認知症フレンドリーテックについて知ってもらいたい

2022/05/05に公開約3,900字

認知症フレンドリーテックについて多くのエンジニアさんたちに知って興味を持ってもらいたいと思い記事にしました。
「技術はあるけど特に作りたいものはない」でも「誰かの役に立ちたい」という方にぴったりの内容になっていると思います。

認知症フレンドリーテック

「認知症フレンドリーテック」という言葉を聞いたことがない方がほとんどだと思います。
Google検索を行なっても、「認知症フレンドリーテック」という言葉がそのまま当てはまる記事は見当たりません。
(ちなみに、上から4つ目に上がっているのが昨年リテールテックアドベントカレンダーにあげた私の記事でした)

そもそも 「認知症フレンドリーって何?」という方は、こちらの記事をご覧ください。

https://note.com/naokiuc/n/n7c7017dccfdb

認知症フレンドリーテックを一言で説明すると、「認知症の人がより良く生きるためのテクノロジー」 です。

現状では認知症の人へ活用するテクノロジーというと、「徘徊するからGPSをつける」「家に一人だと心配だからwebカメラで見守る」といった、認知症の人の周囲にいる困った人を助けるサービスという面が大きいです。

一方、 認知症フレンドリーテックと言う場合には、これに加えて認知症当事者が安心して生活し、力を発揮するためにテクノロジーを活用する という意味が含まれています。

英国のDementia Friendly Technology

日本ではまだ認知症フレンドリーテックに馴染みがありませんが、Dementia Friendly Technologyで検索すると、多くの記事がヒットします。

特に、英国のAlzheimer's Associationが作ったこちらの認知症フレンドリーテック憲章は、とても実践的な内容となっています。

はじめの代表者のコメントに、
「私たちはテクノロジーをセットメニューやパッケージの一部として提供するのではなく、一人一人のためにパーソナライズすることが非常に重要であることを学んでいます」
「認知症の人や介護者から、一人一人に合わせた技術のパーソナライズが非常に重要であることがわかっています」

とあります。

先日福岡市のエンジニアフレンドリーカフェに行った際、以前開催された「だれかのためのものづくり」というイベントを紹介していただきました。

https://engineercafe.jp/ja/topics/3282

これに感銘を受けて、知り合いの認知症当事者にご登壇いただきその方のための物作りをするイベントをできないかと考えていたところだったので、開催したいという思いを強くしまいた。

認知症フレンドリーテックの実例

認知症フレンドリーテック憲章の最後には、ケーススタディとして認知症フレンドリーテックの実例が挙げられています。

1例目はひとり暮らしの認知症女性で、詐欺や悪徳セールスにだまされた過去があります。
このため、コールブロッカーという登録された電話番号のみがつながる仕組みを導入したところ、迷惑電話がなくなり安心して生活できるようになったとのことです。

2例目は、関節リウマチを患う妻と、それをケアする夫のケースです。妻が転倒を繰り返しており、特に夜間の転倒は夫にとって負担の大きいものでした。
そこで、転倒検知器を導入して、転倒を検知すると夫に連絡がいきサポートが必要かを確認してくれます。これによって、施設に入らず自宅で過ごすことができたそうです。

3例目は脳梗塞後もひとり暮らしをしている男性です。夜間のベッド上で排泄をしてしまうものの自力でシーツなどを変えることが困難である一方、毎日失禁するわけではないため毎晩介護士に入ってもらう必要はないという状況でした。そこで、尿検知器を設置して排泄を確認したときのみ緊急で介護士がケアに入るようにしたそうです。

4例目はひとり暮らしの認知症女性です。料理をしていてコンロの火を消し忘れボヤを起こし、パニックとなったため更に状況が悪化し煙を吸いこんで倒れてしまいました。幸い、介護システムと連動した煙探知機がすぐに作動し被害は拡大しませんでした。この方はその後も、ひとり暮らしでの料理を続けています。

これらの事例をみられていかがでしょう。
もしかすると、3例目に関して「失禁するならオムツをつければいいのでは?」と思われた方もいるかも知れません。
しかし、いつも失禁するわけではないのです。
自分ごととして考えた場合、できればオムツの世話にはなりたくないという思いに共感する方は多いのではないでしょうか。
一人の成人の尊厳に配慮するというのも、認知症フレンドリーテックにおいて重要な視点だと考えています。

また、4例目についても、ボヤ騒動まで起こしたのなら危ないから料理はやめたほうがいいのではないか と考える方もいらっしゃるかもしれません。
日本でも、「危ないから」「失敗するから」と本人が行うことをやめさせ、家族や介護者が代わりに行う場面が多々あります。
しかし、そうやって役割や目的を失うことで認知症の進行は加速するのです。

同じように脳が縮んでいても、役割や目的を持って生活していると認知症の進行が緩やかだったという論文もあります。

私の知り合いで10年近く前に認知症の診断を受けて、今も福岡市でひとり暮らしをされている女性がいます。
この方は料理を毎日されている一方、熱い鍋をつかんで火傷したり生傷が絶えないという話をお聞きしました。
そこで、「最近は調理済みの惣菜や、温めるだけの簡単な食材も増えているけど、そういったものは活用されないのですか?」と尋ねたところ、「頭を使って自分で料理をすることで認知症の進行に対抗しています。料理をやめて認知症が進行してしまうことのほうが火傷よりよっぽど怖いのです。」とのお返事で、深く納得しました。

今後に向けて

まずは、多くのエンジニアの方達に認知症フレンドリーテックというものを知っていただきたいと思います。
もし、イベントで認知症について話す機会をいただけるのでしたらぜひお声掛けください!

また、私自身はプログラミングを学び始めたばかりでハッカソンにも一度参加しただけなのですが、 認知症フレンドリーテックをテーマにしたハッカソンが開催できればと考えています。

前項でご紹介したひとり暮らしをされている認知症当事者の女性は、1年ほど前からLineを使い始められ、私も普段はLineでやり取りをしています。
バスでの外出や買い物、料理の際など様々な場面でお困りのことがあるとのことですが、たとえばその困りごとに合わせたLine Botを開発することで、生活の安心感が増して新しいことにチャレンジするチャンスも生まれるかもしれません。

「主催しているハッカソンで認知症をテーマにしていいよ」「ハッカソンを主催するお手伝いができるよ」という方がいらしたら、ぜひTwitterで @naokiuchid までご連絡ください!!

現在5-600万人いて今後1000万人まで増える認知症は、巨大なビジネスマーケットと捉えることができます。
これまで、認知症に関するサービスを開発する際には私のような認知症専門医に話を聞いて開発することがほとんどでした。
しかし、本来サービスを開発する際は、使う当事者をモニターとして意見を聞くことが当たり前 です。
また、認知症の人向けのサービスのモニターになることは、認知症の人でないとできない役割になります。
このため、モニターを募集する企業と認知症の人を結ぶ仕組みとして福岡市が中心となって作ったのがオレンジ人材バンクです。
もし、この記事を読んで認知症に関するサービスを開発したいという企業の方がいらしたら、ぜひオレンジ人材バンクをご活用ください。

また、英国には、認知症フレンドリーテックのハブをオンラインで作って優れた実践例を掲載しレビューするという仕組みがあるようです。
一緒にやりたいという方が集まってくださったら、将来的には認知症フレンドリーテックコミュニティを作っていきたいとも思っています。
自分自身が安心して認知症になれる未来に向けて、一緒に考えて行動していきましょう!!

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