第2回 AI Agent Hackathon with Google Cloudに向けて~第1回の振り返りと成功のヒント~
第2回 AI Agent Hackathon with Google Cloudに向けて~第1回の振り返りと成功のヒント~
1. はじめに
まもなく第2回 AI Agent Hackathon with Google Cloudが開催されます。第2回の参加登録は2025年4月14日から始まる予定であり、第1回の熱気をそのままに、さらに多くの革新的なAIエージェントの誕生が期待されています。
AIエージェントとは、Zennのハッカソン説明によれば「ユーザーの要望や状況を理解し、人間のように計画を立て、柔軟にタスクを実行するシステム」と定義されています。従来のチャットボット型AIとの違いは、単なる応答ではなく、ユーザーの目的達成のために主体的に行動する点にあります。
本記事では、第1回ハッカソンで披露された素晴らしいプロジェクトを振り返り、それぞれの成功ポイントを分析します。これから第2回に参加を検討している方々にとって、参考になれば幸いです。
2. 第1回 AI Agent Hackathon with Google Cloudの概要
開催背景と目的
第1回 AI Agent Hackathon with Google Cloudは、技術者コミュニティZennが主催し、Google Cloud Japanが協賛する形で開催されました。このハッカソンは、生成AIの進化に伴い、従来のチャットボットから「AIエージェント」へと進化するAI技術の可能性を追求し、革新的なアイデアの創出を目的としていました。
「生成AIに興味はあるけど、まだ触ったことがない」という初心者から経験豊富なエンジニアまで、幅広い層が参加できるイベントとして設計されていました。
参加条件と参加者数
ハッカソンへの参加条件は以下の通りでした:
- Google Cloud AIプロダクトから1つ以上を使用すること
- Google Cloud コンピュートプロダクトから1つ以上を使用すること
- Google Cloud上でプロジェクトが実行されること
参加登録者は485名、チーム数は87に上り、最終的に提出されたプロジェクトは33件でした。これはアイデアを実現しプロジェクトを提出するだけでも一定の難しさがあったことを示しています。
ハッカソンのスケジュール
ハッカソンは以下のスケジュールで進行されました:
- 登録および提出期間:2024年12月19日~2025年2月10日
- 1次審査期間:2025年2月11日~2025年2月17日
- 2次審査期間:2025年2月18日~2025年2月24日
- 受賞者並びに候補者通知:2025年2月25日
- 受賞者発表並びに最終審査:2025年3月13日
また、参加者を支援するために以下のイベントも開催されました:
- チームビルディング&ハンズオンイベント(オフライン):2025年1月14日
- オフィスアワー(オンライン):2025年1月20日
審査基準
審査は以下の3つの基準に基づいて行われました:
- アイデアの質:アイデアの創造性と独創性
- 問題の明確さと解決策の有効性:明確に定義された問題に対して、効果的な解決策を提案できているか
- アイデアの実現:開発者がアイデアをどの程度実現し、必要なツールを活用し、拡張性があり、運用しやすく、費用対効果の高いソリューションを作成できたか
賞のカテゴリー
ハッカソンでは以下の賞が設けられていました:
- 最優秀賞:賞金50万円
- 2位:賞金30万円
- 3位:賞金20万円
- Tech Deep Dive賞:賞金15万円
- Moonshot賞:賞金15万円
- Firebase賞:賞金15万円
- Flutter賞:賞金15万円
- Android賞:賞金15万円
3. 入賞プロジェクト紹介
最優秀賞:eCoino(想定外のズレをすぐに取り戻す対話型AIシステム)

第1回ハッカソンの最優秀賞に輝いたのは、「eCoino」というサプライチェーンの計画と現実のズレを迅速に修正するためのAIエージェントでした。
背景と課題
eCoino は、サプライチェーンにおける「計画と現実のズレ」という課題に着目しました。例えば「令和の米騒動」では、消費者の一斉購入によってスーパーから米が消えるという問題が発生しました。これは、需要の変化が大きすぎると、サプライチェーンの特定のプロセスに負担がかかり、機能が停止してしまうことが原因でした。
ものが買えなくなる原因のほとんどは、「事前に立てた計画の予想を超える急な変化」が発生したにもかかわらず、計画をすぐに見直せないことにあるとeCoino チームは分析しました。
ソリューション
eCoino は、AIエージェントとの対話で計画を迅速に変更できるシステムを提案しました。主な機能は以下の通りです:
