デジタル広告解剖メモ ~ 150兆円いただきましょう ~
はじめに
世界の広告市場規模は電通グループ、「世界の広告費成長率予測(2024~2027)によれば、2025年の市場規模は8,177億米ドルとなる見込みだそうだ。
この十数年でプログラマティック広告は目まぐるしい進化を遂げ、人間が手作業で行っていた広告枠の売買がアルゴリズムによって自動化されるようになった。中でもRTB(リアルタイムビディング)取引は、その中核技術として市場を支えている。
この記事では広告取引の歴史を概観し、、RTBについての調査メモをまとめる。
デジタル広告エコシステムの変遷
広告取引の歴史を振り返ると、進化の様子がよく分かる。
以下の表は各時代における広告取引の特徴をまとめたものである。
時代 | 特徴 | 主要プレイヤー | 課題 |
---|---|---|---|
直接入稿時代 | 広告主がクリエイティブを直接メディアに入稿 | ・広告主 ・メディア |
・効率の悪さ ・スケーラビリティの欠如 |
アドサーバー時代 | 専用システムによる広告配信の管理 | ・広告主 ・メディア ・アドサーバー |
・在庫管理の複雑さ ・広告営業の負担 |
アドネットワーク時代 | 多数の広告在庫とメディア在庫の一元管理 | ・広告主 ・メディア ・アドネットワーク |
・配信先の不透明性 ・価値の均一化 |
アドエクスチェンジ時代 | 市場型取引の導入、オークション方式の採用 | ・広告主 ・メディア ・エクスチェンジ |
・需給バランスの調整 ・価格決定の複雑さ |
SSP・DSP・RTB時代 | 自動化された広告取引、リアルタイム入札 | ・広告主 ・DSP ・エクスチェンジ ・SSP ・メディア |
・システムの複雑化 ・ブラックボックス化 |
プライバシー・AI時代 (現在) | プライバシー重視、AI駆動の意思決定 | ・広告主 ・DSP ・SSP ・メディア ・リテールメディア |
・Cookie廃止対応(中断?) ・透明性確保 |
この変遷を見ると、広告取引は単純な1対1の関係から複雑なエコシステムへと発展し、テクノロジーによる自動化と最適化が進んできたことが分かる。
テクノロジーが解決してきた問題と新たな課題
直接入稿時代からの進化は、本質的には効率化と価値最大化の歴史でもある。アドサーバーの導入によって手動での広告差し替えが自動化され、納品・レポート業務が効率化された。これにより広告主は効果測定に基づく最適化が可能になり、メディアは運用コストを削減できた。
しかし同時に、新たな課題も生まれた。メディアはより多くの在庫を抱えるようになり、それらを効率的に販売する必要が生じた。この課題を解決するためにアドネットワークが台頭し、多数の広告枠をまとめて販売する仕組みが構築された。
アドネットワークはスケールメリットをもたらしたが、広告主にとっては「どこに広告が表示されるか分からない」という不透明性の問題を抱えることになった。また、全ての広告枠が同じ価値で扱われるという非効率も生じた。
この問題に対処するため、市場原理を取り入れたアドエクスチェンジが誕生した。広告枠ごとに価格が決定される仕組みにより、価値に応じた取引が可能になったのだ。
なぜ現在のエコシステムに至ったのか
今日のRTB中心のエコシステムは、単なる技術進化の結果ではなく、市場の要求に応える形で発展してきた。効率性、透明性、価値最適化という市場の要求に応えるプロセスで、自然とリアルタイムビディングという解決策に行き着いたと言える。
2010年代初頭、DSPとSSPの台頭により、広告主とメディアはそれぞれの利益を最大化するためのプラットフォームを手に入れた。DSPは広告主の予算とターゲティング条件に基づき最適な入札を行い、SSPはメディアの広告枠を最高値で販売する。この相互最適化の仕組みがRTB取引の本質であり、市場の要求に応える形で必然的に生まれたシステムだと言える。
2025年現在のプライバシー・AI時代においても、この基本構造は変わっていない。変化したのは、プライバシー規制への対応とAI技術の活用により、より洗練されたアプローチが求められるようになった点だ。これもまた、社会的要請と技術進化が生み出した必然的な発展と言える。
RTB取引の基本構造
RTB取引とは、広告枠の売買をリアルタイムのオークション形式で行う仕組みである。
ユーザーがWebページにアクセスして広告枠が読み込まれる瞬間に、その広告枠の入札が開始され、勝者の広告が表示される。このプロセスはわずか数百ミリ秒で完了する。
