Gemini CLI と Claude Code の詳細比較
Gemini CLI と Claude Code の詳細比較
AIを使った開発支援ツールが注目を集める中、Google の Gemini CLI と Anthropic の Claude Code が主要な選択肢として浮上しています。本記事では、両ツールの機能面、実装技術、設計思想の違いについて詳細に比較します。
共通点
両ツールには以下のような共通的な特徴があります:
基本アーキテクチャ
- Node.js製のCLIツール: 両者ともNode.js(TypeScript/JavaScript)で実装
- 対話型REPL環境: ターミナル上でユーザーと自然言語で対話しながら作業
- ReActスタイルのエージェント: ツール実行指示をモデルに渡し、応答を逐次解釈・実行
- 人間の介入点: 重要ファイルの書き換えやコマンド実行前に確認を求める安全弁
開発支援機能
- コード生成・編集: プロジェクト全体を理解した高品質なコード生成
- デバッグ支援: エラー分析から修正提案まで自動化
- リファクタリング: 大規模なコードベース改善をサポート
- テスト作成・実行: テストコードの生成から実行・デバッグまで一貫対応
- プロジェクト理解: ファイル構成やアーキテクチャの要約・解説
技術的特徴
- MCP対応: Model Context Protocol による拡張性
- 複数ターン対話: 長時間の対話コンテキストを管理
- ツール統合: ファイル読み書き、ウェブ検索、シェルコマンド実行
- マルチステップ実行: 複雑なタスクを自動でプランニング・実行
設計思想・プロダクトゴールの比較
まず最初に、両ツールの根本的な設計思想や狙いについて見ていきます。
対象ユーザー層と用途
Gemini CLI
- 個人開発者から学生、プロまで幅広く想定
- 無料プレビュー提供によりホビープログラマや学生も対象
- VS Code拡張との連携でGUI派のユーザーも取り込み
Claude Code
- 主な対象はプロフェッショナルな開発者や開発チーム
- Anthropic 自らが「我々のチームでも不可欠」と述べる通り、現場のソフトウェアエンジニアを重視
- 企業利用も念頭に、クラウド環境や社内リポジトリでの大規模開発を想定
使いやすさ・導入ハードルへのアプローチ
Gemini CLI
- 極力低いハードルで試せるよう設計
- 個人Googleアカウントでログインするだけで即利用可能
- 1日1000回という潤沢な無料利用枠を提供
- オープンソースで「とりあえず中身を見てみたい」という開発者心理に応える
Claude Code
- <span style="color: red">利用にはAnthropicへの登録と有料プラン加入が必要</span>
- リサーチプレビューという位置付けで、本気で試したい開発者コミュニティを対象
- 専用Discordやドキュメントで手厚いサポート・情報提供
オープン性とコミュニティ
Gemini CLI
- 完全にオープンソース(Apache 2.0)として公開
- 全世界の開発者コミュニティからの貢献を歓迎
- ユーザー自身がセキュリティや挙動を検証できる透明性
Claude Code
- <span style="color: red">ソースコードは公開済みだがOSSではなく、独自ライセンス</span>
- 研究目的のプレビュー版として、フィードバックをAnthropic社に集約
- 安全性・品質を社内で厳格にコントロールした上で提供
プロダクトゴールと戦略
Gemini CLI
- 「開発者の日常にGeminiモデルを溶け込ませる」ことが狙い
- 自社LLMエコシステムへのユーザー囲い込み
- 将来的にはGoogle Cloud上の有料サービスへの誘導
Claude Code
- 「Claudeモデルを用いた高度なコーディング支援の実践知を集め、次世代モデル改良にフィードバックする」ことが目標
- 早期に市場で存在感を示し「コードエージェント」カテゴリをリード
- 自社LLMの性能を最大限発揮させるクローズドな環境を提供
できること・できないこと
実際にユーザーが使う際の具体的な能力と制限について整理します。
Gemini CLI
✅ できること・得意なこと
- コンテンツ生成・リサーチ: テキスト作成、情報収集、要約作成