- シナリオ管理:通常時、イベント発生時など、複数のシナリオを管理し、詳細を参照
- シナリオ比較:複数のシナリオがある場合に、双方のデータを比較・確認
- シナリオ対策:イベント情報など特定のシナリオ向けに対策方法を検討
- マスタ自動生成:決定したシナリオに基づき、関連するマスタデータを自動提案
特に注目すべき点は、Human in the Loopの設計思想です。AIに任せるのが難しい「人の意思決定」の部分と、AIが担当できる「意思決定に必要な情報収集」や「シミュレーション」の部分を明確に分離し、相補的なシステムを構築しています。
2位:ManabiyaAI(教育現場の課題を解決するAIエージェント)

ManabiyaAIは、教育現場での授業準備・進行・評価の負担を軽減するためのAIエージェントです。
背景と課題
日本の教師は授業や授業準備に週26.5時間程度を費やしており、非常に大きな負担となっています。一方で、テクノロジーの進化による授業のデジタル化が急務であるにもかかわらず、実際の教育現場ではIT化が進んでおらず、教師が嫌悪感を抱くケースも多いという課題がありました。
ソリューション
ManabiyaAIは、デジタル端末が完備された対面授業環境下で、新人教師でも自分らしい授業を実現できるよう、授業準備から授業運営、採点・フィードバックまでを包括的にサポートするシステムを構築しました。主な機能は以下の通りです:
- 授業準備の効率化:学習指導要領に基づいた自動アジェンダ作成
- 授業中のリアルタイム支援:授業テキストの表示と音声データの収録・テキスト化
- 小テストの自動生成と評価:授業内容に基づいた小テスト生成と自動採点
- 結果共有とパーソナライズされたフィードバック:生徒ごとの理解度に応じたフィードバック
特に注目すべき点は、教師の過去の授業データを学習し、各教員の指導スタイル(教師らしさ)を反映したフィードバックを実現している点です。これにより、新人教員であっても、自身の個性を失うことなく、質の高い授業運営が可能となっています。
ManabiyaAIを導入した場合、従来方式と比べて作業時間が約85%削減され、生徒ごとにパーソナライズ宿題や解説が提供されるなど、教育の質向上にも寄与することが示されています。
3位:社内のぞき見新聞(組織内情報共有のためのAIエージェント)

「社内のぞき見新聞 ~The Internal Times~」は、チャットや議事録などをデータソースとして、AIが自動で情報を収集し、その週にあった出来事を新聞記事の形でまとめてくれるプロダクトです。
背景と課題
一定以上の人数規模の組織では、組織全体の出来事をキャッチアップするのが難しく、コミュニティが所属する部署やチームに閉じられてしまうという課題があります。従来の社内報は情報収集や編集に人的コストがかかり、コンテンツを考えるのも大変でした。
ソリューション
「社内のぞき見新聞」は、定期的に組織内での出来事をAIエージェントが自動で収集し、新聞記事の形でまとめることで、情報収集・編集の時間的・頭脳的コストを削減しつつ、組織内の情報を楽しくキャッチアップできるようにしました。
特徴的なのは、組織内の近況がわかるトピックスだけでなく、AIが編集長になりきった社説や、メンバーの活躍やプロフィールを紹介する「今週の格言」「突撃!今週の〇〇さん」などのコンテンツも生成している点です。これにより読み手が楽しんで情報収集することができます。
プロンプトエンジニアリングにおいても工夫がなされており、情報の重複を避けるために過去のトピックス一覧をAIに示したり、特定の事業部に偏らないようバランスよく情報を抽出するよう条件を追加するなど、細かな調整が行われています。
部門賞の紹介
Moonshot賞:Menu Bite(チーム:京大にんじんサークル)
Menu Biteは、飲食店におけるメニューの選択と注文プロセスを革新するAIエージェントでした。独創的なアイデアと従来の概念を覆す大胆な発想が評価され、Moonshot賞を受賞しました。
Tech Deep Dive賞:ココいく(個人)
「ココいく」は、洗練されたアーキテクチャと独創的なアプローチで、最先端の技術を用いたユニークなアプリケーションとして評価されました。技術的な深掘りと実装の質の高さが評価されてのTech Deep Dive賞受賞となりました。
Firebase賞:BLOOMS(個人)
BLOOMSはFirebaseを効果的に活用し、優れた機能とユーザー体験を実現したプロジェクトとして評価されました。Firebaseの持つ可能性を最大限に引き出した点が高く評価されました。
Flutter賞:AI StoryTeller(チーム:AI StoryTeller)
