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プロンプトエンジニアリングガイド

2025/01/12に公開

はじめに

本書は「プロンプトエンジニアリングガイド」と題し、AI と対話型モデル(ChatGPT など)を活用するためのプロンプト作成技術を体系的にまとめています。セミナーなどでも活用しやすいように、各章は「ゴール」「キーワード」「概要(説明)」を設置し、具体的な活用例やアドバイスを多数盛り込みました。さらに、入力・出力フォーマットや制約条件なども明記しているため、実践的にすぐ役立てることができます。

第1章 AIの基本とChatGPTの使い方

本章では「AI(人工知能)の仕組みや歴史、そして現代におけるAIの役割」を俯瞰したうえで、対話型AIであるChatGPTを実際にどのように使いこなすかを学びます。AIの進化や限界を理解すると同時に、ChatGPT へ入力(プロンプト)する際のフォーマットや注意点、さまざまな出力形式(表形式やMermaid 形式など)への指示方法も取り上げます。本章を通じて、AI と自然言語処理に関する基礎知識をしっかり身につけ、プロンプトエンジニアリングの「入り口」をしっかり押さえましょう。

1.1 AIの基本

ゴール

  • AIの基礎的な概念を理解する。
  • 機械学習・ディープラーニングの流れや応用領域を把握し、AIが社会にもたらすインパクトや課題について説明できるようになる。

キーワード

  • 人工知能(AI)
  • 機械学習(ML)
  • ディープラーニング

概要

AI の基礎を理解するには、まず「AI とは何か?」という定義と、その下位概念である「機械学習」「ディープラーニング」を知ることが重要です。近年、多くのビジネスシーンや日常のサービスで AI が取り入れられていますが、その裏には膨大なデータを活用した学習手法があります。

以下のポイントを押さえ、AI の全体像を把握していきましょう。

  1. AI とは何か?

    • 人工知能(AI)はコンピューターが人間の思考や学習を擬似的に行う技術の総称です。
    • 1950 年代にアラン・チューリングが「チューリングテスト」を提唱して以来、AI はさまざまな段階を経て進化してきました。
  2. 機械学習(ML)

    • AI を大きく前進させたのが、データから法則や規則性を学習する「機械学習」というアプローチです。
    • 代表的な手法として、回帰分析や分類問題に用いられる「教師あり学習」、パターン発見に活用される「教師なし学習」などがあります。
  3. ディープラーニング

    • ディープラーニングは「深層学習」とも呼ばれ、機械学習の一種です。
    • 人間の脳神経回路(ニューラルネットワーク)を模して、多層構造のネットワークを使い、高度なパターン認識が可能になりました。
    • 音声認識、画像認識、自然言語処理など、多彩な分野で飛躍的な性能向上をもたらしています。
  4. AI の活用事例

    • 画像認識:自動運転、監視カメラ、医療画像診断など
    • 自然言語処理:音声アシスタント、対話型AI(ChatGPT 等)、翻訳サービスなど
    • 金融・マーケティング:レコメンドエンジン、チャットボット、需要予測、リスク管理など
  5. AI の限界と課題

    • データバイアスのリスク:AI は学習データに依存するため、データの偏りがそのまま応答や判断に影響する可能性があります。
    • 透明性の問題:ディープラーニングの内部構造はブラックボックス化しやすく、どのような根拠で結論に至ったか説明が難しいことが多い。
    • 倫理的問題:個人情報の扱いや雇用への影響など、社会的に慎重な議論が必要な領域が存在します。

これらを踏まえ、AI がどのように世界を変えつつあるかを総合的に理解することが、この先の「プロンプトエンジニアリングガイド」の学習を進めるうえで大きな助けとなるでしょう。

アドバイス

  • AIの基礎を学ぶ際には、できるだけ具体的な事例に触れると理解が深まります。自動運転車、レコメンド機能、音声認識、画像診断など、身近な AI 活用事例をいくつか調べてみると、ディープラーニングがどのように世界を変えつつあるのか実感できるでしょう。
  • 倫理的問題については、GDPR(EU一般データ保護規則)など、法律や規制の面でも動きが活発です。ビジネスやサービス設計で AI を活用する際は、法的リスクや社会的インパクトへの配慮も重要です。

1.2 ChatGPTの基本的な使い方

ゴール

  • ChatGPT の概要と仕組みを理解する。
  • 適切なプロンプトを作成し、ChatGPT を活用する際の入力(プロンプト)と出力(応答)の形式、制約条件、エラー対処などの基礎を身につける。

キーワード

  • ChatGPT
  • 自然言語処理(NLP)
  • プロンプト

概要

ChatGPT は、OpenAI が開発した高度な対話型言語モデルであり、ユーザーが入力したテキスト(プロンプト)に対して自然で文脈に合った応答を返します。単なる Q&A にとどまらず、文章生成や翻訳、文章校正、さらにはコードの提案など、多彩な機能を持っています。本節では、ChatGPT を使う際に押さえておくべきポイントや、具体的な応答例を示すための入力・出力フォーマットの指定方法を学びます。

1.2.1 ChatGPT とは何か?

ChatGPT は GPT(Generative Pre-trained Transformer)というモデルファミリーをベースとした対話型AIです。

  • GPT は膨大なテキストデータを事前学習(pre-train)し、言語の文脈やパターンを把握します。
  • その後、会話形式でチューニング(ファインチューニング)を行うことで、ユーザーとの自然な対話が可能になっています。

ChatGPT の利点は以下のとおりです:

  1. 幅広いトピックへの対応: ビジネス、技術、学術、エンタメなど、さまざまな領域の質問に対して答えられる。
  2. 人間らしい文章生成: 大規模データを元に学習しているため、文章が自然。提案やアイデア出しなど、クリエイティブな作業にも活用可能。
  3. 継続的な学習と改善: ユーザーからのフィードバックや新しいデータを取り込むことで、徐々に性能が向上していく。

ただし、最新情報や数値の厳密性が必要な場面では、常に正しい応答をするとは限りません。誤情報を返す場合もあるため、ChatGPT の回答を鵜呑みにせず、裏付けや検証を行う姿勢が必要です。

1.2.2 入力(プロンプト)と出力(応答)の基本

ChatGPT を使う際は、まず「プロンプト」と呼ばれる入力テキストを与えます。このプロンプトが曖昧だと、AI は何をどう答えてよいか分からず、不適切な回答をする可能性が高まります。逆に、具体的で明確な指示を与えると、望ましい応答を得やすくなります。

プロンプト作成の基本ポイント

  1. 目的をはっきりさせる
    • 何を聞きたいのか、どんな結果がほしいのかを明確に。
  2. 必要な情報を盛り込む
    • 例えば「どの地域なのか」「予算はいくらか」「フォーマットは表形式で、など」条件をきちんと提示。
  3. 言葉を選んで指定する
    • 「要約してほしい」「箇条書きで回答してほしい」「コード例を示してほしい」など、AI の出力様式も指示可能。

出力(応答)の形式

ChatGPT は自然言語のテキストをメインで返しますが、以下のようなフォーマットも指定できます。

  • Markdown 形式:箇条書き、番号付きリスト、コードブロック、リンクなどを含むリッチなテキスト表現。
  • 表形式:Markdown の表構文を使って出力させる。
  • Mermaid 形式:フローチャートやシーケンス図を描くために使う。
  • JSON 形式:AI の応答をプログラムで解析しやすい形に整形する際に便利。

例:Markdown 形式の表を用いた応答の指示例

あなた(プロンプト):

以下の3つのプランを表形式で示してください。
列は「プラン名」「内容」「価格」としてください。

ChatGPT(応答の例):

プラン名 内容 価格
プランA 基本的なサポート 5,000
プランB 電話サポート & メールサポート 10,000
プランC 全面サポート + チャット対応 15,000

このように、「表形式で書いてください」というプロンプトを入れておけば、ChatGPT は整った形で情報を提供してくれます。

1.2.3 ChatGPT の制約と注意点

ChatGPT を実務や学習に活用する際には、以下のような制約や注意点を理解しておく必要があります。

  1. 最新情報が反映されない場合がある

    • 学習データが古いと、最新ニュースや新製品などに関する回答が正確でない場合があります。
    • 時間情報が重要な場合は、「202X 年現在の情報を参考にしてほしい」「最新ソースはこちらです」といった追加指示を行うのが望ましい。
  2. 事実誤認や幻覚(Hallucination)

    • ChatGPT が自信満々に誤情報を述べる場合があります(これを「幻覚」と呼ぶことも)。
    • 重要な決定に用いる際は、必ず外部情報や専門家の確認を取ることが必要です。
  3. プライバシー・セキュリティ上の配慮

    • 機密情報や個人情報を含むデータを ChatGPT に入力する際は、データの扱いに注意が必要。
    • API を通じて利用する場合、やり取りする情報の暗号化や管理ルールを確認しましょう。
  4. 倫理的・法律的な問題

    • 特定のグループへの差別やヘイトスピーチ、違法行為の助長につながる内容は禁止されています。
    • AI 利用規約やコンプライアンス・ガイドラインに沿った運用が求められます。

アドバイス

  • ChatGPT は万能ではありません。ビジネスで活用するときは、提案されたアイデアやデータ分析結果をそのまま採用するのではなく、「参考情報の一つ」として扱うことが重要です。
  • 特に医療・法律・金融など専門性の高い領域では、ChatGPT の回答を必ず専門家の目で検証し、根拠や法的な確認を行いましょう。

1.2.4 具体的なプロンプト例

ここでは、ChatGPT にどのようにプロンプトを入力すれば具体的な回答が得られるか、いくつかの例を示します。これらを参考にしながら、自分の目的にあわせてプロンプトを工夫してみてください。

  1. 文章のリライト・校正依頼

あなた(プロンプト):

以下の文章を読みやすくリライトし、敬体(です・ます調)に書き換えてください。

"""本日は弊社イベントにお越しいただきありがとうございます。当方では最新のAI製品を多数取り揃えており…"""

このように明確な指示(「敬体にして」「読みやすくリライト」)を含めると、ChatGPT は文章を適切なトーンで書き換えてくれます。

  1. コードの例示
    あなた(プロンプト):
Python でリストをソートするコード例を教えてください。降順にも対応できるようにしてください。

すると、ChatGPT は以下のようなコードブロック付きで解説を返す場合があります。

my_list = [5, 2, 9, 1, 7]
# 昇順ソート
ascending = sorted(my_list)
# 降順ソート
descending = sorted(my_list, reverse=True)
print(ascending)   # [1, 2, 5, 7, 9]
print(descending)  # [9, 7, 5, 2, 1]
  1. 新規アイデアのブレインストーミング
    あなた(プロンプト):
週末に友人と過ごすための新しいアクティビティを5つ提案してください。屋外でも屋内でも楽しめるようにしてください。

これに対し、ChatGPT は屋外アクティビティ(ハイキング、BBQ など)と屋内アクティビティ(ボードゲーム大会、VR体験など)を織り交ぜて提案してくるでしょう。

1.2.5 ChatGPT を活用したプロンプトエンジニアリングの流れ

  1. 目的設定
    • 何を得たいか(情報、アイデア、要約、分析結果など)を明確にする。
  2. プロンプト作成・入力
    • 条件や詳細を盛り込み、曖昧さを減らし、出力フォーマットまで指示する。
  3. AIの応答を確認
    • 内容に抜けや曖昧な箇所がないか、誤情報が含まれていないかをチェックする。
  4. 追加の質問・再入力
    • 必要に応じてプロンプトを再構築し、より正確な回答を得るために問い合わせを繰り返す。
  5. 結果の検証・採用
    • 得られた回答やアイデアを現場で検証し、実際の業務やプロジェクトに反映させる。

このように ChatGPT は「質問→回答→修正」という対話形式を何度も繰り返すことで、最終的にユーザーが求める質の高い回答を引き出すことを目指します。

1.2.6 応用Tips ChatGPT への高度な指示とフォーマット例

Mermaid 形式でフローチャートを生成

ChatGPT にフローチャートの生成を依頼するときは以下のようにプロンプトを記述します。

あなた(プロンプト):

ユーザーが商品を注文してから発送されるまでの流れを、Mermaid 形式のフローチャートで書いてください。

想定される応答:

こうした応答を返すと、そのまま Markdown ビューアで表示するだけでシンプルなフローチャートが描画できます。

要件定義書のドラフトを生成

ソフトウェア開発やプロジェクトマネジメントでは、要件定義書が重要です。ChatGPT に要件定義書のテンプレートやドラフトの作成を指示できます。

あなた(プロンプト):

以下の機能を含む Web アプリの要件定義書をドラフトで作成してください。
1) ユーザー登録機能
2) ログイン機能
3) 商品の一覧表示と購入機能
4) 決済手段はクレジットカード、PayPay、銀行振込に対応
ドキュメントは箇条書きと短い説明文を使い、段階的に構造化してください。

すると、機能概要や利用想定フローなどを箇条書きにまとめたドラフトを提案してくれるでしょう。

1.2.7 まとめ

本節では、ChatGPT の基本的な使い方やプロンプト作成のポイントを紹介しました。ChatGPT は自然な対話形式で情報やアイデアを引き出せる強力なツールですが、その性能を最大限に引き出すには、具体的かつ明確なプロンプト設定が欠かせません。

