データサイエンティストのリサーチスキル:技術とデータを見極める情報収集の力
はじめに
こんにちは、SE出身のデータサイエンティスト「マチ」です。日々の業務の中で、技術動向をキャッチアップしたり、分析に必要なデータを集めたりする機会が多くあり、「どうやったら効率よく調べられるか?」「何から調べればいいか分からない」「調べても浅い情報しか見つからない」と悩むことは多いのではないでしょうか。
そこで、書籍「外資系コンサルのリサーチ技法」を参考にしながら、データサイエンティストにとって実用的なリサーチの流れと方法を整理してみました。
1. なぜ情報を集めるのかを明確にする
リサーチの第一歩は、「何を調べるか」ではなく、「なぜ調べるのか」を明確にすることです。
1-1. 答えるべき問いを立てる
リサーチの方向性がブレないよう、目的と対象を具体化しましょう。
✕:データのトレンドを知りたい
○:商品Aの売上に影響を与える外部要因データを特定したい
1-2. ステージごとにリサーチ方針を調整する
調査対象の進行度によって、リサーチの方法や深さ・広さを変える必要があります。なお、仮説検証の根拠情報は多ければよいわけではありません。企画を判断する相手に応じた「説得力の粒度」を意識しましょう。
ステージ | 調査の目的 | 例 |
---|---|---|
検討着手 | 全体像・基礎理解 | LLM全体の仕組みと主要なモデルをざっくり知る |
仮説立案 | 比較・傾向 | どの言語モデルが日本語に強いか見極める |
仮説検証 | 根拠づけ | モデルAが特定ユースケースに強い理由を示す |
補足:事例の比較ポイント
社内の既存事例との比較ポイント
・目的・課題
・データ種別
・データ量
・解析手法
・目標値
・精度
・実施期間
・分析環境
社外の既存事例との比較ポイント
・目的・課題
・データ種別
・データ量
・解析手法
・精度
1-3. 成果物のイメージを持つ
「いつまでに、どこまで、どの精度で」調べるかを考えておくと、リサーチの工数が適切になります。
- スピード(いつまでに?)
- 網羅性(どこまで調べる?)
- 精度(どの程度の信頼性が必要?)
2.情報収集の計画を立てる
調べ始める前に、「どの情報源にあたり、どの順番で調べるか」をざっくりでも決めておくことが効率的なリサーチに繋がります。
2-1. ソースを選定する
欲しい情報 | ソース例 | データ分析への活用視点 |
---|---|---|
トレンド・全体像 | Web記事、書籍、Qiita、Zenn | 技術選定や実装方針の初期検討 |
体系的知識 | 白書、レポート、論文 | ユースケース比較、精度検証 |
実務データ | 公的統計、企業データ、API | 分析用の特徴量・外部要因データ収集 |
特に分析に活用するデータを収集する場合は、「どこから入手できるか」「どれくらいの頻度で更新されるか」「定義が明確で一貫しているか」といった観点を事前に確認しておくことが重要です。
2-2. 効率的な順序で進める
- まずは社内や詳しい人に聞いてみる
→ 時短&方針確認になります。 -
複数のソースを並行して確認する
→ 情報の信頼性やスピード感が上がります。 - 仮説が間違っていた場合の代替案も用意する
→ あらかじめ複数の仮説や調査ルートを持っておくことで、途中で方向転換が必要になった際の「調査のやり直しコスト」を最小限に抑えることができます。
3.情報を探す・作る
各媒体を利用する際のTipsを以下にまとめました。
3-1. Web検索
- 分かること・分からないことを意識する
- 時間制限を設ける(例:1時間以内)
- 類義語や英語表現などの「代替キーワード」も用意し、
複数のキーワードを組み合わせて検索する - 発信者のポジション・鮮度(何年前?)をチェックする
- 検索効率を高めるために、Googleの検索演算子
(例:"完全一致"、site:、filetype:、-除外語、OR、cache: など)を使いこなす - 画像検索で図表を探す
情報収集のサイト
3-2. 書籍・業界本
- 業界の常識を把握したいときに活用する
- 専門書は“インデックス読み”を意識する(キーワードだけ拾う)
- 似たテーマの本を3冊読むことで多角的に理解できる
- ファクトと主張を見極める
3-3. 公的統計・オープンデータ
- 総務省統計局、e-Stat、各種業界団体のサイトを起点にする
- 世界銀行、OECDなどは国際比較に有効
- 調査頻度・サンプルサイズに着目する
- 指標の定義や算出方法に気を付ける(基準を揃える)
- 未公開データでも制度(miripo)を活用して獲得する
3-4. 民間の調査レポート
- 野村総研、矢野経済研究所、ガートナーなどのレポートも活用
- 一部は有料だが、目次やサマリーだけでも示唆が得られることが多い
3-5. 記事・ニュース
- 企業や業界キーワードでニュースを定期的に検索する
- 固有名詞や数字から「芋づる式」に関連情報を広げる
- 時系列で事象を追う
- お気に入りの記事検索ツールを見つける
3-6. API/スクレイピング
- 継続的なデータ取得にはスケジューリングや保存設計も考慮する
- スクレイピングやクローリングが利用規約で禁止とされている場合が多いので注意する
データ収集に使えるAPI・RSSのまとめ
1. ソーシャルメディア/コミュニケーション系
API名 | 取得できる主なもの |
---|---|
X(旧Twitter)API | 投稿、ユーザー、トレンドなど |
Facebook Graph API | 投稿、ページ、イベントなど |
Instagram Graph API | 投稿、インサイト、ハッシュタグなど |
YouTube Data API | 投稿、ユーザー、トレンドなど |