AI StoryTellerはFlutterを用いて、美しいUI/UXと高いパフォーマンスを両立させたプロジェクトとして評価されました。ユーザーフレンドリーで洗練されたアプリケーションデザインが評価されました。
Flutter + Firebase賞:Flare(チーム:Flare)
Flareは、FlutterとFirebaseの両方を効果的に組み合わせた優れたプロジェクトとして評価されました。Android賞が該当者なしだったため、代わりに設けられた特別賞です。
4. 成功ポイントの分析
第1回ハッカソンの入賞プロジェクトを見ると、いくつかの共通する成功ポイントが浮かび上がってきます。これらは第2回ハッカソンに向けた重要なヒントとなるでしょう。
技術面での工夫
Google Cloud サービスの効果的な活用
入賞プロジェクトは、Google Cloudの各種サービスを単に使うだけでなく、その特性を理解し効果的に組み合わせていました。
- Vertex AIの活用:すべての上位入賞プロジェクトがVertex AIを活用し、特にGeminiモデルを使用していました。eCoino、ManabiyaAIでは特にLangChainと組み合わせたエージェント構築が見られました。
- クラウドサービスの組み合わせ:Cloud Run、Firebase、BigQueryなどのサービスを効果的に組み合わせ、スケーラブルで運用しやすいアーキテクチャを構築していました。
- マルチモーダル機能の活用:ManabiyaAIでは音声認識を取り入れ、「社内のぞき見新聞」では複数のデータソースからの情報抽出を実現していました。
アーキテクチャ設計の重要性
入賞プロジェクトはいずれも、拡張性と保守性を考慮した明確なアーキテクチャ設計が行われていました。特にTech Deep Dive賞を受賞したプロジェクトは、技術的側面での深い理解と工夫が見られました。
- マイクロサービス設計:機能ごとにサービスを分割し、独立して開発・運用できる構成
- データフローの最適化:データの流れを明確にし、ボトルネックを解消する設計
- スケーラビリティの考慮:ユーザー数や処理量が増加しても対応できる拡張性
課題設定と解決策提案の重要性
ハッカソンの審査基準の中で「問題の明確さと解決策の有効性」は大きなウェイトを占めていました。入賞プロジェクトはいずれも、以下の点に優れていました:
- 具体的な課題の設定:eCoino は「計画とのズレ」、ManabiyaAI は「教師の負担」、「社内のぞき見新聞」は「組織内情報共有の非効率性」など、具体的で明確な課題を設定していました。
- 実用的な解決アプローチ:実際の業務フローや利用シーンを想定した実用的な解決策を提案していました。
- 効果測定の提示:特にManabiyaAI は従来方式と比べた作業時間の削減率を数値化するなど、解決策の効果を定量的に示していました。
プレゼンテーションとデモの効果的な方法
上位入賞チームは、単に技術的に優れているだけでなく、その価値を効果的に伝える方法にも長けていました:
- ストーリーテリング:eCoino の「令和の米騒動」の例など、身近な事例から始まるストーリーテリングで問題意識を共有
- デモ動画の質:3分以内に要点をまとめた簡潔で高品質なデモ動画
- 視覚的資料の活用:アーキテクチャ図や画面遷移図など、視覚的に理解しやすい資料の活用
チーム構成と役割分担の重要性
入賞チームの多くは、技術担当とビジネス担当が明確に分かれ、連携できていました。特にeCoino チームは「サプライチェーンの現場に詳しい社員」からユーザーテストを受けており、実際のユーザー視点を取り入れていた点が評価されました。
5. 受賞者からの学び
実際の開発プロセス
入賞者の経験から、効果的な開発プロセスについていくつかの洞察が得られました:
- 短期間での開発:多くの参加者が約2週間程度の短期間で集中的に開発したケースが多かったようです。
- AI駆動開発:Tech Deep Dive賞を受賞したあるプロジェクトでは、Cursorなどのツールを使用したAI駆動開発により、未知の技術領域でも短期間での開発を実現しています。
- GitHub ActionsなどのCI/CD活用:PR-AgentとGemini for Vertex AIによる自動レビューを導入するなど、効率的な開発環境構築も成功要因でした。
苦労した点と解決方法
受賞者が言及した主な苦労点と解決方法:
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プロンプトエンジニアリング:AI出力の質と安定性を確保するための試行錯誤
- 解決策:明確な条件の追加、出力フォーマットの指定、エッジケースの考慮
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AIモデルの選定:用途に合わせた適切なモデルの選択
