確化。
-
機密情報の扱い
- Secrets Manager/Parameter Store:パスワードやAPIキーを安全に管理し、コードにハードコードしない。
- コンテナへの注入:タスク定義でSecrets Managerから環境変数に注入し、平文を残さない。
-
脆弱性管理
- イメージスキャン:ECRのスキャンや重大脆弱性検出時の通知フローを整備。
- ランタイム脅威検出:Amazon GuardDutyを活用し、不審挙動を検知。
-
監査ログとトレイル
- CloudTrail:全リージョン有効化し、セキュアなS3へ集約。
- AWS Config:リソース構成の変更履歴を記録して追跡可能に。
- 改ざん防止:S3バケットのObject Lockや厳格なアクセス制限を検討。
2-2. 詳細設計
-
IAMポリシー定義と付与
- JSONポリシーをサービスごとに精密化(特定AMI閲覧のみ許可、S3バケット単位でARN指定など)。
- IAM Access Analyzerで余計な権限がないか検証。
-
セキュリティグループ/NACL設定
- SGルールはインバウンド・アウトバウンドを全てリストアップし、ポート/プロトコル/範囲を明記。
- NACLは補助的に使いつつ、Terraform/CloudFormationテンプレートに落とし込む。
-
Webアプリケーションファイアウォール (WAF)
- AWSマネージドルール+カスタムルール(IPブロックリスト、レート制限等)を具体的に設定。
- WAFログをCloudWatch Logs等に蓄積し、SQLインジェクション試行など重大ルールのアラート化を検討。
-
脅威検出サービス
- GuardDutyやSecurity HubのFinding通知フローをEventBridge+SNS/Chatbotで整備。
- EKS Runtime MonitoringやInspectorレポートを統合監視して、脆弱性を早期発見。
-
証跡と監査ログ
- CloudTrailログはS3に保存→Athenaでクエリ可能にし、Glueテーブルを定義。
- CloudTrail Insightsで異常API検出を有効化。Flow Logs/ELBログなども必要に応じて保存。
-
データ暗号化設定
- S3 SSE-KMS設定、EBSのEncrypted: True、RDSのStorageEncryptedなどをパラメータで明記。
- ALBやCloudFrontのTLS1.2以上強制、ACM証明書管理などエンドツーエンドで暗号化を徹底。
- コンプライアンス(PCI DSS/HIPAA)があれば追加ログ・キーローテーション運用を明文化。
3. 信頼性 (Reliability)
3-1. 基本設計
-
Auto Scalingポリシー設計
- EC2 ASG:最小・最大・desired台数やターゲット追跡ポリシー(CPU 50%など)を設定。
- ECS:CPU利用率やカスタムメトリクスによるAuto Scalingをサービス単位で定義。
- EKS:HPAでDeploymentをスケール、複数Podを常に稼働する構成に。
-
ヘルスチェックとフェイルオーバー
- ELBヘルスチェック:URL・間隔・閾値で不健康インスタンスを自動切り離し。
- Route 53:フェイルオーバー切り替え条件を設定。
- Kubernetes Probes:Readiness/LivenessでPodの状態を制御。
-
バックアップとリストア手順
- RDS:日次スナップショット+トランザクションログ、EFSはAWS Backup、DynamoDBはPITR等を有効化。
- 定期リストア検証:災害対策にS3別リージョンコピーも導入。
-
障害対応フロー
- アラーム通知:CloudWatch→SNS→オンコール連絡。重大障害は自動的に特定メンバーへ。
- ランブック(手順書):オートヒーリング失敗時の手動介入手順を定義。
-
コンテナ/サーバーレスの信頼性設計
- ECS:Cluster Auto ScalingやEC2キャパシティプロバイダでノードを自動増減。
- EKS:Cluster AutoScalerやKarpenter導入、Node Problem Detector等で問題ノードを自動隔離。
- Lambda:SQS/EventBridgeリトライやDLQを設定し、Step Functionsはエラーハンドリング(Catch/Retry)をコード化。
3-2. 詳細設計
-
リソース冗長構成実装
- Multi-AZ RDSで自動フェイルオーバーが有効か、Auto ScalingがAZをまたいで動くかをテンプレートレベルで確認。
- EKSワーカーノードを複数サブネットに配置し、AZ障害時でも稼働が維持される構成に。