RTB取引の定義と重要性
RTB(Real-Time Bidding)は文字通り「リアルタイム入札」を意味する。従来の広告取引が事前に決められた価格や条件で行われていたのに対し、RTBは広告表示のチャンスが生じるたびにリアルタイムでオークションを実施する。この仕組みにより、広告主は「この特定の瞬間、この特定のユーザーに対して、この特定の広告枠」という非常に具体的な条件で入札できるようになった。
RTBの重要性は、広告の「適時性」と「関連性」を飛躍的に向上させた点にある。例えば、ある靴のECサイトを訪問したユーザーがその後別のサイトを閲覧している際に、そのユーザーの興味に合わせた靴の広告を表示できる。これにより広告効果が高まり、広告主のROIが向上する。同時に、メディア側も広告枠の価値を最大化できるため、全てのステークホルダーにとって価値ある仕組みとなっている。
プログラマティック広告におけるRTBの位置づけ
プログラマティック広告は、テクノロジーを活用した自動化された広告取引の総称である。RTBはその中でも特に重要な手法の一つだが、プログラマティック広告全体から見ると一部でしかない。
以下はプログラマティック広告の主な取引タイプである。
取引タイプ | 特徴 | 透明性 | 主な用途 |
---|---|---|---|
オープンRTB | 公開市場でのリアルタイム入札 | ・高い透明性 ・誰でも参加可能 |
・大規模なリーチ ・コスト効率重視のキャンペーン |
プライベートマーケットプレイス (PMP) | 招待制の限定的なRTB | ・中程度の透明性 ・取引先が明確 |
・ブランド安全性重視 ・プレミアム広告枠へのアクセス |
プログラマティック・ダイレクト | 保証型の自動取引 | ・高い透明性 ・取引条件が明確 |
・プレミアムインベントリ確保 ・特定メディアとの関係構築 |
プリファード・ディール | 優先的なアクセス権を持つ取引 | ・中程度の透明性 ・優先取引条件が設定可能 |
・特定のオーディエンスへのリーチ ・プレミアム枠の優先確保 |
2025年現在、オープンRTBは依然としてプログラマティック広告取引の中心的な手法だが、地域や業界によっては、PMP(プライベートマーケットプレイス)やプログラマティック・ダイレクトの重要性が高まっている。
RTB取引の主要プレイヤー
RTB取引の主要コンポーネントと役割を理解しておくと全体像が掴みやすい。
https://arxiv.org/pdf/1610.03013 (DMP, CDP は図内未記載)
コンポーネント | 役割 | 関連技術 |
---|---|---|
DSP (Demand Side Platform) | 広告主側のプラットフォーム。 複数の広告主から広告を集め、入札を行う |
・入札アルゴリズム ・オーディエンス分析 ・予算管理 |
SSP (Supply Side Platform) | メディア側のプラットフォーム。 広告枠を提供し、オークションを管理する |
・在庫管理 ・フロアプライス設定 ・収益最適化 |
アドエクスチェンジ | DSPとSSPを繋ぐマーケットプレイス。 オークションの場を提供する |
・リアルタイム取引インフラ ・入札プロトコル |
アドネットワーク | 複数の広告枠を束ねて販売するプラットフォーム。 広告主とメディアを仲介する |
・在庫集約 ・ターゲティング ・配信最適化 |
DMP (Data Management Platform) | データを収集・管理し、ターゲティングに活用する | ・データ統合 ・セグメント作成 ・ID管理 |
CDP (Customer Data Platform) | 顧客データを統合・管理し、パーソナライズに活用する | ・ID解決 ・プロファイル統合 ・プライバシー管理 |
これらのプレイヤーが連携することで、RTBエコシステムが形成されている。DSPは広告主の代理として最適な入札を行い、SSPはパブリッシャーの代理として最高の収益を追求する。アドエクスチェンジはこの需要と供給をマッチングさせる市場を提供する。DMPとCDPはデータの収集・分析・活用を担当し、ターゲティングの精度向上に貢献している。
価格決定メカニズムの変遷
価格決定方式も重要な要素だ。2025年現在、ファーストプライス方式が主流となっている(完全に移行しているわけではない)。これは最も高い入札額がそのまま支払額となる方式で、以前主流だったセカンドプライス方式(2番目に高い入札額+α が支払額となる方式)と比べて透明性が高いとされる。
