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なぜAIコーディング時代でも「ESLint」を手放せないのか?

2025/02/26に公開

AIエディタやコード補完ツールの急速な進化によって、私たちのコーディング環境は劇的に変わりつつあります。 「AIがあれば、もはや面倒な作業はすべて自動化できるのでは?」 と思われがちで実際にRules for AIにコーディング規約を追加することを推奨する記事が見られますが、実はそう単純ではありません。

結論から言えば、「ESLint」のような静的解析ツールは手放せないのです。なぜなら、AIにすべてを任せるのはAIの足を引っ張る行為だから。本記事では、AIとESLintの役割を整理し、どうすれば両者の強みを最大化できるのかを解説します。


🎯 1. AIにコーディング規約を守らせることは可能だが、得策ではない

多くの人が「AIは厳密なコーディング規約を守れない」と考えがちですが、実際にはプロンプトを工夫すれば、ある程度は規約を守らせることも可能です。とはいえ、AIには以下の特徴があります。

  • ✅ AIの強み

    • 設計やアーキテクチャの提案、ベストプラクティスの学習
    • 新しいアイデアや設計上のアドバイスをクリエイティブに出せる
    • コードの生成・補完など、人の手間を減らす能力に優れる
  • ❌ ルール適用をすべてAIに任せる欠点

    • 「インデントは2スペース」「import順はアルファベット順」などの厳密ルールを毎回守らせるには、細かい指令を繰り返す必要がある
    • AIはルールが多すぎると性能が低下する 傾向にある
    • それでも100%一貫する保証はなく、一度間違うと大量に修正が必要になる可能性

「AIならなんでもできる」という発想は間違いではないかもしれませんが、果たしてそれが“効率的”かどうかは別問題。ここで生きてくるのが、静的解析ツールであるESLintの役割です。


🎯 2. ESlintは厳密なルール適用のスペシャリスト

ESLintはJavaScript/TypeScriptコードの品質管理に特化したツールで、次のような役割を担っています。

  • ✅ コードの一貫性を強制
    • 「未使用変数の禁止」「console.logの検出」「インデントやクォートルールの徹底」など、機械的に適用するルールを確実に守らせる
  • ✅ CI/CDとの連携が容易
    • プルリクエスト(PR)のたびに自動チェックを走らせ、違反があれば弾く
    • 開発者が見落としても、ツールがブロックしてくれるのでヒューマンエラーを防げる
  • ✅ リソースの最適化
    • ESLintの動作は比較的軽量で、設定ファイル(.eslintrcなど)で完結
    • サーバリソースをほとんど消費せず、コマンド一発で多数のファイルを一括チェックできる

つまり、ESLintを使うことで「ルール適用」という機械的タスクを簡単かつ確実に行えるのです。AIに同じことをやらせるより、はるかに負荷が少なく効率的というわけです。


🎯 3. なぜAIコーディングでもESLintを手放せないのか? — 3つの観点

1. AIのリソースを“創造的な作業”に集中させるため

AIの強みは、繰り返しの単純作業よりも「新しい設計」や「高度な推論」 といった場面で活きます。厳密なルール適用はESLintに任せて、AIはアーキテクチャの提案やリファクタリングのアイデアなどにリソースを割いたほうが、開発効率と価値が高まります。

2. チーム全体のコードを統一できるのは静的解析ツール

AIを導入している人、していない人、さまざまな開発者がいるのが現実です。ESLintなら全員分のコードを同じ基準でチェックできるため、プロジェクト全体の一貫性を保ちやすいのです。

3. CI/CDで自動化しやすい

ESLintはCI/CDパイプライン(例:GitHub Actions, Jenkins)と連携し、プルリクエスト単位で「規約違反がないか」を機械的にチェックできます。AIにはこの「自動ブロック」機能がないので、最終的な品質ゲートとしてESLintは欠かせない存在です。


🎯 4. AIとESLintの共存

  1. 「Rules for AI」には設計・構造のガイドを記載

    • 例:「API通信はservices/api.ts経由」「特定の処理はユーティリティに切り出す」など
    • AIが提案するときにプロジェクト特有のアーキテクチャを意識してくれる
  2. AIにコード生成・補完をさせる

    • 「この機能を追加したい」「既存コードをリファクタリングしたい」など、クリエイティブな要望をAIに投げる
    • コーディング規約よりも “設計レベル” の支援を頼むのがポイント
  3. 人間が最小限の調整を加える

    • AIが作ったコードがビジネス要件に合うか、ドメイン固有のルールを満たしているか確認
    • 必要に応じて修正
  4. ESLint/Prettierでコード規約やフォーマットを一括適用

    • インデントやクォート、console.log禁止など、機械的なルールをすべて洗い出す
    • 自動修正(--fixオプションなど)を利用し、チーム全体で一貫したスタイルを保つ
  5. CI/CDで最終チェック

    • プルリクエストやコミット時にCI環境でESLintを走らせ、もし違反があればPRをブロック
    • AIと人間が見落としたルール違反を確実につぶす

このフローなら、AIのリソースをフル活用しながら、ESLintで“機械的なルール”を強制的に守らせることができます。


🎯 5. 結論:厳密なルール適用はESLintに任せ、AIは創造的タスクに集中させよう

  • AIにルール適用をさせるのはリソースの無駄
    • 繰り返しやフォーマットチェックは静的解析ツールが得意
  • ESLintはチーム全体のコード品質を機械的に担保
    • PR時の自動ブロックなど、人の手を介さずに100%一貫性を維持できる
  • AIは設計・アーキテクチャ・リファクタリング提案に注力
    • 新しいアイデア複雑なロジックの見直しなど、付加価値の高いところに使う

開発の最終ラインを守るのはESLint、その前段階の“アイデア生成”をAIに任せる―― これこそが、現代の最適な開発スタイルです。ぜひ、AIとESLintを併用して、効率と品質を同時にアップさせましょう。

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