2. Web/ニュース/コンテンツ系
API名 | 取得できる主なもの |
---|---|
Wikipedia API | 記事情報、履歴、リンク構造など |
livedoor RSS | カテゴリごとのニュース |
Yahhoo!ニュース RSS | 各ジャンルのニュース |
3. 金融/マーケット系
API名 | 取得できる主なもの |
---|---|
Yahoo Finance API | 株価、財務指標、企業情報 |
J-Quants API(日本取引所) | 株価四本値、企業財務、業種分類などを提供 |
EDINET API(金融庁) | 有価証券報告書や四半期報告書を取得可能(JSON/XML) |
4. 経済/統計/公共データ系
API名 | 取得できる主なもの |
---|---|
政府統計API(e-Stat API) | 日本の統計データ(人口、雇用など) |
World Bank API | 国際的な経済・開発指標 |
5. テクノロジー/開発者向けプラットフォーム系
API名 | 取得できる主なもの |
---|---|
GitHub API | リポジトリ、ユーザー、Issue、Pull Requestなど |
Google Analytics Data API | ウェブサイトのアクセスログ、ユーザー行動 |
6. 位置情報/地理空間データ系
API名 | 取得できる主なもの |
---|---|
Google Maps API | 位置検索、経路、ジオコーディング |
7. eコマース/レビュー/価格比較系
API名 | 取得できる主なもの |
---|---|
Amazon Product Advertising API | 商品情報、レビュー、価格 |
Rakuten API | 商品検索、ジャンル、レビュー |
8. 気象/自然データ系
API名 | 取得できる主なもの |
---|---|
気象庁 防災XML | 地震・津波・警報などをXML形式で取得可能 |
気象庁 過去の気象データ | CSVで地点別・日別の気象データがダウンロード可能 |
OpenWeatherMap | 基本的な現在天気・予報が取得可能 |
Weather Data API(日本気象協会) | 郵便番号や日付を指定して簡単にデータ取得が可能。 最大8週先までの予測が可能。 |
MICOS API(日本気象協会) | 業種別にカスタマイズされたAPIで、 ビジネスニーズに対応。 |
9. ヘルスケア/医療系
API名 | 取得できる主なもの |
---|---|
NDBオープンデータ(厚生労働省) | NDB(レセプト・特定健診等)から集計された 医療・健康情報(例:診療件数、薬剤、健診データ)を CSV形式で公開。 |
10. 交通/モビリティ系
API名 | 取得できる主なもの |
---|---|
公共交通オープンデータ協議会(ODPT API) | 駅情報、時刻表、運行状況、路線・運賃などの データをREST API(JSON形式)で提供。 |
HeartRails Express API | 全国鉄道駅の名称、路線など地理情報を提供。 |
国土交通省 交通量API(JARTIC) | 国道約2,600箇所の方向別交通量データ (5分値/1時間値)を提供。 |
乗換案内オープンAPI(ジョルダン) | 「乗換案内」の出発地・目的地・時刻指定検索が 可能なAPI。 |
YOLP(Yahoo!地図)経路地図API | 地図上にルートを描画可能。 |
おまけ:APIを提供するプラットフォーム
プラットフォーム名 | 概要 |
---|---|
API Gallery | 幅広い金融APIを中立的に掲載。 |
APIbank | 開発者、自治体、企業、個人など幅広く対応。 |
3-7. ソーシャルリスニング
- SNS・掲示板からのユーザーの声を収集
- 特定のプロダクトや社会現象の反応を探るのに有効
- まずはツールを使わずに自分で口コミサイトを眺めて肌感覚をつかむ
- 目的に合わせて適切なメディアを選ぶ
- データ量と期間の観点から分析の実現可能性を確かめる
- 無料ツール(Yahoo!リアルタイム検索、X高度検索)や有料ツールの活用も検討する
- RTやBotを排除すべきことに留意する
3-8. アンケート調査
- 特定のユーザー層の傾向を定量的に知りたいときに使える
- GoogleフォームやSurveyMonkeyなどのツールで設計可能
3-9. フィールド調査/インタビュー
- 実地観察・ヒアリングによる質的データ収集
- ユーザーインサイトやビジネス課題の深掘りに役立つ
4.情報を整理し、使える形にする
集めた情報は、構造化・可視化しないと活用しづらくなります。例えば、以下のような表で整理しておくと、再利用や共有にも便利です。
ソース | 観点 | 内容 | 情報鮮度 | 出所 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
https... | 外部要因データ | 気象データ | 2025年5月 | 気象庁 オープンデータ |
CSV形式で 日次取得可能 |
書籍「XXXXX」 | LLM事例 | 国内大手の 導入状況 |
2025年6月 | 各社公式ニュース | 法人用途の 傾向あり |
さいごに
データサイエンティストにとって、リサーチスキルは「調べて終わり」ではなく、「問いを立て、情報を使って仮説を作り、検証していく」ための基盤です。そしてそれは、技術トレンドを追う場面でも、分析用のデータを探す場面でも共通して役立つスキルです。今回ご紹介した内容が、日々のリサーチやデータ収集のヒントになれば幸いです。
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