💡

IETF 116 Yokohama 参加レポート(ゲーム業界人向け)

2023/04/02に公開

2023/3/25 - 31 に開催された IETF 116 Yokohama に参加してきました。
ゲーム業界の人にはあまり馴染みのない会合だと思います[1]ので、ゲーム業界に身を置いている一エンジニアの目線から、簡単な解説とレポートを作成してみようと思います。

IETF とは

ざっくり言うと、インターネット関連技術の標準化を司る任意団体です。

コンピュータシステムを相互接続するため、 共通の技術仕様策定を議論するグループから発展したものです。 IETFへの参加は企業等の代表としてではなく、 個人として参加することになっています。 参加者は自由にIETFの会合やメーリングリストでの議論に参加することができます。 IETFにおける技術標準化の議論はワーキンググループ(WG)を単位にして推進されます。
JP NIC - IETF とは より

IETF 116 Yokohama?

IETF では年に三回ミーティング[2]を実施し、標準化を進めている技術に関しての討議を行います。
ゲーム業界的には CEDEC や GDC のインターネット技術特化版とイメージして頂けると比較的近いのではないかと思われます。
そして、その IETF ミーティングの 116 回目の開催が横浜でありました。前回の日本国内での開催である IETF 94 Yokohama は 2015/11/1 - 6 に開催されたので、実に 7 年半ぶりの開催でした。

IETF に参加する

IETF への参加登録はインターネット経由で行います。
日本語がなく全て英語での登録ですが、自動翻訳で割と何とかなりますし、誰かしらが登録のまとめを作成してくれていますので、困ったらそれを頼りましょう。
今回の登録例ですと flano_yuki さんが IETF116 Yokohamaをもっと楽しむために (その1) ~参加申し込み~ にまとめてくださっており、非常に助かりました。

当日の参加レポート

IETF 116 Yokohama はパシフィコ横浜で開催されました。
ゲーム業界的には CEDEC と同じ会場なので馴染みが深く、特に迷うことがなく会場までは行くことができると思います。

会場内の雰囲気

会場内についても CEDEC に参加したことのある方だと違和感はないのではないかと思います。

写真が下手で撮れてないのですが、上記写真の左端の通路真ん中あたりにマイクが配置されており、意見のある人はそこで発言する形で討議が進行します。

自分がどの程度のコミュニケーションを望んでいるかを示すバッチの配布もありました。

これはとても良いと思ったので CEDEC でも是非採用して欲しいですね。

朝食のサービスも!

その他の全体的な雰囲気は JP NIC の IETF 116 Yokohama フォトレポート が一番きれいにまとまっていると思いますので、そちらを参照ください。

IETF 現地参加のポイント

自分は今回が初の IETF の参加だったので、今後初参加を迎える人に向けて押さえておいた方が良いポイントをまとめてみました。

予習はきっちり行おう

前述した通り、 IETF は議題について討議する場です。
ですので、各 WG (ワーキンググループ)[3] で今何について話し合っているかを事前に把握していかないと、英語の聞き取り以前に何を言っているかさっぱりわかりません。
講演・発表を通して情報共有を行うことがメインの CEDEC や GDC とこの辺りは大きく異なるので、注意した方が良いと思います。

その他、 IETF ではコンセンサスを図るのに皆で一斉にハミングを行います。
一般的にコンセンサスを図る際には拍手や挙手を用いるのが多いと思いますので、知らないとかなり戸惑います。
こうした文化についても事前に押さえてから参加を行いましょう。
こうした文化については、様々な人が初参加向けの情報やこれまでのレポートを残してくださっているので、まずはそれらに目を通るのがお勧めです。
特に IETF 参加前には flano_yuki さんをフォローしておくと有益な情報がたくさん流れてくるので安心です!