  • 入力と出力のフォーマット指定によって、表や図解、コードブロックなど、多様な形式の応答を得られる。
  • 制約条件や注意点(幻覚の問題、最新情報の反映、プライバシー保護など)を踏まえ、正しい使い方を心がける。
  • 複雑な依頼や状況に合わせてプロンプトを微調整しながら、何度も対話を重ねることで、最も有用な結果を得ることができる。

アドバイス

プロンプトを入力してから得られる応答が満足いかなければ、遠慮なく追加質問や修正質問を行いましょう。「ここをもう少し詳しく」と依頼したり、「以下の3点を追加してください」と具体的に指示すると、さらに精度が上がります。
自分だけの「プロンプトテンプレート」を作成し、よく使う指示をパターン化しておくと、プロンプトエンジニアリングの効率が格段に上がります。

1.3 第1章のまとめ

第1章では、AI の基礎とChatGPT の基本的な使い方を学びました。AI がどのように発展してきたかを理解することで、機械学習やディープラーニングの仕組みが自然言語処理(NLP)に応用されている背景を把握できます。さらに、ChatGPT を使う際のプロンプト設計のコツや、入力・出力フォーマット、注意点にも触れました。

  • AIの基本

    • 人工知能の定義と歴史、機械学習・ディープラーニングの意義と応用分野を確認。
    • バイアスやブラックボックス問題など、AI 利用上の課題にも留意する。
  • ChatGPTの基本的な使い方

    • プロンプトの重要性と、明確な指示で応答が大きく変わる点を学ぶ。
    • Markdown や Mermaid など、さまざまな表現形式での出力を指定できる柔軟性を確認。
    • 最新情報や事実確認の必要性、機密データの取り扱いといった現場での注意点。

今後の章(第2章~第6章)では、実践的なプロンプト作成方法や応答の最適化手法、創造的な応用など、さらに踏み込んだ内容を取り扱います。ここまでの基礎知識を活かしつつ、AI と自分自身のアイデアを融合させ、より豊かなアウトプットを得られるようにしていきましょう。

第2章 基礎プロンプト作成

本章では、AI に対して正確かつ効果的な指示を与えるプロンプトを作成するための「基礎スキル」を学びます。AI モデル(ChatGPT など)とやり取りする際、どのように要求を伝え、どのように応答を最適化するかは、プロンプトの工夫によって大きく変わります。

特に「シンプルなプロンプト作成」と「特定の要求に応じたプロンプト作成」の 2 節に分けて解説します。前章で学んだ AI と ChatGPT の基本的な仕組みを念頭におきつつ、どのようにプロンプトを設計すればより正確な結果が得られるのか、具体例や注意点を交えて詳しく見ていきましょう。

2.1 シンプルなプロンプト作成

ゴール

  • 簡潔で 明確 なプロンプトを作成し、AI が 誤解なく 応答できるようにする
  • シンプルさを追求しつつ、必要な情報を 過不足なく提示 するための 基本技術 を習得する

キーワード

  • 簡潔さ
  • 正確性
  • 目的明確化

概要

シンプルなプロンプト作成では、「AI に不要な混乱を与えない」という点が非常に重要です。極端に言えば、余計な言葉や情報が多いほど、AI が解釈ミスを起こすリスクが高くなります。一方で、情報が少なすぎると「曖昧な回答」や「意図しない内容の回答」が返ってくる可能性があります。

つまり、プロンプトをシンプルかつ的確に設計するとは、「情報を最小限に抑えながらも、必要不可欠な要素はきちんと含める」というバランスをとることです。この節では、そのバランスの取り方を具体的な例を通じて学びましょう。

2.1.1 シンプルなプロンプトの基本構造

シンプルなプロンプトを作成するうえでの 3 つの基本要素は以下のとおりです。

  1. 目的を明確にする

    • 例:「○○についての説明がほしい」「△△の理由を簡単に教えてほしい」など
    • AI に何をしてほしいのか、一文で言えるようにする
  2. 範囲や条件を限定する

    • 例:「東京の○○エリアに限定して」「予算は 3,000 円以内」など
    • 数値・地域・時間・フォーマットなど、必要に応じて指定する
  3. 出力形式を指定する(必要に応じて)

    • 例:「Markdown の表形式で示してほしい」「箇条書きで答えてほしい」「JSON 形式にしてほしい」など
    • 最終的にどのような形で回答を得たいかをあらかじめ指示すると、後の整理が楽になる

これらを踏まえて、シンプルなプロンプトを設計するときは「やること(ゴール)」「守ってほしい条件(制約)」「応答フォーマット」の 3 つを最小限にまとめるのがコツです。

2.1.2 シンプルなプロンプトの具体例

例 1:天気情報

  • 良くない例(曖昧すぎる)
    「天気を教えて」

    • どこの天気か不明、いつの天気か不明。
  • 改善例(簡潔・明確)
    「今日の東京の天気を教えてください。もし雨の場合は、午後から外出するのに傘が必要かどうかも教えてください」

    • 日時(今日)、場所(東京)、追加質問(雨なら傘がいるか)を明記。
    • シンプルながらも必要な要素を含んでいる。

例 2:レストランの検索

  • 良くない例(漠然とした要求)
    「おすすめのレストランを教えて」

    • 場所もジャンルも予算も不明。
  • 改善例(条件を簡潔に指定)
    「渋谷駅付近で、予算 2,000 円以内のランチにおすすめの和食レストランを教えてください。箇条書きで 3 つお願いします」

    • 場所(渋谷駅付近)、予算(2,000 円以内)、ジャンル(和食)、形式(箇条書き)、数(3 つ)を指定。
      このようにシンプルなプロンプトほど、AI が正確に応答を返しやすくなります。

2.1.3 シンプルなプロンプトを作るためのヒント

  1. 必要以上に長い文章にしない

    • 文章が長いと、どこに重点を置けばいいか AI が判断しづらい。
    • 主語と述語をハッキリさせ、条件を列挙する場合はリスト化する。
  2. 1回のプロンプトで 1 つの目的に絞る

    • 「この質問とあの質問」を同時にすると混乱を招きやすい。
    • もし複数の質問をするなら、段階を分けるか、あるいは箇条書きにして整理する。
  3. 曖昧な表現を避ける

    • 「安いお店」「美味しい料理」などは主観的。具体的な数値や指標があれば示す(例:安い=ランチ 1,000 円以下 など)。
    • 目的のあいまいさは、回答のあいまいさにつながる。
  4. 出力フォーマットの指示を活用

    • 「3 行以内でまとめてほしい」「Markdown の表形式で」など、明確なフォーマット指定があると、後処理がしやすい。

2.1.4 入力・出力フォーマットと制約条件の説明 (シンプル編)

  • 入力フォーマット(プロンプト例)
    あなた(プロンプト):
[目的] 渋谷周辺で和食を食べたい。  
[条件] 予算は 1,500 円以内、ランチタイム、座席数が多い店が望ましい。  
[出力形式] 箇条書きで 3 店舗、簡単な特徴も添えて。  
以上の条件で教えてください。

ここでは「目的」「条件」「出力形式」を明示。情報量は最小限にまとめるが、必要十分な内容となっている。

  • 出力フォーマット (AI の応答例)
- 店名: ○○和食屋
  - 特徴: カウンター席含め 30 席あり、定食が 800 円
- 店名: △△亭
  - 特徴: ランチ 1,000 円程度で種類豊富
- 店名: □□食堂
  - 特徴: 駅から徒歩 5 分、ランチセットが 1,200 円

箇条書き指定により、AI が整然と回答しやすくなる。

  • 制約条件の例
    • 予算を正確に守る
    • 指定したエリアや曜日・時間帯を超えた提案をしない
    • このような制約を「細かく書きすぎる」のではなく、簡潔に盛り込むのがポイント。

2.1.5 Mermaid 形式を使ったシンプルなフロー指示

シンプルなプロンプトの中でも、フロー図を示したい場合があります。例えば「注文から配送までの流れを簡単に図示して」といったケースです。Markdown の Mermaid 形式で短いプロンプト例を示します。

あなた(プロンプト):

商品の注文から発送までの基本的な手順を、Mermaid のフローチャートで簡単に示してください。ノード数は 5 個くらいで結構です。

ChatGPT(応答の例):

このようにシンプルな一文で「Mermaid 形式で出してほしい」「5 個くらいのノードで」という情報を短くまとめると、AI も誤解なく応じやすくなります。

2.1.6 [アドバイス] シンプルを保つコツ

  • 丁寧に書きすぎない:説明過多よりも、端的な指示でまとめることが大事。
  • 例示によるヒント:どう回答してほしいか具体的に例を示すと、AI が学習しやすい。
  • 1 文が長くなりすぎない:長い文を分割し、箇条書きなどで視覚的にも整理する。

2.2 特定の要求に応じたプロンプト作成

ゴール

  • 特定の質問や状況を詳細に設定し、それに応じて 「精度の高い応答」 を得るためのプロンプトを作成できるようになる
  • 状況をピンポイントで指定し、目的達成に最適化されたプロンプトを構築するスキルを身につける

キーワード

  • 具体性
  • 応答精度
  • 質問設計

概要

ここでは、シンプルさを保ちながらも、特定の要求や条件を盛り込むケースを学びます。ビジネスや研究、日常の情報収集においては、「天気予報」や「レストラン検索」よりも一歩踏み込んだ、複数の条件を組み合わせた質問が必要となる場面が多々あります。

たとえば、「明日の 14 時に六本木で商談があるので、その後移動できる範囲で○○をしたい」「新商品の企画案を複数提示してほしいが、ターゲット顧客属性を 2 種類想定してそれぞれ別に評価してほしい」などです。こうした条件付き複数要件を扱うプロンプトで、いかに情報を整理して伝えるかを見ていきましょう。

2.2.1 条件付きプロンプトの設計

特定の条件があるとき、以下の要素を明確化してプロンプトに盛り込むと、AI は回答を絞り込みやすくなります。

  1. 条件の種類を列挙する

    • 例:「もし晴れなら屋外、雨なら屋内」というように、天気を分岐条件にする
    • 例:「予算が 3,000 円まで」「ターゲットは 20 代女性」など
  2. 条件による分岐(if-then)を意識する

    • 例:「もし○○が手に入らない場合は、代替案を提示してください」
    • 条件が満たされなかった場合にどうするかを一緒に指示する
  3. 条件の優先度を明記

    • どの条件が「必須」で、どれは「できれば」のレベルなのか
    • 必須条件を満たさない回答は NG、などルールを指定すると誤回答が減る

条件付きプロンプト例

  • 旅行プラン
    • あなた(プロンプト):
   週末に東京から日帰り可能な温泉旅行を探しています。  
   - 条件 1:公共交通機関で 2 時間以内に行ける場所  
   - 条件 2:予算は 1 人あたり 8,000 円以下(交通費除く)  
   - 条件 3:混雑しにくい穴場スポットがあれば優先して教えてください。  
   回答は 2~3 カ所提案してください。
  • ポイント:
    条件を番号付きで示し、どの範囲を優先すべきか(8,000 円以下、2 時間以内など)を具体的に記載。さらに「2~3 カ所」など回答数の指定も加えている。

2.2.2 複数要素を含むプロンプトの作成

「特定の要求」としては、複数の要素を組み合わせるケースも多いでしょう。たとえば、日時 + 場所 + 特定行動 + 予算 + フォーマット指定のように、複数のパラメータを付与するときのポイントです。

  1. 情報をカテゴリーごとに整理

    • 日時、場所、目的、予算、特別な要望、などを リスト化 して提示する。
    • 例:「【日時】○月○日 14:00~、【場所】渋谷周辺、【目的】カフェで打ち合わせ…」
  2. 必須か任意かをはっきりさせる

    • 「絶対に守ってほしい条件」と「あればうれしい条件」を分けて書く。
    • AI が回答候補を探る際に優先度をつけやすくなる。
  3. 出力のセクション分けを要求

    • 「おすすめ候補一覧」「費用概算」「地図リンク」など、見出しごとに区切って答えてもらうと、より整理された情報が得られる。

複数要素プロンプトの例

  • あなた(プロンプト):
    明後日(平日)の昼過ぎに、大阪梅田周辺で 3 人ほど会議をしたいです。  
    **条件**:  
    1) 1 時間 500 円以内で席を借りられる場所  
    2) 電源と Wi-Fi が使える  
    3) 14 時から 16 時くらいの利用を想定  
    **形式**:  
    - 候補を 2 カ所  
    - それぞれの特徴を 2~3 行で説明  
    - 表形式で示す(列は「施設名」「料金」「設備」「場所」)
    

このように、場所、時間帯、料金、設備をそれぞれ条件にし、回答形式をさらに表形式で指定することで、AI から整理された提案を受けやすくなります。

2.2.3 入力・出力フォーマットと制約条件の説明 (特定要求編)

先ほど 2.1.4 で示したシンプルなパターンに対し、もう少し複雑な要求の場合の例を示します。

あなた(プロンプト):

【目的】平日の夜に行けるリラクゼーション施設を探しています。  
【条件】  
- 場所: 東京の新宿周辺  
- 価格: 入館料 2,500 円以内(タオル・館内着込み)  
- 営業時間: 23 時以降まで営業していること  
【出力形式】  
- Markdown の表を使う  
- 列は「施設名」「料金」「営業時間」「特徴」  
- 候補を 2 件  
【制約】  
- 施設の詳細が不確かなら、推定や憶測は書かず、確実な範囲で教えてください。
以上の条件でお願いします。
  • ポイント:
    • 価格、場所、営業時間の 3 つを必須条件に。
    • 応答形式は「Markdown の表」で指定。
    • 不明確な情報は推定しないよう注意喚起(「確実な範囲で」)。

