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君のemotionを解き放て!-CSSinJSの歩き方-

2022/05/11に公開

emotion

↑この子の名前は"emotion"。

styled-componentと並んで、最も有名なCSS-in-JSのライブラリの1つです。

CSS-in-JSとは、JavaScriptを使ってスタイルを書く方法です。CSS-in-JSを使うことにより、CSSにありがちな名前の衝突やスタイルの複雑な優先順位の問題に別れを告げることができます。そして、より宣言的に、より再利用可能な方法でスタイルを記述できます。

ところで、同じCSS-in-JSであっても人によって使い方は様々です。ある書き方はメンテナンスしやすくしますが、また、ある書き方はemotionのメリットを十分に引き出せません。

どうせなら、emotionを解き放ちたい...!

今日はそんな別の意味でエモい話です。emotionに限らず、styled-componentsでもjssでも、CSS-in-JS全般に興味のある方に読んでいただけると大変嬉しいです。

1. インラインで書くことを恐れない

以下の例は、Muiから持ってきました。

statComponent

const StatWrapper = styled('div')(
  ({ theme }) => `
  background-color: ${theme.palette.background.paper};
  box-shadow: ${theme.shadows[1]};
  border-radius: ${theme.shape.borderRadius}px;
  padding: ${theme.spacing(2)};
  min-width: 300px;
`,
);

const StatHeader = styled('div')(
  ({ theme }) => `
  color: ${theme.palette.text.secondary};
`,
);

const StyledTrend = styled(TrendingUpIcon)(
  ({ theme }) => `
  color: ${theme.palette.success.dark};
  font-size: 16px;
  vertical-alignment: sub;
`,
);

const StatValue = styled('div')(
  ({ theme }) => `
  color: ${theme.palette.text.primary};
  font-size: 34px;
  font-weight: ${theme.typography.fontWeightMedium};
`,
);

const StatDiff = styled('div')(
  ({ theme }) => `
  color: ${theme.palette.success.dark};
  display: inline;
  font-weight: ${theme.typography.fontWeightMedium};
  margin-left: ${theme.spacing(0.5)};
  margin-right: ${theme.spacing(0.5)};
`,
);

const StatPrevious = styled('div')(
  ({ theme }) => `
  color: ${theme.palette.text.secondary};
  display: inline;
  font-size: 12px;
`,
);

return (
  <StatWrapper>
    <StatHeader>Sessions</StatHeader>
    <StatValue>98.3 K</StatValue>
    <StyledTrend />
    <StatDiff>18.77%</StatDiff>
    <StatPrevious>vs last week</StatPrevious>
  </StatWrapper>
);

これは「インラインで書くことは悪」の立場に基づくCSS-in-JSの使い方です。しかし、本当に、読みやすいでしょうか。もう一度よく眺めてみてください。

上記のコードを読みながら、これはどんなコードなんだろうと理解するために、視線は何度も上下に移動しませんでしたか?

目は最初に下まで行ってreturnの後に<StatWrapper>と書いてあるのを見ると、一番上のconst StatWrapper = styled('div')...と書いてあるところまで戻ってきます。それからまた下へ行き<StatHeader>と書いてあるのを見つけると、上のconst StatHeader = styled('div')...と書いてあるところに戻って...、と上限運動を繰り返します。

つまり、この書き方だと、上へ下へと行ったり来たりしながら読む必要があり、あまり直感的な書き方ではないと言えます。

加えて、コンポーネントの名前をつけるのにも難儀します。上記デザインサンプルのSessionsの文字にあたる箇所は、StatHeaderと呼ぼうか、それとも、StatTitleがいいだろうか。。。そのようなことをいちいち考えるのは、面倒です。

では、次の例はどうでしょうか。

<Box
  bgColor="'background.paper"
  boxShadow={1}
  borderRadius={1}
  p={2}
  minWidth={300}
>
  <Box color="text.secondary">Sessions</Box>
  <Box color="text.primary" fontSize={34} fontWeight="medium">
    98.3 K
  </Box>
  <Box
    component={TrendingUpIcon}
    color="success.dark"
    fontSize={16}
    verticalAlign="sub"
  />
  <Box
    color="success.dark"
    display="inline"
    fontWeight="medium"
    mx={0.5}
  >
    18.77%
  </Box>
  <Box color="text.secondary" display="inline" fontSize={12}>
    vs. last week
  </Box>
</Box>

今度は、上から下までざっと一回なめるだけで、すんなり把握できたはずです。どこにどんなスタイルが当たっているか、先ほどの例より簡単に理解できます。命名に手こずる必要もありません。

ちなみにEmotionをこのような使い方で書くには、

const Box = styled.div(props => ({
  display: 'flex',
  boxShadow: props.boxShadow,
  borderRadius: props.borderRadius
  padding: props.padding
  minWidth: props.minWidth
  // ...
}))

のように書いていけばいいのですが、mixinを使うともっと簡潔に書けます。この点については、styled-components と csstype で型安全な Chakra UI っぽいコンポーネントを作るという記事が非常に参考になります。また、mixinを自分で書くのが面倒であれば、styled-systemを使うという手もあります。

1.1 ところで、構造とスタイルの分離はどうしたの?

