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うさぎでもわかるNTTによるNTTデータG買収と未来戦略

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うさぎでもわかるNTTによるNTTデータG買収と未来戦略

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はじめに

みなさん、こんにちは!🐰です。突然ですが、みなさんは「大型M&A」という言葉を聞くとどんな企業を思い浮かべますか?

2025年5月8日、日本を代表する通信企業NTTが、上場子会社のNTTデータグループ(以下、NTTデータG)を約2兆3700億円で完全子会社化すると発表しました。この買収規模は、2020年のNTTドコモ買収(約4兆円)に次ぐNTTグループ史上2番目の大型案件です。

「えっ、NTTってNTTデータGの親会社じゃないの?なんで買収するの?」と思った方も多いはず。実はNTTはNTTデータG株の約58%を保有する親会社でしたが、残りの42%は一般株主が所有していました。今回は、この残りの株式を公開買い付け(TOB)で取得し、完全子会社にするというわけです。

実は先日(5月9日)、NTTグループが7月1日から大規模な組織再編と商号変更を行うというニュースをお伝えしました。あれから約1日後のこの発表、ただの偶然ではないでしょう。今回は、NTTによるNTTデータG買収の詳細と、前回お伝えしたグループ再編との関連性、そして今後のNTTグループの展望について考えてみましょう。

買収の背景と目的

親子上場解消による意思決定の迅速化

なぜNTTはNTTデータGを完全子会社化するのでしょうか?NTTの島田明社長はその理由について「資本構成が複雑化し、意思決定に課題があった」と述べています。

親子上場とは、親会社と子会社がともに証券取引所に上場している状態を指します。この状態では、子会社の経営陣は親会社の株主だけでなく、子会社の少数株主(親会社以外の株主)の利益も考慮する必要があり、意思決定が複雑になります。

NTTグループは2022年にグループ内の海外事業を再編し、NTTデータGがグループの海外事業を一手に担う体制を作りました。しかし、実際の出資構成を見ると、海外事業会社のNTT DATA Inc.にはNTTが45%、NTTデータGが55%を出資、海外データセンター事業のNTT Global Data CentersではNTTが50%、NTT都市開発が20%、NTTコミュニケーションズが10%出資という複雑な状態でした。

島田社長は「(複雑な資本関係などに起因する)意思決定のスピードをさらに高めるべく完全子会社化という判断になった」と説明しています。

AI・データセンター需要の爆発的増加

もう一つの大きな背景は、AIと生成AIの急速な台頭によるデータセンター需要の爆発的増加です。

2022年後半に米OpenAIが「ChatGPT」サービスの一般提供を開始して以降、AI技術は飛躍的な進化を遂げ、世界中の企業がAIへの投資を加速させています。AIの開発・運用にはデータセンターが不可欠であり、その需要は急速に高まっています。

NTTデータGはデータセンターサービスで世界3位、ITサービスで世界8位という地位を確立しています。この成長分野で世界的な競争力を維持・強化するためには、意思決定の迅速化と積極的な投資が必要です。

NTTデータGの佐々木裕社長は「ビッグテック(Amazon Web ServicesやMicrosoft、Google Cloud)とのシステム構築案件やOpenAIとの提携などグローバルビジネスが広がる中でスケールメリットを生かせるより強固な財務基盤が必要となった」と完全子会社化のメリットを説明しています。

グローバル市場での競争力強化

NTTグループは2023年5月に公表した中期経営戦略で「社会・産業のDX/データ利活用の強化」「データセンターの拡張・高度化」を重点項目に掲げています。これらの分野で世界市場、特に北米市場での競争力を強化することが大きな目標です。

現在、ITサービス市場ではアクセンチュアやIBMといったグローバル企業が強力な競争力を持っており、NTTデータGが「世界のトップ5」に入るためには、グループ一体となった戦略展開が不可欠です。

買収の詳細

TOB(株式公開買い付け)の概要

NTTは2025年5月9日から6月19日までの期間で、NTTデータGの株式を1株4000円で買い付けます。これは5月7日の終値2991円50銭に対して約34%のプレミアム(上乗せ)を付けた価格です。

買い付け対象となるのはNTT未保有分のNTTデータG発行済み株式の約42%に相当する5億9281万968株で、買付総額は約2兆3712億円に達します。

資金調達は国内金融機関5社からのブリッジローン(短期融資)で行い、調達後に順次長期資金に切り替える予定とのことです。

買収の経緯

島田社長によると、この完全子会社化は2024年9月から本格的な検討を開始し、同年11月にNTTデータGへ正式に打診、12月から両社で特別委員会を設置して具体的な検討を進めたそうです。

