非エンジニアがAI駆動開発するための、たった一つの考え方
セキュリティエンジニアのhikaeです。開発者でない人がAIの本当の力を引き出し、自分の手で仕事を変えるには何を身につけるべきでしょうか。この記事では、Anthropic社の資料をもとにAIと協業するためのフィーチャーチームの作り方を紹介します。
フィーチャーチームを作る
まず開発の世界で使われる「フィーチャーチーム」という言葉を紹介します。これは、一つの機能を作るために、企画、設計、開発、検査といった、必要な全ての専門家が集まった、それだけで完結するチームを指します。
この考え方を、あなたとAIとの協業にそのまま当てはめます。
- あなた(非専門家): 企画責任者 兼 チームリーダー
何を解決したいのか、なぜそれが必要なのかを決め、機能の全体像を描く最高責任者です。使い手(あなた自身や同僚)の課題を最も深く理解し、その機能が生み出す価値を定めます。 - AI(コーディング・エージェント): あなた専属の技術者
あなたが決めた「何」と「なぜ」を受け取り、それを実現するための「どうやって作るか」を専門に担当します。技術的な作業は、すべてAIの役割です。
フィーチャーチームが達成できること
フィーチャーチームはどのような価値を生み出すでしょうか。Anthropic社の社内事例を参考に、実現できることを見ていきましょう。
How Anthropic teams use Claude Code
経験ゼロでも、複雑な業務の自動化を実現できる
専門の技術者が一人もいないAnthropic社の財務チームは、実行したいデータ処理の内容を平易な言葉でAI技術者に指示するだけで、複雑な仕事の手順の自動化に成功しています。
「多能な専門家」になる
法律の専門家であるあなたが、チーム内の情報共有を効率化する仕組みを自ら開発する。設計の専門家であるあなたが、技術者に頼むことなく、デザインの細かい修正を直接行う。AIという優秀な技術者を得ることで、深い専門知識を持ちながら、着想から実現までを一人で推し進められる「多能な専門家」へと成長します。
アイデアを、素早く「動く形」にする
設計図の画像をAI技術者に見せるだけで、すぐに触れる試作品が完成するのです。これにより、失敗にかかる費用は劇的に下がり、大胆な挑戦がしやすくなります。
「自立した働き方」を手に入れる
「このデータを抽出したい」「この作業を自動化できないか」といった技術部門への依頼をせずとも目的を達成できるようになります。他のチームの作業がブロッカーになることを減らし、フロー効率の向上が達成されます。
Anthropic社の実例をまとめてみました。開発とは異なる専門分野を持っているからこそ抱える課題に対し、AI技術者との協業は大きな力を発揮します。
あなたの役割 | 解決したい課題 | AI技術者との協業 | 得られる価値 |
---|---|---|---|
グロースマーケ | 大量の広告を手作業で作っている | 広告成果の資料を読み込み、成果の低い広告を見つけ、新しい広告文を自動で作る手順を構築 | 手作業の大幅な削減と、改善サイクルの高速化 |
プロダクトデザイン | デザインの細かい修正を技術者に頼む必要がある | 設計図の画像を貼り付け、操作できる試作品を生成。見た目の細かい修正を直接指示 | 考えをすぐに検証でき、設計から実現までの時間を短縮 |
法務 | 定型的な問い合わせ対応に時間がかかる | 部署内の週次報告を自動化したり、問い合わせ対応用の簡単な応答システムの試作品を構築 | 定型業務の自動化と、チーム内の意思疎通の効率化 |
財務・経理 | 専門知識がないと複雑なデータ集計ができない | 実行したいデータ処理の内容を平易な日本語で指示し、AIに自動で実行させる | 専門家への依存を減らし、必要な時に必要なデータを自ら得られる自立性の獲得 |
AI技術者への「最高の指示」の出し方
フィーチャーチームの成功は、リーダーであるあなたの「伝え方」にかかっています。ここでは、AI技術者に対して効果的な指示を出すための4つの戦略を紹介します。
戦略1:実行の前に「作戦会議」を開く
優れたリーダーは、いきなり作業を指示しません。まず、事業の全体像、目的、そして成功の定義について、AIと徹底的に対話します。「この事業を最も効率的に進めるための最適な手順は?」「考えられる問題点は何か?」といった事前の計画が、最終的に出来上がるものの質を決定づけます。
戦略2:「細部が大事」な仕様書を書く
「不具合を直して」のような曖昧な指示は、チームを混乱させるだけです。「利用者が日付を入れずに『送信』ボタンを押すと、仕組みが停止する。期待する動きは、日付入力欄の下に『日付を入力してください』という警告を赤字で表示することだ」というように、現状・期待する動き・具体的な仕様を揃えて伝えることが、リーダーの責任です。
戦略3:大きなプロジェクトは「短期計画」に分割する
仕組み全体を一度に作らせようとするのは、無謀な計画です。「作業1:入り口のページを作成」「作業2:主要な操作画面を作成」というように、プロジェクトを管理可能な小さな作業に分割し、一つずつ完成させていく。エンジニアでは分割統治という言葉で表される手法です。
戦略4:チームの「行動指針」を共有する
優れたチームには、共有された価値観や行動指針があります。設定用のファイル(Claude Codeの場合はCLAUDE.md)に、「私は専門家ではない。全ての段階を詳細に説明し、変更は少しずつ行うこと」といった 「チームの決まり事」を書き込んでおきます。 自分について説明することで、AIがより我々にアラインした行動をとるようになります。
リーダーとして、最初のプロジェクトを始めよう
AIの登場は、単なる技術の進歩ではありません。それは、あらゆる専門家でない我々が、自らの専門知識を武器に、技術を駆使して価値を創造する「開発の主役」になる時代の幕開けです。
必要なのは、コードを書く技術ではありません。解決したい課題を見つけ、展望を描き、優秀なAI技術者を率いて事業を前に進める「指導力」です。
リーダーとして、AIと最初のプロジェクトを始めてみませんか。
今回の記事はAnthropic社の「How Anthropic teams use Claude Code」を参考にしています。この記事の内容をより深く知りたいと感じた方は、ぜひ原文もご覧ください。
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