MAツールにおける自動メール機能の配信対象セグメンテーションは要件が多すぎる〜自動メール機能の要件定義 Part 2〜
はじめに
こんにちは、株式会社 TAIAN の社員1号、龍優(りゅう)です。
TAIAN ではエンジニアとして、All in One 婚礼システム Oiwaii の主にマーケティング領域の機能の開発を担当しております。
『自動メール配信機能の要件定義』ということで、本記事では配信対象のセグメンテーション機能について、世に存在する MA ツールにおける一般的な機能要件を紹介していきます。
Part 1 に引き続き
現代のマーケティングオートメーションにおける自動メールの役割
マーケティングオートメーション(MA)は、マーケティング活動を自動化し、見込み顧客(リード)の育成、業務効率化、最終的な収益拡大を目的とするツールおよびプロセスです。その中核をなす機能の一つが、自動メール配信です。これは、単なる一斉メール送信(基本的なメール配信システムでも可能)を超え、顧客の行動や属性に基づいてパーソナライズされたメッセージを適切なタイミングで届けることを可能にします。現代のマーケティングでは、顧客一人ひとりの状況に合わせたコミュニケーションが不可欠であり、MA ツールにおける自動メール機能は、この要求に応えるための基盤技術と言えます。基本的なメール配信システムが主に大量配信に焦点を当てるのに対し、MA ツールはリードの行動履歴や検討度合いに応じたターゲティングを可能にし、より高度なコミュニケーションを実現します。
目的と範囲
本シリーズ【自動メール配信機能の要件定義】では、MA ツールにおける自動メール配信機能を開発する際に必要となる詳細な機能要件を定義することを目的とします。そのために、市場に存在する主要な MA ツール(SATORI, Kairos3, BowNow, HubSpot, Marketo Engage, Account Engagement (旧 Pardot), ActiveCampaign など)が提供する同様の機能を比較分析し、実装すべき要素を明らかにします。調査範囲は、メール配信を開始する「トリガー」、配信対象者を絞り込む「セグメンテーション」、そして一連のメール配信プロセスを設計・管理する「シナリオ(ワークフロー)」の 3 つの主要領域に焦点を当てます。
本記事はその第一弾、メール配信を開始するトリガーについてです。
対象読者
本記事は、MA ツールの新機能開発に携わるプロダクトマネージャー、テクニカルリード、および開発チームを主な対象読者として想定しています。
自動メールにおけるセグメンテーションの重要性
セグメンテーションとは、メール配信の対象となるコンタクト(リードや顧客)を、特定の条件に基づいてフィルタリングし、グルーピングするプロセスです。自動化されたメール配信が効果を発揮するためには、メッセージの内容と受信者が密接に関連している必要があります。無関係なメールを送信することは、エンゲージメントを低下させ、配信停止やスパム報告のリスクを高めるだけでなく、送信者のレピュテーションにも悪影響を与えかねません。MA ツールは、基本的なメール配信システムと比較して、顧客の属性情報だけでなく、行動履歴といった動的なデータを用いた高度なセグメンテーション機能を提供します。これにより、よりパーソナライズされた、効果的なターゲティングが可能になります。
主要 MA ツールにおけるセグメンテーション基準の比較分析
MA ツールで利用可能なセグメンテーション基準は多岐にわたりますが、主に以下のカテゴリに分類されます。
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コンタクト属性 (Contact Attributes): 標準項目およびカスタム項目に基づく基準。
- 標準項目: メールアドレス、氏名、会社名、役職、所在地、電話番号など、基本的な顧客情報。これらはほとんどの MA ツールで基本的なセグメント条件として利用可能です。
- カスタム項目: ユーザーが独自に定義した項目。「興味のある製品」「導入検討時期」などが例に挙げられます。
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行動データ (Behavioral Data): トラッキングされたインタラクションに基づく基準。
- ウェブアクティビティ: 特定ページの閲覧履歴、訪問回数、訪問頻度、参照元 URL など。
- メールエンゲージメント: 特定メールの開封/未開封、特定リンクのクリック/未クリック、メールへの返信有無など。
