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シンプルに書く(Write Simply)

2024/12/07に公開

これは ポール・グレアム翻訳 Advent Calendar 2024 8日目の記事です。


2021年3月

簡単な言葉を使ってシンプルな文で書こうと私は心掛けています。

こうした書き方は読みやすく、読みやすければ読者は理解しやすくなります。文章を読むのに労力を使わずに済めば、読者はその分アイデアの本質に集中できます。

また、読み進めやすくもなります。多くの読者は記事やエッセイから途中で離脱してしまいますが、「抵抗」が少なければより多くの人が最後まで読み通すでしょう。

イタリア料理に「サルティンボッカ」という料理がありますが、これは「口の中に飛び込む」という意味です。私は文章を書く際、頭の中にアイデアが飛び込んでくるような、言葉の存在をなるべく意識させないものを目指しています。

アイデアだけを純粋に伝える文章を書くのは難しいですし、常にそれが望ましいとも限りません。しかし、多くの書き手にとってその方向を目指す価値があります。多くの文章が純粋なアイデアから遠ざかっているのは詩的な理由からではありません。

また、シンプルに書くのは読者への思いやりでもあります。飾った言葉で知識を誇示しようとするのは読者に無駄な負担を強いることです。これは読者に長くて重いドレスの裾を持たせるようなものです。

英語で書く場合、母語が英語ではない読者が多いことも考慮すべきです。難しい内容を扱うからといって難しい言葉遣いが正当化されるわけではありません。

難解な文章はアイデアを隠すだけでなくアイデアの欠如を隠すこともあります。あえてそういう書き方をする人は、伝えるべきものがないことを隠そうとしているのかもしれません。一方シンプルに書くことは正直であることの助けになります。シンプルな書き方で中身のないことを書けばすぐ見抜かれてしまうからです。

シンプルな文章は朽ちにくくもあります。未来の読者があなたの文章を読むときの立場は今の外国人読者と似ています。文化や言語は変わります。シンプルさを意識して書くことは有意義で、木工職人が長持ちする椅子を作るための工夫をするようなものです。

文書も椅子も耐久性は偶然生まれるものではありません。それゆえ優れた品質の証になるのです。

しかし、シンプルな書き方にこれだけ利点があるにしても、私がこれを実践する最大の理由は別にあります。それは、複雑な文章や不必要に難しい言葉を使うことが、私自身にとって居心地が悪いからです。そんな文章を書くのは洗練されているどころか不格好だと感じます。

もちろん意図的に複雑な文章や難解な言葉を使うこともありますが、無意識にすべきことではありません。

シンプルな文章になるもう一つの理由は私の執筆プロセスにあります。最初の草稿を素早く書き、その後数日かけて推敲を重ねて完成度を高めていきます。この過程で多くの部分を削り、結果として文章はよりシンプルになります。

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