-
フォールトインジェクションテスト
- AZ障害を意図的に起こして冗長化機能が正しく動くか検証。
- 自動フェイルオーバーのトリガー条件(RDSなど)を理解し、必要なら微調整。
-
運用シナリオ別手順
- 「Webサーバ全停止」「DBインスタンス破損」など想定シナリオごとのランブックをドラフト化。
- Auroraリーダープロモートやフェイルオーバー手順を明文化し、運用チームに引き継ぎ。
-
可用性テスト計画
- バックアップ→リストアのテスト、フェイルオーバー時間測定、Auto Scaling挙動の負荷テストを実施。
- 本番稼働後も定期的にテストし、設計が実際の障害時に機能するかを検証し続ける。
-
耐障害性のコードへの組み込み
- アプリケーションでリトライ(Exponential backoff)、サーキットブレーカー、DLQなどを実装。
- コンテナのSIGTERMハンドリングやGraceful Shutdownタイムを設定し、ローリング更新時の中断に備える。
4. パフォーマンス効率 (Performance Efficiency)
4-1. 基本設計
-
容量プランニングとリソース選定
- インスタンスタイプ・スペックを事前見積(Web/AP:c6i.large、DB:r6g.xlarge等)。
- EBS gp3かio2か要件に応じて決定し、AWSのサービス上限(Lambdaメモリ等)もチェック。
-
キャッシュ層の設計
- ElastiCache:Redis/Memcachedで頻繁アクセスデータをキャッシュ、TTLやキー戦略を決定。
- CloudFront:静的コンテンツをキャッシュし、TTLやBehaviorsを具体化。APIキャッシュも検討。
-
アプリケーション性能設計
- 非同期化/並列化でレスポンス高速化、DBクエリ最適化(CQRSやインデックス)などを適用。
- 適切なデータストア選択(NoSQL, DWH)やアーキテクチャパターンでスケーラビリティを確保。
-
性能テスト計画
- 本番相当環境でJMeter/Locust等を使った負荷テストを実施し、ボトルネックを洗い出す。
- 目標スループット/レスポンスタイムに達しない場合の対策基準をあらかじめ定義。
-
コンテナ/サーバーレスの性能チューニング
- EKS/ECS:requests/limits設定、重要サービスに十分なリソースを割り当て。
- Lambda:メモリサイズを試算し、コールドスタートが問題になればProvisioned Concurrencyを検討。
4-2. 詳細設計
-
ミドルウェア/DBチューニング
- RDSパラメータグループ(innodb_buffer_pool_size等)やアプリ側のスレッド/コネクションプール、OSカーネルパラメータ(ulimit等)を具体的に設定。
- Lambda環境変数でAWS SDKコネクション数を制御するなど、ソフトウェアレベルで最適化。
-
Auto Scaling調整
- スケールアウト/インのしきい値やクールダウンを細かく調整し、スパイク対応と過剰スケールを両立。
- Scheduled Actionsで昼ピークはスケールインしないなど時間帯考慮を実装。API GatewayにはUsage Plan/スロットリングを設定。
-
性能テストと結果反映
- テストで発覚したボトルネック(クエリ遅延やGC問題)に対応し、設計パラメータを見直す。
- モニタリング結果で継続的にチューニングを行う運用体制を設計書に含める。
-
キャッシュヒット率向上
- CloudFrontのキャッシュキー設定(不要クエリパラメータ除外)やCache-Controlヘッダ制御(Lambda@Edgeなど)で効率化。
- ElastiCacheのTTL設定を最適化し、人気データのキャッシュヒット率を高める。
-
データ圧縮と転送効率
- APIレスポンスのgzip/静的ファイルの圧縮配信、protobuf/Avroなどのバイナリプロトコル検討。
- 具体的な圧縮レベルやパケットサイズ、Lambdaの不要ライブラリ削除でコールドスタート短縮も考慮。
-
コンテナイメージと起動時間
- Dockerイメージサイズをアルパイン/Distrolessやマルチステージビルドで削減。
- ECRを利用し、リージョン内で並列Pull可能にしてスケールアウトを素早く。
- Lambdaは不要ライブラリを排除し、起動遅延を最小化。
5. コスト最適化 (Cost Optimization)
5-1. 基本設計
-
リソース効率の見直し
- 過剰な冗長構成を排除し、開発/検証環境ではAuto Scalingしきい値・手動停止手順を整えて無駄を削減。
-
ログ・データのライフサイクル
