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うさぎでもわかるFramePack - 革新的なAI動画生成技術

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うさぎでもわかるFramePack - 革新的なAI動画生成技術

はじめに

最近のAI技術の進化は目覚ましく、特に画像や動画の生成分野では革命的な進歩が見られています。StableDiffusion、Midjourney、DALL-E 3といった画像生成モデルから、OpenAIのSora、Google DeepMindのGen-2、AlibabaのWanなど、次々と高性能な動画生成モデルが登場しています。

しかし、これらのAI動画生成モデルには共通する課題がありました。長時間の高品質動画を生成しようとすると、膨大なメモリ(VRAM)が必要になり、処理時間も動画の長さに比例して増加してしまうのです。また、動画が長くなるほど、内容の一貫性が保てなくなる「忘却問題」や、フレーム生成を繰り返すうちに品質が劣化していく「ドリフト問題」も深刻でした。

「もっと普通のパソコンでも長い動画が作れないものか?」

そんな願いを叶えるべく、スタンフォード大学のLvmin ZhangとManeesh Agrawalaが開発したのが「FramePack」です。2025年4月に発表されたこの革新的技術は、動画生成の世界に新たなブレイクスルーをもたらしました。

この記事では、「うさぎでもわかる」シリーズとして、FramePackの革新的な仕組みと魅力を、技術者の皆さんにもわかりやすく解説していきます。動画の長さに関係なく処理負荷を一定に保ち、6GBという少ないVRAMでも数千フレームもの高品質動画を生成できる、この魔法のような技術の秘密に迫りましょう。

FramePackとは何か

FramePackは、「Packing Input Frame Context in Next-Frame Prediction Models for Video Generation(動画生成のための次フレーム予測モデルにおける入力フレームコンテキストのパッキング)」という論文で提案された、次フレーム予測モデルのためのニューラルネットワーク構造です。

従来の動画生成モデルと異なり、FramePackは「次のフレーム(あるいは次のフレームセクション)」を予測するアプローチを取ります。そして最大の特徴は、入力フレームを圧縮して、動画の長さに関係なくトランスフォーマーのコンテキスト長を一定に保つ仕組みを導入したことです。

開発の背景

この技術は、スタンフォード大学のLvmin ZhangとManeesh Agrawalaによって開発されました。特にLvmin Zhangは、「ControlNet」「AnimateDiff」など、画像・動画生成分野で革新的な貢献をしてきた研究者として知られています。

FramePackは、lllyasvielのGitHubリポジトリでオープンソースプロジェクトとして公開されており、誰でも利用・貢献できる形になっています。

https://github.com/lllyasviel/FramePack

FramePackの基本コンセプト

従来の動画生成モデルの課題

AIによる動画生成は、画像生成に比べてはるかに難しい課題です。時間軸に沿った一貫性の維持や、フレーム間の自然な遷移、長時間にわたる内容の整合性など、様々な課題があります。従来の動画生成モデルには、主に以下のような問題がありました。

忘却問題(Forgetting Problem)

長い動画を生成する場合、モデルは初期のフレーム情報を「忘れて」しまう傾向があります。これは、トランスフォーマーモデルの文脈窓の制限や、メモリ効率の制約による問題です。その結果、動画の後半になるほど、最初に設定したシーンやキャラクターの特徴などが失われていくのです。

ドリフト問題(Drifting Problem)

フレームを次々と生成していく過程で、わずかなエラーが累積し、徐々に品質が劣化していく現象です。これは「露出バイアス」(トレーニング時と推論時の不一致)からくる問題で、動画が長くなるほど顕著になります。

計算リソースとVRAMの制約

従来のモデルでは、動画の長さに比例してVRAM使用量と処理時間が増加します。そのため、長時間の高品質動画を生成するには、RTX 4090のような高性能GPUが必須でした。普通のノートPCのGPUでは、せいぜい数秒の短い動画しか生成できませんでした。

トレーニングの非効率性

動画拡散モデルのトレーニングでは、画像拡散モデルに比べてバッチサイズが大幅に小さくなる傾向がありました。これにより、トレーニングが非効率になり、大規模なモデル開発が困難でした。

従来の動画生成とFramePackの比較

FramePackの技術的仕組み

FramePackが革新的なのは、以上の課題を巧妙に解決する独自のアプローチを開発したことです。その核心的な仕組みを見ていきましょう。

次フレーム予測モデル

FramePackは、一度に全フレームを生成するのではなく、既存のフレームを入力として「次のフレーム」あるいは「次のフレームセクション」を予測する方式を採用しています。これは、文章生成におけるトークンごとの自己回帰的な予測に近いアプローチです。

