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LLMの常識が変わる?最新AIモデルから学ぶ、3つの衝撃的な事実

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LLMの常識が変わる?最新AIモデルから学ぶ、3つの衝撃的な事実

大規模言語モデル(LLM)の進化は凄まじく、毎月のように新しいモデルが登場しています。私たちはつい、ベンチマークのスコアといった性能指標に目を奪われがちです。しかし、その数字の裏側にある「設計思想」や「アーキテクチャ」にこそ、未来のAIトレンドを読み解く鍵が隠されています。

本記事では、最近公開された3つの先進的なLLM(Tongyi DeepResearch, LongCat-Flash-Chat, NVIDIA Nemotron Nano)の調査レポートを読み解き、私自身が「これは常識が変わるぞ」と衝撃を受けた「3つの事実」を分かりやすく解説していきます。

https://youtu.be/FtYlm7BahFk


1. 5600億パラメータでも動くのはごく一部?

巨大モデルを効率化する「MoE」という新常識

まず驚くべきは、モデルの巨大さと実際の計算コストのギャップです。これを実現しているのが「Mixture-of-Experts (MoE)」というアーキテクチャ。簡単に言えば、「巨大な専門家集団(パラメータ全体)の中から、質問に応じて最適な専門家(一部のパラメータ)だけを呼び出して回答を生成する仕組み」です。

この技術がどれほど強力か、具体的なモデルを見てみましょう。

  • LongCat-Flash-Chatは、総パラメータ数が5600億(560B)という驚異的な規模を誇ります。しかし、1トークンを処理する際に実際に活性化するのは平均でわずか270億(27B)パラメータ。さらに「ショートカット接続MoE(ScMoE)」という独自技術で通信のボトルネックを解消し、推論時に毎秒100トークン以上という驚異的な速度を実現しています。
  • Tongyi DeepResearchも同様に、総パラメータ数305億(30.5B)のうち、実際に稼働するのは約30億(3B)パラメータのみです。

これが意味するのは、もはや「パラメータ数=賢さ」という単純な方程式が通用しない時代の幕開けです。
MoEによって、巨大モデルの性能と現実的な運用コストを両立できるようになったのです。

そして、この驚異的な効率化は、単なるコスト削減に留まりません。それは、これまで計算リソースの制約で不可能だった、全く新しい能力をモデルに実装する余地を生み出しています。その最たる例が、次にご紹介する「自分の考えを見せるAI」です。


2. AIの「考え」が丸見えに。

思考プロセスをON/OFFできるNVIDIAの小型頭脳

次に紹介するのは、AIの「ブラックボックス問題」に一石を投じる、NVIDIAの画期的なモデルです。

NVIDIA Nemotron Nano 9B V2は、90億(9B)という比較的小さなモデルですが、侮ってはいけません。このモデルの最大の特徴は、最終的な回答を出す前に「reasoning trace(推論の軌跡)」を生成する機能です。これにより、AIがどのように結論に至ったのか、その論理的な思考プロセスを人間が確認できます。

これが単なるギミックではない証拠に、その性能は本物です。
数学推論ベンチマークの AIME25で72.1%、高難度質問応答の GPQAで64.0% と、小型ながら専門的なタスクで極めて高いスコアを記録しています。

さらに驚くべきは、この思考プロセス表示が、システムプロンプトに /no_think と入力するだけで簡単にオフにできる「制御可能性」です。

この機能は、AIの回答に対する信頼性や透明性を劇的に向上させます。
複雑な問題解決のデバッグや、AIの思考方法を学ぶ教育目的での利用など、応用範囲は計り知れません。AIの「考え」を覗き見できるだけでなく、それを意図的に制御できるというのは、まさに革命的な進歩と言えるでしょう。


3. 「自律エージェント」への道は一つじゃない

三者三様のユニークな育成戦略

ここまで見てきたように、AIは超効率化を果たし(MoE)、新たな能力(推論の可視化)を獲得しつつあります。そして、これらの異なるアーキテクチャの選択は、AIが目指す最終目標の一つである「自律エージェント」へのアプローチの多様化に繋がっています。

今回取り上げた3つのモデルは、いずれも自律的にタスクをこなす「エージェント能力」に長けていますが、その実現方法は見事に三者三様です。

  • Tongyi DeepResearch
    実践特化の情報探索スペシャリスト。長期的なブラウザ検索などに特化。そのために「エージェント的継続事前学習」や、タスクに合わせた合成データ生成を自動で行うアプローチを採用。標準的な「ReActモード」と性能を最大化する「Heavy Mode」を使い分けるなど、徹底的にエージェントとしての実践力を鍛え上げています。

  • LongCat-Flash-Chat
    高速応答の対話・ツール利用エキスパート。巨大なMoE構造と安定化技術で、高速かつ高性能な基盤モデルとしての能力を追求。「非思考型」として、思考の可視化ではなくタスク遂行そのもので勝負するアプローチです。

  • NVIDIA Nemotron Nano 9B V2
    論理的思考で難問に挑む頭脳派。前述の通り、思考プロセスを提示する能力を活かし、高難度のタスクや厳密な論理性が求められる場面で力を発揮します。いわば「論理的思考タイプ」のエージェントです。

これらのアプローチの違いは、今後のAIが単一の万能モデルを目指すのではなく、特定の目的に特化した「専門家」として多様化していく未来を象徴しています。


まとめ

今回ご紹介した3つの衝撃的な事実は、LLMの未来を読み解く上で非常に重要な示唆を与えてくれます。

  1. MoEによる超効率化:モデルは巨大でも、動くのはごく一部。性能と効率を両立する時代へ。
  2. 思考プロセスの可視化と制御:AIの「思考」を人間が確認し、ON/OFFできる。透明性と信頼性が大きく向上。
  3. エージェント能力への多様なアプローチ:同じゴールを目指すにも、モデルごとに全く異なる育成戦略が存在。

これらのトレンドは、私たちがLLMを評価する際の視点を根本から変えるものです。
この分野の技術者・解説者として、私が問うべき質問はもはや「どのAIが一番賢いか?」だけではありません。
「どのAIが、この問題に対して最適な『思考』をするか?」 へと変わりつつあります。

今後、AIの内部構造がますます多様化していく中で、私たちは未来のタスクに最適な「AIパートナー」をどのように選んでいくべきなのでしょうか?
その答えを探す旅は、まだ始まったばかりです。

参考 URL

https://huggingface.co/Alibaba-NLP/Tongyi-DeepResearch-30B-A3B
https://github.com/Alibaba-NLP/DeepResearch
https://build.nvidia.com/nvidia/nvidia-nemotron-nano-9b-v2/modelcard
https://catalog.ngc.nvidia.com/orgs/nim/teams/nvidia/containers/nvidia-nemotron-nano-9b-v2
https://arxiv.org/abs/2509.01322
https://openrouter.ai/alibaba/tongyi-deepresearch-30b-a3b

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