実際の応答例は以下のようになるかもしれません。

ChatGPT(応答例):

| 施設名   | 料金       | 営業時間       | 特徴                         |
|----------|-----------|----------------|------------------------------|
| 癒しの湯 | 2,000 円前後 | 10:00~24:00     | サウナ完備、タオル無料          |
| 都心スパ | 2,500 円   | 11:00~翌1:00    | バラエティ豊富な浴槽、館内着貸し出し |

このように、複数の条件 + 表形式の出力 + 不明点は推定しないという制約を一括で指定することで、より正確な情報が得られます。

2.2.4 よくある課題と改善策

特定の要求を盛り込んだプロンプトを作成するとき、よく起こる課題と、その改善策をいくつか挙げます。

  1. 要求が多すぎて、回答が曖昧になる

    • 改善策: 条件を整理し、「最優先の条件はどれか」を区別。あるいは質問を複数回に分けて行う。
  2. 必須条件を満たさない候補を提案される

    • 改善策: 「必須条件を満たしていない場合は回答しない」と明確に書く。または、条件を段階的に提示し、AI に絞り込みをさせる。
  3. 曖昧な単語を使っている

    • 改善策: 「安い」「広い」「混雑していない」などの評価基準を数字や具体的な定義に置き換える。
  4. 出力形式が希望通りでない

    • 改善策: 「○○のような表形式で回答してください」「箇条書きで回答してください」といったフォーマット指示を追加する。

2.2.5 Mermaid 形式を使った複雑な指示例

複雑な要件をフローチャートで示したい場合、以下のように指示するとわかりやすいです。

あなた(プロンプト):

新規顧客を獲得するためのマーケティングフローを、Mermaid のフローチャートで示してください。
- 広告配信 → ユーザー流入 → LP 訪問 → コンバージョン → フォローアップ  
- 予算や配信チャネルごとの分岐を 2 パターン示してください。  
ノード数は合計 7~8 個程度にしてください。

AI は以下のように応答するかもしれません。

このように複数のパターン(チャネルや予算)を含めつつ、AI にフローチャート生成を依頼する方法を使えば、複雑な要求を視覚的に整理できます。

2.2.6 アドバイス 特定要求プロンプトの作成ポイント

  1. 条件をリスト化

    • 文章に埋め込むと曖昧さが増すため、「条件 1」「条件 2」と箇条書きで示すと明確。
  2. 最優先事項を冒頭で述べる

    • AI は文章構造に影響を受けることがあるため、一番重要な制約ほど最初に書くと認識されやすい。
  3. 分割質問の活用

    • 一度に 10 個も 20 個もの条件を提示すると回答の質が落ちる場合がある。
    • 大きな条件は最初に提示し、追加の細かい条件は後から出す、といったステップを踏むのも効果的。

2.3 第2章のまとめ

  1. シンプルなプロンプト作成

    • 余分な情報をそぎ落とし、目的・条件・出力形式の 3 点を短くまとめる。
    • 長文ではなく箇条書きで条件を提示したり、数値や具体例を用いたりすることで、AI は正確に理解しやすくなる。
  2. 特定の要求に応じたプロンプト作成

    • 条件を複数組み合わせる場合は、リスト化や分岐指示(if-then 形式)などを駆使して、誤解なく伝える。
    • 最優先事項と任意事項を区別し、不明情報を推定しないなどの制約も明記すると、さらに応答が精度を増す。
    • 出力フォーマットを「表形式」「Mermaid フローチャート」「JSON」「箇条書き」など多彩に指定することで、整理された回答を得やすい。

本章では「必要最小限の情報をシンプルに伝えるプロンプト設計」と「複数要素を含む特定要求プロンプトの作り方」を詳しく見てきました。これらはプロンプトエンジニアリングの「土台」となるスキルです。慣れてくると、「ここだけは必須」「この部分は少し柔軟に」など微妙なニュアンスで指示を出せるようになります。

次章以降はさらにステップアップし、条件付きプロンプトの高度活用や複雑な依頼への対応方法、そしてプロンプトの改善技術へと進みます。第2章で学んだ「シンプルさ」と「条件指定の整理術」が、そのまま「高度プロンプト作成」にも役立ちますので、引き続き応用していきましょう。

2.4 付録:表形式と Markdown 記法の早見表

本章でたびたび登場した「Markdown 形式」の表について、簡単な記法を下記にまとめます。必要に応じてセミナーや業務で活用してください。

記法例	表示結果
| 列1 | 列2 | 列3 |	列1 / 列2 / 列3 という 3 列の表
|---|---|---|	列幅・ヘッダを表すための区切り行
| データ1 | データ2 | データ3 |	1 行目に表示されるデータ
  • 太字: テキスト
  • 箇条書き: - ○○
  • 番号付きリスト: 1. ○○
  • コードブロック: 「(言語) … 」 で囲む

このようにシンプルな記法を把握しておくことで、プロンプトに「表形式で回答してほしい」と簡単に盛り込めます。

2.5 最終アドバイス

  • プロンプトは「文章力」だけでなく「構造化力」が問われる
    • いかに端的に条件を書き、どのような形で回答を返すかを伝えるかが鍵。
  • ステップを踏む
    • 1 度のプロンプトで完璧を目指すのではなく、回答を見て足りない部分を追加質問する、あるいは余分な要素を除くなど、段階を経て洗練させる。
  • 「簡潔さ」と「具体性」は両立可能
    • シンプルにまとめながらも、必要な数値や指標はちゃんと入れ込み、AI に混乱を与えないよう留意する。

この章で扱った基礎を踏まえつつ、今後の章ではさらに複雑な条件指定やプロンプトの改善・分析手法を深めていきます。是非、第3章以降でも本章の学びを応用して、高度なプロンプトエンジニアリングへとステップアップしてください。

第3章 高度プロンプト作成

本章では、より高度なプロンプト設計に挑戦します。すでに第2章までで学んだ「シンプルなプロンプト」「特定の要求に応じたプロンプト」の知識を活かしつつ、条件付きプロンプトや複雑な要素を含むプロンプトの作成方法を習得します。
「条件付きプロンプト」では、状況や条件が変化したときに応答を切り替えさせるテクニックを学び、多様なシナリオに対応する方法を見ていきます。また、「複雑な指示を含むプロンプト」では、複数の要件や段階的な指示を組み合わせ、AI が高度な意思決定をサポートできるプロンプトを作成するスキルを身につけます。

本章を通じて、ユーザーはより多段階のシナリオや条件分岐を含むプロンプトを設計し、AI の応答を最大限に引き出すための方法を深く理解できるようになるでしょう。セミナーやワークショップでの演習、あるいは実務への応用を念頭に置きながら、各節の具体例やアドバイスを参考にしてください。

3.1 条件付きプロンプトの作成

ゴール

  • 特定の条件に応じて応答が異なるような複雑なプロンプトを作成できる
  • 状況やデータに応じて分岐させるテクニックを習得し、柔軟な応答を引き出す

キーワード

  • 条件付き
  • 分岐
  • 複雑な指示

概要

「条件付きプロンプト」は、ある条件を満たした場合にだけ特定の応答をする、あるいは「もし A なら B、もし C なら D」といった形で応答を切り替える仕組みを組み込んだものです。これにより、単に「質問に一つの答えを返す」だけではなく、複数の可能性に応じた情報を返すことが可能になります。

たとえば、「明日の天気が晴れならばアウトドアのおすすめスポットを教えて、雨なら屋内のレジャー施設を教えて」といった場面で役立ちます。ビジネスシーンでも、「もし A 案が予算オーバーなら B 案を提案し、それも難しければ C 案に切り替える」など、分岐に応じた回答を AI から得られるわけです。

本節では、まず条件付きプロンプトをどのように設計し、どのように分岐ロジックを明示して AI に伝えるかを解説します。さらに、Markdown 記法や Mermaid 形式を用いて、条件分岐を視覚的に指示する方法なども取り上げていきます。

3.1.1 条件付きプロンプトとは何か?

先に触れたように、条件付きプロンプトは「もし〜なら…、そうでなければ…」という構造を AI に理解させ、応答を変化させるプロンプトです。これにより、下記のような状況で効果を発揮します。

  1. 天候・日時・場所に応じた提案
    • 天気が晴れなら屋外プラン、雨なら屋内プラン
    • 時刻が午前中ならモーニング、午後ならランチのレストランを提示
  2. ユーザーの属性やステータスに応じた応答
    • アレルギーや食事制限がある場合は対応可能なメニューを
    • ユーザーが特定のサービスに登録済みなら詳細情報を提示、未登録なら登録案内を提示
  3. 段階的条件を満たしているかどうか
    • 予算が足りているか、スケジュールが空いているかなど複数のチェックを通過したときのみ特定の案を提示

多くの場面で、「場合わけ」が必要になるため、条件付きプロンプトのスキルを身につけると、AI が生成する応答の幅や深みを格段に広げられます。

入力フォーマットと制約条件の例(条件付き編)

あなた(プロンプト):

もし明日が晴れなら屋外のアクティビティを3つ提案してください。  
 雨が降る場合は、室内で楽しめるアクティビティを2つ教えてください。  
 回答は箇条書きでお願いします。  
 必要なら、天気が曖昧(曇り)の場合も想定した第三の提案をお願いします。

ここでは、天気に応じて応答を分岐させるよう明示し、さらに曖昧な場合にも言及することで、AI に柔軟な回答を促します。

3.1.2 条件付きプロンプトの基本設計

条件付きプロンプトを設計する際の基本的な流れは、以下のとおりです。

  1. 条件の明示:
    • 「もし A なら、B を」「もし A でなければ C を」という形で、条件をはっきり書く。
    • 曖昧に「晴れときどき雨だったらどうするか」なども考慮したい場合、その旨も含める。
  2. 分岐パターンの限定:
    • 分岐が多すぎると AI も混乱しがち。多くても 2〜3 つ程度にまとめられるとよい。
    • それ以上になる場合は、段階を分ける(第1段階の条件判定 → 第2段階の条件判定…)など工夫が必要。
  3. 応答形式の指示:
    • 条件ごとに回答の形式を変えたい場合、「A のときは箇条書き」「B のときは表形式」といった指定も可能。
    • どの条件がどんな応答形式かを、箇条書きやステップごとに分かりやすく書くとよい。

具体例: 映画推薦における条件分岐

あなた(プロンプト):

もしユーザーが子供連れなら、ファミリー向けの映画を3本教えてください。  
 もし大人のみなら、アクション映画の中で新作を2本紹介してください。  
 どちらにも当てはまらない場合は、無難に最近ヒットした映画を1本だけ挙げてください。  
 それぞれ箇条書きでお願いします。
  • 子供連れ (条件1)
  • 大人のみ (条件2)
  • その他 (条件3)

上記の例では、3 つの条件分岐を用意し、それぞれで映画の本数やジャンルが変わるように設定している。

3.1.3 条件付きプロンプトの実践例

ここでは、条件付きプロンプトを用いて複数のシチュエーションに合わせた応答を引き出すための具体的な事例を紹介します。

例1:旅行プランの条件分岐

「平日の旅行」と「週末の旅行」とで、AI に異なる提案をさせたい場合、以下のように条件を示します。

あなた(プロンプト):

旅行プランを検討しています。以下の条件で応答を分けて教えてください。

- 平日に旅行できる場合:おすすめの観光地と、観光地が混雑しにくい曜日を教えてください。
- 週末しか休みが取れない場合:予約が取りやすいホテルや、早朝から行列ができる名物スポットを回避するコツを教えてください。

両方の条件について、箇条書きでまとめてください。
  • 平日旅行 → 混雑が少ない観光地の紹介 + おすすめ曜日
  • 週末旅行 → ホテル予約や混雑対策

AI はそれぞれの条件に応じた情報を整理し、平日用と週末用の2パターンの提案をするはずです。

例2:商品の在庫状況による分岐

在庫がある場合・在庫がない場合に応じて提示内容を変えるプロンプトを例示します。

あなた(プロンプト):

もし在庫があれば '在庫あり: 購入可能です' と表示してください。  
 在庫がない場合は '在庫なし: 次回入荷はいつ頃か' を教えてください。  
 また、在庫ありの場合はその商品の価格と簡単な説明も併記してください。  
 もし入荷時期が不明なら推定情報ではなく「不明」としてください。

ここでは在庫の有無が条件となり、応答内容や表現が変化するように指示しています。また、不明情報は曖昧に書かないといった細かいルールも条件付きで示すことで、より正確性を上げることができます。

例3:ユーザーのスキルレベルに応じたアドバイス

ビジネス・教育・学習などで、ユーザーの「初心者か中級者か上級者か」に応じた応答を変化させたい場面があります。

あなた(プロンプト):

プログラミング言語 Python の学習アドバイスをしてください。  
 - 初心者の場合:基本文法や学習サイトを3つ教えてください。  
 - 中級者の場合:ライブラリ(numpy, pandasなど)を使った実践的な学習手順を1つの流れでまとめてください。  
 - 上級者の場合:大規模データ分析や機械学習に使うフレームワークの紹介と、さらにステップアップするための情報源をいくつか教えてください。

それぞれ箇条書きで答えを区切ってまとめてください。
  • 初心者 → 基礎文法 + 学習サイト
  • 中級者 → ライブラリ活用 + 実践手順
  • 上級者 → 大規模データや機械学習向けフレームワーク + 高度な情報源