- 基本的なコーディング: バグ修正、新機能作成、テストカバレッジ改善
- マルチモーダル対応: 画像生成、簡易動画作成(Imagen/Veo連携)
- ウェブ検索・情報取得: リアルタイムの情報収集と参照
- 複数タスクの並行処理: 複数CLIインスタンスでの並列作業
⚠️ 制限・注意点
- Previewステージ: 正式版ではなく、機能や仕様が変更される可能性
- クォータ共有: Gemini Code Assistとリソースを共有するため利用量に制限
- 複数エージェント利用時の追加料金: 並行処理には費用が発生
- プロジェクト理解の深度: 大規模・複雑なコードベースでの理解度は未知数
Claude Code
✅ できること・得意なこと
- プロジェクト全体の深い理解: コードベース全体を俯瞰した分析・提案
- 高度なGit操作: マージ競合解決、コミット・PR作成の自動化
- テスト実行・デバッグ: テスト失敗の原因分析から修正まで一貫対応
- 画像分析: UI/UXのレビューやデザイン関連の作業
- 拡張思考モード: 複雑な問題に対する深い分析と解決策提示
- セッション継続: 過去の作業コンテキストを保持した継続作業
⚠️ 制限・注意点
- 有料プラン必須: Claude Pro/Maxプランの加入が前提
- プロジェクトコンテキスト依存: 適切なプロジェクト構造がないと性能低下
- ローカル環境限定: クラウド環境や共有開発環境では制約あり
- Windows制約: WSL経由での動作が必要
機能面の比較
設計思想と実用性を踏まえて、ここからは両ツールの具体的な機能の差異について詳しく見ていきます。
コード生成・編集
Gemini CLI(Google)
- Gemini 2.5 Pro モデルによる高度なコード生成
- 複数ファイルにまたがるコードの自動生成・編集に対応
- VS Code 向け拡張機能「Gemini Code Assist」と連携
- マルチステップのプランニングでコードを自動生成
Claude Code(Anthropic)
- Claude 3.7 Sonnet モデルを利用し、高品質なコード生成・編集
- プロジェクト全体を理解した上で複数ファイルにわたるコード修正や機能追加を実施
- 大規模リファクタリングも可能
- 従来45分以上かかる作業を一度の指示で完了した例も報告
デバッグ支援
Gemini CLI
- ターミナルから直接プログラムを実行して問題箇所を特定
- バグ修正の提案・適用を自然言語で指示
- 必要に応じシェルコマンドを実行し、エラーログやスタックトレースを取得
Claude Code
- テスト駆動開発(TDD)に対応
- テストの実行やデバッガの出力を解析してバグを特定・修正
- 複雑な不具合にも最小限の人手介入で対処
プロジェクト理解・Q&A
Gemini CLI
- 最大100万トークンの大規模コンテキストでコードベース全体を理解
- プロジェクトのファイル構成を読み込み、アーキテクチャや設計パターンを要約
-
glob
やgrep
ツールを活用した関連ファイル検索
Claude Code
- プロジェクトの全ファイルを俯瞰して「コード全体の地図」を構築
- セマンティック検索による該当コード部分の特定・解説
- 関連モジュールを横断的に読み込み構造を説明
リファクタリング
Gemini CLI
- AIエージェントがコード全体を分析し、モダンな書き方への更新提案
- エラーが出れば自動でロールバックし別解を試行
- 失敗に耐性のあるマルチステップ実行
Claude Code
- 大規模なリファクタリングに対応
- コードベース全体の一貫性を保ちながら段階的に書き換え
- 旧来の構文や非推奨APIの使用箇所を検索し、モダンな代替案を提示
テスト生成・実行
Gemini CLI
- コード変更に応じたテストコードの自動生成
- 既存テストの実行・失敗時の原因特定
-
npm test
等の実行結果を解析して修正まで自動実行
Claude Code
- テストコードの不足箇所を洗い出し、新規テストの追加から実行・デバッグまで一貫サポート
- 未カバレッジの関数を検出しテスト雛形を生成
- エッジケースを考慮したケースも追加
ターミナル連携とツール
Gemini CLI
- シェルコマンドの実行・ファイル操作・ウェブ検索をエージェントが代行
- Google の Imagen や Veo と連携した画像生成・簡易動画作成