そうですよね。いやぁ、わかります。

私も、長らく、こういうインラインで書く方が便利だと思いながらも、

(でも、本当は構造とスタイルを分離させて書いた方がいいんだよね...)

と義務感を感じていました。多少読みづらくても、教科書的にはスタイルを分けた方が正しいのだろう、と。

しかしこの頃、「構造とスタイルの分離」という概念からそろそろ旅立つときが来たのではないか、と考え始めました。

理由は、Reactです。

React以前は「関心の分離」という概念のフロントエンドにおける実践は、イコール、「構造とスタイルの分離」でした。

そこに、Reactは「コンポーネント」という単位で分ける新しい分離方法を持ち込みました。慣習的にファイル形式ごとに分けていたのは、そのようにしか分けられなかったからであって、別の手段を手にした今となっては構造とスタイルの分離を忠実に守る必要はないのかもしれません。

今やファイル形式ではなく、コンポーネントごとにコードの関心の分離を整理した方が、ずっと管理しやすいものになります。

分離すべきは「あるコンポーネントの関心事と他のコンポーネントの関心事」であって、「あるコンポーネント内のHTMLとスタイル」ではありません。

Kabukuの記事にあるように、「コンポーネントの分離」は「ファイル形式ごとの分離」に勝ります。故に、もはや「構造とスタイルの分離」に固執する必要はない、というのが私の意見です。

...ということで、ガンガン、インラインで書いていきましょう!

参考:

フロントエンドにおける「関心の分離」は間違っていた
Rethinking Separation of Concerns with React

2. 多彩なコンポーネントを揃える

先ほどのインラインで書く場合の例ですが、

<Box
  bgColor="'background.paper"
  boxShadow={1}
  borderRadius={1}
  p={2}
  minWidth={300}
>
  <Box color="text.secondary">Sessions</Box>
  <Box color="text.primary" fontSize={34} fontWeight="medium">
  ...(省略)...

と、div地獄ならぬBox地獄ではないですが、何だかBoxBoxしていて、読みづらさがある気がします。
もし次のように書けたら、さらに読みやすくないでしょうか。

<Card minWidth={300}>
  <Typography color="text.secondary" fontSize="md">Sessions</Typography>
  <Typography color="text.primary" fontSize="lg" fontWeight="md">
    98.3 K
  </Typography>
  <TrendingUpIcon
    color="success.dark"
    fontSize="sm"
    verticalAlign="sub"
  />
  <Typography
    color="success.dark"
    fontWeight="md"
    inline
    mx={0.5}
  >
    18.77%
  </Typography>
  <Typography color="text.secondary" fontSize="xs">
    vs. last week
  </Typography>
</Card>

このように、Boxという単一のコンポーネントを使う代わりに、CardTypographyといった多彩なコンポーネントを使うことで、ぐっと構造が捉えやすくなります。

ここで使っているCardのようなコンポーネントは、例えば次のように実装できます。

const Card = styled.div(props => ({
  display: 'flex',
  boxShadow: props.boxShadow || 1,
  borderRadius: props.borderRadius || 1,
  padding: props.padding || 2,
  minWidth: props.minWidth || 100

  &hover: {
    bosShadow: props.boxShadow + 1 || 2,
  }
}))

uiコンポーネントの中にデフォルトのスタイルを書いておいて、上書きしたいところだけ、uiを使う側のコンポーネントで書くようにすれば、ずっとスッキリ書くことができます。この例だと、Cardを使う側ではminWidthしか書く必要がなく、記述量が格段に少なくなっています。

極端な話ですが、

<Card
  display='flex'
  boxShadow={1}
  borderRadius={1}
  padding={2}
  minWidth={100}
  maxWidth={400}
  height={200}
  width={200}
  borderColor="grey"
  alginItems="center"
  justifyContent="center"
  // {...その他、さらに20行くらいのprops...}
>

となってしまっては、非常に見にくいです。これをやるくらいなら、インラインではなくcssを分離した方がマシです。言い換えると、インラインで書くには、インラインで書きやすいようにデフォルトのスタイルを十分に持った多彩なコンポーネントを用意しておく必要があります。

ChakraUIには、Layoutのためのコンポーネントだけで、AspectRatio, Box, Center, Container, Flex, Grid, SimpleGrid, Stack, Wrapと9つもあります。これくらい品揃えが豊富だと、ほとんどスタイルを書かなくても画面が組めるので、スピーディーに開発することができます。

AtomicDesignでいうところの、pagestemplate層からいきなり書き始める前に、atomsmolecules層に十分なコンポーネント群を準備しておくことで後々の開発効率が上がります。コンポーネント駆動開発と呼ばれるプラクティスです。ページの基盤となるコンポーネントを取り揃えましょう!