プログレッシブフレーム圧縮

FramePackの最大の特徴は、入力フレームを「重要度」に基づいて異なる圧縮率で圧縮する技術です。一般に、最新のフレームは次のフレーム予測に最も重要で、古いフレームはそれほど細部まで必要ありません。

そこでFramePackは、以下のような圧縮戦略を採用しています:

  • 最近のフレーム:低圧縮率(高詳細)
  • 中間のフレーム:中程度の圧縮率
  • 古いフレーム:高圧縮率(低詳細)

トランスフォーマーパッチファイカーネルサイズの操作

この圧縮は、トランスフォーマーのパッチファイ(画像を分割するプロセス)のカーネルサイズを操作することで実現します。異なるカーネルサイズを使うことで、同じ画像サイズでも「パッチの数」を制御でき、これによりGPUメモリ上のトークン数を調整できるのです。

一定のトランスフォーマーコンテキスト長

上記の圧縮アプローチにより、入力フレームの数が増えても、トランスフォーマーのコンテキスト長(使用するトークン数)が上限値に収束するように設計されています。これが「動画の長さに関係なく処理負荷が一定」という魔法のような特性を実現している核心的なメカニズムです。

FramePackのプログレッシブ圧縮技術

FramePackの主な革新点

FramePackがもたらした革新性は多岐にわたります。ここでは、その主要な革新点を詳しく見ていきましょう。

動画長に依存しない一定の計算量

既に説明したように、FramePackの最大の革新点は、動画の長さに関係なく、計算量とVRAM使用量を一定に保てることです。これにより、理論的には無限に長い動画でも、常に一定のリソースで生成できるようになりました。

低スペックGPUでの長時間高品質動画生成

FramePackは、わずか6GBのVRAMしか持たないラップトップGPUでも、数千フレーム(30fpsなら数分に相当)の高品質動画を生成できます。最適化技術「TeaCache」を使用すると、RTX 4090では1フレームあたり約1.5秒という高速処理も実現できます。

アンチドリフティングサンプリング手法

FramePackは、フレームドリフト(エラーの蓄積)を防ぐために、以下の2つの革新的なサンプリング手法を導入しています:

  1. 逆時間順序生成:時間的に逆順(後ろから前へ)にフレームを生成することで、露出バイアスを軽減
  2. 早期確立エンドポイント:生成の初期段階でエンドポイントを確定し、両方向からの一貫性を保証

画像拡散モデルと同等のバッチサイズでのトレーニング

FramePackを用いると、13Bという大規模なHunyuanVideoモデルでも、8×A100-80Gノード上でバッチサイズ64でのトレーニングが可能になります。これは従来の動画拡散モデルと比較して革命的で、画像拡散モデル(例えば12B Flux)と同等のバッチサイズを実現しています。

FramePackの実用的なメリット

FramePackがもたらす実用上のメリットは、技術的な革新性にとどまりません。実際のユーザーにとって、どのような恩恵があるのでしょうか。

コンシューマーグレードハードウェアでの高品質動画生成

これまで、長時間の高品質AI動画生成には、RTX 4090のような高性能GPUが必須でした。FramePackにより、一般的なゲーミングノートPCやミドルレンジのGPUでも、プロ級の動画生成が可能になります。

既存のビデオ拡散モデルとの互換性

FramePackは、既存のビデオ拡散モデル(HunyuanVideo、Wanなど)と互換性があり、これらをファインチューニングして使用できます。次フレーム予測に特化した設計により、標準的な拡散スケジューラーの最適化も可能で、画質向上にも貢献します。

動画の長さに比例しない処理時間

従来のモデルでは、動画の長さが2倍になると処理時間も約2倍になりました。FramePackでは、フレーム数にかかわらず、1フレームあたりの処理時間がほぼ一定になります。これにより、長時間動画の生成時間が大幅に短縮されます。

個人クリエイターやラボレベルでの実験可能性

FramePackにより、個人のクリエイターや小規模な研究室でも、大規模な動画生成モデルのトレーニングや実験が可能になります。従来であれば大企業やトップ研究機関しかアクセスできなかった技術が、より広いコミュニティに開放されるのです。

