MeKaBuの始まりと終わりとこれから
── 終わりを、始めよう。
はじめに
自作キーボードの世界には、思いつきから始まり、仲間とのやりとりの中で膨らみ、やがて文化へと広がっていく物語が数多く存在します。
「MeKaBu Project」もそのひとつでした。
当初の目標はとてもシンプル。
「時間がないけどキーボードを作りたい人たちが集まり、1台を完成させる」。
そこから始まった試みは、多くの技術と工夫を巻き込み、思っていた以上に大きな成果と課題を残しました。
そして今、私たちは「開発フェーズの終わり」と「普及フェーズの始まり」という節目を迎えています。
MeKaBuの始まり
きっかけ
プロジェクトの出発点は、ただ「みんなで何かを作ろう」という気持ちでした。
分割式、モジュール拡張、特徴的なゴツい外観といったアイデアを持ち寄り、気軽なチャットや会議から形が見えていきました。
試行錯誤の日々
- 基板設計:何度も試行錯誤を重ね、第4弾の試作に至るまで議論を交わしながらブラッシュアップ。
- ケースデザイン:おぎさん中心に多彩なアイディアや機能を発案し、形にしていきました。
- ファームウェア:ZMKによるモジュール拡張を軸に、さまざまな方の協力を得て調整を繰り返しました。
- 資金面:部品代や開発費を誰かが肩代わりしながら前進。
技術的にも組織的にも課題は山積みでしたが、それを乗り越える過程でノウハウが蓄積され、仲間同士の結束も深まりました。
MeKaBuの終わり
終わりの始まり
第3弾の試作基板では「FFCコネクタの蓋が弾け飛ぶ」というトラブルに悩まされました。
それでもその他の機能は概ね問題なく、ケースも盛り込みたかった機能を実現でき、現在の完成形に近い形に到達。
しかし同時に、メンバー間で「プロジェクトをどう進めるか」の温度差が目立つようになっていきました。
- 1台を作り上げて満足した人
- もっと普及させ、ユーザーと魅力を共有したい人
長い議論を経て、「ここで一区切りをつける」という決断が下されました。
データ公開の線引き
オープンソース文化を尊重しつつ、現実的な判断も必要でした。
- 共有財産とするもの:開発知見、回路図、ファームコード
- 非公開とするもの:メイン基板データ、ケースデータ(海賊版対策)
これにより「文化を広げたい」という思いと「開発者の努力を守る」という両立を図りました。
MeKaBuのこれから
普及フェーズへ
ここからは 「広める」 フェーズです。
- キーケットなどのイベント出展
- 情報発信(#MeKaBu_KB)
- データのオープン化によるサードパーティアクセサリーの登場
派生と拡張
MeKaBuで得た知見は、次のプロジェクトに確実に受け継がれます。
- 新しいキーボードの開発
- モジュールを活かしたデバイス(マウス、トラックボールなど)
- 他のコミュニティとの協業
「終わり」は、次の「始まり」への布石。
チームとしての学び
MeKaBuは技術的な成果だけでなく、人と人との協働という点でも多くの学びを残しました。
- 負荷分散の難しさ:作業量と利益のバランスは常に課題
-
方向性の違い:
- 「みんなで作る」がゴールだった人
- 「売れる」と見込んで広めたかった人
解決策
- 開発プロジェクトとしては区切りをつける
- 以後は普及・販売を中心に活動
この決断は、プロジェクトを平和的に終わらせ、次へ進むための重要な一歩でした。
終わりに
MeKaBuプロジェクトは、始まりから終わりまで、多くの人の力と情熱で動いてきました。
そして今、新たな章が開かれようとしています。
「終わりを、始めよう。」
これは単なるフレーズではなく、私たちの新たなスタンスです。
完成したキーボードはもちろん、その裏にある文化・知見・挑戦心を、これからも広げていきます。
MeKaBuは新しい段階へ。あなたの挑戦が、次の芽を育てます。
補記:プロジェクトの失敗
※これは MeKaBuプロジェクト運営の裏側に関する反省録 です。
成功の裏にあった課題を共有することで、次の挑戦のヒントになればと考えています。
MeKaBuプロジェクトは確かに「時間がないけどキーボードを作りたい人たちが集まり、1台を完成させる」という目標を完遂しました。
しかしながら、すべてが順調に進んだわけではありません。振り返れば、いくつかの大きな課題が浮き彫りになりました。
① 最終到達地点の共有
完成させて満足するのか、それとも完成品を広めていくのか。
頒布開始目前になって、この認識の差が大きな問題として表面化しました。
頒布を想定していなかったメンバーにとっては、製造作業に追われることが大きな精神的負担となりました。
② スケジュール感の共有
サポートサーバの開設、アナウンス、頒布頻度といった基本計画を明確に決めていませんでした。
「最終到達地点」が共有されていなかったため、話題性が高いうちに広めたいという一部メンバーの考えが、他のメンバーにとって大きなプレッシャーとなってしまいました。
③ 役割分担の認識の共有
ありがたいことにサポートサーバには100名を超える参加者が集まり、できるだけ多くの人にMeKaBuを届けたいと考えていました。
当初は製造を手分けする計画もありましたが、実際には膨大な作業が発生し、最終的には「広めたい」と考えていたメンバーが製造、キッティング、サイト運営、サーバ運営、発送、アフターサポートまで担うこととなりました。
結果として、一部の人への負荷が極端に偏る形となってしまいました。
問題の本質:コミュニケーション不足
これらの背景には 「共有不足=コミュニケーション不足」 がありました。
チャットベースで設計を進め、初めてのオンラインミーティングは数カ月後、頒布の方向性を決める段階になってからでした。
- 到達点のすり合わせが足りなかった
- スケジュール感を共有する場がなかった
- 役割分担を合意する手続きがなかった
つまり、「誰が・いつ・どこまでやるか」を合意する仕組みが存在しなかったのです。
今後に向けた対策
同じ失敗を繰り返さないために、次のような仕組みが必要だと考えています。
-
目的と到達点の明文化
- 「完成で一区切り」か「普及までやる」かを最初に合意し、文書化する。
-
定期的なミーティングと議事録
- 短くても定例の場を設け、決定事項をログに残す。
- 「言った・言わない」をなくす。
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役割分担の明示
- 製造・広報・サポートなどの担当を明確化し、負荷が偏らないよう調整する。
-
情報の可視化
- 在庫、工数、支出、進捗を共有ダッシュボードにまとめる。
- 誰もが同じ数字を見ながら議論できる環境をつくる。
まとめ
MeKaBuは成功であると同時に、失敗の要素も抱えたプロジェクトでした。
「作りたい」気持ちと「広めたい」気持ちを、同じテーブルでどう扱うか。
その難しさを痛感する経験でもありました。
失敗から学んだことこそ、次の挑戦を支える土台になる。
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