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AI時代における私たちの価値の行方

2025/03/24に公開
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「あなたは何をしている人ですか?」

かつてこの質問への答えは単純でした。

「エンジニアです」「教師です」「デザイナーです」。
私たちのアイデンティティは、自分が何をするかに強く紐づいていました。これまで何に多くを費やしてきたか、とも言えます。

専門知識を身につけ、経験を積み、それを活かして価値を生み出す。
このプロセスが私たちの存在意義の核心だったように思います。

媒介者が交代する時代

でも、何か変わりつつありませんか?


資源と価値創出とを媒介する存在のシフト

図が示すように、従来は「書籍・インターネット・実践」といった知識源から「人間」が情報を取り込み、それを価値に変換していました。黙々と専門書を読み込んだ時間、試行錯誤の繰り返し、経験から得た暗黙知。これらが価値創造の基盤でした。

ところが今、この図式が大きく変容しています。

「集合知」から「LLM、AI」を経由して「価値」が生まれる新たな経路が出現したのです。人間という媒介者がバイパスされ、AIが直接価値を生み出せるようになっています。

「ちょっと待って、それって私の居場所はどこに…?」

そうした漠然とした不安が生まれているように感じます。

デジタル時代の喪失感

先日、デザイナーの友人がこぼした言葉が忘れられません。

「1ヶ月かけて作ったロゴ案を、クライアントがMidjourneyで5分で作り直して『こっちの方がいいね』って言われたよ」。

彼の声には、単なる仕事の喪失以上の深い傷がありました。彼の労働時間、経験、センス、こだわり。それらに付随する「価値」がじわりじわりと希薄化する痛みが含まれていました。

私たち人間は長い間、「労働時間×スキル」という方程式で自分の価値を定義してきました。朝から晩まで働き、スキルを磨き、その結果として価値と報酬を得る。このシンプルな等式が崩れつつあるのです。

「一生懸命頑張っても、AIの方が速くて上手い…」
「何年も積み上げてきた私のスキルセットはもう時代遅れ?」

こんな思いを抱きつつある人は、きっと少なくないと思います。

自己存在の再定義

でも、ちょっと見方を変えてみたいと思います。

人間が単なる「情報処理装置」から解放されるということは、より人間らしい営みに集中できるチャンスでもあります。

AIという新しいパートナーを得た私たちに必要なのは、自己存在の捉え直しです。単なる「媒介者」から「キュレーター」「ディレクター」「意味の創造者」へとシフトする視点です。

たとえば

  • AIが情報を処理する速度と精度を提供する一方で、「何を問うべきか」を考えるのは人間の領域
  • 集合知をパターン化して出力するAIに対し、予測不能な創造性と文脈理解を提供できるのは人間
  • 自分の労働を「時間」で測るのではなく、「どんな問いを立て、どんな意図を持って方向づけたか」という視点で評価する

つまり、私たちの働き方を「AIとの共進化」という枠組みで再構築するということです。

シンバイオシス(共生)としての関係


人間はAIを「使う」存在ではなく、AIと「共に在る」存在へと変容

この図が表すのは、単なる道具と使用者の関係ではなく、生物学でいうところの「シンバイオシス(共生)」に近い関係です。

「人間が思考し、AIが処理する」という単純な分業ではなく、人間の思考プロセス自体がAIとの対話を通じて変容し、同時にAIも人間との相互作用によって進化していきます。

集合知から価値への流れの中で、人間とAIは互いに影響を与え合いながら、新しい思考・創造の生態系を形成します。これは「拡張」を超えた「融合」と「共進化」の段階と解釈することもできます。

共進化するエンジニアに

これまでの話を踏まえると、私たちエンジニアの立ち位置は大きく変わりつつあります。
この共生関係の中で私たちはどう進化することができるでしょうか?

ありうるかもしれない考え方の着地点として、5つほど示したいと思います。

新たな存在価値を築くための5つの考え方

1. 「コード書き」から「意図設計者」へのシフト

コードを書くスキルだけでは、次第に差別化は難しくなりつつあります。AIが高い再現性のもとに高品質なコードを生成する時代の到来に備え、「何を作るべきか」「なぜそれが必要なのか」を深く考察できる能力を会得しておくという選択肢です。
価値ある質問は「どうやって実装するか」ではなく「どんな問題を解決すべきか」になりつつあります。ビジネスの文脈、ユーザーの真のニーズ、社会的影響を理解するエンジニアこそが生き残るのかもしれません。これは、これからに限った話ではありませんが。

2. AIリテラシーを再定義する

「AIを使いこなす」という従来の発想から脱却をし、AIとの対話を通じて自分自身の思考を拡張し、相互学習のサイクルを創り出す能力を会得しておくという選択肢です。
LLMの限界と可能性を理解したうえで、その誤りを修正しながら導く。このフィードバックループ自体が新たな価値創造のプロセスとなります。

3. 技術的同質化の時代に個性を磨く

AIが主要なコーディングタスクを担うようになると、技術的なスキルの差は縮小します。その中で差別化要因となるのは、人間(自身)にしか持ち得ない視点や経験の蓄積です。多様な領域の知識、独自の問題解決アプローチ、個性的な発想。これらを意識的に培うという選択肢です。
均質化が進むほど、独自の視点の価値は増します。専門分化が先鋭化していた近年の動向とは少しベクトルの異なる、学際的な振る舞いの価値が増すとも言えます。

4. 「学習の学習」を極める

特定の言語やフレームワークの習得に固執するのではなく、「学習プロセス自体をハック」する方法を身につけるという選択肢です。技術の寿命が短くなる時代に重要なのは、新しい概念を迅速に理解し応用する能力です。
AIとのコラボレーションを通じて、自分の認知的バイアスを発見し、思考の枠組みを拡張しましょう。

5. コミュニティの力を再発見する

技術の個人レベルでの差別化が難しくなる一方で、集合知を活用した協働の価値は高まる可能性があります。オープンソースへの貢献、知識の共有、コミュニティでの対話を通じて、個人を超えた集合的な創造性に参加するという選択肢です。
ただし、カルトには注意が必要です。

最後に

ときに優しく、ときに荒々しい。
そんな時代の波をのりこなすサーファーになりたいものです(?)。

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