上記のように、多段階のスキルレベルを想定し、条件ごとに必要な情報を指示すると、AI は丁寧に段階別で回答してくれます。

3.1.4 条件付きプロンプトを改善する方法

条件付きプロンプトを最初に作成した際、以下のような問題が起こる可能性があります。

  1. 条件が曖昧すぎる

    • 「もし天気が良ければ…」と言っても、「良い」とは晴れなのか曇りなのか? その基準を明確にしたほうがよい。
  2. 条件が多すぎて複雑

    • 3 つ以上の分岐を一度に書きすぎると、AI が混乱する可能性。
    • 必要に応じて分割質問にする、優先度の高い順に書くなどを検討。
  3. ユーザーの意図が不明確

    • そもそも、どういう状況を想定しているのかが AI に伝わっていない場合、正しい分岐を提示できない。
    • 条件分岐をする理由や背景を少しだけ書くと、AI が補足的に理解しやすい。

改善のステップ

  • ステップ1: 条件をはっきり定義

    • 曖昧な単語を使わず、「晴れ= 降水確率 0〜20%」「雨= 降水確率 50% 以上」など具体化する。
  • ステップ2: 分岐数を抑える or 段階的に聞く

    • 分岐が多いなら、まず大分類(晴れor雨)を聞いてから、別のプロンプトで細分化するなど、段階を分ける。
  • ステップ3: 出力形式を固める

    • 条件ごとに「箇条書き」「表形式」「JSON」など形式が変わる場合、各条件に併記して書く。

例: 改善プロンプト

あなた(プロンプト):

明日の降水確率が
- 0〜20% の場合は「晴れ」とみなして、屋外レジャーを3つ教えてください。
- 20〜50% なら「曇り」とし、屋外と室内の両方を1つずつ。
- 50%以上なら「雨」として、室内で過ごせるアクティビティを2つ紹介してください。

それぞれ箇条書きでまとめをお願いします。

このように条件を数値で区切ると、AI が曖昧性を減らして応答しやすくなります。

3.1.5 Mermaid 形式で条件分岐を可視化

条件付きプロンプトを指定する際、Mermaid 形式のフローチャートを使って条件分岐を示すことも考えられます。たとえば、「晴れ or 雨 or 曇り」のフローを Mermaid で表現し、AI がそれを参照するイメージでプロンプトを作る方法です。

あなた(プロンプト):

以下のフローチャートを参考に、天気に応じたレジャープランを提案してください。箇条書きでプランを整理してください。

mermaid
flowchart LR
    A[明日の降水確率確認] --> B{降水確率 < 20% ?}
    B -- YES --> C[晴れプラン]
    B -- NO --> D{降水確率 < 50%?}
    D -- YES --> E[曇りプラン]
    D -- NO --> F[雨プラン]
- 晴れプラン: 3つ
- 曇りプラン: 2つ
- 雨プラン: 2つ
以上を箇条書きでお願いします。

AI は、フローチャートに表現されている分岐構造を理解できない場合もありますが、「このように条件分岐を視覚的に示しており、晴れ/曇り/雨で応答を変えてほしいのだな」と理解してくれるケースがあります。
特に条件が多いときには、フローチャート化すると、自分自身の頭の中でも整理がつきやすくなりますし、プロンプト文章そのものを読みやすくなるというメリットもあります。

3.1.6 まとめ:条件付きプロンプトの活用

  • 条件付きプロンプトは、天気や時間、ユーザーの状態など、さまざまな要素に基づいて応答を分岐させる。
  • 分岐を 2〜3 つ程度にまとめる、または段階的に細かく分けるなどして、AI に過度な混乱を与えないようにする。
  • 曖昧な条件は数値や基準を明文化し、さらに出力形式を各条件で変えたい場合は、その旨を明記する。
  • Mermaid 形式などを用いると、条件のフローを視覚化でき、複雑なプロンプトの理解がしやすくなる。

条件付きプロンプトが身につくと、用途が一気に広がります。たとえばチャットボットを作る際にも「ユーザーが会員か否か」「問い合わせ内容がテクニカルかどうか」「緊急性があるかないか」で回答を分岐させる、といった高度な設計が可能です。次の節では、こうした分岐をさらに組み合わせ、多段階かつ複雑な指示を含むプロンプト作成について学んでいきます。

3.2 複雑な指示を含むプロンプトの作成

ゴール

  • 複数の条件や要素を組み合わせた複雑なプロンプトを設計し、AI が精密な応答を返せるようにする
  • 旅行やスケジュール提案など 多段階の要望を一つのプロンプトにまとめ、最適な回答を得るスキルを習得する

キーワード

  • 複雑さ
  • 多段階
  • 応答精度

概要

ここでは、「条件が一つや二つ」だけでなく、複数の条件や要素が絡む状況に対して、どのようにプロンプトを設計すればよいのかを学びます。例えば、「ある製品を 5 つ比較したいが、価格、機能、口コミ評価、それぞれを表形式で示してほしい」というような多要素の要求をまとめるシーンです。

「複雑な指示を含むプロンプト」では、しばしば下記のようなポイントが重視されます。

  1. 要素を列挙し、その優先度を明確化する
  2. 段階的にチェックリストや条件を提示し、AI に絞り込みをさせる
  3. 最終的な出力形式(Markdown の表、JSON、Mermaid など)を指定して、可読性や利便性を高める

単に「条件付きプロンプト」から一歩進み、複雑かつ多段階の要求を AI に処理させることで、より高度な意思決定や分析結果を得られるようになるでしょう。

3.2.1 なぜ複雑な指示が必要か?

ビジネスや日常生活では、一度に複数の要件を満たす提案が欲しいケースが数多く存在します。たとえば、旅行プラン例を見てみましょう。

  • 日程:3泊4日
  • 予算:10万円以内
  • 目的:温泉 + 観光
  • 天気が悪い場合:屋内のレクリエーションを用意
  • 移動手段:電車 or バスに限定
  • 出力形式:日程ごとに箇条書きの行程案を求める

このように、多要素を同時に指定することで、AI は「どの要件を優先して回答すればいいか」を考えながら提案を組み立てます。複雑な指示を含むプロンプトを上手く書けるかどうかが、AI に任せられる業務の範囲実用度を大きく左右します。

3.2.2 複数要素を組み合わせる際の基本テクニック

  1. 箇条書きで条件を整理

    • 一文に詰め込みすぎると、AI がどの部分に注目すればいいか不明確になる。
    • 「【条件1】何泊何日」「【条件2】予算はいくら」「【条件3】場所はどこ」など、見出しや箇条書きで分ける。
  2. 優先度や必須要件を先に書く

    • 重要度が高い順に書いておくと、AI が回答時に誤りにくくなる。
    • 「必須条件」「できれば満たしたい条件」を区別して書く。
  3. 追加条件や制約を逐次出す

    • いきなり大量の条件を書くのが難しい場合、まずは「大まかな条件」を書いた後、回答を見てから追加の要件を投げるステップ方式も検討。
    • 大量の指示を一度に与えるよりも、段階的に入力を補足していくほうが正確性が高まることもある。

入力フォーマット例:複雑指示

あなた(プロンプト):

【目的】来月、3泊4日で温泉と観光を楽しみたい  
【条件】  
1) 予算は1人10万円以内(交通費込み)  
2) 東京から電車またはバスで行ける場所  
3) 天気が悪い場合でも楽しめるスポットを用意  
4) 宿は2泊は温泉宿、1泊はビジネスホテルでも構わない  
【出力形式】  
- 日程ごとに箇条書きで予定を示す  
- 必要に応じて、おすすめの食事処や観光名所を1〜2か所ずつ追加  
【制約】  
- 不明確な情報は推定で書かずに「不明」と明記  
- 金額はざっくりでよいが、合計が10万円を超えない範囲で
以上、お願いいたします。

ポイントは、条件を箇条書き+出力形式+制約の 3 つを明確に区切ることで、AI が混乱しにくくなる点です。

3.2.3 複雑な指示を含むプロンプトの具体例

例1:ビジネスプレゼン資料の構成

あなた(プロンプト):

新製品のビジネスプレゼン資料を考えています。以下の要素をまとめてください。

【前提条件】
- 製品名:EcoLight
- ターゲット層:環境意識の高い20〜40代
- 主な特徴:省エネ性能、太陽光充電対応、価格帯は1万円前後

【求めるアウトプット】
1) プレゼン構成(5つの章立てを想定)  
2) 各章に書くべきポイントを箇条書きで3点ずつ  
3) 表示形式:Markdown の箇条書き  
4) 必要なら売上予測など補足データを「補足情報」としてまとめてください

【制約】
- 製品のコンセプトは環境重視であることを最優先
- 業界内の類似製品との差別化ポイントを盛り込みたい
- 不明情報は「調査中」と表記してください
以上です。

AI は、章立て(例: 第1章:製品概要、第2章:ターゲット市場…)と各章に書くべきポイントを箇条書きでまとめ、必要な補足データ(売上予測や比較表など)を任意の形で提示してくれるでしょう。複数の条件(章立ての数、出力形式、ターゲットや差別化ポイントなど)が明示されており、これが「複雑な指示を含むプロンプト」の一例です。

例2:スケジュール提案とタスク管理

あなた(プロンプト):

来週の平日5日間で、新プロジェクトのタスクを進めるスケジュールを提案してください。
【タスク一覧】
- 企画書作成(合計10時間程度)
- チームミーティング2回(各1時間)
- 市場調査(5時間程度)
- 成果物レビュー(2時間)
【条件】
1) 1日の作業時間は最大6時間まで
2) ミーティングは月曜と水曜の午後に実施
3) 金曜日は午後に外部との打ち合わせがあるため、タスクは午前中のみ
【出力形式】
- 日ごとに箇条書き
- 各タスクに割り当てた時間を明記
- 可能なら合計時間が計画内に収まるように調整
以上を元に、スケジュール案を出してください。

これだけの情報量があると、単なる「いつ何をするか」だけではなく、タスクの優先度や合計時間、曜日ごとの制約などを考慮した複雑な応答が求められます。AI が上手く処理できれば、月曜〜金曜の日程ごとに 6 時間以内でタスクを割り振り、ミーティングを組み込み、金曜午後は空けておくといった具体的なスケジュール提案を箇条書きで返してくれるでしょう。

例3:複合的なデータ分析依頼
あなた(プロンプト):

過去1年間の当社ECサイトの販売データを分析し、以下をまとめてください。

【条件】
1) 月ごとの売上推移を表形式で示す(列:月、売上高、前年同月比)
2) 商品カテゴリ別の売上比率を円グラフでイメージ(Mermaid 形式でも可)
3) 季節要因があると推測されるカテゴリとその理由

【出力形式】
- まず表形式で月ごとのデータを示し
- 次にMermaid記法で円グラフっぽくできそうなら記述
- 最後に季節要因の推察を箇条書き

【注意】
- 正確なデータソースがないため、売上高などは架空の例でOK
- 不明情報は「N/A」とし、推測は「推測」と付記
- 結論部分には必ず「さらに詳細データが必要」と一文を加える

以上を踏まえて、架空の分析結果をまとめてください。

ここでは、表形式の指示(列名を指定)、さらにMermaid 形式での円グラフ、そして箇条書きで季節要因という 3 つの出力方式が混在しています。ユーザーの希望としては「表形式 → Mermaid 記法 → 箇条書き」という流れが理想である旨を明示しており、多角的なフォーマットと複数の分析視点を一度に提示している、複雑なプロンプトの好例です。

3.2.4 複雑な指示を含むプロンプトを最適化するコツ

  1. 優先順位をはっきり書く

    • もし AI の応答がどこかで破綻するリスクがあるなら、「最も優先すべき条件は何か」を強調。
    • 重要度の低いオプションは「できれば」と書くなど。
  2. 一度でうまくいかなければ段階的に

    • はじめに「表形式だけ」を求め、次に「Mermaid の円グラフ」など、ステップを踏んで追加要望を出す。
    • AI が不適切な応答をした場合、プロンプトを再構築してさらに条件を整理する。
  3. 制約条件を明確化

    • 予算、時間、人数など数値で書けるものは書く。
      -「不明情報はどう扱うか」「推測していいか」「空欄にするか」などもルール化すると、曖昧さが減る。
  4. 応答フォーマットを指定しすぎない

    • AI が応答をうまく構築できないときは、フォーマット指定を少し緩めるか、段階を踏んで訊く。
    • 逆に、フォーマット指定が不十分なときは、必要に応じて改めて指示する。

3.2.5 Mermaid 形式を使った複雑フローの指示

複雑な指示を可視化する方法として、Mermaid のフローチャートを用いて自分で事前にシナリオを描き、それを AI に読み取ってもらうやり方があります。たとえば旅行計画の場合、以下のように「日程」「予算」「天気」「アクティビティ」の分岐をフロー化します。

あなた(プロンプト):

以下のフローチャートに基づき、最適な旅行プランを提案してください。
mermaid
flowchart TD
    A[旅行計画開始] --> B{日程3泊4日?}
    B -- YES --> C[予算10万円以内]
    B -- NO --> D[短い旅行プラン(1泊2日)]
    C --> E{天気晴れor雨?}
    E -- 晴れ --> F[屋外観光メイン]
    E -- 雨 --> G[室内アクティビティ中心]
    D --> H[日帰り温泉or1泊観光]
3泊4日・10万円以内かつ晴れ → 屋外観光をメインに
3泊4日・10万円以内かつ雨 → 室内アクティビティを
それ以外の場合は短い旅行プランに切り替える
Markdownの箇条書きで、プランを日ごとに提案してください。