価格決定方式 | 仕組み | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
セカンドプライス方式 | 最高入札者が、2番目に高い入札額+αで落札 | ・「真の価値」を入札しやすい ・戦略的な入札が不要 |
・透明性の低さ ・フロアプライスとの複雑な相互作用 |
ファーストプライス方式 | 最高入札者が、その入札額で落札 | ・透明性の高さ ・シンプルな仕組み |
・過剰入札のリスク ・入札戦略が複雑化 |
動的フロアプライス | SSPが状況に応じて最低落札価格を動的に設定 | ・パブリッシャー収益の最大化 ・市場環境への適応力 |
・入札者にとっての不透明性 ・最適化の難しさ |
Googleは、ファーストプライス方式への移行を2019年頃に実施した。これに伴い、近年はファーストプライス方式への移行が進む。
ミリ秒単位で行われる取引の舞台裏
RTB取引のプロセスは、数百ミリ秒単位で完了する7つのステップから成る。各ステップを時系列で追跡してみる。
RTB取引の7ステップ
https://arxiv.org/pdf/1610.03013 (8は省略)
# | ステップ | 内容 |
---|---|---|
1 | インプレッションの発生 | ユーザーがWebページにアクセスし、広告枠が読み込まれる |
2 | DSPへのリクエスト | SSPがDSPに入札リクエストを送信 |
3 | DSP内でのオークション | 各DSPが広告主の条件に基づいて入札額を決定 |
4 | DSPからの入札レスポンス | 各DSPが入札額とクリエイティブをSSPに送信 |
5 | SSPでの入札処理 | SSPがフロアプライスとの比較など入札を評価 |
6 | 勝者と価格の決定 | 最も高い入札額を提示した広告主が勝者に |
7 | 広告配信と通知 | 勝者の広告が表示され、結果が通知される |
各ステップについて詳しく追跡する。
Step 1 インプレッションの発生
ユーザーがウェブサイトにアクセスすると、ブラウザがHTMLを読み込み、その中に広告タグがあることを検出する。広告タグはSSPに対してアドリクエストを送信し、このタイミングでインプレッションが発生する。この時点で、SSPはユーザーの情報(ブラウザタイプ、デバイス、OS、位置情報など)と広告枠の情報(サイズ、フォーマット、コンテキストなど)を収集する。
Step 2 DSPへのリクエスト
SSPは収集した情報を基に、複数のDSPに対して入札リクエスト(Bid Request)を送信する。このリクエストにはOpenRTBプロトコルという標準化された形式が使用され、広告枠情報、ユーザー情報(プライバシー要件を満たしたもの)、入札条件(最低入札価格など)が含まれる。
リクエストには、プライバシー関連のシグナル(ユーザーの同意情報など)が必須となり、地域ごとに異なるプライバシー規制に対応するためのフラグも含まれている。
Step 3 DSP内でのオークション
各DSPはリクエストを受け取ると、そのインプレッションに対して最適な広告と入札額を決定するためのオークションを実施する。その際、DSPは以下の要素を考慮する。
- ターゲティング条件:広告主が設定したオーディエンスやコンテキスト条件
- 予算とキャンペーン目標:1日の予算上限や目標KPI
- 過去のパフォーマンスデータ:類似のインプレッションで得られた成果
- 入札戦略:ROIを最大化するための価格決定戦略
一部の先進的なDSPでは、高度なディープラーニングモデルを活用しているが、すべてのDSPがこれを採用しているわけではない。
Step 4 DSPからの入札レスポンス
各DSPは内部オークション処理を完了すると、入札レスポンスをSSPに返す。入札レスポンスには以下の情報が含まれる。
- 入札額:そのインプレッションに支払う用意のある金額
- 広告クリエイティブ:表示する広告の内容またはそのURL
- 広告主情報:広告を出稿している広告主のID
- トラッキングピクセル:インプレッションやクリックを計測するためのコード
入札レスポンスには、パーソナライズのためのパラメータも含まれる。例えば、動的クリエイティブ最適化(DCO)のための変数や、AIを活用したリアルタイムレンダリング指示などである。また、広告の視認性や不正対策のためのシグナルも強化されている。