- マルチモーダル出力に対応
Claude Code
- ターミナル内で完結するAIコーディング体験
- Git コマンドと統合され、コミット・プルリクエスト作成を自動化
- ウェブ検索対応でインターネット上のドキュメントを参照
実装技術の比較
モデル統合とアクセス方法
Gemini CLI
- バックエンドに Google DeepMind の「Gemini 2.5 Pro」を使用
- 個人 Google アカウントで無料ライセンス取得後、即座にアクセス可能
- Google AI Studio/Vertex AI のAPIキーを用いた有料利用も可能
Claude Code
- Anthropic 社の「Claude 3.7 Sonnet」をバックエンドに使用
- 初回起動時にOAuth認証してAnthropicコンソールのアカウントに接続
- <span style="color: red">Claude Pro/Max の有料プラン加入でCLI利用権が含まれる</span>
CLIクライアントの実装技術
Gemini CLI
- Node.js(TypeScript)製のオープンソース CLI ツール
- Windows・Mac・Linux すべてに対応
- npm や パッケージマネージャー経由でインストール可能
- 複数のCLIインスタンスを並行実行可能
- <span style="color: red">複数エージェント起動時は追加料金が必要</span>
Claude Code
- Node.js(JavaScript/TypeScript)製のCLIアプリ
- <span style="color: red">Windows では WSL 経由での動作が必要</span>
- 公式インストーラーでインストール
- 過去セッションの再開や長時間の思考モードに対応
プロンプト戦略とコンテキスト管理
Gemini CLI
- システムプロンプトに詳細な方針を定義
- 専用の設定ファイル
GEMINI.md
でカスタム指示を組み込み可能 - 最大100万トークンの長大なコンテキストを活用
Claude Code
- 高度にチューニングされたシステムプロンプト
- プロジェクト概要を記した
CLAUDE.md
ファイルを自動生成 - <span style="color: red">最大約10万トークン級のコンテキストウィンドウ</span>
- 「よく考えて」指示で拡張思考モードが作動
ツール拡張とプラグイン
Gemini CLI
- ファイル読み書きやウェブアクセスなど用途特化のビルトインツール
- Model Context Protocol (MCP) を介した独自拡張の組み込み
- ローカルでLLMを動作させるケースにも対応予定
Claude Code
- 内部的にモデルが命令を出すと実際にコマンドを実行するアーキテクチャ
- Anthropic 提唱のMCPに対応
- VS Code などIDEへの統合手順を提供
- GitHub Actions に組み込んで自動コードレビューも可能
セキュリティ対策
Gemini CLI
- オープンソースで実装を公開しつつ、安全に配慮した多層防御
- モデルが提案したシェルコマンド等は即時実行前にユーザーの確認を要求
- Apache 2.0 ライセンスで透明性を担保
Claude Code
- CLIからの問い合わせは中間サーバーを介さず直接 Anthropic API に送信
- ユーザーの確認を経て重要な操作を実行する安全設計
- <span style="color: red">ソースコードは公開済みだが商用利用を制限する独自ライセンス</span>
実用的な比較軸
学習コスト・習得しやすさ
Gemini CLI
- 習得コスト: 低い(無料で試行錯誤可能)
- ドキュメント: GitHubで充実、コミュニティ貢献も期待
- 初心者向け: 幅広いタスクに対応するため、コーディング以外から始められる
Claude Code
- 習得コスト: 中程度(有料のため計画的な学習が必要)
- ドキュメント: Anthropic公式で体系化されている
- 経験者向け: 開発フロー全体の理解があると威力を発揮
プロジェクト規模別の適正
小規模プロジェクト(個人・数人チーム)
- Gemini CLI推奨: 無料で気軽に試せ、多様なタスクをカバー
- Claude Code: オーバースペックになる可能性