AI がこのフローチャートを正確に解釈できるかどうかは状況次第ですが、視覚的に分岐ロジックを示すのは、プロンプト設計者自身にもメリットがあります。自分がどのようなロジックを意図しているかを整理できるうえ、AI への伝達もスムーズになります。

3.2.6 [アドバイス] 複雑なプロンプトの保守と反復

  • 一度のプロンプトで完璧を求めすぎない

    • 複雑な要求ほど、一発で期待通りの応答が出ない可能性も高い。
    • まずは大枠をつかんだ応答を得てから、追加指示で精度を上げるアプローチがおすすめ。
  • 都度フィードバックを与える

    • 「ここの部分はもっと詳しく」「ここの情報が不足している」といったフィードバックで再調整。
    • AI は一連の会話履歴を参照して改善を重ねられるので、スレッド内で何度かやり取りするのが効果的。
  • 条件の変更や追加に柔軟に対応

    • 当初は予算 10 万円以内だったが、やや増やせる場合や、逆に時間的制限が変わった場合など、再度プロンプトに変更点を明記して調整する。
    • こうした iterative (反復的) な作業が、複雑な要望を最終的に満たす鍵となる。

3.3 第3章のまとめ

  1. 条件付きプロンプト

    • 「もし〜なら…、もし〜でなければ…」といった 分岐構造 をプロンプトに組み込み、状況に応じて応答を切り替える。
    • 天気や時間、ユーザー属性など、分岐条件を明確に定義するのがポイント。
    • 分岐が多すぎると混乱を招くため、2〜3 つ程度にまとめるか段階的に出すなど工夫する。
  2. 複雑な指示を含むプロンプト

    • 複数の要件(予算、日程、場所、出力形式など)を 箇条書きなどで明確に示し、AI が理解しやすい形にする。
    • 優先順位必須要件任意要件 を区別して書くと、より精確な応答が得られやすい。
    • Mermaid 形式やステップ分割などを駆使し、複雑な分岐ロジックを可視化・段階化するとスムーズ。
  3. 応答の最適化ポイント

    • 複雑なプロンプトを作成しても、最初の応答で完璧な結果が得られるとは限らない。
    • 追加の質問やフィードバックを行い、段階的に精度を高めるプロンプトエンジニアリングが大切。
    • 曖昧な条件を数値化したり、複数の出力形式指定が難しい場合は まずは一つずつ試してみる など柔軟に対応する。

本章で学んだ「条件付きプロンプト」「複雑な指示を含むプロンプト」の技術を活用すると、ChatGPT やその他の AI に対して、より高度なタスクを委任できるようになります。たとえばスケジューリングや複数候補の比較検討など、人間が従来時間をかけて行っていたことを、AI にある程度下駄を預けることが可能になります。

次章以降(第4章ではプロンプトの改善方法、第5章では AI 応答の分析、第6章では創造的応用)では、さらに プロンプトをブラッシュアップし、応答の品質を上げる方法を深堀りしていきます。ぜひ、本章の内容をベースに実践を重ねつつ、さらに洗練されたプロンプトエンジニアリングへステップアップしてください。

3.4 付録:複雑なプロンプト設計で使える Markdown/Mermaid 記法

Markdown 表記法

要素 記法例 用途
見出し # 見出し (1~6段階) セクションを分ける
箇条書き - 箇条書き1
- 箇条書き2
項目を列挙
番号付き 1. 項目1
2. 項目2
順序のあるリスト
コードブロック <br> コード内容 <br> コードや特定の書式を固定表示
|項目|項目|
|---|---|
情報を行と列で整理
太字 **太字にしたい文字** 強調表示
斜体 *斜体にしたい文字* 弱い強調

Mermaid フローチャート例

A → B → C と、条件による分岐を矢印で可視化
AI にこのフローチャートを示しながらプロンプトするときは、フローチャートのテキストを引用しつつ、「この分岐に基づいた提案を○○形式で出してください」と書くと分かりやすい。
これらの技法を活用すると、複雑なプロンプトでも視覚的に整理でき、AI との対話をスムーズに進められます。ぜひ参考にしてください。

以上が「第3章 高度プロンプト作成」の解説です。文字数や情報量が多くなりましたが、その分、条件付きや複雑な指示に関する実践的なノウハウを網羅しました。多種多様なシナリオで、この技術を活用できるようになるはずです。引き続き、第4章ではプロンプトの改善をテーマに、既存プロンプトの分析や最適化手法をさらに深掘りしていきます。お楽しみに。

第4章 プロンプトの改善

本章では、すでに作成されたプロンプトをどのように分析し、改善点を洗い出し、さらに最適化を図るかというスキルを身につけます。
「第2章」「第3章」で培ったプロンプト作成の技術をさらに一歩進め、実際に運用してみた結果、期待どおりの応答が得られない際にどのような手順で見直しを行うのかを詳しく解説します。

たとえば、応答に曖昧さや誤情報が目立つ場合、あるいは複数の条件を指定したのに一部しか反映されない場合など、さまざまな理由でプロンプトが期待を外してしまうことはよくあります。本章を通じて、「どこを修正すればより良い応答に近づけるのか?」という改善技術を習得していきましょう。

4.1 既存プロンプトの分析

ゴール

  • すでに作成済みのプロンプトを客観的に評価し、問題点を特定できるようになる
  • 冗長表現や曖昧な指示を発見し、応答精度を引き上げる修正案を見いだせる

キーワード

  • 分析
  • 改善
  • 応答精度向上

概要

ここでは、作成済みのプロンプトをどうやって振り返り、何が原因で AI が期待する回答を返せないのかを分析する手順を学びます。プロンプトが思ったように機能しない理由はさまざまですが、主に以下の点が挙げられます。

  1. 曖昧すぎる/具体性に欠ける

    • 例:「おすすめの映画は?」
    • → AI はどの年代、どのジャンル、どの視聴者層かを把握できず、応答がズレる
  2. 情報が多すぎ/指示が混在しすぎ

    • 例:「予算 2 万円以内の宿を教えて」「車か電車かは考え中」「ペット連れ可ならベストだが、それもプール付きが理想」
    • → 条件や要望を詰め込みすぎると、AI が処理しづらい
  3. 質問の順序・文法構造が混乱を招く

    • 例:「予算 1,000 円で食べられる、映画館の近くのランチを教えて。その後デザートもほしいが、映画の上映時間によっては変える」
    • → いくつもの要素が同時に記述され、AI が要点を取りこぼす可能性
  4. 出力形式が不明確

    • 例:「何かいい感じのアイデアありませんか?」
    • → AI は箇条書きにすればいいのか、段落形式にすればいいのか、情報量をどこまで書けばいいのかが曖昧

以上のような問題点を洗い出し、どの部分をどう書き換えれば改善できるかを具体的に提案するステップが「既存プロンプトの分析」です。

4.1.1 プロンプトが期待通りに機能しない理由

(A)曖昧さ・抽象度が高すぎる

  • 例:「おすすめの本を教えて」
    • どのジャンルか、誰向けなのか、何を重視しているかが分からない。

(B)情報過多・指示過多

  • 例:「5 人で行けるディナー、お酒飲める人と飲めない人がいる、予算 3,000 円以内だけど 1 人はもっと出せる、子供も 1 人いるので座敷ありがいい、できれば駅から徒歩 5 分以内」
    • 条件が散乱し、AI がどれを優先するか判断しづらい。

(C)質問構造が混乱している

  • 例:「映画館がある場所で、天気が悪い日も楽しめるスポットを、とにかく幅広く教えて」
    • AI からすれば「映画館」と「天気が悪い日」「幅広さ」の兼ね合いをどう整理すればよいか不明確。

4.1.2 プロンプト分析の基本ステップ

ステップ1:プロンプト全体を読み返す

  • どのような目的・ゴールで書かれているかを客観的に再確認。
  • 曖昧な単語(「安い」「いい感じ」「そこそこ」など)が混在していないかチェック。

ステップ2:要素をリストアップ

  • 「場所の指定はあるか?」「ジャンル指定はあるか?」など、プロンプトが要求している項目を列挙。
  • 過不足(「予算は書いたけど人数は書いてない」「日時は?」「出力形式は?」)を確認。

ステップ3:情報量・指示の優先度を評価

  • 要素が多すぎたり、逆に少なすぎたりしないか。
  • 重要度の高い要件とそうでない要件が混在していないか。

ステップ4:問題点の洗い出し

  • 曖昧な単語の存在
  • 指示が多すぎて AI が混乱しそう
  • 出力形式の指定不足
  • 文法的な誤りや二重否定など、意図が伝わりにくい表現

4.1.3 既存プロンプトの実践的な分析例

例1:レストラン検索プロンプト

「今度友達と食事するんですけど、イタリアンがいいかなーと思います。できたら値段は安め。おしゃれな雰囲気で、駅から近いところがいいです。どうかな?」
  • 問題点

    1. 「安め」「おしゃれ」「駅から近い」… どの駅か不明、安めとはいくらぐらいか曖昧
    2. そもそも「今度」という日程が不明
  • 改善案

    1. 場所や駅名を明記し、安め = ディナーで 1 人 3,000 円以下など具体的数値化
    2. 日時(週末、平日など)を入れるかどうか
    3. 出力形式として「箇条書き」「表形式(店名・予算・最寄駅)」などを指定すると見やすい

例2:映画情報を求めるプロンプト

「おもしろい映画を教えて。最近のでも昔のでもいい。あと、家族で見たいかも?」
  • 問題点

    1. 「おもしろい」が主観的
    2. 「家族で見たいかも」→ 年齢層は? 小学生含む? 大人向け?
  • 改善案

    • 目的:家族みんなで楽しめる映画を探したい
    • 条件:年齢層(子供が小学生)、公開時期(最近 or 過去作品も可)、ジャンル(コメディ or ファミリー etc.)
    • 出力形式:おすすめ作品を箇条書き + 各作品のあらすじ・対象年齢

例3:旅行相談

「今度旅行行きたいんですけど、どこがいい? 車か電車かは考え中で、費用はそんなに高くないところ。あと温泉もあるといい」
  • 問題点
    1. いつ行くか、何泊するか不明
    2. 「そんなに高くない」が曖昧
    3. 車 or 電車か分からない → 移動可能範囲が不明
  • 改善案
    • 日程や日数を指定
    • 予算を数値化(1 人 3 万円以内など)
    • 交通手段を「車」「電車」2 パターンで答えてもらうようにする
    • 出力形式:候補を 2〜3 個、箇条書きでメリット・デメリット

4.1.4 分析結果のまとめと次のステップ

プロンプト分析が終わったら、「どの項目をどう修正すればいいか」という具体案を作ります。これが、次節「プロンプトの最適化」で行う作業のベースになります。

  • 曖昧な単語を数値や具体例で示す
  • 出力形式(箇条書き、表形式、Mermaid など)を指定する
  • 要件の優先度を明確化(必須条件・あれば嬉しい条件)

こうした改善点をリストアップしておくことで、次に実際にプロンプトを書き換えたり、段階的に質問を分割したりといった調整を効率的に進められます。

アドバイス: 分析を効率化するコツ

  1. ユーザー視点で読み返す

    • 自分が第三者だったとして、初めてこのプロンプトを見たときに意図が分かるか?
    • 必要な情報が全部入っているか? 抜けや不足がないか?
  2. 指示・条件を箇条書き化

    • プロンプト中で散漫に書かれている条件や要望を、一度リスト化して整理。
    • どれが最重要で、どれがオプションかを明確にすると、AI の応答精度が向上する。
  3. 過去のやりとりや履歴も参考にする

    • すでに AI とのやりとりがある場合は、そのコンテキストも含めてプロンプトを構築すると精度が上がる。
    • ただし、古い情報と新しい情報が混在しないよう注意。

4.1 まとめ

  • 既存プロンプトの分析では、まずプロンプトを客観的に眺め、何が原因で AI が思うように応答してくれないのかを把握する。
  • 主な問題点として、曖昧さ, 情報過多・指示過多, 構造の混乱, 出力形式の不在などが挙げられる。
  • 分析後は、どこをどう改善するかを箇条書きでまとめ、次の「最適化」作業に備える。

この工程を踏むことで、単に「AI が変な答えをした」と嘆くだけでなく、プロンプト側の修正によって大幅に応答品質が変化することを体感できるはずです。

4.2 プロンプトの最適化

ゴール

  • 分析で判明した問題点を具体的に修正し、AI がより高品質な応答を返せるプロンプトを仕上げる
  • 簡潔かつ的確な指示を盛り込み、AI が混乱せず正確に応答できるようにする

キーワード

  • 最適化
  • 効率化
  • 品質向上

概要

プロンプト最適化は、すでに問題点を把握したプロンプトを実際に書き換え、完成度を高める作業です。ここでは、冗長な表現を削ったり、曖昧な言葉を数値化したり、出力フォーマットの指定を明確に入れたりする手法を中心に紹介します。また、最適化を行う過程で「質問を分割する」「段階的に情報を追加する」といった対話スタイルのテクニックも効果的です。

4.2.1 プロンプト最適化の必要性

AI との対話において、「一度で完璧なプロンプトを作り上げる」のは容易ではありません。むしろ 反復と修正 を前提とし、実際の応答を見ながら最適化を繰り返す方が効率的です。