入札レスポンスは通常、非常に短い時間で返される必要がある。この時間制約を超えるとタイムアウトとなり、その入札は無効となる。そのため、DSPは高速な処理システムを構築し、必要に応じてエッジコンピューティング技術を活用して応答時間を最小化している。
Step 5 SSPでの入札処理
SSPは複数のDSPから受け取った入札レスポンスを評価する。この段階で重要なのが「フロアプライス」との比較である。フロアプライスとは、パブリッシャーが設定した最低落札価格であり、これを下回る入札は自動的に除外される。
近年のSSPでは、静的なフロアプライスから動的フロアプライスへの移行が進んでいる。動的フロアプライスは以下の要素に基づいて、リアルタイムで調整される。
- ページ品質とコンテンツカテゴリ
- 時間帯や曜日
- デバイスタイプやブラウザ
- 広告サイズと位置
- 過去のパフォーマンスデータ
- 需要と供給のバランス
また、SSPはこの段階で広告の品質評価も行う。広告主のブランド安全性評価、不正クリック履歴、マルウェアチェックなどを確認し、パブリッシャーのポリシーに合致しない広告を除外する。これにより、ユーザー体験とパブリッシャーのブランド価値が保護される。
SSPによっては、特定のディールやプライベートマーケットプレイス(PMP)の条件も考慮する。例えば、あるパブリッシャーが特定の広告主と優先的な取引条件を結んでいる場合、それらの入札は優先的に扱われることがある。
Step 6 勝者と価格の決定
フロアプライスを上回り、他の条件も満たした入札の中から、SSPは勝者を決定する。基本的には最も高い入札額を提示したDSP(広告主)が勝者となるが、価格の決定方法はオークションタイプによって異なる。
近年、業界標準はファーストプライス方式となりつつあり、勝者はちょうど自分が入札した金額を支払う。しかし、部分的にはセカンドプライス方式を採用するSSPや特殊なオークションモデルも存在している。
ヘッダービディングの導入により、複数のSSPが並行して入札を集める環境では、最終的な勝者は「SSP間のオークション」として決定される場合もある。これにより、パブリッシャーは収益を最大化できる一方で、システムの複雑性が増している。
価格決定後、SSPは勝者となったDSPに通知を送り、広告枠の確保を確定する。
Step 7 広告配信と通知
オークションの勝者が決まると、SSPは勝者のDSPから提供された広告クリエイティブ(またはそのURL)をパブリッシャーの広告サーバーに送信する。広告サーバーはそれを受け取り、ユーザーのブラウザに広告を表示する。
このプロセスにはいくつかの重要な要素がある。
-
広告レンダリング
広告は適切なフォーマットとサイズでレンダリングされる必要がある。デバイスのサイズや向きに合わせて自動調整される。 -
トラッキングピクセルの発火
広告が表示されると、インプレッショントラッキングピクセルが発火し、表示回数がカウントされる。これは課金の基礎となる。 -
ビューアビリティ測定
広告が実際にユーザーの画面に表示されたか(ビューアブルだったか)を測定する。2025年では、ビューアビリティはプログラマティック広告の標準的な評価指標とされる。 -
パフォーマンス通知
インプレッション、クリック、コンバージョンなどのイベントが発生すると、DSPとSSPに通知が送られ、リアルタイムでパフォーマンスが追跡される。
RTB取引全体の中で、Step 7は唯一ユーザーに見える部分である。それまでの複雑なプロセスはすべて裏側で、ユーザーが気づかないうちに完了している。ユーザーの目には、ページが読み込まれると同時に関連性の高い広告がシームレスに表示されるだけであるが、しかしその裏側には、高度なテクノロジーと複雑なエコシステムが存在していることが分かる。
各ステップで実行される技術とアルゴリズム
各ステップではさまざまな技術やアルゴリズムが活用されている。いくつか特徴的なものを覗いてみると次のようなものがあげられる。
ステップ | 使用される主要技術 | アルゴリズムの種類 | 目的 |
---|---|---|---|
インプレッション発生 | ・JavaScript広告タグ ・HTTPリクエスト処理 |
・非同期処理アルゴリズム | ・ページ読み込み時間への影響最小化 ・情報収集の効率化 |
DSPへのリクエスト | ・OpenRTBプロトコル ・分散サーバー処理 |
・ロードバランシング ・効率的なデータ圧縮 |
