[在籍エントリ] 1つのプロダクトに10年関わるというキャリアを選んで、これまでとこれから
はじめに
私は自社プロダクトの開発に立ち上げから関わり、そろそろ10年になります。
約10年も1つのプロダクトに関わっていると、短期間の参画では得られないような困難や変化の渦中に飛び込むことも多く、そしてそれらを乗り越えた経験・知見が蓄積されます。この記事は10年間の歩みをふりかえりつつ、今後もやっていくぞという思いを込めた在籍エントリです。
免責事項ですが、多くの現場・働き方を経験することと、一つの現場・働き方を長く経験することはそれぞれメリット・デメリットがあると思います。この記事は優劣を決めたり対立を煽るような意図は全くありませんのでご了承ください。
この記事は筆者公認ノッカリAdvent Calendar(柳川慶太編) パート4の12日目の記事にもなります。
下記の在籍エントリに乗っかる形で、在籍エントリとして実体験をまとめました。
長く関わることで得られる経験
長く関わるということは、サービスがそれだけ持続しているということであり、成長しているということでもあります。
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ピボットなどの戦略やビジネスの変化に対してプロダクトとしてどう向き合うか
- 市場の変化や外部環境の変化(法改正など)に伴って、プロダクトを立ち上げた当初の想定と、実際の市場のニーズに歪みが生まれることで、ピボット(方向転換)も複数回経験しました。その都度、事業のミッションやサービスの意義に立ち戻りながら、どのように進めたらよいのかを考え、粘り強くやり切る力が求められます。
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継続的なシステムのモダナイゼーション
- 新しい言語、フレームワーク、パラダイムなどが生まれていきますし、既存のライブラリやフレームワークはレガシー化していきます。技術的負債と当たり前に向き合っていくにはどうすればよいかの勘所がつかめるようになります。特に、データベースのリファクタリングは大きなチャレンジとしてチームの経験になりました。
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データ量の増加に伴うパフォーマンス問題
- 扱うべきデータ量の桁が1つ変わるごとにパフォーマンスの問題が顕在化し、それに対する解決策を講じる必要があります。
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リブランディングや大規模なUIリニューアル
- 既存のお客様の混乱を最小限にするため、ビジネス側と連携し協力を仰ぎながら丁寧に説明をしたり、単純にリリースすればよいというわけではなく、アウトカム思考、顧客指向が身につきました。
そんなわけで、下記のポストは、実体験としてとても同意できるところです。
今の現場で「(一見すると)やれることはやった」と思えるようになった状態を一つ超えた先に、より希少性の高い経験が積めることは往々にしてあるんですよね。
長く関わることでしか得られない経験はありますが、転職を繰り返すことで得られる経験というのは別の手段でも得ることができると考えています。
規模の小さい組織だったということもあり、フロントエンド・バックエンド両方はもちろん、デザイン、SRE、QAなども責任を担っていく必要があり、結果的にプロダクト開発に必要な要素を多く学ぶことができました。
一方で、長く取り組むことはタフな部分も多いです。
プロダクトエンジニアとして初期の頃は「よいものを作れば売れる」と信じていたのですが、特にtoBのサービスではそれだけでは不十分で、アウトカムに結びつかないもどかしさということはありました。
- 受託開発のように納品したら使ってくれる保証はなく、リリースしても使われる保証はない。
- 最新の技術を使っているとか、設計が美しいとかと、プロダクトの良し悪しには相関性がない。
- お客様も忙しいので、インタビューや定量調査などのフィードバックループを素早く回すことが構造的に難しい場合もある。
- 一度使い始めたものについて、思っているほど積極的なアップデートは求められていない。
ただ、そういった時期を乗り越えていくことが、プロダクトやチームを強くすることになると思っています。
何を考えてやってきたのか?
