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うさぎでもわかる声優と生成AI – Cotomoの緑川光ボイスから考える権利と将来

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うさぎでもわかる声優と生成AI – Cotomoの緑川光ボイスから考える権利と将来

はじめに

「いらっしゃいませ、ご主人様。今日も素敵な一日をお過ごしですか?」

声優の緑川光さんの声で、あなた好みのキャラクターがこんな風に話しかけてくれたら、どう思いますか?

最近、生成AIの発展により、声優の声を活用したAIサービスが次々と登場しています。2025年3月にリリースされた「Cotomo(コトモ)」の緑川光ボイスは、プロの声優と生成AIが共存する新しいモデルとして注目を集めています🐰

この記事では、Cotomoの緑川光ボイスを入り口に、声優と生成AIの権利関係や将来の可能性について考えてみたいと思います。声優の声を守るための「肖声権」といった新概念や、海外の事例なども織り交ぜながら解説します。

Cotomoの緑川光ボイスとは

Cotomoのサービス概要

Cotomoは、Starley株式会社が提供する「おしゃべりAI」サービスです。2025年3月18日にキャラクタークリエイト機能がリリースされ、プロの声優の声を使って自由におしゃべりAIキャラクターを作成・シェアできるようになりました。

利用方法は非常にシンプルで、Cotomoアプリ内に「Cotomo設計書」という4,000文字の情報枠や「Cotomoのカケラ」に情報を入れ、声を選択して「おしゃべりする」ボタンをタップするだけです。

緑川光氏のプロフィール

緑川光(みどりかわ ひかる)氏は、『新機動戦記ガンダムW』や『あんさんぶるスターズ!』など多くの人気作品に出演している声優です。今回、Cotomoの音声として自分の声が登場することになりました。

キャラクタークリエイト機能と声優ボイスの活用

Cotomoでは、緑川光氏をはじめ、青二プロダクションに所属する若手声優10名が演じるキャラクターが順次登場する予定です。ユーザーは、これらの声優ボイスを使って自分だけのAIキャラクターを作成できます。

さらに、緑川光氏の場合は、全2種類のスペシャルボイスがセットで提供され、購入者には「期間限定スペシャルパック」として、録りおろし生ボイスや「お披露目会」の抽選券などの特典がプレゼントされる仕組みになっています。

緑川光氏のコメント

緑川光氏は、自身の声がCotomoに追加されることについて以下のようにコメントしています。

どうも、声優の緑川光です。何と今回、Cotomoの音声として自分の声が追加されることになりました!!

実は、以前からCotomoの存在は知っていて、それを扱った配信を見たり、実際にダウンロードして遊んだこともあったんです。想像よりも滑らかにAIのキャラクターとお話ができて、近未来な感じに興奮しました。そんな夢膨らむアプリに自分が参加することができて、とても嬉しいです。

このCotomo、細かく設定することで、自分好みにキャラクターを作って育てることが出来ます。そのキャラクターのお供に、自分の声を使用していただけたら幸いです♪

このコメントからは、声優自身が生成AIとの共存に積極的な姿勢を示していることがわかります。新しい技術を恐れるのではなく、自らの声のファンにより豊かな体験を提供するという前向きな考え方が伺えます。

声優と生成AIの権利関係

声優の声をAIに活用する際には、様々な権利問題が発生します。ここでは、主な権利の種類と権利侵害となり得るケースについて整理していきましょう。

声に関わる権利の種類

権利関係の図解

著作権・著作隣接権

声優が脚本などの著作物を演じた場合、声優には「著作隣接権」という権利が発生します。また、声優(実演家)には実演家の人格的利益を保護するための「実演家人格権」もあります。これには氏名表示権(著作権法90条の2)と同一性保持権(著作権法90条の3)が含まれます。

ただし、注意すべき点として、声そのものには著作権は適用されにくいという特徴があります。例えば、オーディオブックの場合、著作権は本の本文(著作物)にあり、読み上げた声自体には権利がないのです。

パブリシティ権

パブリシティ権とは「人の氏名、肖像等が有する顧客誘引力を排他的に利用する権利」として判例法理によって認められた権利です。

声についても、ピンク・レディー事件の最高裁判決が「肖像等」には声も含まれるとしており、声優の声もパブリシティ権によって保護される可能性があります。これは人格権に基づく権利であり、特に有名声優の場合は重要になってきます。

新しい概念「肖声権」

最近では、生成AIの発展に伴い「肖声権(しょうせいけん)」という新しい概念も提唱されています。これは「その人を特徴づける声に帰属される人権」を指します。

Legal AI社は、生成AIによる音声AIから声の権利を守るために、肖像権に代わる「肖声権」を定義し、音声AIによるディープフェイク技術から人々の声の権利を守る取り組みを行っています。具体的には、ブロックチェーン技術(NFT)を使って登録された声データに真正性を与え、「声のJASRAC」的な権利を技術的に定義する方法を採用しています。