- フォーム/コンテンツインタラクション: 特定フォームの送信履歴、特定ファイルのダウンロード履歴など。
- 購入履歴: 購入製品、カート内容、購入金額など(E コマース連携が必要)。
- リードスコアリング (Lead Scoring): エンゲージメントや適合度を示す算出スコアに基づく基準。
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リストメンバーシップ/タグ (List Membership / Tags): 静的または動的なグループ割り当てに基づく基準。
- リストメンバーシップ: 特定の静的リストまたは動的リストに所属しているかどうか。
- タグ: 特定のタグが付与されているか、または付与されていないか。
- CRM データ (CRM Data): 連携している CRM システムから同期されたデータ(例:リードステータス、商談フェーズ、取引担当者、アカウント情報など)に基づく基準。
- モバイルアプリデータ (Mobile App Data): モバイル SDK を提供している MA ツールの場合、アプリのインストール状況、利用状況、プッシュ通知への反応などに基づく基準 。
複雑なロジックと組み合わせ
効果的なセグメンテーションには、単一の条件だけでなく、複数の条件を組み合わせる能力が不可欠です。
- AND/OR 演算子: 複数の条件を「AND(すべて満たす)」または「OR(いずれかを満たす)」で組み合わせる機能は、精密なターゲティングの基本です。
- グルーピング/ネスト化: 条件を括弧でまとめる(例:(条件 A AND 条件 B) OR 条件 C)ことで、より複雑な論理構造を実現できます。
- 除外基準: 特定の条件を持つコンタクトを配信対象から「除外」する機能も重要です(例:「タグ X が付与されている場合は除外」「製品 Y を購入済みの場合は除外」)。これは多くの場合、「含まない」「等しくない」といった否定的な条件演算子や、除外リストの指定によって実現されます。
セグメンテーションに関する考察
セグメンテーション機能の分析から、以下の点が明らかになります。
属性と行動の組み合わせ重要性
第一に、属性と行動の組み合わせの重要性です。効果的なセグメンテーションは、「誰であるか」(属性情報)と「何をしたか」(行動履歴)の両方を考慮に入れることで実現されます 。属性情報だけではエンゲージメントレベルが分かりませんし、行動履歴だけではコンテキスト(既存顧客か見込み客かなど)が欠落し、不適切なメッセージを送る可能性があります。実際、多くの MA ツールが、属性ベースと行動ベースの基準を AND/OR ロジックで柔軟に組み合わせることを可能にしています。 したがって、開発するセグメンテーションエンジンは、これらの異なるタイプの基準を組み合わせる能力を持つ必要があります。
セグメンテーションの動的な性質
第二に、セグメンテーションの動的な性質です。MA ツールにおけるセグメンテーションは、一度作成したら固定される静的なリストとは異なり、顧客データや行動の変化に応じて自動的にメンバーシップが更新される「動的な」ものであることが特徴です。MA のセグメンテーションの価値は、常に最新のリードの状態や行動を反映できる点にあります。これを実現するためには、システムがバックグラウンドで効率的にセグメントメンバーシップを再評価するか、ワークフロー実行時にリアルタイムで条件を評価する必要があります。
提供される粒度の差異
第三に、提供される粒度の差異です。セグメンテーションに利用できる条件の細かさはツールによって異なります。非常に詳細な行動条件(特定リンクのクリック、訪問時間など)を提供するツールもあれば 、主要なアクションに焦点を当て、よりシンプルなアプローチを取るツールもあります 。実装する機能の粒度は、ターゲットユーザー層やツールのポジショニングによって決定されるべきです。高度な粒度はパワーを提供しますが、ユーザーインターフェースの複雑化や実装コストの増大につながる可能性もあります。バランスの取れたアプローチが求められます。
ワークフロー内でのセグメンテーションの活用
第四に、ワークフロー内でのセグメンテーションの活用です。セグメンテーションは、単に配信対象リストを作成するためだけではなく、ワークフローの途中でロジックを分岐させるためにも不可欠です。セグメンテーション条件(プロパティ、タグ、行動など)を利用して、コンタクトを異なるパスに誘導する機能は、セグメンテーションエンジンが、初期のオーディエンス選択時だけでなく、アクティブなワークフロー内でのリアルタイムな意思決定のためにも、アクセス可能で高性能である必要があることを意味します。
