MBZUAI での Visiting Student
はじめに
京都大学音声メディア研究室修士1年の稲葉 (@Ina_pfgt) です.
音楽と言語の関係や,AIの音楽教育や作曲補助への応用に興味があり,大学では音楽情報処理や自然言語処理(NLP)の研究をしています.
2024年の1月20日から2月17日まで約1ヶ月ほど Mohamed Bin Zayed University of Artificial Intelligence (MBZUAI) という大学に Visiting Student として滞在させていただく機会があったため,本記事ではその体験談や感想をつらつらと書いていきます.
MBZUAIを知らなかった方や,名前は知っているけど実際良く分からない,という方にどんなところだったかを少しでも伝えられればと思います.
MBZUAI の日本人と: 左から栗林さん,井上さん,稲葉,乾先生
MBZUAIについて
MBZUAI は 2019 年に出来たばかりの新しい大学院で,修士課程以降の ML, NLP, CV, Robotics, CS の AI に関連する専攻に絞られています.
去年,乾先生や栗林さん,金子さんらが MBZUAI の NLP 部門へ異動し日本の NLP 界隈では話題になっていました.
もちろん,日本だけでなく様々な国から研究者が集まってきており,現在 #CSRanking では専攻がある分野において世界18位となっています.[1]
学生・教員ともにまだ人数が増えている最中らしく,それに伴い名前を聞く機会が今後より一層増えていく大学だと思います.
滞在のきっかけ
そんな MBZUAI に滞在するきっかけになったのは,去年(2023年)の夏に最先端 NLP 勉強会で,MBZUAIでポスドクをしている栗林さんとお話ししたことでした.
「博士課程で海外に行きたいんですよねえ〜」という僕の雑な呟きが栗林さん経由で乾先生に届き,オンラインでお話しする機会をいただきました.
その会話の中で MBZUAI での博士課程に本当に興味があるなら1ヶ月くらい来てみなよ,と乾先生に言っていただき,今回約1ヶ月ほど滞在させていただくことになりました.
当初は MBZUAI について何か凄そうだけど良く分からない大学という認識しかなかったため,正直行くことを決めるまで結構悩みました.
ですが,調べたり話を聞くうちに MBZUAI は自分が博士でやりたいことにとても適している大学なことを知り,滞在させていただくことにしました.
具体的には,
- 音楽情報処理の研究をしている Gus さんという自分と研究領域が近く,もともと良く論文を読んでいた方が MBZUAI に異動していたこと
- 専攻間の隔たりが少なく,音楽(ML)と NLP の両方向から研究ができそうだったこと
の二点が大きなポジティブ要素でした.
もちろん興味のあった大学は他にもありましたが,音楽とNLPの両方をトップの研究者たちと追求できる大学は他に無かったため,とても気持ちが MBZUAI に傾きました.
いざMBZUAIへ
場所
MBZUAI はアラブ首長国連邦 (UAE) 🇦🇪 の首都アブダビにあるマスダールシティという街にあります.
中東の国というと治安が悪いイメージがありますが,アブダビやその他の UAE の首長国はとても治安が良く,宗教的背景から飲酒の習慣がない人たちが多数派なだけあって日本の飲屋街よりも断然安全だったように感じます.
大学とその周辺
大学は数棟の建物で全部なので,あまり大学っぽい見た目ではなくちょっとびっくりしました.
真ん中が NLP や ML の人が過ごす建物
建物の中は,各フロア内に教授ごとの部屋や,ミーティングルーム,学生の作業スペース等が全部入っています.博士学生以上は2人で1つの小部屋が割り当てられるようです.
広々とした内装になっていて企業のオフィスのような雰囲気に近いと思います.
学生の作業スペース(見えている以上に広いです)
マスダールシティには大学の他に学生寮や,飲食店,スーパー,そこそこ大きいモールなんかもあって,基本的に街の中で大体のことが完結するようになっています.
個人的にはすぐ近くのタイ料理屋がとても美味しく,4回ほど行きました(写真は撮り忘れました…).
ちなみに,マスダールシティの外に出ようとすると車での移動がほぼ必須になります.
夏がめちゃくちゃに暑いので,徒歩で移動すること考慮した道路の作りになってないからです.
一度,大学から車で15分のホテルまで歩いて帰ろうとしたら信号や歩道がなく,砂場を延々と歩く羽目になりました.おすすめしません.
滞在中の生活
滞在中はGusさんチームの人と音楽生成に関する研究をしたり,乾さんチームの人と言語モデル内部の分析に関する研究をしました.
滞在前に,研究テーマを持ち込むことも考えたのですが,現地にいるからこそ出来る研究をしたかったこと,これだ!というテーマがまとまらなかったことから,現地の研究プロジェクトに参加させていただく形にしました.
どちらの話も大変面白く,帰国後も共同で研究を続けてさせていただく予定です.
