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AIを日常業務に根づかせるために—QA視点で考える「業務データ品質」と組織プロセス
要旨
AI の働きは、モデルの良し悪し以上に入力されるデータの質に大きく依存する。
日々の業務の一部を AI に移譲するためには、業務の中で生まれるデータ(チケット/設計書/議事録/決定履歴/FAQ 等)が高品質であることに越したことはない。
本稿は、QA 視点でのデータ品質の観点と、組織としてそれを保つための仕組みを整理する。
なぜいま「業務データ品質」なのか
1. AI は“書かれた前提”にだけ忠実
断片的な仕様、欠けた決定理由、揺れる用語は、そのまま曖昧な提案を生む。
目的/前提/決定と理由/用語の統一が揃うほど、AI の外しは減る。
2. 速い合意は「同じ前提」から
要約・照合・叩き台の多くを AI が担うほど、議論は早く、同じ土台で進む。
条件は、検索でき、一貫し、辿れる情報であること。
3. 期待できる変化
- AI への委譲拡大:要約/差分抽出/事例照合/叩き台作成など
- 意思決定の速度向上:再解釈の往復が減る
- 再利用性の向上:過去の決定と理由を引用できる
- 人が担保すべき観点への集中:UX の納得感、合意形成、倫理判断へ
業務データ品質のコア
- 目的の明確性:冒頭一行で「何のための文書/チケットか」が分かる
- 前提の完全性:対象/対象外/制約/既知事項をセットで記す
- 一貫性(語彙・構造):用語統一、章立ての共通化
- 正確性(事実と解釈の分離):事実/仮説/判断を区別
- 追跡可能性:変更の履歴、決定と理由を相互参照できる
- 再現可能性:同じ結論・手順に到達できる手掛かりがある
- 検索可能性:タイトル/要約/タグ/関連リンクで後から見つかる
- 鮮度の明示:現行/ドラフト、最終更新日、適用範囲が分かる
QA は「合否の判定者」から、意味の品質の設計者/監査者へ役割を広げる。
組織プロセス:全体で保ち続ける仕組み
1. 責務分担(RACI の考え方)
- 基準設計(テンプレ/用語集/決定ログの型):QA=Responsible、EM/PM=Approve
- 日々の記述(チケット/設計/議事録):各チーム=Responsible、QA=Consult
- 運用監査(四半期の健全性チェック):QA=Responsible、各チーム=Remediate、EM=Approve
- 教育・定着:QA がガイド/ハンズオンを提供
2. 品質を保つための「仕組み」
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共通テンプレート
すべての文書・チケットに「目的/前提/決定/理由/影響/次アクション」の固定セクションを設ける。 -
用語の単一参照源
用語集を一箇所で管理し、本文から参照リンクを張る。別名や略称は統制する。 -
決定ログの独立管理
何を/なぜ決めたかを文書から分離しても保持し、相互リンクで往復できるようにする。 -
相互リンクの原則
チケット ↔ 設計 ↔ 決定ログ ↔ FAQ を双方向に結び、孤立した情報を作らない。 -
変更管理
文書先頭に現行/ドラフト、最終更新日・更新者、適用範囲(バージョンや期間)を明示。 -
曖昧表現の抑制規約
「適宜/なるべく/ちゃんと」等の曖昧語を避け、条件や基準で表現する。 -
終期(アーカイブ)運用
期限切れ情報はアーカイブ表示+検索抑制。誤適用を防ぐ。 -
軽いガバナンス指標
目的欄の充足率/前提セット充足率/相互リンク率/ステール率(“現行”表示なのに更新が古い)。
数値は厳密でなくてよい。偏りの把握と対話の材料にする。
まとめ
AI を日常業務に根づかせる鍵は、派手な仕組みより情報の整え方が重要です。
QA が意味の品質を設計・監査し、組織全体で回るプロセスを敷くことで、AI に任せられる領域は広がり、私たちは人にしかできない仕事へ集中できるだろう。
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