実装に向けた推奨事項
自動メール配信機能におけるセグメンテーション機能の実装にあたっては、以下の点を推奨します。
- 標準およびカスタムのコンタクトプロパティに基づくセグメンテーションをサポートする。
- コアとなる行動基準を含める: ウェブサイトアクティビティ(閲覧 URL、訪問頻度)、メールエンゲージメント(開封、クリック - 特定メール/リンク)、フォーム送信、ファイルダウンロード。
- リストメンバーシップおよびタグに基づくセグメンテーションを実装する。
- 強力な論理演算子(AND, OR, NOT)と条件のグルーピング機能を必ず提供する。 これがなければ、複雑なターゲティングは実現できません。
- リードスコアをセグメンテーション基準として統合することを検討する(スコアリング機能が計画されている場合)。
- 将来的に CRM データ連携によるセグメンテーションを可能にする設計を考慮する。
Oiwaiiにおける配信対象セグメンテーション機能の取捨選択について
これまでに主要 MA ツールにおける一般的なセグメンテーション機能を紹介してきましたが、本章では我々が開発する「All in One 婚礼システム Oiwaii」において、どのようなセグメンテーション機能を提供し、また、どのような判断基準で機能の取捨選択を行ったかについてご説明します。
Oiwaii の際立った特徴は、その基盤がCRM (顧客関係管理) としての機能に深く根ざしている点です。婚礼業界に特化したバーティカルSaaS として、結婚式場様とそのお客様(新郎新婦や列席者候補)との間のコミュニケーションを一元的に管理・サポートすることを主眼に置いています。このため、システム内には顧客に関する詳細な情報(例:挙式予定日、興味のある会場スタイル、アレルギー情報など)、お問い合わせの全履歴、さらには担当プランナーとの接客履歴といった、婚礼準備のプロセスに特化した貴重なデータが日々蓄積されていきます。
この豊富な CRM データを活用することで、Oiwaii の自動メール配信におけるセグメンテーションは、極めて実践的かつ効果的なものとなります。具体的には、これらの詳細な顧客データ、お問い合わせ履歴、接客履歴といった情報を直接的なセグメンテーション条件として利用可能です。そして、これらの条件を AND や NOT といった論理演算子で柔軟に組み合わせることにより、例えば「特定の日付以降に新規問い合わせがあり、かつ、まだ特定の見学会に参加していないお客様」や「特定のプランに関心を示し、かつ、アレルギー対応が必要なお客様」といった、婚礼業界特有の複雑な条件にも合致する対象者を精密に抽出することが可能です。
一方で、Oiwaii では、一般的な MA ツールに見られるいくつかの機能を現時点では実装していません。その一つが、セグメンテーションのためだけに独立したタグ機能です。前述の通り、Oiwaii は CRM として顧客の詳細な属性や行動履歴を構造化データとして保持しているため、多くの場合、タグ付けに頼らずとも必要なセグメントを作成できます。これにより、タグの設計や運用、管理といった追加の複雑性をユーザーに強いることなく、直感的なセグメンテーションを実現しています。
また、長期的なナーチャリングを主目的としたリードスコアリング機能も、現行の Oiwaii には未実装です。これは、Oiwaii が対象とする婚礼業界のお客様が、一般的な BtoB や BtoC の製品・サービスと比較して、検討期間が相対的に短いという特性を持つためです。お客様が結婚を意識し、式場を探し始めてから決定に至るまでの期間は、数週間から半年程度が主であり、数年にわたる長期的なリード育成(ナーチャリング)や、それに基づくスコアリングの有効性が限定的であると判断しています。Oiwaii では、スコアという抽象的な指標よりも、具体的な顧客の行動履歴や属性に基づいた、より直接的なセグメンテーションを重視しています。
このように、Oiwaii における配信対象のセグメンテーション機能は、婚礼業界というバーティカル領域の特性と、基盤となる CRM 機能との連携を最大限に活かす形で設計・選択されています。これにより、ユーザーである結婚式場様が、お客様一人ひとりの状況に合わせた、きめ細やかで効果的なコミュニケーションを実現できるよう支援してまいります。
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