社外取締役らへの説明や少数株主への影響の精査などを行いつつ、2025年4月に公開買い付けの条件などを決定し、今回の正式発表に至りました。

NTTデータGも完全子会社化に賛同し、株主に対して応募を推奨する意見を表明しています。

NTTグループの新たな戦略

前回のグループ再編との関連性

先日の記事で、NTTグループが7月1日から組織再編と商号変更を行うことをお伝えしましたが、今回の買収とは明らかな関連性があります。

前回の再編では、NTTコミュニケーションズが「NTTドコモビジネス」に、NTTコムウェアが「NTTドコモソリューションズ」に商号変更するなど、ドコモブランドを中心とした戦略への転換が図られていました。

一方、今回のNTTデータG完全子会社化は、グローバルビジネスを中心としたデジタルサービス事業の強化を目指すものです。つまり、NTTグループは「国内事業はドコモブランドを中心に」「海外事業はNTTデータGを中心に」という二本柱の戦略を明確にしたと言えるでしょう。

NTTグループ再編と買収の全体像

完全子会社化後の戦略

NTTとNTTデータGは完全子会社化後の展開として、以下の3つの柱を掲げています。

  1. グローバルソリューション事業のポートフォリオ強化

    • 北米市場の強化
    • AI活用サービスの強化
    • デジタルエンジニアリング強化
    • AI需要に対応したデータセンターの拡大と高度化
  2. グループリソース/ケイパビリティーの連携強化

    • 大規模法人顧客向けの統合ソリューションの営業強化
    • NTTデータグループのソフトウェア資産を活用した自治体および中堅・中小法人顧客への営業強化
    • 次世代通信基盤「IOWN」や生成AI「tsuzumi」などNTTグループの研究開発実績を活用したAIの社会実装の推進
  3. 意思決定の迅速化とコスト競争力・顧客体験/従業員体験向上

    • ガバナンスの簡素化および重複機能の整理
    • リソースアセットの最適化の実現
    • AIを最大限活用したソフトウェア開発や法人営業での社内共通業務のグループ横断デジタル変革(DX)の推進

特に注目すべきは、NTTグループが持つ「IOWN」(Innovative Optical and Wireless Network)や生成AI「tsuzumi」などの研究開発資産を活用してAIの社会実装を進める点です。

これは前回お伝えした「デジタルサービスカンパニーへの転換」というNTTの目標とも整合性があります。

NTTグループの新戦略と成長方針

グループ内の他社との連携

島田社長は、完全子会社化後にNTTグループ各社の連携強化や重複業務の整理なども実施する考えを表明しています。

具体的には以下の連携が予定されています:

  • 大規模法人顧客向け営業の最適化:NTTコミュニケーションズ(新:NTTドコモビジネス)
  • AI技術領域:NTTテクノクロス
  • ITサービスを活用したビジネスプロセスアウトソーシングの高度化:NTTマーケティングアクトProCXとNTTネクシア
  • 研究開発:NTT研究所

島田社長は、これらの連携は大規模な組織再編ではなく、あくまで強化や整理による最適化が目的だとしています。

市場への影響

NTTとNTTデータGの株価への影響

この買収発表を受けて、NTTデータG株は8日の取引で東京市場において値幅制限いっぱいとなる前日比17%高の3492円で買い気配となりました。

一方、買い手であるNTT株にも好意的な反応がありました。これは、親子上場解消による企業価値向上や、意思決定の迅速化によるグローバル競争力の強化などがポジティブに評価されたものと見られます。

親子上場解消の流れ

実は近年、日本の上場企業の間で親子上場解消の動きが加速しています。東京証券取引所は2025年2月に「親子上場等に関する投資者の目線」を公表し、少数株主保護の観点からも投資家の不満が多い親子上場の在り方について改めての検討や情報開示の強化、投資家との対話を促していました。

これを受けて、NECがNECネッツエスアイの完全子会社化を発表し、イオンも4月にイオンモールの完全子会社化に関する株式交換契約を締結するなど、東証上場企業の間で親子上場解消の動きが進んでいます。

NTTグループも、今回のNTTデータG完全子会社化により、NTTが子会社を経由せず直接出資する親子上場はゼロになりました。

IT業界への影響

NTTデータGはITサービス業界では富士通やNECを上回る国内最大手であり、世界でもトップ10に入る大手企業です。その完全子会社化によって、以下のような影響が予想されます:

