CodeMirrorにシンプルなテキスト検索機能を実装しました
ZennのMarkdownエディタにテキスト検索機能を実装しました。
本記事では、CodeMirrorの@codemirror/searchをベースに、ミニマムな検索機能の実装方法を解説します。
なぜ検索機能を実装したのか
きっかけは、以下のIssueでした。
ZennのMarkdownエディタに使われているCodeMirrorは、パフォーマンスの最適化のため仮想スクロールと呼ばれるテクニックを使いDOMを描画しています。仮想スクロールは可視範囲以外はDOMが表示されていないので、ブラウザの検索機能ではエディタ内のテキスト全体を検索することができない問題がありました。
仮想スクロールとは
仮想スクロールとは、大量のデータを描画する際にパフォーマンスを落とすことなく描画とスクロールを実現するテクニックです。仕組みとしては、データ全体を描画するためのエリアを用意しつつ、その中でブラウザの画面に見えている部分だけを描画するというものです。
仕組みを理解するには以下の記事が分かりやすいです。
これを解決するには、以下の手段が考えられました。
- CodeMirrorの仮想スクロールを無効化するか描画範囲を広げる
- CodeMirrorの検索機能を使う
しかし、CodeMirror v6の仮想スクロールは無効化したり描画範囲を広げたりというオプションは提供されていなかったため、1は選択できませんでした。
実装を確認したところ、ブラウザの可視範囲に加えて、上下に合計1000pxをスクロール方向などを加味しつつ、余分に描画していることがわかりました。
CodeMirrorの作者であるmarijn氏もフォーラムで以下のようにコメントしています。
Viewporting is a rather fundamental aspect of the way the library is designed (much of the complexity analysis in the implementation depends on it) and not something that can be turned off. (I keep getting CM5 support requests where people set viewportMargin: Infinity and then are surprised when the editor gets slow. I want to avoid that failure case this time.)
The way this breaks browser search is very annoying, but a trade-off that seems unavoidable with this design.
というわけで、2の「CodeMirrorの検索機能を使う」ことにしました。
@codemirror/search をカスタマイズする
@codemirror/searchをそのまま利用すると、以下のような検索機能が表示されます。
デフォルトの検索パネル
本来、CodeMirrorはソースコードのためのエディタなので、置換や正規表現検索などのリッチな検索も付いていました。ただ、記事執筆エディタに対する検索機能としてはいささか過剰で、Zennではシンプルに文字列の検索だけを提供したいと考えました。
幸い、@codemirror/searchのExtensionには、独自の検索パネルを差し込むオプションが用意されていましたので、そちらを使って見た目と機能を調整しました。
カスタマイズした検索パネル
検索パネルのインターフェイスは以下のように定義されています。
https://codemirror.net/docs/ref/#search.search^config.createPanel
が、具体的な実装例を探しても見つからなかったので、@codemirror/searchのSearchPanelの実装をベースに不要な機能を削ぎ落とす形で実装しました。
CodeMirrorの作者であるmarijn氏もフォーラムで以下のようにコメントしています。
The implementation of the built-in search panel is probably a good place to start.