・複数DSPへの同時配信 ・レイテンシ最小化 |
DSP内オークション | ・機械学習モデル ・ディープラーニング |
・予測アルゴリズム ・多変量最適化 |
・コンバージョン確率予測 ・最適入札額の決定 |
入札レスポンス処理 | ・高速キャッシュ ・優先順位付け |
・リアルタイムソーティング | ・応答時間内での処理 ・最適な入札者の選定 |
SSPでの入札処理 | ・動的価格決定 ・フラウド検出 |
・異常検出アルゴリズム ・価格最適化 |
・不正入札の排除 ・収益最大化 |
勝者と価格の決定 | ・セカンドプライス/ファーストプライス ・ヘッダービディング統合 |
・ゲーム理論に基づく価格決定 | ・公平な価格決定 ・市場効率の向上 |
広告配信と通知 | ・CDN技術 ・リアルタイム分析 |
・キャッシュ最適化 ・レンダリング効率化 |
・広告表示の高速化 ・パフォーマンス測定 |
プライバシー時代のターゲティング
Googleは当初、2025年にChromeでのサードパーティCookieの段階的な廃止を計画していたが、現在その計画は見直されている。しかし、サードパーティCookieへの依存を減らし、プライバシー保護と両立する広告技術への移行は業界全体の喫緊の課題であり続けている。
サードパーティCookie廃止の影響と対応
サードパーティCookieは長年、デジタル広告のユーザー識別やトラッキングの基盤として利用されてきた。Googleによる廃止計画は中断されたが、参考までに議論されていた内容を整理する。
従前アプローチ | 対応 | メリット | 課題 |
---|---|---|---|
サードパーティCookie | プライバシーサンドボックス | ・ブラウザネイティブのプライバシー保護 | ・機能制限 ・実装の複雑さ |
デバイスID追跡 | ユニバーサルID(UID 2.0など) | ・クロスパブリッシャーの識別 | ・同意取得の難しさ |
詳細な行動追跡 | コンテキスト広告 | ・プライバシーを侵害しない | ・行動データの欠如 |
サードパーティデータ | ファーストパーティデータ活用 | ・高品質で同意ベースのデータ | ・データスケールの制限 |
クロスサイト追跡 | データクリーンルーム | ・安全なデータ連携環境 | ・技術導入コスト |
これらの代替アプローチは補完的に機能するものであり、一つの「銀の弾丸」的な解決策は存在しない。成功している広告主は複数のアプローチを組み合わせて活用している。
プライバシーサンドボックスと代替ID技術
プライバシーサンドボックスは、Googleが主導する一連のAPIと技術で、ユーザーのプライバシーを保護しながら広告のパーソナライズを可能にするものである。主な技術には以下のようなものがある。
技術 | 仕組み | 用途 | 制限事項 |
---|---|---|---|
Topics API | ・ブラウザが訪問サイトからトピックを推測 ・個人を特定しない形でトピック情報を広告オークション参加者に提供 |
・インタレストベース広告 ・コンテキスト強化 |
・粒度の低さ ・限られたトピック数 |
Protected Audience API | ・関連広告をブラウザ内で選定 ・サイト外に情報を漏らさない |
・リターゲティング ・類似オーディエンス |
・実装の複雑さ ・パフォーマンス評価の難しさ |
Attribution Reporting API | ・コンバージョン測定を安全に実施 ・個人を特定せずにレポート |
・広告効果測定 ・キャンペーン最適化 |
・遅延レポート ・集計データのみ |
一方、業界主導のユニバーサルID(UID)ソリューションも台頭している。これらは主にハッシュ化された電子メールアドレスや電話番号などの個人識別子を基に、サードパーティCookieに頼らないクロスサイト識別子を提供するものである。
代表的なUID | 運営組織 | 識別方法 |
---|---|---|
Unified ID 2.0 | The Trade Desk | ・ハッシュ化メールアドレス ・認証ベースのシングルサインオン連携 ・決定論的(deterministic)ID解決 |
ID5 Universal ID | ID5 | ・パブリッシャーのファーストパーティIDをベースとした識別子 ・決定論的・確率的マッチング手法の併用 |
