Flutterライブラリの更新地獄から脱出!自動化でスマートなFlutter開発を!
はじめに
アプリ開発で、運用やメンテナンスにかかるコストをできるだけ削減することは重要です。
特にライブラリの更新は、アプリの品質を保つために欠かせない作業の一方で、その更新作業自体に一定のコストがかかります。
さらに更新作業はこまめに実施しないと、一気に多くのライブラリの更新が必要になり、更新作業自体が困難になることもあります。
本記事では、Flutter アプリでライブラリの更新を自動化し、これらの負担やリスクを軽減する方法について紹介します。
前提
GitHub で開発し、GitHub Actions で CI を組んでいる前提で説明します。
ライブラリの更新による影響は CI で検証され、CI が通れば安全にライブラリ更新の PR がマージできるという前提に立ちます。
ライブラリ更新の影響を確認する CI 自体の組み方は、本記事では記載しません。
ライブラリの更新 PR は、1 ライブラリにつき 1PR としています。
ただし、Renovate の設定により、複数ライブラリを 1PR にまとめることも可能です。
また、本記事で前提としているのはアプリ開発です。
そのため、利用しているライブラリの新しいバージョンがリリースされたら、その新しいバージョンのみを利用するようバージョン指定の制約を更新します。
概要
Renovate を導入し、PR 作成を自動化します。
これにより、Flutter ライブラリのバージョン制約定義ファイル pubspec.yaml
とロックファイル pubspec.lock
が更新された PR が作成されます。
PR 作成後に発火するワークフローを定義します。
そのワークフローで Flutter のライブラリが間接的に利用する iOS ネイティブライブラリに関するロックファイル Podfile.lock
を更新し、プッシュバックします。
Renovate の自動マージ設定を有効化し、各種 CI のチェックが通った後自動マージされるようにしておきます。
詳細
1. Flutter のライブラリ依存関係の定義方法を変更
pubspec.yaml
におけるライブラリのバージョン指定は、キャレット演算子 ^
を使うことが一般的です。
これはライブラリの公式サイトやドキュメントで標準の書き方として記載されているためです。
しかしこの状態だと、ライブラリの新しいバージョンがリリースされた際に、Renovate がバージョン制約を変更しなくて良いと判断することが多く、更新 PR があまり提出されなくなります。
本記事では、新しいバージョンのライブラリがリリースされたら、すぐに最新版のみを利用するようバージョン指定の制約に更新したいです。
そこで、pubspec.yaml
に記載されているライブラリのバージョン制約を、絶対指定に変更します。
name: app_name
description: App description.
publish_to: "none"
version: 1.0.0+1
environment:
sdk: ">=2.18.5 <3.0.0"
flutter: ">=3.19.5"
dependencies:
- cloud_firestore: ^4.15.10
+ cloud_firestore: 4.15.10
- collection: ^1.18.0
+ collection: 1.18.0
# ...
これにより、Renovate が新しいバージョンのライブラリがリリースされた際に、バージョン制約を以下のように変更した PR を作成してくれるようになります。
name: app_name
description: App description.
publish_to: "none"
version: 1.0.0+1
environment:
sdk: ">=2.18.5 <3.0.0"
flutter: ">=3.19.5"
dependencies:
- cloud_firestore: 4.15.10
+ cloud_firestore: 4.15.11
# ...
2. Renovate の導入
Renovate は、GitHub のリポジトリにプルリクエストを作成し、ライブラリの更新を自動化するツールです。
以下の "Hosted GitHub.com App" を参考にして、GitHub App として該当のリポジトリに対してインストールします。
3. Renovate の設定
Renovate をリポジトリにインストールしたら、ライブラリ自動更新の推奨設定が適用された PR が自動で作成されます。
この PR はそのままマージせず、目的に適した設定へと修正します。
以下が修正後の設定ファイルの内容です。
{
"$schema": "https://docs.renovatebot.com/renovate-schema.json",
"enabledManagers": ["pub"],
"packageRules": [
{
"matchManagers": ["pub"],
"automerge": true
}
],
"prConcurrentLimit": 4
}
Flutter のライブラリは pub というパッケージマネージャーを通じて管理されているため、enabledManagers
に pub
を指定します。
prConcurrentLimit
は、同時に提出される PR の数を制限するための設定です。
PR が同時に大量に発生してノイズにならないように、適切な数に設定すると良いです。
このように修正後、PR をマージします。
Renovate の設定ファイルに関する詳細は以下のドキュメントを参照してください。
4. GitHub Actions でプッシュバックする際のアクセストークンを用意する
後述のステップで、iOS ネイティブのライブラリのロックファイルを更新し、プッシュバックし、プッシュバックをトリガーとして CI が実行されるようにします。
この際、GitHub Actions でデフォルトで利用できるアクセストークンの GITHUB_TOKEN
によりプッシュバックすると、CI がトリガーされません。
これは、意図せず CI が大量に動作して経済的な損失が発生しないようにするための、GitHub の仕様です。
これを解消するためには、以下の 3 種類の方法があります。
- GitHub Apps によるトークンを使う
- 個人トークン(Fine-grained)を使う
- 個人トークン(クラシック)を使う
チーム開発の運用やセキュリティ的な観点では 1 の GitHub Apps によるトークンを使う方法が良いですが、今回は一番簡単な 3 の個人トークン(クラシック)を使う方法をご紹介します。
個人トークンのページを開きます。
"Generate new token (classic)" をクリックします。
