きのこカンファレンス2025に参加してきました
はじめに
「きのこカンファレンス2025」に参加してきました。このカンファレンスは、エンジニアがこの先生きのこっていくための知恵を共有する場で、40歳以上のベテランエンジニアたちの経験と知恵をカンファレンス形式で聞くことができる貴重なイベントでした。
参加の目的
私がこのカンファレンスに参加した理由は、自分のキャリアに対する悩みがあったからです。プロダクトを生み出してグロースさせることには関心が高いものの、PdM(プロダクトマネージャー)になるという決断ができずにいました。動くものを作るのは楽しいですし、技術から離れるのも違う気がしています。
一方で、技術つよつよな方々のようなエンジニアになれるとも思えません。もともと情報系学部出身でもないですし、キャリアスタートも遅かったからです。そんな迷いの中で、先人たちのお知恵を伺い、今後のキャリアに活かしたいと思ったのがきっかけでした。
印象に残った講演内容
自分のためから誰かのためへ
shimaboxさんの講演では、「自分のためではなく誰かのために働こう」というメッセージが印象的でした。その「誰か」とは、チームメンバー、他職種の関係者、ユーザーなど様々です。
持ちつ持たれつの関係性の中で、誰かのためにすることは巡り巡って自分に返ってくるという考え方は、シンプルでありながら深い洞察だと感じました。
ソフトウェアエンジニアのキャリアパスの描き方と、その中で自分が大切にしてきたこと
yut_h1979さんの講演では、エンジニアのキャリアパスについて考えさせられました。シニアエンジニアになると技術から事業へと視野を広げなくてはならず、さらにその先には経営という視点も必要になってくるとのこと。
特に印象に残ったのは以下のポイントです:
- キャリアパスは双方向であり、行ったり来たりできること
- 複数スキルと経験のシナジー効果で価値を出せること
- 「一緒に仕事したいと思ってもらえるように」仕事をすることの重要性
- プロダクトの寿命や企業の寿命より、人のつながりの方が長いという事実
- IT業界は「思ったより狭い」ので、言動や振る舞いには気を付けるべきこと
ライフステージの変化を乗り越える探索型キャリア選択
OkrandJさんの講演では、「カレイドスコープキャリア理論(万華鏡キャリア理論)」について学びました。キャリアには3つの軸があり、それは「challenge(挑戦)」「balance(バランス)」「authenticity(真実性)」だとのこと。
また、キャリアには「アーリー」「ミドル」「レイター」の3つのステージがあり、ステージによって3つの軸のウェイトが変わるという考え方は非常に納得感がありました。
探索型キャリアのポイントとして挙げられていたのは:
- キャリアパスの全体像を知ること
- 現在のスキルを中心に据えて、チャレンジで広げていくこと
- 選択肢が見えたら行動するのみ
この「探索型」という考え方は、キャリアに悩む私にとって新たな視点を与えてくれました。
「知識」と「知恵」を区別して時流を乗り切る〜50年経っても現役でいられるために〜
sour23さんの講演は、50年経っても現役でいられるための秘訣を教えてくれるものでした。コンピューターシステムに対して高い抽象度で体系化された認識を持つことが重要であり、それが「知識」と「知恵」の区別だというのです。
「知識」とはシステムがどのように動いていて何をすれば動くのかという仕様やプロトコルであり、一方の「知恵」は内部構造としてどのように動かせば良いのかというアルゴリズムのこと。
特に印象に残ったのは、技術の学び方について:
- XのためにはYを使うという考え方を持つこと
- 技術の基礎になっている理論まで知っていると応用が効くようになること
- ITシステムは結局出力を作るためのものであり、そのためにどうするかを考えて技術を学ぶこと
この講演は知識とは何か、知恵とは何か、それがどう活かせるのか、何から始めればいいかなどがすべて詰まった内容で、まさに先人の知恵を感じました。巨人の肩が目の前に現れた気持ちでした!
AIが台頭する時代のエンジニア進化論:価値探索とAI-Human Interfaceのスペシャリストへ
EM4326168385309さんの講演では、AIが台頭する時代におけるエンジニアの役割について深く考えさせられました。
歴史を振り返ると、ソフトウェアは「偶有的な複雑性」を抽象化する変革をもたらしてきたとのこと。エンジニアリングの本質は「誰にどんな価値を届けるか」であり、課題の解決方法(How)は技術の発展によって変化するが、問題領域の分析(Why)とソリューションの発見(What)というエンジニアリングの本質は変わらないというのです。
今後はAIが開発の大部分を担うようになり、エンジニアはドメインエキスパートとの共創を通じて問題解決に今まで以上に取り組んでいく必要があるとのこと。
特に印象に残ったのは「野性」の概念です。野中郁次郎氏の説を引用し、人間本来が持っている困難な状況にも対応し、生き抜くための力が重要になるとのこと。形式知はAIの得意分野であり、人間は手を動かし、共同作業を通じて得られた共感をもとに対話を重ね、意思決定することが求められるようになるというのです。
今すぐに始めるべきこととして、事業・プロダクトに興味を持つことが挙げられていました:
- どんな価値を提供しているか
- その価値は競合他社より魅力的か
- どんな業務プロセスを経て提供されているか
- 事業リソースが価値創出に効果的に活用されているか
実践方法としては、プロダクトを自分で使ってみる、SNSでエゴサしてみる、ユーザーインタビューを行う、公開資料を分析するなどが提案されていました。
この講演も非常に興味深く、コーディングをはじめとした「作業」はAIが担当するようになるため、エンジニアはよりエンジニアリングの本質、つまりプロダクトの価値とその創出にフォーカスされるようになり、そのためのポイントが「野性」だと理解しました。
変わりゆくもの、変わらないもの
tyonekuboさんの講演では、時代とともに変わるものと変わらないものについて教えていただきました。言語やツール、開発ワークフローなどは変わっていくが、設計の原理原則、エンジニアリングの本質、論理的思考力は変わらないとのこと。
学び方について印象的だったのは:
- 知識は経験と紐づいてより有用な知識にアップグレード(抽象化)していくこと
- より高次の抽象化をすることで全く異なる状況下へと転用できるようになること
- 普遍的な知識を学び、具体へと活用し、抽象へと昇華する。これを繰り返すことで物事の本質を捉え、抽象度のレベルを自由自在に操れるようになること
- 変化をおそれず、学ぶことを楽しむこと
全体を通して
きのこカンファレンス2025は、先人の知恵を吸収しまくる1日となりました。技術的には『「知識」と「知恵」を区別して時流を乗り切る〜50年経っても現役でいられるために〜』を参考に学んでいく一方で、『AIが台頭する時代のエンジニア進化論:価値探索とAI-Human Interfaceのスペシャリストへ』のようにプロダクトの価値提供領域へと拡張していく必要があると理解しました。
私のキャリアの悩みに対しても、「探索型キャリア」という考え方や、エンジニアリングの本質に立ち返るという視点は大きな気づきとなりました。技術と事業の両方に興味を持ち、その接点で価値を生み出していくというキャリアパスの可能性も見えてきました。AIを活用しながらプロダクトの価値探索を試していきたいと思います。仕事に持ち込むのはちょっと難しいので、まずは個人開発で試してみたいと思います。
最後に、このような貴重な機会を提供してくださった主催・運営の皆様、そして素晴らしい知見を共有してくださった登壇者の皆様に心より感謝申し上げます。
これからのエンジニア人生、この先「生きのこって」いくための大きなヒントを得ることができた一日でした。
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