  • 期待通りの応答が得られない → 原因を分析 → プロンプトを最適化
  • これを何度か繰り返して、最終的に目的に合った回答へ近づける、という流れになります。

4.2.2 プロンプト最適化の手法

  1. 簡潔で具体的な質問にする

    • 冗長な文章を短くまとめ、要点を箇条書きにして明示。
    • 曖昧な単語は「どこまでが安いのか」「どの範囲が近いのか」を数値化。
  2. 質問を細分化する

    • 一度に複数の要件を詰め込みすぎる場合、回答がブレやすい。
    • まず A について聞き、次に B について聞く、と段階的に行う。
  3. フォーマットを指定する

    • 「箇条書き」「表形式 (Markdown)」「Mermaid 形式」「JSON」など、どう出力してほしいかを明確に伝える。
    • 後の活用や読みやすさが格段にアップ。
  4. 分割質問・追加質問

    • 「最初に候補を挙げてもらい、それを見て追加条件をかける」
    • AI が初回回答で不十分だったとしても、2 回目以降に改善フィードバックを行うと効果的。

入力フォーマット(例:最適化後)

あなた(プロンプト):

【目的】東京近郊で行ける日帰り温泉を探したい  
【条件】  
- 予算:1人5,000円以内  
- 駅から徒歩10分以内  
- 貸し切り風呂があれば優先  
【出力形式】  
- 表形式(列:施設名 / 料金 / 最寄駅 / 設備)  
- 貸し切り風呂の有無を明記  
【制約】  
- 不確かな情報は「不明」と記載  
- 候補を3つ  
以上、よろしくお願いします。

このように最適化されたプロンプトでは、曖昧な言葉が数値化され、出力形式や制約事項が明確に書かれているため、AI は回答しやすくなります。

4.2.3 プロンプト最適化の実践例

例1:レストラン検索のプロンプト(再掲と最適化)

  • 元のプロンプト
    「おすすめのレストランを教えてください。」

  • 問題点

    1. 場所や価格帯、料理ジャンル不明
    2. 何人で行くか、日時はいつか等も未記載
  • 最適化後のプロンプト

【目的】渋谷で2人分のディナーを楽しみたい  
【条件】  
- 予算:5,000円以内(2人合計)  
- ジャンル:イタリアン  
- 雰囲気:カジュアル  
【出力形式】  
- 箇条書きで店名・予算・最寄駅をまとめて  
- 3店舗ほど挙げてください  
【制約】  
- 予約不要  
- 不確実なら推測は書かない  
以上、お願いします。

ここでは、曖昧な部分(おいしい・安め等)を数値化(5,000 円以内)し、料理ジャンル(イタリアン)を指定し、出力形式を明記(箇条書き)するなどの改善を行っています。

例2:旅行プラン(最適化前後)

  • 元のプロンプト
    「旅行に行きたいんですけど、温泉もあってお金そんなにかからない場所、教えてください。」

  • 最適化後のプロンプト

【目的】1泊2日の温泉旅行  
【条件】  
- 東京から電車で行ける  
- 予算:交通費+宿泊費で2万円以内  
- 食事付きプランがあると尚可  
【出力形式】  
- 候補地を2カ所  
- それぞれの所要時間・宿の目安料金・主要アクティビティを箇条書き  
【注意点】  
- 情報不確かな場合は『推定』と明記  
- レビュー評価も記載できれば記載  
以上、よろしくお願いします。

元のプロンプトは「そんなにかからない」という曖昧表現や、移動手段・日数などが定義されていませんでした。予算や日数、移動手段を明文化したうえで、出力形式を指定しています。

例3:イベント検索(最適化前後)

  • 元のプロンプト
    「今週末、東京で何かおもしろいイベントある?」

  • 最適化後のプロンプト

【目的】今週末(土日)に行ける東京のイベントを知りたい  
【条件】  
- 時間帯:午前中~夜まで  
- 屋内イベント・屋外イベント問わず  
- ファミリー向けか大人向けかを分類  
【出力形式】  
- 表形式 (列:イベント名 / 開催場所 / 開催時間 / 対象)  
- 3つ挙げてください  
【制約】  
- 入場料も分かる範囲で  
- 不明な場合は「N/A」  
以上、お願いします。

こうすることで、自分が求めている情報(日時・ファミリー向けか大人向けか)や出力形式が明確になるため、AI の回答の品質が格段に向上します。

4.2.4 プロンプト最適化のプロセス

  1. 現状のプロンプトを分析

    • 4.1 で示した問題点を洗い出す。
  2. 必要な情報を追加

    • 時間、場所、予算、ジャンル等の不足分を埋め、曖昧な単語を具体化。
  3. 不要な情報や冗長表現を削除

    • 要点がボケないよう、シンプルかつ的確にまとめる。
  4. フォーマットを指定

    • 箇条書き、表形式、mermaid のフローチャートなど、使いやすい形に指示。
  5. 再度テストし、必要に応じて調整

    • AI の応答を見て、さらに追加修正や分割質問を行う。

4.2.5 プロンプト最適化のまとめ

  1. 曖昧さを排除し、具体化

    • 「安い」→ 「1 人 2,000 円以内」など定量化
    • 「おもしろい」→ ジャンルを示す、ターゲット層を示す
  2. 質問を分割して段階的に行う

    • 大量の条件を一度に詰め込むより、順を追ってフィードバックを得る方が精度が上がる。
  3. 出力形式を明確に指示

    • 箇条書き・表形式・Mermaid 形式など、あとで利用しやすい形を指定する。
  4. 反復的なやりとりを前提にする

    • 初回応答が満足できなくても、改善フィードバックを行いながら進める。

これらの最適化手法を地道に行うことで、AI の応答品質は劇的に向上します。特にビジネスや研究での活用においては、プロンプトをいかに素早くかつ的確にブラッシュアップできるかが成果に直結するといっても過言ではありません。

4.2 まとめ

  • 「最適化」とは、既存プロンプトの問題点を修正し、AI が最大限に正確かつ有益な応答を返せるように整える作業。
  • シンプルかつ具体的に、要素やフォーマットを整理し、さらに段階的な追加質問やフィードバックを通じて何度も微調整する。
  • その結果、AI の応答精度と使いやすさが飛躍的に向上し、ビジネスや学習、日常での活用がより快適になる。

4.3 第4章のまとめ

本章「プロンプトの改善」では、既存プロンプトの分析と最適化の両ステップを紹介しました。プロンプトのクオリティを高めることで、同じ AI を使っていてもまったく異なるレベルの結果が得られるのが「プロンプトエンジニアリング」の醍醐味でもあります。次章以降は、AI 応答そのものの分析と、その改善提案(第5章)に進み、さらに創造的・高度な応用(第6章)へと展開していきます。

ぜひ、ここまで習得したプロンプト改善の技術を実地で試し、AI が生み出す情報の質を高める体験を味わってみてください。

4.4 付録:Markdown/Mermaid 記法の活用(最適化例)

(1) Markdown 表例

あなた(プロンプト):

東京の渋谷周辺で食べられるランチを表形式で教えてください。  
列は「店名」「ジャンル」「予算」「最寄駅」。  
予約不要かどうかも「予約」列で付け足してください。

このように列名を明示し、「予約」列も追加で書いてほしいと要望すれば、AI がより整理された表を返しやすくなります。

(2) Mermaid 記法でフロー図を指定

あなた(プロンプト):

イベント参加までの流れを、Mermaid 形式のフローチャートで書いてください。  
ステップ数は4〜5程度、チケット購入や当日の受付などを含めて。  
答えは```mermaid から始めてコードブロックで出力してください。

「フロー図で答えて」と言うより、「```mermaid」コードブロックで出してほしいと指定したほうが正確に返してもらえます。

(3) JSON 形式

あなた(プロンプト):

以下の情報を JSON 形式で書いてください。  
- タスク名  
- 優先度 (High, Medium, Low)  
- 期限 (yyyy-mm-dd)
- 担当者
- 完了フラグ (true/false)

・出力の最外部は配列にして、複数タスクを記載してください。

AI に JSON 形式で答えさせたい場合、最外部の配列構造や要素のキー名などをきちんと指定すると、プログラムなどに取り込みやすい構造化データが得られます。

第5章 AI応答の分析

AIに入力(プロンプト)を与えるとき、その結果として返ってくる応答を正しく分析・評価し、必要に応じて改善することは、プロンプトエンジニアリングの重要なステップです。本章では、AI応答の正確性や有用性といった観点からどのように評価し、どのように改善提案を行うのかを詳しく解説します。実務やセミナーでの演習時にも使える具体例やアドバイスを含めながら、評価と改善のプロセスを体系的に学んでいきましょう。

5.1 AI応答の正確性の評価

ゴール

  • AIが返す応答の正確性を評価する基準と方法を理解し、
  • 応答がユーザーの期待に沿っているかどうかを客観的に判断できるスキルを身につける

キーワード

  • 正確性
  • 誤解
  • 評価

概要

第2章・第3章・第4章で学んだとおり、プロンプトの作成と最適化に力を入れることで、AIの応答は格段に良くなります。しかし、実際に返ってきた応答が本当に正確かどうかを評価する仕組みを知らないと、「改善すべきかどうか」「どの点が不十分か」が曖昧になりがちです。

本節では、AI応答をどのようにチェックし、的確さ・適合性・完全性・可読性などの観点から「この応答は正しいか」「抜け漏れはないか」を判断する手順を紹介します。また、そうした評価を踏まえて、「どのようなプロンプト改善をすればより精度が高くなるか」の考え方にも触れます。

5.1.1 AI応答の正確性とは

AI応答の正確性とは、ユーザーが与えた条件や文脈を的確に踏まえ、かつ事実に合致しているかどうかを指します。以下のような観点が挙げられます。

  1. 要求された条件との合致

    • ユーザーが「予算5万円以内」「日程3泊4日」「イタリアンレストラン」など、具体的な条件を与えた場合に、それらを満たす情報を返しているか。
    • 例:「予算2,000円以内のランチ」と書いたのに、3,000円超のレストランを提案していないかなどをチェック。
  2. 事実やデータに基づいているか

    • 古いデータや不正確な情報を引用していないか。
    • 例:最新のイベント情報を求めているのに、すでに終了したイベントを提案していないか。
  3. 文脈・目的に合っているか

    • 質問の意図(ビジネス文書なのか、カジュアルチャットなのか)に適した応答がなされているか。
    • 例:ビジネスメールの文例を求めたのに、日常会話風の軽い口調で書かれていないか。
  4. 情報の完全性

    • 必要な要素がすべて含まれているか。不足や抜けがないか。
    • 例:アクセス方法や料金を求めたのに、スポット名だけを書いて終わりになっていないか。
  5. 応答の文法・可読性

    • 文章が破綻していないか、誤字脱字が過剰で可読性を著しく損なっていないか。
    • 例:生成された文章があまりに冗長、回りくどい、または逆に断片的で要点がつかめない、といった問題がないか。

5.1.2 AI応答の正確性を評価する基準

AIの応答を客観的に評価するには、定量化できる基準やチェックリストを作っておくと便利です。以下に例を示します。

評価項目 観点 チェック方法
内容の正確性 条件と合致しているか
事実ベースか
ユーザーが指定した要件(場所、日時、予算など)との整合性を確認
引用データや数値が古くないか等
一貫性 プロンプト内の複数の要求に対して矛盾がないか 例:「安い店を教えて」と言ったのに高級店が含まれないか
分岐条件(晴れなら~、雨なら~)に対応しているか
情報の完全性 必要情報が漏れていないか 例:場所、料金、アクセス方法など、指定した項目が全部書かれているか
可読性・文法 文法が破綻していないか
長すぎる/短すぎる回答ではないか
文章の構造をチェック
段落・箇条書きでわかりやすく書かれているか
適合性 ユーザーの文脈や目的に合っているか ビジネス文書かカジュアルか
ユーザーが求めるスタイル・トーンに合致しているか

こうした表形式でチェックリストを作り、1 つずつ評価していくと「どの項目が不足しているか」「どこが曖昧か」が明確になります。

5.1.3 AI応答の正確性を評価するための具体例

ケーススタディ1:レストラン検索

  • プロンプト:
    「東京の渋谷エリアでランチにおすすめのレストランを教えてください。予算は1,000円以内です。」

  • AIの応答(例):
    「渋谷にあるカフェ A では、1,500 円のランチセットが人気です。駅から徒歩 5 分で評価も高いです。」

  • 評価

    • 内容の正確性:提示額が 1,500 円→ ユーザー指定の 1,000 円以内と合致しない → 不正確
    • 一貫性:現状は特に矛盾はないが、そもそも予算を満たしていないので条件違反
    • 情報の完全性:ランチの時間やメニュー詳細が書かれていない → 不完全
    • 可読性・文法:文章構造は整っているが、要件不達
      結果、この応答は不正確かつ不完全と評価。

ケーススタディ2:旅行提案

  • プロンプト:
    「来月の3連休に行ける、予算 5 万円以内で温泉が楽しめる国内旅行先を教えてください。できれば夕食付きプランを希望します。」

  • AIの応答(例):
    「箱根の○○旅館では 1 泊 2 食付きプランが 2 万円~利用可能です。温泉は 24 時間入浴可能。3 連休も空きがありそうです。交通費を含めても 4 万円台で行けるでしょう。」