LiveRamp RampID | LiveRamp | ・CRMデータとオンライン行動データの統合 ・グラフベースのID解決アーキテクチャ |
これらのソリューションはプライバシーサンドボックスと競合するものではなく、補完的に機能しうるものである。例えば、パブリッシャーの自社サイトではファーストパーティデータとUIDを活用し、外部サイトではプライバシーサンドボックスを通じたターゲティングを行うといった組み合わせが一般的になりつつある。
コンテキスト広告
コンテキスト広告は、ユーザー情報ではなくコンテンツに基づいて広告を配信する手法である。これ自体は新しい概念ではなく、むしろデジタル広告の原点回帰とも言える。しかし、AI技術によって、その精度と効果は向上している。
コンテキスト分析レベル | 技術 | 活用例 |
---|---|---|
キーワードマッチング | ・単語頻度分析 ・見出し抽出 |
・スポーツ記事にスポーツ用品広告 ・レシピにキッチン用品広告 |
セマンティック分析 | ・自然言語処理 ・トピックモデリング |
・投資記事に金融商品広告 ・旅行計画記事に目的地の宿泊施設広告 |
感情・トーン分析 | ・感情分析AI ・テキストセンチメント評価 |
・ポジティブな記事にブランド広告 ・問題解決コンテンツにソリューション広告 |
マルチモーダル理解 | ・画像認識 ・動画分析 ・音声理解 |
・料理写真付き記事に調理器具広告 ・ヨガ動画にフィットネス商品広告 |
予測的コンテキスト | ・ユーザー行動予測 ・次のアクション予測 |
・商品レビュー記事に関連商品広告 ・DIY記事に必要な次の道具の広告 |
先進的なコンテキスト広告プラットフォームは、単なるキーワードマッチングをはるかに超え、コンテンツの深い理解に基づいたターゲティングを実現している。例えば、あるスポーツ記事が「バスケットボール」「プレーヤー」「シューズ」といったキーワードを含むだけでなく、特定の選手のプレースタイルやファンの感情的な反応までを分析し、最適な広告を選定できるようになっている。
コンテキスト広告は、ユーザー情報を直接利用しないため、プライバシー規制の影響を比較的受けにくい。
ファーストパーティデータ活用戦略
ファーストパーティデータとは、企業が自社のユーザーから直接収集したデータのことである。これには、ウェブサイトの行動データ、アプリの使用状況、CRMデータ、購買履歴、ロイヤルティプログラム情報などが含まれる。
ファーストパーティデータは「新たな通貨」と言われるほど価値が高まっている。以下はファーストパーティデータを活用した戦略である。
戦略 | 実装方法 | 効果 | 事例 |
---|---|---|---|
セグメント構築 | ・行動パターン分析 ・購買履歴クラスタリング |
・高精度なターゲティング ・パーソナライズドマーケティング |
・Eコマース企業の購買頻度別セグメント ・メディアの記事閲覧履歴に基づく興味セグメント |
類似オーディエンス拡張 | ・機械学習モデル ・パターン認識 |
・リーチの拡大 ・新規顧客獲得 |
・高価値顧客と類似属性を持つ新規ユーザー獲得 ・コンバージョンユーザーの特性を基にした拡張 |
クロスデバイスID統合 | ・決定論的マッチング ・確率的マッチング |
・オムニチャネル測定 ・クロスデバイスエンゲージメント |
・ログインユーザーの複数デバイス追跡 ・オンライン閲覧と店舗購入の接続 |
データクリーンルーム活用 | ・安全なデータ共有環境 ・プライバシー保護分析 |
・パートナーデータの活用 ・プライバシーコンプライアンス確保 |
・小売業とCPGブランドのデータ協業 ・メディアと広告主の安全なデータ連携 |
特に重要なのがデータクリーンルームである。これは複数の組織が、個人を特定できる情報を共有せずにデータを安全に連携・分析できる環境を提供する。例えば、小売業者が保有する購買データと、メーカーが持つ広告接触データを安全に連携させ、プライバシーを侵害することなく広告効果を測定できる。
まとめ
RTBの世界は、まるで超高速で行われるデジタル版「せり市」である。ページを開いたその瞬間、裏では広告主たちが「この人に広告を見せたい!」とミリ秒単位で札束で殴り合っている。まさにお金がすべてを解決すると言える。
すこし気がかりなのは、最近「ゴリラ」でやたらと検索したのだが、まだ広告がゴリラに最適化されていないということだ。
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