転売をテーマにしたボードゲームを作ってみた話
はじめに
現代社会で議論の絶えない「転売問題」。コンサートチケット、限定品、ゲーム機...様々な商品が転売の対象となり、一般消費者と転売業者の間で静かな戦いが繰り広げられています。
そんな社会問題を、あえてボードゲームのテーマにしてみました。プレイヤーは製品を開発・製造し、「正規販売で堅実に稼ぐか」「転売で一攫千金を狙うか」という現実的なジレンマに直面します。
この記事では、なぜこのテーマを選んだのか、どんなゲームメカニクスで表現したのかを詳しく解説します。
なぜ転売をテーマにしたのか
身近だけど複雑な問題
転売は誰もが知っている身近な問題でありながら、実は非常に複雑な側面を持っています。
- 経済学的には:需要と供給のバランス、価格発見機能
- 倫理的には:機会の平等、社会的公正
- 法的には:自由な商取引 vs 迷惑防止条例
この多面性こそが、ゲームのテーマとして魅力的だと感じました。
プレイヤーに内省を促す
ゲーム中、プレイヤーは以下のような場面に遭遇します:
「限定品を3個製造した。定価で売るか、1個だけ出して転売を誘発するか...」
「あの商品、転売で買い占められてる。規制推進するか、便乗するか...」
「威厳勝利まであと少し。でも転売すれば確実に資金勝利できる...」
正解のない選択を通じて、プレイヤー自身の価値観と向き合ってもらいたいと考えました。
ゲームメカニクスの設計思想
二つの勝利条件で価値観を表現
このゲームには2つの勝利条件があります:
威厳勝利:威厳18ポイント + 資金50以上
- 正々堂々と商売を続けた証
- 転売を行うと威厳が下がるため、正規販売中心の戦略が必要
資金勝利:資金130以上
- 手段を選ばず利益を追求した結果
- 転売でも何でも、とにかく稼げば勝利
どちらの勝利を目指すかで、プレイヤーの価値観が自然と表現されます。
市場システムで需要と供給を表現
需要ダイス(2d6)により、毎ラウンド異なる需要値の商品が売れます。プレイヤーは市場の動向を読んで製品開発を行う必要があります。
転売メカニクスの工夫
転売は「他プレイヤーから商品を購入→高値で再販」という流れですが、以下の制約を設けました:
転売履歴による価格ボーナス
転売回数と価格ボーナス:
0-2回:基本価格(購入価格 + 5資金)
3-5回:+3資金ボーナス
6-7回:+6資金ボーナス
8回以上:+10資金ボーナス
転売を重ねるほど「転売のプロ」として高い利益を得られますが...
威厳ペナルティ
転売成功のたびに威厳-1。威厳が-5以下になると市場から排除され、正規販売ができなくなります。
市場汚染システム
転売が成功すると、該当カテゴリーに「汚染マーカー」が配置され、正規販売の価格が下がります。転売の社会的悪影響を表現しました。
規制システムで現実の政策議論を再現
規制推進アクション(2AP消費)で段階的に転売規制を進めることができます。現実の政策決定プロセスを簡略化して表現しました。
技術的な工夫
ダイスプールシステム
製品はカテゴリー別の色付きダイスで表現:
- 🔴 ゲーム機
- 🔵 自作ガジェット
- 🟣 フィギュア
- 🟢 アクセサリー
- 🟡 おもちゃ
設計時にダイスの出目(1-6)を選択することで製造コストが決まり、コストに応じて需要値が決定される仕組みです。
パーソナル・マーケットグリッド
各プレイヤーは20×6のグリッド(価格×人気度)を持ち、商品を座標で管理します。レビューにより人気度が変わると、商品がグリッド上で移動するという視覚的にわかりやすいシステムです。
オートマシステム
1人プレイでも楽しめるよう、2体のオートマを実装:
メーカー・オートマ
- 正規の製造業者を表現
- 2d6の出目に応じて異なる戦略で商品を製造・販売
転売ヤー・オートマ
- 転売業者を表現
- プレイヤーの商品を自動的に買い占めて転売
プレイテストで見えたこと
プレイヤーの反応
実際にプレイテストを重ねる中で、興味深い反応がありました:
序盤:「転売なんて絶対しない!正々堂々勝つ!」
中盤:「ちょっとだけなら...威厳下がるけど資金が...」
終盤:「もう勝つためには手段を選んでられない!」
多くのプレイヤーが、最初は正義感を持っていても、ゲームが進むにつれて現実的な判断をするようになりました。
バランス調整の苦労
最も苦労したのは「転売の収益性」のバランスです:
- 転売が弱すぎると誰もやらない → テーマ性が薄れる
- 転売が強すぎると皆転売する → ゲームが成り立たない
最終的には、短期的には転売が有利だが、長期的には威厳ペナルティで正規販売が有利になるバランスに落ち着きました。
おわりに
「転売」という現代的で議論の分かれるテーマをボードゲームで表現するのは挑戦的でしたが、プレイヤー同士の白熱した議論を見ていると、狙い通りの効果が得られたと感じています。
正解のない問題だからこそ、ゲームを通じて様々な視点から考えてもらえる。それが今回のゲーム制作の一番の収穫でした。
興味を持っていただけた方は、ぜひ一度プレイしてみてください。そして、ゲーム後の議論も含めて楽しんでいただければと思います。
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#ボードゲーム #ゲームデザイン #転売 #社会問題
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