中規模プロジェクト(5-20人チーム)
- どちらも有効: チームの予算と開発スタイルで選択
- Gemini CLI: コスト重視、多様な作業
- Claude Code: 品質重視、開発フロー統合
大規模プロジェクト(企業・エンタープライズ)
- Claude Code推奨: 企業統合(Bedrock/Vertex AI)、セキュリティ対応
- Gemini CLI: 部分的利用やプロトタイピング用途
チーム開発での考慮点
Gemini CLI
- メリット: 各開発者が独立して利用可能
- 課題: 複数エージェント利用時の追加コスト、設定の統一
Claude Code
- メリット: 一貫した開発フロー、Git統合による協調作業
- 課題: 全員が有料プラン必要、環境構築の複雑さ
技術スタック別の相性
Web開発(JavaScript/TypeScript)
- 両者とも強い: 豊富な学習データとエコシステム対応
モバイル開発(Swift/Kotlin)
- Claude Code推奨: 複雑なプロジェクト構造の理解に優位
データサイエンス(Python)
- Gemini CLI推奨: リサーチ・分析タスクとの相性
システム・インフラ
- Claude Code推奨: シェル操作、設定ファイル管理の深い理解
具体的なユースケース比較
新プロジェクト参加時
Gemini CLI
- プロジェクト概要の把握、ドキュメント作成支援
- 技術調査、競合分析などの情報収集
Claude Code
- コードベース全体の構造理解、実行フロー分析
- 既存テストの把握、開発環境のセットアップ支援
デバッグ・問題解決
Gemini CLI
- エラーメッセージの検索・解釈
- 一般的な解決策の提案
Claude Code
- プロジェクト固有の問題分析
- テストケース作成、段階的デバッグ
ドキュメント・レビュー作業
Gemini CLI
- マーケティング資料、ブログ記事作成
- API仕様書の初稿作成
Claude Code
- プルリクエスト説明の自動生成
- コードコメント・技術文書の作成
まとめ
Gemini CLI の特徴
- 開放性: オープンソースで透明性が高い
- アクセシビリティ: 無料で気軽に試せる
- 汎用性: コーディング以外の創造的作業にも対応
- コンテキスト容量: 最大100万トークンの大規模コンテキスト
Claude Code の特徴
- 専門性: プロフェッショナルな開発者向けに特化
- 統合性: Git との深い統合と開発フローへの密着
- 品質: 高度にチューニングされたモデルと安全性重視
- 実践性: 実際の開発現場での使用を前提とした設計
両者とも非常に強力なツールですが、**Gemini CLI は「オールマイティなAIターミナルアシスタント」**として幅広い用途に対応し、**Claude Code は「純粋なコーディングパートナー」**として開発タスクに特化しています。
選択の基準としては:
- 個人プロジェクトや学習用途: Gemini CLI
- 企業での本格的な開発: Claude Code
- オープン性・カスタマイズ性重視: Gemini CLI
- 安定性・品質重視: Claude Code
どちらを選ぶかは、開発スタイルや重視する価値(開放性か安定性か)によって決まるでしょう。2025年現在、AIエージェントがターミナルで開発を支援するというスタイルは各社が競い合うホットトピックであり、今後も機能強化や差別化が進むことが予想されます。
参考資料
- Google, "Gemini CLI: your open-source AI agent"(The Keyword, 2025年6月25日)
- Simon Willison, "Gemini CLI"(個人ブログ, 2025年6月25日)
- Anthropic, "Claude 3.7 Sonnet and Claude Code"(公式発表, 2025年2月24日)
- Anthropic, "Claude Code Overview"(ドキュメント)
- The Verge, "Google is bringing Gemini CLI to developers' terminals"(記事, 2025年6月25日)
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