自分がハミングについて知ったツイート
https://twitter.com/flano_yuki/status/1640228775412498432

英語のリスニング力は必須ではない

IETF の討議は全て英語で行われます。日本開催だからと言って日本語の同時通訳が付いていたりはしません。
しかし、大変ありがたいことにリアルタイムで議事録が更新されていますので、これをさらにテキスト翻訳に掛けることで、英語ができなくてもある程度の内容は理解することが可能です。
ただし、 WG によって議事録の粒度はまちまち(※)ですし、細かいニュアンスを理解したい方はきちんと英語を聞き取れる力を身に着けて臨んだ方が良いと思います。
ちなみに、自分は今回はテキスト翻訳に大変お世話になりました。英語ムズカシイ。

目的意識をしっかり持とう

前述した通り、 CEDEC のようなカンファレンスとは違い、 IETF はただ参加するだけで新たな知見が手に入るかと言うと中々難しいです。
単に議題を追う目的では議事録を確認するだけでも十分ですし、 IETF で何をしたいのか、意義をしっかり定めて参加を行ったより有意義な体験になると思います。
自分は将来的に IETF に参加して、何らかの貢献ができればと考えている為、ハードルの低い国内開催で雰囲気を知る目的で今回は参加しました。

その他考えられる目的の例

  • 規格に対して意見を述べる(本来の趣旨)
  • 他の参加者と意見交換をする
    • 意見交換するのはハードルが高いという人は、普段 web で見かけている、お世話になっている人に直接挨拶、お礼を言う機会と捉えるのも良いのではないかと思います

筆者の記録

今回は雰囲気を知る為に行くのが主目的だったので One Day で登録し、以下の WG にのみ参加しました。

  • quic
  • moq (media over quic)

各 WG の事前議題やスケジュールは IETF の開催ページにある Agenda という所から飛べます。

IETF 116 の場合のリンク先は https://datatracker.ietf.org/meeting/116/agenda/ です。

その他、参加しての個人的な感想や共有メモです。

  • 受付は英語です
    • とは言え、登録画面さえ見せればあとは雰囲気で伝わるので、それほど構えないでも大丈夫だと思います
    • また、日本語受付もあったという話を別の方から聞いたので、後述する初日のイベント限定で日本語受付があったとか、たまたま自分の行ったタイミングが悪かったとか、そういった問題かもしれません
  • 初参加者向けのイベントは参加しましょう!
    • 自分は予定があって参加できなかったのですが、初参加を表すニューカマーバッジを貰えるらしいので参加必須だと思います
    • 開催は初日と二日目
      • 初日 : New Participants' Overview, Quick Connections
      • 二日目 : New Participants' Dinner
    • 初日のイベントには One Day の参加者も無料で参加可能ですが、二日目のレセプションは全参加者別枠として $15 の参加費が必要なようです
    • 詳細は https://www.ietf.org/how/meetings/116/new-participants/ を参照してください(自動翻訳で大体分かります)
  • QUIC/MASQUE WG の Co-chair の Lucas Pardue さんに挨拶できました
    • 英語が話せないでビビっていた所を、他の参加者の方に後押しされて簡単な挨拶だけ行うことができました(後押し本当に感謝です)
    • Lucas さんは Cloudflare の quiche の作成者でもあり、 quiche には 令和5年になったのでそろそろUnityでHTTP/3通信したい で非常にお世話になっているので挨拶できて良かったです
    • quiche のステッカーとピンバッジも頂きました!
    • ビビってた自分が言えた話ではありませんが、他のカンファレンス同様に物怖じせず他の参加者に話しかける方が絶対に良いと思います

結びとゲーム業界関係者が IETF に参加する意味

ゲーム業界は長い間各社で UDP を好きに独自拡張してやってきたので、標準化から少し距離をおいてきた(きている)ように自分は感じています。
しかし、昨今はゲーム以外にもリアルタイム通信が必要なシチュエーションが拡大し、 QUIC が登場したことにより、ゲーム業界も標準のプロトコル情報を日々キャッチアップしていかないと逆に時代に取り残される状況になってきました。
そこで、まずは標準に関する情報をきちんと追いかけて、情報共有をすることを通じて、ゲームの(リアルタイム)通信に最適なプロトコルはどういったものかを自分也に考えていければと考えています。
その後、標準化に向けて提言できる流れを作れれば理想的ですが、自分一人では無理だと思うので思想に賛成してくださるゲーム業界人の仲間を募集中です。
気軽に Twitter 等でお声がけください!

脚注
  1. 実際今回もゲーム会社からの参加者はほとんど見かけませんでした ↩︎

  2. 最近はオンライン、オフラインハイブリッドで開催されています ↩︎

  3. IETF で取り扱う技術を分野毎にカテゴライズしたグループで、このワーキンググループ単位で討議が行われます ↩︎

Discussion