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第1回 気象・気候変動予測について

に公開

自己紹介と本記事について(Abstract)

こんにちは。私はプリンストン大学で、宇宙論の研究をしています、山本と申します。私は現在研究の傍ら東京大学鈴村研究室で、データサイエンティストとして、AI(人工知能)を用いた気象予測・気候変動予測のリサーチをお手伝いしています。私たちに馴染み深い気象予測ですが、AIを用いた予報や予測の最前線や実際に一般公開されているモデルを使った予測の方法を私から発信していきます。

本記事では、気象予測と気候変動予測の基本と違い、難しさやなぜ機械学習を必要とするのかについて、発信していきたいと思います。

気象予測と気候変動予測について(Introduction)

一般的に気象予測(weather forecast)とは、ある地点における観測値 y^{x=i}_{t=t_0} (xが空間、tが時間)を初期条件として、\Delta t後のy^{x=i}_{t=t_0+\Delta t}\Delta t = hrs, days, months)を予測するというものです。気象予測とは言っても、我々が対象としている観測値は晴れか雨かを予測するというだけではありません。対象となる観測値は様々で気温、降水量、風速、気圧などといった項目があります。私たちにとって身近な気象予測は大体1時間から1週間後を予測するものが多いですが、私たちの普段の経験から1週間後先の気象予測の正確性はそこまで高くないと言えるでしょう。

どのようにして気象予測が行われているかというと、裏ではスーパーコンピューター(スパコン)を使用した理論に基づく数値計算が行われています。2021年のノーベル物理学賞の対象となった研究もそうですが、大気や海洋の動きを物理現象として捉え、様々な方程式からなる気象モデルを解くことにより、ある一定時間後の予測が可能になります。しかし、理論を導き出すということにも限度があり、大気・海洋の動きは非線形・カオス的な側面もあるので、完璧な理論を書き、長期的な予測をすることは非常に難しいのです。しかも、現在のテクノロジーにも限界があり、一度に行える数値計算やスパコンで計算できる作業時間は限られているのです。

参照:https://tenki.jp/suppl/m_seta/2024/05/23/32452.html

これまでは気象予測についてお話ししましたが、気候変動予測(climate projection)に話を移しましょう。最も簡単な違いは対象となる予測時間で、気候変動予測は対象を数年から数十年規模で見ています。予測の方法も違っていて、気象予測は現在の気温などから未来の同じ項目を予測するのに対して、気候変動予測は大気中のCO2やSO2の量など気候変動(climate change)を引き起こすと言われている物質の量に対する気温や降水量の変化を予測するというものです。気候変動に伴う様々な影響(海面上昇、干ばつ、植生変化など)が大規模かつ急激な変化を迎え、元の気候には戻れないと言われている臨界点(Tipping point)を超えないためには、温室効果ガスの増加量に伴う気候の変動率を把握し、それに伴った社会経済モデルの政策を国が施行していく必要があります。気象予測は大気・海洋・陸域における物理現象をモデルするのに対し、気候変動予測は以上の気象モデルを中心として、人間活動や生態系の影響との相互作用を加味し、温室効果ガスの循環、生物的・化学的なモデルを組み合わせた地球システムモデル(Earth System Model, ESM)を扱っています。

参照:https://www.jamstec.go.jp/cema/j/esm/

参考記事:

  1. https://www.ibm.com/jp-ja/topics/weather-models
  2. https://tenki.jp/suppl/m_seta/2024/05/23/32452.html
  3. https://tenki.jp/suppl/m_seta/2024/05/23/32452.html

人工知能(AI)を使用した気象予測と気候変動予測の最前線

現在の物理モデルをベースにした予測の難しさは、

  1. 観測値の統合・同化(データ同化はこちら参照
  2. 物理モデルの正確性と理論の限界
  3. 予測にかかる計算時間
    と言えます。

これらの問題にアプローチするために、数年前から機械学習を用いた気象予測の研究が進んできました。パターン認識に優れている機械学習を使用することで、物理モデルではまだ表されていない事象や複雑なパターンを学習し、予測に役立てることができます。

気象モデルを使った気象予測とは違い、機械学習による予測では、一度に大量の気象データ(実際の観測値から気象モデルを用いたシミュレーションデータまで)を使い、多数の観測項目(features)の関係性を学習させます。その学習された知識を使うことで、現在の観測値から将来の気象の予測を短時間で行うことができるのです。

これまでに一般に公開されている機械学習により学習されたモデルをいくつか紹介します。

  1. GraphCast(https://arxiv.org/abs/2212.12794)
    Google DeepMindにより開発されたグラフニューラルネットワーク(GNN)を用いた、短期〜中期の気象予測や異常気象の予測などにも対応するモデル。気象予測の課題(task)では、物理的気象モデルを用いた数値予測をいくつかの項目で予測精度を上回る。
  2. ClimaX(https://arxiv.org/pdf/2301.10343)
    UCLAとMicrosoftの研究者により共同開発されたトランスフォーマー(Transformer)を用いた基盤モデル。こちらは基盤モデルなので、行いたい課題によって、モデルをさらにファインチューニング(Finetuning)することにより予測精度を上げることができ、汎用性が高い。予測精度ではGraphCastには及ばないが、既存のモデルとFinetuningを通して様々な課題に対応することができる。

本記事では、これらの中からClimaXのモデルを取り扱っていきます。次の回では、ClimaXモデルについて詳しく紹介していきます。

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