ベクトル誤差修正モデル(VECM)を理解したい

2023/05/13に公開

 ベクトル誤差修正モデル(VECM; Vector Error Correction Model)を理解したい記事です。

 ベクトル誤差修正モデルは、ベクトル自己回帰モデル(VARモデル)と誤差修正モデル(ECM)を組み合わせたものであり、異なる時系列変数間の関係性を捉えることができます。VECMは、長期的な均衡関係(共和分)と短期的な変動を同時にモデリングすることができるため、非定常な時系列データに対して有用なモデリング手法です。

和分と共和分

 VECMを理解するためには、まず和分と共和分について知っておく必要があります。

和分

 非定常な時系列 X_t が、 d 階の階差を取ることで定常時系列になる時、「時系列 X_t の和分次数は d である」といい、

\begin{align} X_t \sim I (d) \end{align}

と書きます。

共和分

 2つの I(1) 非定常時系列

\begin{align} X_t \sim I(1)\\ Y_t \sim I(1) \end{align}

があるとします。ここで、 X_tY_t の線形結合

\begin{align} Z_t = \gamma_1 \cdot X_t + \gamma_2 \cdot Y_t \end{align}

の和分次数が I(0) となる時、「 X_tY_t は次数(1, 1)の共和分」と呼び、 X_t, Y_t \sim \text{CI}(1, 1) と書きます。また、この時の係数ベクトル (\gamma_1, \gamma_2) を共和分ベクトルといいます。

ベクトル誤差修正モデル(VECM; Vector Error Correction Model)

 次のようなラグ次数 p のベクトル自己回帰モデル(VARモデル)を考えます。

\begin{align} \boldsymbol{y}_t=\boldsymbol{c}+\Phi_1 \boldsymbol{y}_{t-1}+ \dots +\Phi_p \boldsymbol{y}_{t-p}+\boldsymbol{\varepsilon}_t \end{align}

\boldsymbol{c} は定数ヘクトル、\Phi_i は係数正方行列、 \boldsymbol{\varepsilon}_t はホワイトノイズベクトルです。また、 \boldsymbol{y}_{i \in \mathbb{N}} \sim I(1) とします。

ここで、1階差分をとると

\begin{align} \Delta\boldsymbol{y}_t &= - \boldsymbol{y}_{t-1} +\boldsymbol{c}+\Phi_1 \boldsymbol{y}_{t-1}+ \dots +\Phi_p \boldsymbol{y}_{t-p}+\boldsymbol{\varepsilon}_t \\ \end{align}

となるので、 \boldsymbol{y}_{t-1} に関して

\begin{align} \Pi \boldsymbol{y}_{t-1} &= (-I_k + \Phi_1 + \Phi_2 + \cdots + \Phi_p)\boldsymbol{y}_{t-1} \\ \sum_{i=1}^{p-1} \Gamma_i \boldsymbol{y}_{t-1} &= - (\Phi_2 + \Phi_3 + \cdots + \Phi_p)\boldsymbol{y}_{t-1} \end{align}

を導入すると以下のようになります。

\begin{align} \Delta\boldsymbol{y}_t = \Pi \boldsymbol{y}_{t-1} + \sum_{i=1}^{p-1}\Gamma_i\Delta\boldsymbol{y}_{t-i} + \boldsymbol{c} + \boldsymbol{\varepsilon}_t \end{align}

 ここで、 \boldsymbol{y}_{i \in \mathbb{N}} \sim I(1) より、式(9)の左辺は定常です。 \Delta\boldsymbol{y}_{t-1} も、定義より I(0) となり定常です。 \boldsymbol{c} は定数で、 \boldsymbol{\varepsilon} はホワイトノイズ(定常)です。つまり、この式が成り立つということは、 \Pi \boldsymbol{y}_{t-1} が定常である事に他ならず、 \boldsymbol{y}_{t-1} を表現する内生変数の線形結合が定常となる事を意味しています(この関係のことを共和分と呼ぶのでした)。また、k 次正方係数行列 \Pi のランクを r とおくと、式(9)は以下のように書くことが出来ます。

\begin{align} \Delta\boldsymbol{y}_t = \Alpha\Beta^{\mathsf{T}} \boldsymbol{y}_{t-1} + \sum_{i=1}^{p-1}\Gamma_i\Delta\boldsymbol{y}_{t-i} + \boldsymbol{c} + \boldsymbol{\varepsilon}_t \end{align}

ここで、 \Alpha, \Beta(k, r) の矩形行列です。この \Beta^{\mathsf{T}}\boldsymbol{y}_{t-1} を誤差修正項(ECT; Error Correction Term)と呼び、共和分過程を誤差修正モデルとして表現できることはGrangerの表現定理として知られています。

参考

  1. https://saecanet.com/saecanet-tips-vector-error-correction-model_lag_length_equals_p.html
  2. https://qiita.com/saltcooky/items/2d0119ea4a10bab6cff2
  3. https://qiita.com/innovation1005/items/d53d9ba4f9e8ee1832c6

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