"Note" に任意の名前を入力し、"Expiration" を好きな値に設定します。
また、"Select scopes" における "repo" のスコープにチェックを入れます。
作成したトークンをコピーします。
リポジトリの "Settings" に移動し、"Secrets and variables" > "Actions" を開き、"New repository secret" をクリックします。
GH_PERSONAL_ACCESS_TOKEN
としてコピーしたアクセストークンを登録しておきます。
5. iOS ネイティブのライブラリのロックファイルを更新し、プッシュバックする
次に、ワークフローを作成します。
name: iOS
on:
pull_request:
branches:
- "main"
concurrency:
group: ${{ github.workflow }}-${{ github.head_ref }}
cancel-in-progress: true
permissions:
contents: read
pull-requests: write
jobs:
push-back-diffs-if-needed:
name: Push back diffs after resolving dependencies if needed
runs-on: ubuntu-latest
steps:
- uses: actions/checkout@v4
with:
ref: ${{ github.head_ref }}
token: ${{ secrets.GH_PERSONAL_ACCESS_TOKEN }}
- name: Setup Git
# Git のユーザーとして "github-actions[bot]" を設定する
# https://github.com/actions/checkout/issues/13#issuecomment-724415212
run: |
git config --global user.email "41898282+github-actions[bot]@users.noreply.github.com"
git config --global user.name "github-actions[bot]"
- uses: actions/setup-java@v4
with:
distribution: "temurin"
java-version: "17"
- uses: subosito/flutter-action@v2
- name: Install iOS dependencies
run: |
flutter pub get --no-example
flutter precache --ios
cd ios
pod install
- name: Commit
run: |
git add ios/Podfile.lock
if git diff --cached --quiet; then
echo "No changes to commit"
else
git commit -m 'build: fix Podfile.lock'
fi
- name: Push back if needed
run: |
BRANCH_NAME="${{ github.event.pull_request.head.ref }}"
git push origin "$BRANCH_NAME"
ワークフローの説明は以下のとおりです。
ワークフローでコードをチェックアウトする際、Git のチェックアウト先の Ref として github.head_ref
を指定しています。
- uses: actions/checkout@v4
with:
ref: ${{ github.head_ref }}
これは、プルリクエストのトリガーによるワークフローでは、デフォルトで、プルリクエストがベースブランチにマージされた状態のブランチがチェックアウトされるためです。
PR のブランチ上でプッシュバックを実現したいため、明示的に PR のブランチそのものを指定します。
また、チェックアウトの際には、GitHub のアクセストークンとして GH_PERSONAL_ACCESS_TOKEN
を使っています。
- uses: actions/checkout@v4
with:
# ...
token: ${{ secrets.GH_PERSONAL_ACCESS_TOKEN }}
Install iOS dependencies
は、iOS ネイティブのライブラリのロックファイルを更新するためのステップです。
flutter pub get --no-example
flutter precache --ios
cd ios
pod install
Flutter のライブラリが更新された後に上記のように実行することで、iOS ネイティブのライブラリのロックファイルを更新される場合があります。
その後、Commit
ステップにより、更新されたロックファイルをコミットします。
git add ios/Podfile.lock
if git diff --cached --quiet; then
echo "No changes to commit"
else
git commit -m 'build: fix Podfile.lock'
fi
ios/Podfile.lock
に更新がある場合、build: fix Podfile.lock
というコミットメッセージでコミットします。
Push back if needed
は、更新されたロックファイルをプッシュバックするためのステップです。
BRANCH_NAME="${{ github.event.pull_request.head.ref }}"
git push origin "$BRANCH_NAME"
チェックアウトの際に GH_PERSONAL_ACCESS_TOKEN
を使っているため、プッシュの際もそのトークンが使われます。
これにより、GitHub Actions の CI が再度トリガーされます。
実際に動作している様子
Renovate が定期的に PR を作成します。
最初は以下のようなコミットが作成されます。
PR 作成後しばらくすると以下のようなコミットがプッシュバックされ、CI が再度トリガーされます。
CI がパスすると、以下のように PR がマージされます。
最後に
本記事で紹介した方法により、ライブラリ更新が大幅に自動化できるため、開発者の負担を軽減できます。
一方で、まだライブラリ更新時に依存関係の解決が失敗して手動で修正する必要がある場合もあります。
そのため、まだ完全な自動化とはなっていません。
今後も、完全な自動化を目指していきたいです。
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