3. 解像度を荒くする

ところで、先ほどの例ではfontSize={34}とかfontSize={16}になっていたところを、こっそりfontSize="lg"とかfontSize="md"に書き換えていました。これは、「バラつきがひどい問題」を解消するための、ちょっとした工夫です。

たぶん、誰もが一度は、「バラつきがひどい問題」に遭遇したことがあると思います。


デザインのバラつき

同じように「小さい文字で」と指定されても、人によってはfontSize="12px"と書きますし、人によってはfontSize="10px"と書くかもしれません。しかし、fontSizeのバリエーションがありすぎると、cssが管理しにくくなります。

サイズ指定方法のバラつき

サイズを12px,9pt,0.75em,0.75rem,75%など、人によって様々な方法で指定するかもしれません。fontSizeはremを使うのがいいと考えて、チーム全員でremを使うようにルールを決めたとしても、全員が忠実にそのルールを守るとは限りません。きっと、うっかりpxを使うメンバーが跡を絶たないはずです。


意図的に解像度を荒くすれば、バラつき問題は解消できます。もし、fontSizeがxs,sm,md,lg,xlの5つしか指定できないのであれば、5つのバリエーションしか生まれようがありません。それは、次のように実装することで実現可能です。

type TypographyProps = {
  fontSize: 'xs' | 'sm' | 'md' | 'lg' | 'xl';
  inline?: boolean;
  textAlign?: React.CSSProperties['textAlign'];
};

const fontSizes = {
  xs: "0.75rem",
  sm: "0.875rem",
  md: "1rem",
  lg: "1.5rem",
  xl: "2.625rem",
};

const Typography = styled.p((props: TypographyProps) => ({
  fontSize: fontSizes[props.fontSize],
  display: props.inline ? 'inline' : 'block',
  textAlign: props.textAlign
}));

これでfontSizeのバラつきは解消されました。しかし、まだ他にもバラつきがあります。というのも例えば、fontSizeが5種類、fontWightが5種類合ったとしたら5✖️5=25種類の文字が生まれることになります。そこにletterSpacinglineHeightも加わったら、あまりに多いバリエーションが生まれることになります。

さらにバラつきを減らしたいときは、emotionthemingの出番です。Muiのvariantのアイデアを参考にして、次のように実装することができます。以下では、Typographyを一例に取りますが、ButtonInputにもvariantを作るのがおすすめです。

まずは、themeを作って、projectのルートに近い層でラッピングします。

import { ThemeProvider } from '@emotion/react';

const theme = {
  typography: {
    h1: {
      fontSize: '3rem',
      lineHeight: 1.333,
      fontWeight: 500,
      letterSpacing: '-0.02083em',
    },
    h2: {
      fontSize: '2.125rem',
      lineHeight: 1.353,
      fontWeight: 500,
      letterSpacing: '0em',
    },
    h3: {
      fontSize: '1.5rem',
      lineHeight: 1.333,
      fontWeight: 500,
      letterSpacing: '0.02083em',
    },
  },
  palette: {
    text: {
      primary: 'rgba(0, 0, 0, 0.87)',
      secondary: 'rgba(0, 0, 0, 0.6)',
    },
  },
};

const App: React.FC = () => (
  <ThemeProvider theme={theme}>
    // ここにコンポーネント
  </ThemeProvider>
);

そして、このthemeを使って次のように書くことができます。variantの次いでに、colorもthemeを使って指定できるようにしてみました。

type TypographyProps = {
  variant: 'h1' | 'h2' | 'h3';
  color: 'text.primary' | 'text.secondary';
} & { theme: Theme };


const generateFontColors = (theme: Theme) => ({
  'text.primary': theme.palette.text.primary,
  'text.secondary': theme.palette.text.secondary,
});

const Typography = styled.p((props: TypographyProps) => {
  const { color, variant, theme } = props;

  return {
    ...theme.typography[variant],
    color: generateFontColors(theme)[color],
  };
});

これで、多すぎるバリエーションを、人間が理解可能な数まで絞り込むことができました。エンジニアにもデザイナーにも優しい設計ではないでしょうか。

とはいえ、解像度をどこまで荒くするかは、そのプロジェクトに依ります。場合によってはfontSize="md"と書けるようにした方が便利かもしれませんし、別のケースではvariant="h1"と指定するようにしたほうが効率的かもしれません。

この辺りをプロジェクトに合わせて、柔軟に設定できるのがemotionの最大の旨味と言えそうです。

おっ、いい感じにまとまりましたね!

おわりに

独断と偏見でつらつらと書いてしまいましたが、間違いがあれば教えてください。特に構造とスタイルの分離は、たくさんの人の意見をお伺いしてみたいと思っているところです。お気軽にコメントお待ちしております🙇‍♂️

最後に、趣味でemotionをベースにしたUIライブラリを開発中です。よろしければ、ちらっと覗いてやってください。

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