会社の人事制度の関係で、一度評価が悪いと数年評価が上がらないという状況を調べてみました。
※ここからたぶん空想上の話
V = \{
v_C, \,
v_B, \,
v_{A^-}, \,
v_A, \,
v_{A^+}, \,
v_{S}, \,
v_{SS}
\}
という評点集合が設定されている。
e.g.,
| 評点集合の元 |
実際の評点の例 |
| v_C |
1.8 |
| v_B |
2.4 |
| v_{A^-} |
2.8 |
| v_A |
3.3 |
| v_{A^+} |
3.7 |
| v_{S} |
4.3 |
| v_{SS} |
5 |
弊社の評価方法は過去4期の評価(上記表に基づく)に重み\mathbf{w} = (w_0, w_1, w_2, w_3)^{\rm T}をかけて、最終的な評価eが閾値e_{\rm th}を超すことで、昇格可能性を得る。
過去4期の評価を\mathbf{e} = (e_0, e_1, e_2, e_3)とする。e_k (k=0..3) \in Vである。e_0の方が過去、e_3を現在という風に時系列をとる。また、重みは規格化条件
を満たす、かつ各成分は正である。最終的な評価は
e = \mathbf{e} \cdot \mathbf{w}
として与えられる。
いま、\mathbf{e}もまた未知であり、重みベクトル\mathbf{w}もまた未知である。ここでは\mathbf{w}を固定したとき、\mathbf{e}と閾値e_{\rm th}の関係を探る。まず、昇格条件より
である。より詳細に書けば
\sum_{j=0}^3 w_j e_j \geq e_{\rm th}
という条件である。
ある期以外、全てv_{\rm SS}評価のとき
今回の評価が芳しくなく、次の3期で挽回して昇格したいときの状況を想定する。次の3期がv_{\rm SS}であるならば、今期はどれくらいの評価であれば、昇格できるのか?もしくは、3期連続でv_{\rm SS}を取ったとしても、昇格できないのか?
これはつまり、次のように書ける:
\begin{align}
\sum_{j = 0}^3 w_j e_j &\geq e_{\rm th} \notag \\
\Leftrightarrow\quad
w_k e_k + \sum_{j \neq k} w_j e_j &\geq e_{\rm th} \notag \\
\Leftrightarrow\quad
w_k e_k &\geq e_{\rm th} - \sum_{j \neq k} w_j e_j
\end{align}
ところで、
\begin{align}
\sum_{j\neq k} w_j e_j \notag
&\leq \sum_{j} w_j v_{\rm SS} \notag \\
&= v_{\rm SS} \sum_{j} w_j \notag \\
&= (1 - w_k) v_{\rm SS}
\end{align}
である。最終行では重みの規格化条件\sum_{j} w_j = 1を用いた。よって、重みが全て既知の量である場合、4期のうち3期がv_{\rm SS}評価だとすると、カスみたいな評点をとった1期があったとしても昇格ができる条件は
\begin{align}
e_k \geq
\frac{e_{\rm th} - (1 - w_k) v_{\rm SS}}{w_k}
\end{align}
を満たせば、昇格できる。
e.g., 重み\mathbf{w}が\mathbf{w} = (0.25, 0.25, 0.25, 0.25)、v_{\rm SS} = 5、e_{\rm th} = 4.3のとき。
\begin{align}
e_k
\geq
\frac{4.3 - (1 - 1/4) 5}{1/4} = 4 \times (4.3 - (15/4)) = 17.2 - 15 = 2.2
\end{align}
つまり、この今期の評価で上記の条件を満たせば、1年半後に昇格候補だ(ただし3期連続でv_{\rm SS}を取得すること)。
ある期以外、全てv_{\rm C}評価のとき
上記の節とは逆の条件を求めてみよう。つまり、4期中3期は最低評価だったけど、どこかで最高評価を取っていれば、昇格可能性があるのかを論じる。
\begin{align}
\sum_{j = 0}^3 w_j e_j &\geq e_{\rm th} \notag \\
\Leftrightarrow\quad
w_k e_k + \sum_{j \neq k} w_j e_j &\geq e_{\rm th} \notag \\
\Leftrightarrow\quad
w_k e_k &\geq e_{\rm th} - \sum_{j \neq k} w_j e_j
\end{align}
ここまでの式変形はなんの仮定をおいていないので、そのまま使う。他期がどうであれ昇格可能ということは、上記右辺が最小化されているときである。e_{\rm th}は定数なので、右辺第2項を考えると、これも上記の節と同様に
\begin{align}
\sum_{j\neq k} w_j e_j
&\geq \sum_{j} w_j v_{\rm C} \notag \\
&= v_{\rm C} \sum_{j} w_j \notag \\
&= (1 - w_k) v_{\rm C}
\end{align}
である。よって、
\begin{align}
e_k \geq
\frac{e_{\rm th} - (1 - w_k)v_{\rm C}}{w_k}
\end{align}
が求まる。これはどんなにカスな評点を4期のうち3期とったとしても、1期で挽回できると仮定した時の評点の下限を表している。この下限が、会社で与えられている評点よりも高い場合、挽回は不可能ということを意味する。
e.g., 重み\mathbf{w}が\mathbf{w} = (0.25, 0.25, 0.25, 0.25)、v_{\rm C} = 1.8、e_{\rm th} = 4.3のとき、
\begin{align}
e_k
\geq
\frac{4.3 - (1 - 1/4) 1.8}{1/4} = 4 \times (4.3 - (5.4/4)) = 17.2 - 5.4 = 11.8
\end{align}
である。v_{\rm SS} = 5なので、11.8を超す評点を取得することはできない。つまい、これは一度低評価を取ると、残り全て満点でも挽回できない制度設計を示唆している。良い悪いの話をしているわけではないことに注意して欲しい。これまでの成績が最悪で、急に評価が良くなった人を昇格対象にするかどうかは、最終的に組織の判断になるだろう。
参考
この評価制度における4期の評点のトライアングルプロットをここに与える。重みは\mathbf{w} = (0.25, 0.25, 0.25, 0.25)で固定している。
e^2, e^3を全ての組み合わせで考え、トライアングルプロットの中に割り当てている。
-
e_2: トライアングルプロットの列
-
e_3: トライアングルプロットの行
それぞれの詳細図について
である。
図が示すことは、ごくごく自然なことで、4期で全体的に評価が高い(右下)ならば昇格条件が現れる。また想定通り、一度でもv_C = 1.8をとると、次の3期の評価がどんなに良くても昇格条件は現れない。

このモデル化はあくまで空想上の試みですが、一度の低評価が長期的なキャリアに強く影響する制度設計が数学的にも「回復不能」となる場合があることを示しています。
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