  1. 国内IT業界の再編加速:NTTグループの動きに対抗するため、他の大手IT企業も再編や提携を加速させる可能性があります。

  2. グローバル競争の激化:完全子会社化によりNTTデータGの意思決定が迅速化され、グローバル市場での攻勢が強まると予想されます。

  3. データセンター市場の競争激化:NTTデータGは世界3位のデータセンター事業者ですが、今後さらに投資を加速させることで市場シェア拡大を目指すでしょう。

  4. AI関連投資の加速:NTTグループ全体でAI技術の開発と活用が進み、市場全体のAI関連投資も活性化すると考えられます。

ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は今回の発表について「NTTデータのプラットフォームは非常に強力。グローバル市場で戦う企業にとって、良いシナジーが生まれるだろう」との見解を示しています。

NTTグループの業界ポジションと買収効果

今後の展望と課題

統合後の組織運営

NTTグループは今回の買収と7月からの組織再編を経て、大きく変貌を遂げることになります。ただし、こうした大型再編には常に課題が伴います。

特に重要なのは、「ドコモ中心の国内戦略」と「NTTデータG中心の海外戦略」の整合性をいかに取るかという点でしょう。ブランド戦略やリソース配分が複雑になる可能性もあります。

また、組織文化の統合も課題となるでしょう。NTTグループ内の異なる企業文化を持つ組織を効果的に連携させることが成功の鍵を握っています。

データセンター投資の拡大

NTTデータGは完全子会社化と同時に、シンガポールに上場予定のデータセンターの不動産投資信託(REIT)に対し、米国など海外6カ所を売却すると発表しました。売却総額は約2400億円で、2026年3月期に1554億円の譲渡益を計上する予定です。

これは財務体質の強化と、今後の積極的なデータセンター投資に向けた資金確保の動きと見られています。NTTグループは今後、AI需要の拡大に合わせてデータセンター投資をさらに加速させる方針です。

グローバル競争での勝算

NTTデータGが世界のITサービス市場で「トップ5」に入るためには、欧米の強力な競合他社との差別化が必要です。

NTTグループの強みは、通信インフラからクラウド、AI、データセンターまでをカバーする総合力にあります。特に「IOWN」のような先進的な通信インフラ技術と、NTTデータGのITサービス、ドコモのモバイル技術を組み合わせることで、他社にはない独自のソリューションを提供できる可能性があります。

これからのAI時代においては、こうした総合的な技術力と提案力が競争力の源泉となるでしょう。

「大NTT」の復活

今回の完全子会社化と組織再編は、かつて「大NTT」と呼ばれた強大な通信グループの復活を思わせる動きです。NTTは1999年の再編で長距離通信事業を分社化し、2004年にはNTTドコモの持ち株比率を引き下げるなど、分散型の体制を取ってきました。

しかし現在は、2020年のNTTドコモの完全子会社化、そして今回のNTTデータGの完全子会社化と、むしろグループの一体化を進める方向にあります。

これは単なる回帰ではなく、AI時代におけるグローバル競争に打ち勝つための戦略的選択と言えるでしょう。島田社長は「過去の大NTTへの回帰ではなく、新時代に合わせた組織最適化」と説明しています。

まとめ

NTTによるNTTデータGの完全子会社化は、約2兆3700億円という巨額の投資を伴う大型買収です。しかし、その目的は単なる規模拡大ではなく、AI時代におけるグローバル競争への対応と、グループ全体の戦略的一体化にあります。

重要なポイントを整理すると、以下のようになります:

  1. 親子上場解消による意思決定の迅速化:複雑な資本関係を解消し、迅速な経営判断を可能にします。

  2. AI・データセンター戦略の強化:急拡大するAI需要に対応するため、データセンター投資を加速させます。

  3. グローバル競争力の強化:特に北米市場を中心に、世界市場での存在感を高めることを目指します。

  4. グループ戦略の明確化:国内事業はドコモ中心、海外事業はNTTデータG中心という二本柱の戦略を確立します。

  5. 研究開発成果の活用:「IOWN」や「tsuzumi」などの研究開発成果を活用し、差別化されたソリューションを提供します。

今回の買収は、7月からの組織再編と合わせて、NTTグループの未来戦略を示す重要な一手と言えるでしょう。これによって、日本を代表するIT企業グループが世界市場でどのような成果を上げるのか、今後も注目していきたいと思います。

次回もお楽しみに!🐰

参考資料

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