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認知科学のススメ

2022/07/10に公開

この記事は2022年7月7日に行われた「デザイナー勉強法ハックLT」というイベントで発表した内容を記事化したものです。発表に使用したスライドはこちら。

認知科学とは

認知科学とは生体(人間など)の認知を情報処理の観点から研究する学問で、さまざまな分野にまたがる学際的な学問でもあります。従来の心理学(行動主義心理学)では刺激とそれに対する反応に着目していたのに対し、認知科学では認知のメカニズムを解明しモデル化することに主眼を置いています。

実は認知科学は最初から認知科学として確立していたわけではありません。1950年頃からコンピュータの発展に伴い「認知の過程をモデル化すること」が様々な分野(認知心理学、人工知能学、理論言語学など)で同時多発的に研究されるようになりました。そして、同様の研究を行っている学問間で学際的研究交流の機運が高まり、認知科学という分野が確立されました。

認知心理学は、人間がものごとを認識するしくみを科学的に明らかにする学問です。「知のしくみ」の科学であり、人の「賢さと愚かさ」についての心理学ということができます。

引用:服部雅史, 小島治幸, 北神慎司, 「基礎から学ぶ認知心理学 -- 人間の認識の不思議」, 有斐閣, 2015, p1

デザイナーが認知科学を知るメリット

デザイナーが認知科学を学ぶとどんな良いことがあるのでしょうか。私は3つのメリットがあると考えています。

メリット①:ユーザーへの負荷が少ないデザインができる

使いにくさの原因の大部分は「認知負荷の高さ」にあります。認知のしくみを理解することで認知負荷の低いデザインができます。
認知しやすいデザインは予期せぬ事故やクレームを減らす効果もあり、運用コストを減らすことにもつながります。

メリット②:ユーザーの行動・思考をある程度予想できるようになる

認知科学では認知に関する様々なモデルが明らかになっています。それらの知識を活用することで、あるデザイン利用者がどのように考え行動するかをある程度予想できます。
精度の高い仮説を立てることができるので、リサーチの精度も向上するはずです。

メリット③:より論理的にデザインを考えられる

認知科学の知識をベースにデザインすることで、より論理的にデザインを組み立てることができます。
思考や感覚を論理化することで、自分以外のデザイナーやエンジニア、PdMなどに思考を共有しやすくなり、プロダクト開発がスムーズになるはずです。

おすすめ書籍

認知科学を学習するのにおすすめの書籍を4冊紹介します。

基礎から学ぶ認知心理学

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641150270

大学生向けに書かれた認知心理学の入門書です。

  • 認知心理学をコンパクトかつ網羅的に基礎から解説しているので、初学者に最適
  • 図解が多く読みやすい
  • コラムやブックガイドが充実しているので、次の学習につなげやすい

デザインの生態学―新しいデザインの教科書

https://www.tokyo-shoseki.co.jp/books/79918/

生態心理学者、プロダクトデザイナー、建築家の3人がそれぞれの視点から考える「感覚の論理」について書かれた本です。デザインと生態心理学[1]をつなげる、ロジカルかつ内面的な1冊です。

  • 対談とその内容を発展させた解説で構成されていて面白い
  • 難しい本だけど何度も読み返したくなる1冊
  • ブックガイドが素晴らしい

新版 アフォーダンス (岩波科学ライブラリー)

https://www.iwanami.co.jp/book/b265854.html

J.J.Gibson氏が提唱したアフォーダンス理論について、日本のアフォーダンス研究の第一人者である佐々木正人先生が解説している本です。

  • アフォーダンスについて学ぶなら間違いなくこの本を読むべし
  • 難解な理論をわかりやすくコンパクトにまとめられている(難解ではある)

「誰のためのデザイン?」に書かれているノーマン的解釈のアフォーダンス(シグニファイア)とは少し異なる内容なので、その本を読んだことがある人は注意したほうが良いかも知れません。こちらのほうが元祖本家です。

番外編:デザイン人間工学の基本

https://www.musabi.co.jp/books/b463032/

タイトルの通り、人間工学をデザインに応用するための基礎をまとめた本です。

  • 人間工学の基礎理論から、システム設計手法、ユーザビリティ評価手法まで幅広く網羅されている
  • ハードウェアのデザインについても書かれているので面白い
  • 辞書的に活用するのもあり

さいごに

知識は力、センスは知識からはじまる、というように知識は様々なアウトプットの基礎になるものです。デザインとは一見無関係の知識も、どこかで役に立つかもしれません。幅広い分野の知識を吸収して、より良いデザインを目指しましょう。

しかし、頭でっかちになり知識に囚われてはだめです。認知科学はよいデザインをつくるための1つのツールであって、絶対的な正解を示してくれるものではありません。これはすべての知識に言えることです。

大事なことは目の前の課題・プロダクト・利用者に向き合い、自分で思考して答えを導き出すことなのです。

脚注
  1. J.J.Gibson氏が提唱した心理学のアプローチの1つ。 ↩︎

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