権利侵害となるケースの整理

AIによる声の利用は、大きく分けて「開発・学習段階」と「生成・利用段階」の2つに分けられます。それぞれの段階で発生し得る権利侵害について見ていきましょう。

開発・学習段階

声優の音声をAIに学習させる段階では、著作隣接権の侵害が問題になる可能性があります。ただし、大量の音声を機械学習させる場合には、著作権法30条の4(情報解析のための複製等)が適用され、声優の許諾を得なくても利用できる可能性があります。

一方で、特定の声優の音声を少量学習させる場合には、「情報解析」や「非享受目的」の要件を満たさず、声優の許諾が必要となることがあります。

パブリシティ権については、開発・学習段階では一般的に問題になることは少ないとされています。しかし、特定の著名人の声を売りにするAIの場合は、パブリシティ権侵害となる可能性があります。

生成・利用段階

生成・利用段階では、著作権や著作隣接権の問題は比較的軽減されます。例えば、AIが新たなテキストを音読する場合、元の著作物を利用していないため、著作権や著作隣接権の侵害には通常なりません。

しかし、パブリシティ権については、特定の著名人の声と同一・類似の声を意図的に生成し、商業利用する場合には、パブリシティ権侵害となる可能性が高いです。これが、Cotomoのような正式な許諾を得たモデルが重要になる理由でもあります。

権利保護に関する現状の課題

現状の課題としては、以下のような点が挙げられます。

  1. 音声に特化した権利保護の枠組みが不十分である
  2. 契約書に「声の複製への許諾」が紛れ込む懸念がある
  3. 無断で声をAIに学習させられるリスクがある
  4. 技術の進化が法制度の整備を上回るスピードで進んでいる

特に、吹き替え作品などの契約書に「この作品のために収録した音声をAIに学習させることを許可し、今後販売する商品に利用することを認めます」といった項目が入れられるケースがあり、声優サイドからは不安の声が上がっています。

声優と生成AIの共存モデル

では、声優と生成AIが共存していくための具体的なモデルには、どのようなものがあるのでしょうか。国内外の事例を見ていきましょう。

共存モデルの図解

既存の取り組み事例

Cotomoモデル

既に紹介したCotomoのモデルは、プロの声優から明確な許諾を得た上で、ユーザーが購入する課金モデルを採用しています。これにより、声優に適切な報酬が還元されるとともに、ユーザーは正式にライセンスされた声優の声を使ってキャラクターを作ることができます。

青二プロダクションとCoeFontのパートナーシップ

業界最大手の声優事務所である青二プロダクションは、AI音声サービス「CoeFont」とパートナーシップを締結しています。CoeFontでは、月額3,300円からAI音声の商用利用が可能で、声優の個性を活かしつつAI技術との共存を図る革新的なモデルとなっています。

これにより、声優文化のグローバル展開や日本のAI技術の世界発信なども視野に入れた事業展開が期待されています。

梶裕貴氏の取り組み

人気声優の梶裕貴氏は、2024年9月に自身の声を生成AIに学習させた公式AIキャラクター『梵そよぎ(そよぎ)』を中心としたプロジェクト【そよぎフラクタル】を開始しました。

梶氏は「声を生業にする自分だからこそ、まずは(AIとの関わり方に)投げかけたい」と語り、共存の道を模索しています。同時に自らの公式音声合成ソフトも開発・販売するなど、能動的な取り組みを行っています。

海外の動向

Morphemeの事例

海外では、ゲーム声優シシー・ジョーンズ氏が立ち上げたスタートアップ「Morpheme」が注目を集めています。このスタートアップでは、声優の同意を得て声のデジタルコピーを作成し、それがゲームやアニメで使用されるたびに本人に報酬を支払うビジネスモデルを採用しています。

また、声優がデジタルコピーの提供をやめたいと希望すれば、いつでも削除に応じる仕組みを確立しています。これは「企業に声を盗まれるなら、自分たちで優秀なデジタルコピーを作って売ろう」という、ある意味「先手を打つ」ビジネス戦略でもあります。

SAG-AFTRAの交渉

アメリカの俳優・声優の労働組合であるSAG-AFTRAは、AIによる声の利用に関して業界との交渉を進めています。交渉の主な焦点は以下の通りです。

  1. AI技術を通じてパフォーマンスを複製される演者には「インフォームド・コンセント」の権利があること
  2. 公正な補償の規定を確立すること
  3. 生成AIが創作プロセスにおける人間の役割を完全に排除しないようガードレールを設定すること