https://discuss.codemirror.net/t/replace-default-search-panel-with-my-own-component/5885/2
SearchPanelのカスタム実装
以下が、カスタム検索パネルの実装例です。長いので区切りが分かりやすいように分割しますが、全て1つのファイルのソースコードです。
import {
SearchQuery,
closeSearchPanel,
findNext,
findPrevious,
getSearchQuery,
search,
searchKeymap,
setSearchQuery,
} from '@codemirror/search';
import {
EditorView,
Panel,
ViewUpdate,
keymap,
runScopeHandlers,
} from '@codemirror/view';
class SearchPanel implements Panel {
searchField: HTMLInputElement;
dom: HTMLElement;
query: SearchQuery;
constructor(readonly view: EditorView) {
const query = (this.query = getSearchQuery(view.state));
this.commit = this.commit.bind(this);
// searchFieldの初期化
this.searchField = document.createElement('input');
this.searchField.value = query.search;
this.searchField.placeholder = 'Search';
this.searchField.setAttribute('aria-label', 'Search');
this.searchField.className = 'cm-textfield';
this.searchField.name = 'search';
this.searchField.setAttribute('form', '');
this.searchField.setAttribute('main-field', 'true');
this.searchField.onchange = this.commit;
this.searchField.onkeyup = this.commit;
function button(name: string, onclick: () => void) {
const button = document.createElement('button');
button.className = 'cm-button';
button.name = name;
button.onclick = onclick;
button.type = 'button';
button.setAttribute('aria-label', name);
return button;
}
// domの初期化
this.dom = document.createElement('div');
this.dom.className = 'cm-search-custom'; // デフォルトのthemeが適用されるのを回避するため、独自のクラスを指定
this.dom.onkeydown = (e) => this.keydown(e);
this.dom.appendChild(this.searchField);
const nextButton = button('next', () => findNext(view));
this.dom.appendChild(nextButton);
const prevButton = button('prev', () => findPrevious(view));
this.dom.appendChild(prevButton);
const closeButton = button('close', () => closeSearchPanel(view));
this.dom.appendChild(closeButton);
}
SearchPanel
は@codemirror/searchのSearchPanelから必要な機能だけを残した独自の検索パネルです。@codemirror/searchはJavaScriptのライブラリなのでDOMもWeb APIを使って生成します。
getSearchQuery
は@codemirror/searchで定義されたStateField<SearchState>
のquery
フィールドを取得します。query
フィールド(SearchQuery
)はデフォルトの検索パネルの状態管理にも使われるもので、たくさんのフィールドを持ちますが、カスタム検索パネルではその内のsearch
フィールドのみを利用します。search
フィールドはstring型で検索文字列を管理するフィールドです。
commit() {
const query = new SearchQuery({
search: this.searchField.value,
});
if (!query.eq(this.query)) {
this.query = query;
this.view.dispatch({ effects: setSearchQuery.of(query) });
}
}
keydown(e: KeyboardEvent) {
if (runScopeHandlers(this.view, e, 'search-panel')) {
// scope内でsearchKeymapに対するキーバインドが実行されたとき、preventDefaultを行う
e.preventDefault();
} else if (e.code == 'Enter' && e.target == this.searchField) {
e.preventDefault();
(e.shiftKey ? findPrevious : findNext)(this.view);
}
}
update(update: ViewUpdate) {
for (const tr of update.transactions)
for (const effect of tr.effects) {
if (effect.is(setSearchQuery) && !effect.value.eq(this.query))
this.setQuery(effect.value);
}
}
setQuery(query: SearchQuery) {
this.query = query;
this.searchField.value = query.search;
}
mount() {
this.searchField.select();
}
get top() {
return true; // .cm-panels-top の位置に表示する
}
}
commit()
はinputの状態を監視し、変更があればthis.view.dispatch
で状態(SearchQuery
)を更新します。
keydown()
はキー入力を監視し、Enterキーが押された時に検索を実行するCommand(findNext
またはfindPrevious
)を実行します。
update()
は外部からSearchQuery
の状態が変更された場合にsetQuery()
を呼び出します。このカスタム検索パネルでは必要ないかもしれませんが念のため最低限は残しています。
その他、お作法的に必要なものを残します。
const baseTheme = EditorView.baseTheme({
// デフォルトのスタイルを上書き
'.cm-panels.cm-panels-top': {
// Zenn独自のスタイルなので省略します
},
// カスタムのスタイル
'.cm-panel.cm-search-custom': {
// Zenn独自のスタイルなので省略します
},
});
baseTheme
は独自の検索パネルのスタイル定義です。詳細はZenn独自のスタイルなので省略しますが、工夫としては、クラス名を独自のcm-search-custom
にすることで、デフォルトのスタイルが適用されるのを防いでいます。
export const searchPanel = [
// search Extensionに独自のSearchPanelを差し込む
search({ createPanel: (view) => new SearchPanel(view) }),
// 独自のSearchPanelのスタイルを適用する
baseTheme,
// デフォルトのSearchPanelのキーマップを適用する
keymap.of(searchKeymap),
];
最後にこれらをまとめてExtensionとして取り込める形でexportします。
これで、カスタム検索パネルが実装できました。
おわりに
相変わらずCodeMirrorのドキュメントは初見で理解するのが難しいですが、実装とドキュメントを照らし合わせながら何度も読み返すことでようやく理解できました。また、はじめてExtensionの内部実装を読み、状態管理の仕組みもなんとなく分かってきたので、次は状態管理についてより詳しく学びたいと思います。
Discussion
いいね🙂ありがとうございました。
中程度も理解してないですが返礼のいいねを送ります😃
ありがとうございます!お役に立てたら嬉しいです 😄