- 解決策:複数のモデルをテストし、用途に合わせて最適な組み合わせを探索
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ユーザー体験の設計:AIの応答をいかにスムーズな体験に組み込むか
- 解決策:徹底したユーザーテストとフィードバックの反映
審査基準を満たすための戦略
受賞プロジェクトからは、審査基準を効果的に満たすための戦略も見えてきます:
- アイデア発想段階からの審査基準意識:最初から審査基準を意識した企画立案
- 審査基準に沿った記事作成:プロジェクト紹介記事も審査基準を満たすよう構成
- 差別化ポイントの明確化:他のプロジェクトと差別化できるユニークな強みを前面に出す
AIエージェント開発のベストプラクティス
入賞プロジェクトから学べるAIエージェント開発のベストプラクティスは以下の通りです:
- Human in the Loopの設計:人間とAIの役割分担を明確にし、相補的なシステム設計
- マルチエージェントシステム:複数の専門化されたAIエージェントの協調動作
- ドメイン知識の活用:技術だけでなく、対象ドメインの深い理解と専門知識の組み込み
- ユーザー中心設計:技術起点ではなく、ユーザーの問題解決を中心に据えた設計
6. 第2回ハッカソンへの展望
第2回ハッカソンの参加方法
第2回 AI Agent Hackathon with Google Cloudの参加登録は2025年4月14日から開始される予定です。第1回と同様、以下のステップで参加できると予想されます:
- 参加登録:公式ウェブサイトからエントリー
- チーム結成(任意):個人参加も可能ですが、チームで参加する場合はメンバーを集める
- プロジェクト開発:Google Cloud AIプロダクトとコンピュートプロダクトを組み合わせて開発
- 成果物提出:コードとZenn記事の形で成果を提出
なお、詳細や最新情報については、公式サイトや公式SNSアカウントを確認することをお勧めします。
おすすめの準備方法
第1回の結果を踏まえ、第2回に向けて以下の準備をしておくことをお勧めします:
- Google Cloud AIプロダクトのハンズオン経験:Vertex AI、特にGemini APIの使用経験を積んでおく
- コンピュートサービスの理解:Cloud Run、GAE、GKEなどの違いと特徴を理解する
- LangChainなどのフレームワーク学習:AIエージェント構築に役立つフレームワークを学んでおく
- ドメイン知識の整理:自分が詳しい業界や分野の課題を洗い出しておく
- 効果的なデモ作成の準備:デモ動画の作成方法や、視覚的に理解しやすい資料作成のスキルを磨く
AIエージェント技術の今後の展望
AIエージェント技術は急速に進化しており、2025年以降も以下のトレンドが予想されます:
- マルチモーダル対応の拡充:テキスト、画像、音声、動画を統合的に処理するエージェント
- 自律性の向上:より少ない指示でより複雑なタスクをこなすエージェント
- オープンソースモデルの台頭:独自のカスタマイズが可能なオープンソースAIモデルの活用
- エンタープライズ利用の拡大:セキュリティやコンプライアンスを重視した企業向けソリューション
- 知識制限の緩和:最新情報へのアクセスや専門知識のアップデートが容易になる仕組み
7. まとめ
第1回 AI Agent Hackathon with Google Cloudは、単なるコンテストを超えて、AIエージェント技術の可能性と課題を探る貴重な機会となりました。入賞したプロジェクトからは、技術的な洞察だけでなく、実際の課題解決に向けたアプローチや、効果的なプレゼンテーション方法など、多くの学びが得られます。
入賞プロジェクトに共通するのは、「技術のための技術」ではなく、明確な課題設定と実用的な解決策の提案、そして効果的なプレゼンテーションです。特に注目すべきは、AI技術を単独で使うのではなく、Human in the Loopの考え方を取り入れ、人間とAIの協調を重視している点です。
第2回ハッカソンでは、これらの教訓を活かしつつ、さらに進化したAIモデルや新たなクラウドサービスを駆使した、より革新的なプロジェクトが登場することでしょう。AIエージェントの可能性は無限大であり、私たちの想像を超える活用方法が次々と生まれることを期待しています。
最後に、第1回の参加者全員、特に入賞されたチームの皆様に敬意を表するとともに、第2回ハッカソンがさらなる盛り上がりを見せることを願っています。AIエージェント開発の旅は、まだ始まったばかりです。
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