FramePackのシステムアーキテクチャ

実装と使用方法

FramePackは実用的なデスクトップソフトウェアとして実装されており、Windows環境で簡単にインストールして使用できます。ここでは、基本的な導入と使用方法の概要を紹介します。

インストール方法の概略

FramePackのインストールは比較的簡単です。GitHubリポジトリから提供されるインストーラーを使用するか、自分でリポジトリをクローンして必要な依存関係をインストールする方法があります。必要な依存関係には、Python、PyTorch、CUDA、diffusersなどが含まれます。

インストール前にディスク空き容量(約50GB以上推奨)と、使用するGPUとの互換性を確認することが重要です。

基本的な使用方法と設定パラメータ

FramePackは、GradioベースのUIを提供しており、直感的な操作が可能です。基本的な使用フローは以下の通りです:

  1. 初期フレームの作成/アップロード:生成の起点となる画像を用意
  2. プロンプトの設定:生成したい動画の内容を指示するテキスト
  3. 生成パラメータの調整:フレーム数、サンプリングステップ、シード値など
  4. 生成の開始:生成プロセスはセクションごとに進行し、最終的に1つの動画が出力される

TeaCacheと量子化

FramePackには、パフォーマンスを最適化するための2つの重要な機能があります:

  1. TeaCache:一種のキャッシュ機構で、類似した計算結果を再利用することで生成速度を向上させます。RTX 4090で使用すると、1フレームあたりの生成時間を2.5秒から1.5秒に短縮できます。

  2. 量子化:モデルの精度を若干落とすことで、メモリ使用量を削減する技術です。8ビット量子化や4ビット量子化を適用することで、より少ないVRAMでの動作が可能になります。

応用事例と将来の展望

FramePackがもたらす可能性は広大です。その応用範囲と将来の展望について考えてみましょう。

長時間高品質動画生成の応用

FramePackにより、以下のような応用が現実的になります:

  • 映像作品の制作補助:コンセプトアートからの長尺アニメーションやシーン生成
  • 教育コンテンツ:説明動画やチュートリアルの自動生成
  • マーケティング素材:製品デモやプロモーション動画の効率的な作成
  • ゲーム開発:ゲームシーンやカットシーンの試作

クリエイティブワークフローへの統合

FramePackは、既存のクリエイティブワークフローに組み込むことができます。例えば、Adobe After EffectsやBlenderなどのソフトウェアと連携して、一部のシーン生成を自動化することが考えられます。ComfyUIなどのオープンソースフレームワークへの統合も進められています。

今後の技術発展の可能性

FramePackは、まだ登場したばかりの技術です。今後、以下のような発展が期待されます:

  • より高度な圧縮アルゴリズムによるさらなる効率化
  • マルチモーダル入力(テキスト、音声、画像)からの動画生成への応用
  • リアルタイム動画生成への道筋
  • 特定ドメイン(医療映像、科学シミュレーションなど)向けの専用モデル

AIビデオ生成分野全体への影響

FramePackの登場は、AIビデオ生成分野全体にパラダイムシフトをもたらす可能性があります。これまでのリソース制約がなくなることで、より長く、より高品質な動画生成モデルの研究開発が加速するでしょう。また、一般のユーザーがアクセスできるAI動画生成技術の幅が広がり、クリエイティブ表現の新たな可能性が開かれます。

まとめ

FramePackは、AI動画生成技術に革命をもたらす画期的なイノベーションです。入力フレームを重要度に基づいて圧縮し、トランスフォーマーコンテキスト長を一定に保つという、シンプルかつ強力なアイデアにより、従来の限界を突破しました。

この技術により、動画の長さに関係なく処理負荷を一定に保ち、少ないVRAMでも長時間の高品質動画生成が可能になりました。また、トレーニング効率の向上とドリフト問題の解決により、より高品質なモデル開発への道も開かれています。

うさぎの視点で見ると、FramePackは「どれだけ長い動画を作りたくても、必要にんじんの量は同じ」という、とても素晴らしい技術と言えるでしょう。

AI技術の民主化が進み、これまでは大企業や研究機関しかアクセスできなかった高度な動画生成技術が、一般のクリエイターや開発者にも手が届くようになりました。FramePackが切り拓いた新たな可能性は、AIを用いたクリエイティブ表現の未来を明るく照らしています。

今後も進化を続けるAI動画生成技術に、引き続き注目していきましょう。

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