NVIDIA Enterprise Reference Architecture の概要
はじめに
エンタープライズAI導入の加速に向けて、NVIDIAは2024年10月に「Enterprise Reference Architecture (Enterprise RA)」を発表しました[1]。このリファレンスアーキテクチャは、企業がAIファクトリーと呼ばれる高性能かつスケーラブルなデータセンターを構築するための包括的な設計ガイドラインです。32〜1,024 GPUの規模に対応し、NVIDIAの長年の経験と技術的専門知識を基に開発されています[2]。本記事は2025年5月時点の情報に基づいています。
TL;DR
- NVIDIAのEnterprise Reference Architectureは、企業が最適なAIインフラを迅速に構築するための設計ガイドラインであり、導入コストと時間を最大25%削減します[1:1]。
- 最新のNVIDIA Blackwell B200/B300 GPUと高速なNVLink(最大1.8TB/秒の帯域幅)を活用した認証済みサーバー構成を基盤としています[3][4]。
- Dell TechnologiesやHPEなどのパートナーと連携し、検証済みの「AIファクトリー」ソリューションを提供しており、すでに多くの企業で採用されています[5]。
アーキテクチャの主要コンポーネント
Enterprise RAには、以下の主要コンポーネントが含まれています[1:2][6]:
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アクセラレーテッドインフラストラクチャ:最新のNVIDIA Blackwell GPUやGrace CPU、ネットワーキング技術を特徴とする最適化されたNVIDIA認証サーバー構成を基盤とし、スケールでのパフォーマンスを提供するためにテストと検証が行われています[4:1]。Blackwell B200 GPUは、FP8精度で最大20 PFLOPS、FP4精度で最大40 PFLOPSの演算性能を提供します。
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AI最適化ネットワーキング:NVIDIA Spectrum-X AIイーサネットプラットフォームとNVIDIA BlueField-3 DPUを活用し、従来のEthernetと比較して1.6倍のピークネットワークパフォーマンスを提供します[2:1]。またNVLink技術により、第5世代では1.8TB/秒の高帯域幅でGPU間の直接通信を実現し、PCIe Gen5の14倍の速度を実現します[3:1]。
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NVIDIA AI Enterpriseソフトウェア:エンドツーエンドのクラウドネイティブソフトウェアプラットフォームとして、データサイエンスパイプラインを加速し、本番環境グレードのコパイロットやその他の生成AIアプリケーションの開発と展開を効率化します[7]。NeMoフレームワークやNIM推論マイクロサービスを含み、AIワークフローの構築と展開を簡素化します。
展開パターンと活用メリット
Enterprise RAは、スケールアップとスケールアウトの両方の展開パターンをサポートしています[1:3][2:2]。
展開パターン | 説明 | 適用シナリオ |
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スケールアップ | NVLinkを使用して高帯域幅のマルチノードGPUクラスタを作成し、1つの巨大GPUとして扱えます | 単一の大規模モデルトレーニング |
スケールアウト | 複数のノードで分散処理を行い、全体のキャパシティを拡大 | バッチ推論や複数のAIワークロード |
また、MIG(Multi-Instance GPU)技術により、単一のGPUを最大7つの独立したインスタンスに分割できます[8]。各インスタンスは専用のメモリ、キャッシュ、計算コアを持ち、高いQoS(Quality of Service)で異なるワークロードを同時に実行できます。これにより、リソース活用度が最大7倍向上します。
企業がEnterprise RAを活用することで得られる主なメリットには以下があります[1:4]:
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市場投入時間の短縮:NVIDIAの構造化されたアプローチと推奨設計を活用することで、企業はより速くAIソリューションを展開でき、ビジネス価値を迅速に実現できます。
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複雑性の軽減:AIワークロードに最適なサーバー、クラスター、ネットワーク構成を通じて、展開タイムラインを加速し、設計と計画の落とし穴を回避します。
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拡張性と管理性の向上:インフラストラクチャの成長に合わせて容易にスケールでき、一貫した管理が可能です[3:2]。NVLink技術により、GB200 NVL72では最大72個のBlackwell GPUを相互接続し、130TB/秒のGPU帯域幅を実現します。
企業導入事例:Dell AI Factory
Dell Technologiesは、NVIDIAのEnterprise Reference Architectureを活用した「Dell AI Factory with NVIDIA」を2024年3月に発表しました[5:1]。これは、企業向けの包括的なAIソリューションとして設計され、データセンターからエッジまでのAIワークロードをサポートします。
Dell AI Factoryの主な特徴:
- NVIDIAのH100/H200/B200 Tensor Core GPUを搭載したDell PowerEdgeサーバー
- 最適化されたAIインフラとGenAIワークフロー
- NVIDIA AI Enterpriseソフトウェアプラットフォームの統合
- NIM Agent BlueprintsによるAIユースケースのカタログ化
実装例として、Dell TechnologiesとNVIDIAは「Israel-1」という大規模AIクラスターを共同開発しました[9]。このシステムは256台のDell PowerEdge XE9680 AIサーバーと2,048個のNVIDIA H100 GPUを備え、世界最速クラスのAIシステムとなっています。
用語解説
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MIG (Multi-Instance GPU): NVIDIAのGPUを最大7つの独立したインスタンスに分割する技術[8:1]。各インスタンスは独自のメモリ、キャッシュ、計算コアを持ち、1つのGPUで複数のAIワークロードを同時実行できます。
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NVLink: GPUとCPU間の高速相互接続技術[3:3]。第5世代では1.8TB/秒の帯域幅を提供し、PCIe Gen5の14倍の速度を実現します。GPU間のデータ転送を高速化し、大規模なモデルトレーニングと推論に不可欠です。
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NVSwitch: 複数のGPUを接続するためのスイッチチップ[3:4]。NVL72構成では144のNVLinkポートを持ち、最大576のGPUを非ブロッキングのコンピュートファブリックで接続可能です。
まとめ
NVIDIAのEnterprise Reference Architectureは、AIインフラストラクチャの導入に伴う課題を解決するための包括的なアプローチを提供します[1:5][6:1]。最新のBlackwell GPUとNVLink技術、そしてMIGのようなリソース最適化技術により、企業は高性能かつスケーラブルなAIファクトリーを迅速に構築し、生成AIの可能性を最大限に活用できます。Dell AI Factoryのような実装例が示すように、実際のビジネス現場でもすでに活用され始めています[5:2][9:1]。
参考文献
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NVIDIA Unveils Enterprise Reference Architectures for AI Factories ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎
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NVIDIA Releases AI Reference Architectures For Enterprise-Class Hardware ↩︎ ↩︎ ↩︎
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NVLink & NVSwitch: Fastest HPC Data Center Platform | NVIDIA ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎
-
The Engine Behind AI Factories | NVIDIA Blackwell Architecture ↩︎ ↩︎
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A State-of-the-Art Data Center for Large-Scale AI | Dell USA ↩︎ ↩︎
Discussion