冒頭に紹介した柳川さんの在籍エントリでは以下のように書かれています。
ポジショントークだけど、長く一つの会社で働いている人は「自分で動機づけできる人」だと思っています。
転職するときは求められて転職するので、言い換えると「他人に動機づけされている」ということなんじゃないでしょうか。
この引用を読んだとき、「まさにその通りだなー」と思いました。転職理由については様々な理由があるとは思いますが、「自分で動機づけできる人」というのはたしかにそうだよな、と腑に落ちました。
もう少し詳しく、この10年間どんな考えでやってきたのか、というところをまとめてみます。
(自社サービスに関わる立場として)会社・事業を大きくすることに貢献する
プロダクトマネージャーとしての役割も担う中で、最も強く感じたのは「作り上はきっちり価値を出したい」、「(そしてその結果として)自分の手で事業を大きくしたい」という思いでした。
(マネージャーとして)ぬるくしないようにする
開発組織として「ぬるま湯」にならないようにということを意識してきました。
(個人として)会社を変えても変えなくても、成長・変化できるかどうかは最後は自分次第
10年在籍したということと逆説的にはなりますが「他所に行っても通用するスキル・経験を身につける」ことを常に意識していました。
日々成長・変化していくために大切なのは「環境を変えること」ではなく「自分を変えること」だと思っています。
新しい環境に身を置くことで、新しい技術や文化に触れるのはたしかに分かりやすいスキルアップの選択肢の一つです。
しかし私は、転職して新しいことを身につけるというスキルアップの手段ではなく、今のプロダクトに色々と新しいものを取り入れてスキルアップと事業成長を両立させるという道を選びました。また同じプロダクトに長く関わることで、表面的な知識ではなく、深い理解と実践を積み重ねることを狙いました。
(総じて)井の中の蛙にならないよう、外も見よう
一人で経験できる量には上限があり、新しい考え方や技術を身につけるというのは、Xで著名な方々のポストをウォッチしているだけでは不十分です。
インプットに対して、自分なりに噛み砕いてアウトプットする量を確保することを意識しました。
意識的に新しい技術にチャレンジしたり、勉強会での登壇やブログでの情報発信を通じて、外部の評価を受ける機会を作りました。
続けられた理由
私は人よりも飽きやすい体質なのですが、具体的に何が私を留まらせたのか、居続けられた理由を振り返ってみます。
職場の人間関係がよかった
一緒に働く人たちとの関係が良くなければ、長く続けることは難しいでしょう。
幸いなことに、私たちの会社・チームは非常に良い関係を築けてきました。もちろん、意見の衝突や対立もありましたが、それは健全な議論であり、お互いを尊重し合える関係でした。
「飽きる・作るものがなくなる」ことがなかった
10年も同じプロダクトの開発をすると作るものがなくなってくるように思いますが、実際には全く飽きることはなく、むしろ1つ作ると10個作りたいものが増える、そんなイメージです。
お客様からの要望、新しい技術・トレンド、技術的負債の返上、日々の開発体験の向上など、やるべきことの種は無数に転がっており、刺激がありました。
プロダクトや組織が成長を感じることができた
自分が関わったプロダクトが、目に見えて成長していくのは、大きなモチベーションになります。
売上やプロダクトの機能もそれぞれ成長していくにつれて「もっと大きく成長させていきたい」というサイクルで取り組めました。
小さく色々整っていなかったため、必要な裁量があった
小さい組織ゆえに、開発ルールなども未開拓の状態であり、それらを決めたり、技術選定なども含めて裁量があったので、オーナーシップをもてました。
おわりに
ちょうどキリがよく10年という節目を迎えたので、在籍エントリとしてまとめました。
今後のキャリアを考える上で、何が正解かというのはわかりません。
人生は一度きりであり、他の人に代えることはできないですから、正解を選ぼうとすることに苦心するよりも、選んだ道が正解となるように苦心した方がよいでしょう。
ただ、「この環境では成長できない」と感じて環境を変えようと考える前に、今の環境で、本当に最善を尽くしたと言えるまで頑張りきったのかを問うてみるとよいかもしれません。確かに、変えられない環境もあります。しかし、意外と「やろうとしていないだけ」ということも多いのではないかと思いますし、難しいと思った状態を打破することが大きな成長のきっかけにもなるように感じています。
この記事がキャリアに迷っている方のヒントになれば幸いです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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