  • 評価

    • 内容の正確性:条件(予算 5 万円、温泉、3 連休)を概ね満たしている。価格も 2 万円台/1 泊 2 食 → 妥当
    • 一貫性:温泉プラン + 夕食付きプランに合致している → OK
    • 情報の完全性:多少の補足情報(交通費の概算など)はあるが、アクセス詳細は書かれていない。
    • 可読性・文法:読みやすく要点はまとめられている
      この応答は基本的に正確かつユーザーの希望に沿っていると評価できます。ただし「交通手段」や「具体的な予約可否情報」などが足りないなら、そこを改善点として指摘可能。

ケーススタディ3:プログラミング相談

  • プロンプト:
    「Python でリストの要素をソートする方法を教えてください。」

  • AIの応答(例):
    「sorted() 関数を使うと便利です。たとえば

my_list = [3, 1, 4, 2]
sorted_list = sorted(my_list)
print(sorted_list)

で [1, 2, 3, 4] が出力されます。list.sort() でも同様の結果が得られます。」

  • 評価

    • 内容の正確性:メソッド名やサンプルコードが正しいか → OK
    • 一貫性:Python でのソート方法 → sorted() と list.sort() の違いを簡潔に示している → OK
    • 情報の完全性:ソートのオプション(reverse=Trueなど)には触れていないが、基本的な方法は示されている → 改善の余地はあるが最低限はクリア
    • 可読性・文法:コードブロックの形式も整っており、十分読みやすい
      この応答は正確かつ有用と評価できます。ただし、さらに詳細(降順ソートやキー指定)を求めるなら、その点が不足。

5.1.4 AI応答の正確性を高める方法

AI応答の正確性が低い理由は、しばしばプロンプトが曖昧だからです。対策としては:

  1. プロンプトの具体化

    • 曖昧な言葉を数値化したり、時期や場所を明記したりして、AI が誤解しないようにする。
  2. 必要情報の明示

    • 「料金」「場所」「アクセス方法」など、要求する項目を箇条書きで書く。
  3. 段階的な質問

    • 大量の要件を一度に与えず、最初に概略を答えさせた後、「さらに詳しく教えて」と追加質問をする。
  4. 最新データの要求

    • 「最新版」「直近の情報」「2025年のカレンダーを基準にして」などと指定し、最新情報を意識して応答させる。

こうした手法でプロンプトを改善すると、AI が条件を正確に把握しやすくなり、結果的に応答の正確性が上昇します。

5.1.5 AI応答の正確性評価のまとめ

  1. 正確性とは:指定条件との合致や事実ベース、文脈への適合度を指す。
  2. 評価基準:内容の正確性、一貫性、情報の完全性、可読性など。
  3. 具体例でチェック:レストラン検索や旅行提案、プログラミング回答などで、予算・条件・文法などを検証。
  4. 改善策:プロンプトをより具体的に・段階的に・最新版情報を要求するなどして、応答の正確性を高める。

こうした評価をしっかり行い、問題がある場合には次節「5.2 応答の改善提案」の手法を用いて修正を加えていく流れになります。

5.2 応答の改善提案

ゴール

  • AIの応答が期待どおりでない場合に、具体的な改善提案を行い、
  • プロンプトやAI設定の修正を通じて最適な結果を得るための手法を学ぶ

キーワード

  • 改善
  • 提案
  • 応答品質

概要

本節では、評価の段階で「応答が不十分」「条件を満たしていない」などの問題が見つかったとき、どう修正提案をすればよいかを解説します。具体的には、

  • プロンプトを書き直す(曖昧な表現を削る、数値化する)
  • 追加の質問を投げる(「もう少し詳しく」など)
  • AIのモデル設定やパラメータを変える(温度、最大トークン数など)

などのアプローチが考えられます。それらを体系的に整理し、どういうケースではどのような改善が効果的かを例示します。

5.2.1 応答改善の必要性

AI の応答が常に完璧とは限りません。特に以下のようなシチュエーションで応答の改善が必要です。

  1. 情報が不足している場合

    • ユーザーが「アクセス方法や料金も知りたい」と言っているのに、店名や場所だけしか書かれないなど。
  2. 条件を満たしていない場合

    • 予算やジャンル指定があるのに無視されているなど。
  3. 事実関係が誤っている場合

    • すでに終了したイベントを「今週末開催」と書いてしまう、古いバージョンの情報を提示する、など。
  4. 文体・トーンが不適切

    • ビジネスメールを求めているのにカジュアル口調の文になっている、逆に堅苦しすぎる、など。

このような問題を解決するには、「プロンプトの再設計」や「追加の指示」「モデルの調整」等が必要です。

5.2.2 応答改善のための基本ステップ

AIの応答を改善する大まかなプロセスは以下のとおりです。

  1. 問題の特定

    • どの部分が不十分か? 条件違反? 情報不足? 文体のミスマッチ?
  2. 原因の分析

    • プロンプトが曖昧? 出力フォーマットを指定していない? AI が持つデータが古い? モデルがカジュアル向け設定?
  3. 改善策の立案

    • プロンプトの再構築、追記、分割質問、AIパラメータの変更など。
  4. 修正して再度テスト

    • 修正案を試して、AI がどう応答を変えるか確認。
  5. 再評価

    • 新しい応答を 5.1 の基準でチェックし、必要があれば再度改善。

以下、具体的な改善事例を見ていきます。

5.2.3 応答改善の具体的な提案例

事例1:製品提案が曖昧

  • 元のプロンプト:
    「おすすめのスマートフォンを教えてください。」

  • AIの応答:
    「スマートフォン X は性能が高く、カメラも優れています。」

  • 問題点:

    1. 価格帯やユーザーの好みが不明 → 漠然とした回答
    2. 具体的な性能指標(バッテリー容量、メモリなど)がない
  • 改善提案:

    • 「予算や必要性能を明確化してプロンプトを再構築」
    • 例:
【目的】新しいスマートフォンの購入候補を探す  
【条件】  
- 予算5万円以内  
- カメラ性能(画素数だけでなく暗所撮影など)を重視  
- バッテリーが長持ち  
【出力形式】  
- 表形式(製品名/価格/カメラ性能/バッテリー容量/ユーザー評価)  
- 3機種ほど提案  
以上、お願いします。

こうして具体的な条件や出力形式を追加することで、AI はより正確な提案を返しやすくなる。

事例2:旅行プランの回答に情報不足

  • 元のプロンプト:
    「おすすめの温泉地はどこですか?」

  • AIの応答:
    「箱根が有名でおすすめです。」

  • 問題点:

    • 料金や所要時間、日程などが書かれていない → 情報不足
  • 改善提案:

    1. どの程度の費用を想定しているか、日数は何日か、といった前提条件を追加
    2. 出力を「箇条書きで書いてください」「アクセス方法とおおよその料金を入れて」などと指定

修正後の例:

【目的】次の3連休に行ける温泉地を探す  
【条件】  
- 東京から電車で2時間以内  
- 1泊2日、1人あたり2万円以下  
- 食事付きプラン  
【求める情報】  
- 宿の料金目安  
- アクセス方法  
- おすすめの観光スポット(晴れ/雨両方)  
【形式】  
- 箇条書き  
- 2〜3の候補  
以上、お願いします。

事例3:イベント提案の事実誤認

  • 元のプロンプト:
    「今週末に東京で行われるお祭りを教えてください。」

  • AIの応答:
    「浅草で○○祭が開催されます。」
    (実はその祭りはすでに終了していた or 日付が違う)

  • 問題点:

    • 情報が古い or 間違いでユーザーを誤解させる
  • 改善提案:

    • 最新情報を要求する:「2025年時点の最新情報で」や「公式サイトを参考に」など
    • テキストの引用元や時期を AI が認識できるように補足する

修正後の例:

【目的】今週末(◯月◯日〜◯日)に行ける最新の東京のお祭り・イベントを知りたい  
【条件】  
- 2025年の情報に基づく  
- できれば公式サイトURLもあれば掲載  
【出力形式】  
- 表形式(イベント名/場所/開催日時/公式URL)  
- 3つほど  
不確かの場合は「N/A」と記載  
以上、お願いします。

5.2.4 応答改善のポイント

  1. 明確な指示を与える
    • 場所・日程・予算などを具体化し、曖昧な表現を排除。
  2. フォーマットを指定
    • 表形式や箇条書き、Mermaid 形式など、読みやすさ・再利用性を高める出力を要求。
  3. 最重要要素を優先
    • 予算やジャンルなど、絶対に外せない条件を最初に書く。
  4. フィードバックを逐次与える
    • 一度にすべて完璧を求めず、段階的に質問・回答→追加指示→再回答のサイクル。

5.2.5 応答改善提案のまとめ

  • 応答改善の流れ:問題点を特定 → 原因を分析 → 改善策を立案 → 再テスト
  • 具体例:製品提案、旅行プラン、イベント情報などで、どのようにプロンプトを再設計するかを紹介
  • アドバイス:明確化・具体化・フォーマット指定・フィードバック活用が鍵

このように、AI応答の質が低いと感じた場合は、プロンプト自体の書き直しや追加の指示を与えることで、より目的に合った回答を引き出せるようになります。プロンプトエンジニアリングは反復的なプロセスであると理解し、テストと修正を繰り返すことが大切です。

5.3 第5章 まとめ

本章「AI応答の分析」では、AIから返ってくる応答をどのように評価し、改善提案を行うかを中心に解説しました。ポイントを振り返ると:

  1. AI応答の正確性の評価

    • 内容の正確性、一貫性、情報の完全性、可読性などの基準で応答をチェックする。
    • 不十分な回答には、プロンプトに曖昧さや不足がある可能性が高い。
  2. 応答の改善提案

    • 具体的な要求条件を追加する、フォーマットを指定する、段階的に詳細を聞くなどが有効。
    • 場合によっては最新情報を明示的に要求する。
  3. 具体例

    • 製品提案、旅行プラン、イベント情報など、様々なシーンでの応答改善のコツを紹介。
  4. アドバイス

    • 一度に完璧な回答を得ようとせず、段階的・反復的にプロンプトを修正しながら精度を上げる。
    • ユーザーが最も重視する要素(予算や日時など)を強調し、優先度を明確にする。

次章(第6章)では、これまで身につけたプロンプトエンジニアリングの基礎や応答の評価・改善のノウハウを活かし、創造的なアイデア生成やビジネス応用にまで踏み込む方法を学びます。より高度な応用事例を参考に、AIと人間の協働で新しい価値を生み出す可能性を探求していきましょう。

5.4 入出力フォーマット例(参考)

Markdown形式での評価レポート例

# AI応答評価レポート

## 応答内容
- レストランの提案: 「渋谷にあるCafe X、ランチ1,500円程度」

## 評価
| 項目            | 評価        | コメント                                |
|-----------------|------------|------------------------------------------|
| 内容の正確性    | ✕          | ユーザーは1,000円以内を希望             |
| 一貫性          | △          | カフェとランチの文脈は合っているが条件違反|
| 情報の完全性    | △          | 場所は書いてあるが営業時間がない         |
| 可読性・文法     | ○          | 文章自体は問題ない                       |
| 文脈適合        | △          | 予算無視が問題                          |

## 改善提案
- プロンプトに具体的に「1,000円以内」と再度明記
- 時間帯(何時までランチか)も尋ねる
- 表形式での回答を要求して見やすくする

5.5 Mermaid形式での評価フロー例

上記のように、正確性評価のフローを可視化することで、どの段階で問題が見つかったかを整理しやすくなります。

これで「第5章 AI応答の分析」の解説は終了です。次の「第6章 創造的応用」では、さらに創造的なアイデア生成やプロフェッショナル向け活用について学び、AIと共創する可能性を広げていきましょう。

第6章 創造的応用

AI の対話技術が進歩するにつれ、単なる情報収集や指示実行だけでなく、新しいアイデアの創出やビジネス応用など、より創造的で付加価値の高い活用が注目を集めています。本章では、創造性とプロフェッショナル領域での応用に焦点を当てたプロンプト設計を学びます。新しい製品・サービスのアイデア発想や問題解決のための創造的プロンプト、さらにビジネスや専門分野への展開を見据えたプロンプト例を多数取り上げます。

6.1 創造的プロンプト作成

ゴール

  • 新しいアイデアや解決策を引き出すための創造的なプロンプトを作成するスキルを習得する。
  • AIを活用して、独自の発想や問題解決の切り口を生み出す方法を学ぶ。

キーワード

  • 創造性
  • アイデア
  • 問題解決

概要

AI は大量の情報や多角的な視点を持ち、従来の発想を超えたアイデアや提案を提示する力があります。しかし、その力を最大限に活用するには、創造的なプロンプトを工夫して作成しなければなりません。本節では、問題設定を広げて異業種の事例を参照する手法や、複数の新規アイデアを比較・評価するプロンプトの書き方など、創造性を高めるための具体的テクニックを解説します。

6.1.1 創造的プロンプトとは?