ちなみに,音楽の方に関しては最近読んで面白いなあと思っていた論文を出発点にした話で,しかもその論文を書いていたのが Gus さんのチームだったというびっくりイベントもありました.(ダブルブラインドになっていて誰が書いたのかまだ分かってなかった.)
他には,別のミーティングにもいくつか参加したり,招待公演の聴講をしたりして過ごしていました.
滞在している1ヶ月の間で10本くらいの招待公演があったと思います(ヤン・ルカンのトークもありました).
本当に様々なバックグラウンドを持つ濃い人が集まっていて,そんな人たちと過ごす時間はとても面白く,たくさんの刺激をもらいました.
観光とご飯
研究ばっかしていたわけでもなくて,車を持っている栗林さんや井上さんに ACL の締切直前にも関わらず,観光地やご飯にいろいろ連れて行ってもらいました.
いろんな国から人がくるという性質上,各地域のレストランがあり(中華料理・アラブ料理・インド料理・イタリア料理・トルコ料理など...),そのどれもが普通にとても美味しく,ちょっっと日本食が恋しくなる程度で全然苦しみはしませんでした.
日本食レストランも多少ありましたが,あんまり美味しい!!とは言えなかったです.
中華料理も中国の人からするとあんまりらしく,みんな自国の料理や味付けに厳しいんでしょうか.
誰かお偉いさんが見ていたらマスダールシティにやよい軒と牛丼チェーンを誘致してください.お願いします.
滞在して思ったこと
ここからは MBZUAI に滞在して感じた大学の良いところや悪いところをフラットにまとめてみます.
良いところ
ポスドク以上がとても多い
学生の人数に対して教員陣の人数がとても多いと感じました.
もちろんこれから学生が増えていくとは思いますが,それでも上の層が十分な人数いるというのは学生からすると手厚い指導が受けられるため大きなメリットだと思います.
また,学生・教員共に本当に優秀な人が集まっており,そういう観点でも刺激的で良い大学だと思います.
多種多様なバックグラウンド
本当にいろんな国から研究者が集まっています.現在43の国から283人の学生が来ているようです.[2]
滞在している時にちょうど開かれた学祭のようなイベントでは出身国ごとにブースがあり,それぞれの国の食べ物や文化の紹介をしていました.
International Day というイベントの写真
また,新しい大学なため,もともと別の大学や企業にいた人が多く,そういった人たちの繋がりを元にした短期留学やインターンがしやすいと思います.要するにコネクションがたくさん転がっています.
お金・寮
修士・博士課程は返済義務のない奨学金が全員に出ます.
物価を考慮してもかなり良い額が出るため,金銭面で苦労することはなさそうです.具体的な金額が気になる方は公式ページに書いてあります.
また,学生寮があり住宅費はかかりません.寮の中も見せてもらいましたが今僕が住んでるところよりも断然広いし,綺麗で快適な家でした.
悪いところ
暑すぎる
僕が滞在した1月と2月はとても快適でしたが,夏は日中平均で45℃あるみたいです.
基本的に外を歩く必要がないので意外と問題ないという話も聞きましたが,正直僕はかなりビビっています.
本当に暑い時期は国外にインターンや帰省をして逃げる人が多いみたいです.
大学の知名度
これから時間が経つにつれてCSの分野では名前が知られていくと思いますが,その他の専攻や学部がないという性質上,他の分野の人には大学の凄さ・良さをわかってもらいにくいと思います.
例えば,起業する際に「MBZUAI で博士を取りました」と言って,一般の企業やベンチャーキャピタル(VC)からどれだけ信用してもらえるかは未知数です.
自国民優遇の風潮
UAE 全体として自国民を優遇する風潮があります.
例えば,まったく同じ内容の仕事をしても外国籍の人とUAE籍の人ではもらえる給与が全然違うのが当たり前なようです.
大学の奨学金も3~4倍もらえる額が異なりますし,UAE籍の人は大学にアプライする際に履歴書(CV)等が必要ないようです.(選考の過程はどうなのか分かりません)
もちろん研究する上で差別のようなものは無いですが,こういう文化があることを心的に受け入れられない人は一定数いるように感じます.
ちなみに
悪いところも3点書きましたが
- 暑い時は国外に逃げるか引き篭もる
- 大学名よりもどういう研究をしたのかを見てくれる人・会社と働きたい
- UAE 籍以外の人の待遇も十分に良い
ので個人的にはあまり気になっていません.
まとめ
自分が海外の博士に行きたいのは,自分と異なる考え方に触れたり,そういう考えを持つ人達と一緒に研究がしたいからです.
異なるバックグラウンドを持つ人が集まる MBZUAI はその点においてとても適していますし,MBZUAI を拠点にしてさらに他の国へ遊びや研究へいくことも,お金・コネクション・立地的にしやすそうです.
最後になりましたがホストをしてくださった乾先生,加えてたくさん観光に連れ回してくれた現地の栗林さんと井上さん,東北大から同時期にから短期滞在しに来ていた Ana さん,Benjamin さんありがとうございました!
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