これらの取り組みは、声優と生成AIが適切に共存するための重要な枠組みとなっています。

新しいビジネスモデルの可能性

権利者に適切な報酬が入る仕組み

声優の権利を守りながら生成AIと共存するビジネスモデルとして、「声のトレーサビリティシステム」が注目されています。これは、Spotifyのように権利化された声を音声生成AIで生成して利用した場合、1文字、1秒単位でトレースできる仕組みを提供し、声の権利者に対価を配分するシステムです。

声のトレーサビリティーシステム

Legal AI社が提案する声のトレーサビリティーシステムでは、ブロックチェーン技術を用いて声の真正性を確保し、声のJASRAC的な権利管理システムを構築することを目指しています。これにより、無断使用の防止や適切な報酬分配が可能になると期待されています。

声優と生成AIの将来展望

最後に、声優と生成AIの将来に向けた展望について考えてみましょう。

AIにできること・できないこと

現時点では、AIと声優の間には明確な差があります。AIにできないこととして最も顕著なのは「感情表現および演技力」です。人間の声優の方が圧倒的に演技力に優れているため、クリエイティブな領域では人間の声優が有利です。

ただし、AIの進化は非常に速く、近い将来、80点程度の演技はできるようになるかもしれません。そうなると、演技に強くない声優が淘汰される可能性もあります。

そのため、声優は「AIにできないこと」を追求する必要があります。具体的には以下の点が差別化ポイントとなるでしょう。

  1. 複雑な感情表現と高度な演技力
  2. ライブパフォーマンスと生の体験の提供
  3. ファンとの交流という価値の提供

声優業界の変化と適応

AIの台頭により、声優業界は大きな変革期を迎えています。今後は、AIとの共存を前提としたビジネスモデルへの移行が必須となるでしょう。

そのためには、CoeFontなどのAI音声サービスにデータを登録し、MAD動画や二次創作に関しても寛容な態度を取る一方で、マネタイズポイントをAIにできない領域(複雑な演技・ライブ)に設定するなど、戦略的な適応が求められます。

また、声優自身が営業・プロデュースする能力を身につけることも、今後ますます重要になってくるでしょう。

グローバル展開の可能性

日本のアニメ人気に伴い、日本人声優のグローバル需要が拡大しています。世界的に見ても、日本ほど声優文化が成熟している国は他にありません。

この多種多様な「声」をAI音声で多言語展開できるようになれば、ビジネスチャンスは大きく広がります。例えば、日本語のオリジナル演技を保持したまま、英語や中国語など他言語に展開することで、日本の声優文化を世界に発信する新しい可能性が開けるでしょう。

消費者側から見た変化

消費者にとっては、より多様な声優ボイスを手軽に利用できるようになるというメリットがあります。一方で、「本物の声優」と「AI」の区別が曖昧になる懸念もあります。

今後は、正規のライセンスを受けたAI声優と無許可のものを区別するための啓発活動や、エンドユーザーがどのように声を利用しているかを追跡する技術の発展が重要になるでしょう。

まとめ

Cotomoの緑川光ボイスを入り口に、声優と生成AIの権利関係や将来の可能性について考察してきました。最後に、ポイントをまとめておきましょう。

権利保護と技術活用のバランス

声優の声をAIで活用する際には、著作隣接権やパブリシティ権などの既存の権利に加え、「肖声権」という新しい概念も踏まえた保護が必要です。同時に、技術の進化を過度に抑制することなく、創造的な活用を促進するバランスも重要です。

今後の展望

今後は、Cotomoモデルや青二×CoeFontモデル、Morphemeのようなビジネスモデルがさらに発展し、声優と生成AIの共存が進むでしょう。特に、ブロックチェーン技術を活用した声のトレーサビリティシステムや、インフォームド・コンセントを確保する仕組みの整備が進むことが期待されます。

声優とAIの共存に向けた課題と希望

声優にとっては、AIに代替されない価値を提供し続けること、そしてAI技術を自らのキャリアに活かす方法を見つけることが課題となります。同時に、消費者やクリエイターも、声優の権利を尊重しながら、新しい技術を創造的に活用する意識が求められます。

生成AIの発展は、声優業界に脅威をもたらす側面もありますが、新たなビジネスチャンスや創造の可能性も秘めています。適切な権利保護の枠組みと革新的なビジネスモデルを通じて、声優と生成AIが共存する未来を築いていくことが、私たちの課題であり希望でもあるのです🐰

「AIだけじゃ表現できない感情がある」
「でもAIと共存する道も模索したい」

そんな声優たちの思いを理解しながら、私たち消費者も声の権利について考えていくことが大切ですね。うさぎとして言えることは、技術は進化し続けますが、人間の創造性と感情表現の豊かさは、まだまだAIを超えるものがあるということ。お互いを尊重しながら、新しい未来を一緒に作っていきましょう!

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