創造的プロンプトとは、アイデア発想や課題解決のために、AI に対して多様な視点や柔軟な思考を引き出すことを狙った指示です。以下の特徴があります。

  • 単なる「情報収集」にとどまらず、「新しい視点」や「組み合わせアイデア」などを引き出す。
  • 問題設定を広くし、AI の連想力や推測力を誘導する。
  • 時に「他業界の成功例を参考に」「無制限の予算があるとしたら」など、制約を取り払う形で発想を飛躍させる。

主な活用シーン

  1. 新商品・新サービスのアイデア発想
    • ユーザーのニーズや市場トレンドを踏まえた新規コンセプトを作る。
  2. 既存課題への新しい解決策
    • 多角的視点や他業界の手法を取り入れた問題解決アプローチの提案。
  3. 未来シナリオの予測・仮説立案
    • 技術や社会の進展を踏まえた将来の可能性をブレインストーミング。

6.1.2 創造的プロンプト作成の手法

  1. 問題を広く設定する

    • 「現在の製品を改善する方法」→「ターゲット顧客が求める新しい体験は?」
    • 課題やゴールを広く捉え、AI がさまざまなアイデアを提示しやすいようにする。
  2. 発想の飛躍を促す問いかけ

    • 「他の業界ではどうやって解決している?」
    • 「制限がなかったとしたら、どんな解決策が考えられる?」
    • 制限を緩和し、異なるジャンルや業界の視点を取り入れることでユニークなアイデアを誘発。
  3. アイデアのブレインストーミング

    • 「同時に複数のアイデアを列挙して、その利点・欠点を分析する」
    • 例:「5つの新サービスを考案し、それぞれの長所短所と実現可能性を示して」
    • AI から候補を複数提示してもらい、そこから絞り込む。

入力と出力のフォーマット例(創造的プロンプト)

【プロンプト例】

【目的】食品業界に革新的なアイデアを導入したい
【要件】
- 健康志向であること
- サブスクリプション型ビジネスモデルを検討
- 他業種の成功事例を参考に
【指示】
1. 3つの新ビジネスモデルアイデアを提案
2. それぞれの特徴・メリット・潜在的リスクを箇条書き
3. 必要に応じて他業種の成功例を引用

【出力フォーマット】
「箇条書き、または表形式
各アイデア:概要 / メリット / デメリット / 参考事例
以上を教えてください。

ここでは、「健康志向」「サブスク」「他業種成功例」という複数要素を含め、AI に幅広いアイデアを連想させるよう工夫しています。

6.1.3 創造的プロンプトの実践例

1. 新製品アイデアの創出

  • プロンプト例
AI技術を利用して家庭向けの新スマートデバイスを考えてください。
【条件】
- 環境に優しい設計
- 日常生活で便利に使える機能
- シンプルな操作性
【出力】箇条書き形式で3つのアイデアを提示し、想定ユーザー層やコスト面も考慮してください。
  • AI応答の一例
    • 太陽光発電のサーモスタット / 節電・環境負荷軽減 / 高齢者も操作簡単
    • 家庭内エネルギーモニター / リアルタイムで消費量を可視化 / スマホ連携
    • 空気質センサー+換気システム / 家族の健康管理 / 初期費用はやや高め

2. 問題解決のための新アプローチ

  • プロンプト例
都市交通の混雑を解消するアイデアを、新しい視点から提案してください。
- 他業界の成功モデルも参考に
- 予算制限を一旦考えない
- ユーザー体験を重視
フォーマット:アイデア名 / 実施方法 / 利用メリット / リスク
  • AI応答の一例

    • シェアリングエコノミーによる超小型モビリティの貸出
    • 航空業界のオーバーブッキング管理をバスや電車に適用
    • IT企業のリアルタイム動態管理を交通に導入 / 混雑予測に基づく値引き制御

3. 新ビジネスモデルの構築

  • プロンプト例
デジタルコンテンツを販売する新しいビジネスモデルを考えてください。
- 消費者参加型の双方向モデルを重視
- 月額サブスク or 従量課金など複数パターン
- メリット/デメリットも含めて3つ提案
  • AI応答の一例

    • クラウドファンディング型:ユーザーが開発段階から参加 → ロイヤリティ向上
    • リアルタイム投票型ストリーミング:視聴者が物語展開に介入 → 高い没入感
    • マルチプラットフォーム展開:ゲーム、動画、SNS連携 → ユーザー生成コンテンツ拡大

6.1.4 創造的プロンプト作成のポイント

  1. 問題を広く設定

    • 「既存商品をちょっと改善」よりも「顧客体験を根本から変える新コンセプトを」と投げかける方がアイデアが広がる。
  2. 他分野・他業種の事例参照

    • AI は豊富なテキストデータを活かして、業種を超えた手法や仕組みを提示できる。
  3. 複数アイデアのブレインストーミング

    • 1つだけでなく複数案を出させ、それぞれの長所・短所を比較する。
  4. 段階的な深掘り

    • 初期アイデアを提示後、「さらにコスト面を考慮したら?」など追質問を行い、アイデアをブラッシュアップする。

6.1.5 創造的プロンプト作成のまとめ

  • 創造的プロンプトは、AIが持つ広範な情報や多角的視点を活かし、新しいアイデアや解決策を見出す上で非常に有効。
  • 問題設定を「広く大きく」し、制限を緩和したり、他業界の事例や複数アイデアを一度に提示させるなど、発想の幅を広げる工夫が重要。
  • 作成したアイデアは、さらにユーザーが段階的に深掘り・評価し、実務に適用できるように洗練させる。

創造的プロンプトを駆使することで、従来の発想を超えた解決策や新商品アイデアを AI と共創できるようになります。

6.2 プロフェッショナル向け応用プロンプト

ゴール

  • ビジネスや専門領域において応用プロンプトを作成し、AI を効果的に活用するスキルを習得。
  • マーケティング戦略やデータ分析など、より実践的で高度な分野での活用法を学ぶ。

キーワード

  • ビジネス
  • 応用
  • マーケティング

概要

本節では、より専門性の高いビジネス課題や専門領域への AI 活用をテーマに、実務レベルで使えるプロンプトの作り方を紹介します。たとえば、市場分析、売上予測、カスタマーサポート効率化、プロジェクト管理など、具体的な課題解決につながるプロンプト例を示し、AI に与える条件やフォーマット指定をどう最適化するかを解説していきます。

6.2.1 プロフェッショナル向け応用プロンプトとは

ビジネスや専門領域(医療、金融、建設など)における課題を実践的に解決するため、AI の分析力や提案力を引き出すプロンプトです。以下の特徴があります。

  • 明確なビジネスゴールや専門的要件を設定。
  • 具体的なデータや実例を提示し、AI がそれをもとに実用的な提案を行えるよう誘導。
  • 継続的なフィードバックを通じてプロンプトの精度を高め、より高度な応答を得る。

6.2.2 プロフェッショナル向け応用プロンプト作成の手法

  1. 課題の具体化

    • 「新製品のターゲット市場を分析し、効果的なプロモーション手法を3つ提案してほしい」
    • ゴールを明確にすることで AI は最適な分析や提案を試みる。
  2. 業務フローに基づく設計

    • 販売データ分析 → 売上予測 → 在庫管理 → リスク分析など、一連の業務プロセスを反映し、AI に段階的にタスクを与える。
  3. 専門知識・データの活用

    • 業界の専門用語や固有データを用い、AI が正確な分析を行えるようなコンテキストを提供する。

入力・出力フォーマット例(プロフェッショナル向け)

【プロンプト例】

【目的】新製品リリースに向けたターゲット分析とプロモーション提案
【条件】
- 過去1年の販売データあり
- ターゲットは20〜30代女性
- オンライン販促に注力
【指示】
1. 過去の販売データを分析して、売上が伸びた時期の特徴を要約
2. 次の6ヶ月間の売上予測を箇条書き
3. 効果的なオンライン広告手法を2〜3提案
【出力形式】
- 表形式または箇条書き
- それぞれの提案にメリット・デメリットも記載
【補足】
- 「データ:〜」と簡易的に示すか、実データから読み取る設定を擬似的に説明

ここでは、ビジネス目標(ターゲット分析・プロモーション)と提供データ(過去1年の販売実績)、成果物のフォーマット(箇条書き・表)を明示し、AI が具体的かつ実務的なアウトプットを生成しやすくしています。

6.2.3 プロフェッショナル向け応用プロンプトの実践例

1. マーケティング戦略の提案

  • プロンプト例
新しいターゲット層に向けたマーケティングキャンペーンを計画中。
【条件】
- 現在の市場動向を考慮
- 競合他社の成功例を参考
- 効果的な広告手法を3つ提案
【出力形式】箇条書きで提案 + 具体的な施策内容
  • AI応答の一例
    • ソーシャルメディア広告:インスタグラムでターゲット層に向けて短期キャンペーン
    • インフルエンサーマーケティング:専門家や人気ブロガー起用
    • 動画広告:YouTube 動画やライブストリーミングで商品体験

2. データ分析による予測

  • プロンプト例
過去3年分の販売データ(例:CSV 形式)をもとに、
【指示】
1. 季節変動や特定商品の需要変化を分析
2. 次の6ヶ月間の売上予測
3. 販促すべき商品候補を2〜3列挙
【出力】表形式で売上見込みとおすすめ施策
  • AI応答の一例

    • 夏季にピークが来る製品(冷却機器・アウトドア用品)の需要予測
    • 具体的な売上推移グラフや在庫管理アドバイス

3. カスタマーサポートの効率化

プロンプト例

【目的】カスタマーサポート部門の改善
【条件】
- 過去1年の問い合わせデータあり
- 最も頻繁な問い合わせ内容と対応時間を分析
- 自動化or FAQ 整備の案を提案
【出力】箇条書きで、優先度の高い課題 + 解決策 + 期待効果

AI応答の一例

  • ログイン関連:全体の25%→FAQ やチャットボットで自動化可能
  • 配送トラブル:全体の15%→配送情報トラッキング強化
  • 期待効果:対応時間15%削減、顧客満足度向上

6.2.4 プロフェッショナル向け応用プロンプトの改善方法

  1. 明確なビジネス目標の設定

    • 「売上増加」「コスト削減」「顧客満足度向上」など、最も重視する成果を特定し、それに直結する指示を盛り込む。
  2. 実用的なデータ提供

    • AI が正確な提案を行うには、シナリオ上であっても関連する数字・期間・具体例を与える。
    • 例:「売上が夏に15%上がるデータがある」「週末に問い合わせが集中している」など。
  3. 応答のフィードバックを取り入れる

    • AI が提案した施策を試した結果、どんな成果があったかを再度プロンプトに含め、さらなる改善案を得る。

6.2.5 プロフェッショナル向け応用プロンプトのまとめ

  • プロフェッショナル向け応用プロンプトは、実務・専門性の高い課題解決に AI を活かすための重要な技術。
  • ビジネス目標を明確にし、具体的なデータや要件を与えることで、AI は実用度の高い分析・提案を行える。
  • 段階的フィードバックによるプロンプト再構築で、さらに精度を高められる。

総じて、ビジネスや専門領域での AI 活用は、明確な目的設定とデータ提供が鍵です。これまで学んだプロンプト最適化や創造的アプローチを組み合わせることで、より高度なタスクにも対応できるようになります。

6.3 第6章 まとめ

  1. 創造的プロンプト作成では、問題を広く設定し、他分野の知見や複数案を組み合わせることで新しいアイデアや独自の解決策を生み出す手法を学びました。アイデア出しやブレインストーミングに AI を活用する際には、制約を緩和した視点や複数の候補提案を並行して得るようなプロンプトが効果的です。

  2. プロフェッショナル向け応用プロンプトでは、ビジネス目標や専門領域のニーズを踏まえて、AI による実務的な分析・提案を求めるプロンプト設計を扱いました。具体的なデータや期間、業務フローを提示し、ビジネス課題を分かりやすく整理して指示することで、より有用な意思決定支援を引き出すことが可能です。

  3. アドバイス

    • 創造的な発想と実務的な分析は両立する。まずは広くアイデアを出し、次にビジネス要件を満たす形で深めるアプローチがおすすめ。
    • 段階的なフィードバックや追加質問を行い、AI が提示したアイデアや分析結果をブラッシュアップすると効果的。
    • 出力フォーマット(箇条書き、表形式、Mermaid など)を指示して、得られた情報を整理しやすい形にする工夫が大切。

こうして、第6章 創造的応用では AI のさらなる可能性を探り、新しいアイデアの創出やビジネス上の具体的課題解決まで応用できるプロンプト設計法を学びました。これまでの全章(1〜6章)を通じて習得したプロンプトエンジニアリングの基礎・応用・最適化スキルを組み合わせ、あなたの現場やプロジェクトで革新的な成果を引き出す AI 活用をぜひ実践してください。

6.4 入出力フォーマットと制約条件の説明

  • Markdown形式

    • 本ガイド全体では、見出しや箇条書きなど Markdown 記法を使い、読みやすい構成を採用。
    • プロンプト作成時にも、コードブロックや見出しを活用してAI への指示内容を明確に整理できる。
  • 表形式や Mermaid 形式での出力

    • AI への指示で「表形式で回答してください」「Mermaid 形式のフローチャートを描いてください」などと指定すると、視覚的に整理された応答を得られる。
    • ビジネスの現場では、箇条書きや表形式の情報が即レポート化やプレゼンテーション資料に転用しやすく便利。
  • 制約条件

    • 具体性:予算、期限、目的などをできるだけ明示する。
    • シンプルさ:プロンプトが長文すぎると要点が伝わりにくい。優先順位を明確に。
    • 段階的アプローチ:一度で完璧を求めず、段階ごとに追加質問や修正提案を行う。
    • フィードバックループ:AI が提示した情報を評価し、再度プロンプトに反映することで品質が向上。

これらを踏まえてプロンプトを構成し、創造性と専門性を融合することで、AI は単なる情報源を超えて戦略的パートナーとして大いに活躍できるようになります。

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