- CloudWatch Logsの保持期間を適切に設定(無期限にしない)。
- S3はアクセス頻度に応じてGlacierへ移行、最終的に削除するライフサイクルルールも設定。
-
タグとコスト配分
- 統一タグ付与(例: Project, Environment)をCloudFormation/Terraformで自動化し、後のコスト分析を容易に。
-
コストモニタリング設計
- AWS Budgets, Cost Anomaly Detectionで予算超過や急な増加を通知。
- Trusted Advisorを定期レポートし、低利用EC2などを検知する仕組みを導入。
-
Reserved/Spot計画
- 安定稼働リソースにリザーブドインスタンスやSavings Planを適用。
- 非本番はスポット活用を優先し、スポット中断時の再実行戦略を整える。
5-2. 詳細設計
-
コストダッシュボードとアラート実装
- AWS Budgetsのしきい値設定(例: 月予算80%超えで通知)。
- LambdaでCost Explorerレポートを定期生成・送信する仕組みを記述。
-
無駄リソース自動検出
- Trusted Advisorを週次でAPI実行→結果をLambdaで集約し通知。
- Compute Optimizerも有効化し、提案されたダウンサイジングを検討する運用プロセスを設定。
-
スケジュール最適化
- Instance SchedulerやEventBridge+Lambdaで開発環境を夜間停止。
- ECSのDesiredタスク数やEKSノード数を夜間に0~最小へスケールダウンするスクリプトを詳細化。
-
Reserved/Spot管理
- 運用開始後数ヶ月でRI/Savings Plansを買う時期を決める。
- スポット利用部分は中断通知→Drain処理→再実行を自動化し、ユーザー影響を最小化。
-
ライセンスコスト最適化
- Windows/SQL ServerなどはBYOLかライセンス込みか比較検討し、最適なAMI/インスタンスタイプを選ぶ。
- 選択理由を設計書に残し、将来見直しやすくしておく。
6. 持続可能性 (Sustainability)
6-1. 基本設計
-
未使用リソースの排除
- 過剰なマイクロサービス分割や使う予定のないサーバーを置かない。最小構成で開始し、必要時に追加する。
-
エネルギー効率指標の組み込み
- CloudWatchなどでCPU/メモリ使用率を継続監視し、低利用リソースはダウンサイジング。
- PDCAを回してムダをなくす。
-
グリーンエネルギー活用
- リージョン選択時に再生可能エネルギー比率を考慮できるなら検討。
- 東京リージョンのみ利用など制約がある場合は将来的選択肢としてメモ。
-
将来の改善余地
- EC2→Fargate、RDB→Serverless Auroraなど移行しやすい疎結合構成を意識し、モジュール化を進める。
6-2. 詳細設計
-
カーボンフットプリント監視
- AWS提供のカーボンフットプリントツールを四半期ごとにレビューし、Graviton移行等で省エネ対策を検討。
- レビュー担当/プロセスを設計段階で決めておき、形骸化を防ぐ。
-
利用率レポート
- CloudWatchメトリクスを週次や月次で集計し、CPU20%未満のEC2を自動タグ付け→統合・停止候補リスト作成など自動化。
- LambdaスクリプトでレポートをSlackに通知し、チームで改善アクションを回す。
-
ガベージコレクション
- 未使用Elastic IPや古いEBSスナップショットを定期検出・削除。
- 事前承認フロー(Slack通知→承認後にLambdaで削除)を組み、誤削除リスクを最小化。
-
継続的改善の文化定着
- 運用会議で環境効率レポートを定期レビューし、改善タスクを洗い出す。
- 最新クラウド技術のキャッチアップ担当を置き、今後もサステナビリティ最適化を進める。
まとめと次のステップ
- 基本設計では、アーキテクチャの方針・構成要素・実現パターンを中程度の詳細度で策定。
- 詳細設計では、それをさらに具体化(AWSリソースの設定値、パラメータ、スクリプト、IaC定義など)し、実装や運用時に迷わないレベルまで落とし込む。
- 両フェーズを通じて、運用優秀性・セキュリティ・信頼性・パフォーマンス効率・コスト最適化・持続可能性の6項目を網羅することで、安心かつ柔軟で拡張性の高いクラウド基盤を構築できる。
大枠で方針を固めたら、あとは実際にAWSリソースを作りつつテストを行い、必要に応じて微調整していきましょう。これらを体系立てて進めることで、最終的に高品質なシステムを自信を持ってリリース・運用できます。
Discussion