優れたプログラマーの95%を迎え入れよう(Let the Other 95% of Great Programmers In)
これは ポール・グレアム翻訳 Advent Calendar 2024 13日目の記事です。
- 英語原文:Let the Other 95% of Great Programmers In
- Paul はエッセイの翻訳を許可しています
- 翻訳原稿は https://github.com/spinute/zenn/blob/master/articles/3dfed7043609e8.md で公開しています(修正・改善のための issue や PR を歓迎します)
2014年12月
アメリカのテクノロジー企業は、より多くのプログラマーを確保するため、政府に移民受け入れの緩和を求めています。国内では十分な人材を確保できないというのが、彼らの主張です。一方で、反移民派は外国人に仕事を奪われるのではなく、より多くのアメリカ人をプログラマーとして育成すべきだと主張しています。どちらの意見が正しいのでしょうか?
テクノロジー企業の主張が正しいと私は考えます。反移民派は有能なプログラマーと優れたプログラマーの間にある大きな能力差を理解していません。有能なプログラマーは教育で育てられますが、優れたプログラマーは育ててなるものではありません。優れたプログラマーは単なる教育の産物ではなく、生まれながらの適性と情熱を持っているのです。[1]
アメリカの人口は世界の5%に満たないため、プログラミングの才能が世界中で均等に分布していると仮定すれば、優れたプログラマーの95%はアメリカ国外で生まれているはずです。
反移民派は、テクノロジー企業が移民受け入れの緩和に多大な労力を費やしている理由を説明するために、別の理由を探そうとします。彼らは企業が賃金を抑制したいだけだと主張します。しかしスタートアップ企業に話を聞くと、多くの企業がアメリカでプログラマーを雇用するための煩雑な法的手続きを経て、結局アメリカ人と同じ賃金を支払っています。同じ賃金を払うのならなぜそこまでの手間をかけるのでしょうか?唯一の説明は企業の主張が真実だということです:本当に優れたプログラマーが不足しているのです。[2]
70人以上のプログラマーを抱えるスタートアップのCEOに、望むだけ優秀なプログラマーを採用できるとしたら何人雇うかを尋ねたところ「明日にでも30人採用したい」という答えが返ってきました。これは、採用市場で常に勝ち続けている人気スタートアップの話です。シリコンバレーではこれが普通なのです。それほどまでにスタートアップは人材不足に悩んでいます。
より多くのアメリカ人をプログラマーとして育成できれば素晴らしいことですが、95対5という圧倒的な比率を覆すことは不可能です。特に他国でもプログラマーの育成が進んでいる現状では尚更です。何か劇的な変化がない限り、優れたプログラマーの大多数は常にアメリカ国外で生まれることになるでしょう。優れた才能を持つ人材の大半が、アメリカ以外で生まれるのは必然なのです。[3]
ある分野で卓越するには移民の受け入れが不可欠です。世界人口のわずか数パーセントしかない国が、何かの分野で突出した成果を上げるためには、多くの移民の力を借りる必要があります。
しかし、この議論には一つの前提があります。アメリカが優れたプログラマーを受け入れる体制を整えれば、彼らがやって来るだろうということです。現時点ではそれは正しいのですが、私たちはこの幸運な状況をあまりにも当然視しています。この優位性を維持したいのであれば、最善の方法は積極的に活用することです。世界中の優れたプログラマーがここにいればいるほど、残りの優秀な人材もここを目指すようになるでしょう。
もしこの機会を逃せばアメリカは深刻な打撃を受けることになりかねません。大げさに聞こえるかもしれませんが、この問題を軽視している人々はここで働いている力の大きさを理解していないのです。テクノロジーは優れたプログラマーに大きな影響力を与えます。プログラマーの労働市場は急速にグローバル化が進んでいます。そして優秀な人材は優秀な仲間を求めるため、優れたプログラマーたちは少数の拠点に集中する可能性があります。あるいはほぼ一箇所に集中するかもしれません。
もし優れたプログラマーの大半が一つの拠点に集まり、それがアメリカ以外の場所だったらどうでしょう?今は考えにくいシナリオかもしれませんが、過去50年間の変化を振り返ればこれから50年でそれほどの変化が起きても不思議ではありません。
アメリカがテクノロジー大国としての地位を維持するために必要なのは、年間数千人の優れたプログラマーを受け入れることだけです。この機会を逃すのは取り返しのつかない過ちとなるでしょう。それはこの世代の政治家たちが後世に名を残すような重大な失態となるかもしれません。そして、同様の重大な過ちとは違って修正コストは実質的にないのです。
だからこそ、今すぐ行動を起こすべきなのです。
謝辞
サム・アルトマン、ジョン・コリソン、パトリック・コリソン、ジェシカ・リビングストン、ジェフ・ラルストン、フレッド・ウィルソン、カサール・ユーニスに草稿を読んでいただいたことを感謝します。
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優れたプログラマーと普通のプログラマーの違いはどれほど大きいのでしょうか?あまりに大きすぎて直接測ることはできません。優れたプログラマーは単に同じ作業をより速くするだけでなく、普通のプログラマーが思いもよらないような発明をします。このような発明には市場価値が限られているため、優れたプログラマーが無限に価値があるというわけではありません。しかし、ある発明が普通のプログラマーの給料の100倍、さらには1000倍の価値がある場合も考えられます。 ↩︎
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H1-Bビザで多くの外国人プログラマーを雇って提供しているコンサルティング企業が一握り存在します。これらに対しては断固取り締まるべきです。技術企業とは明らかに異質なのでこれを区別する法案は簡単に書けるはずです。しかし、反移民派がグーグルやフェイスブックのような企業が同じ動機で動いていると主張するのは不誠実です。安価で凡庸なプログラマーの流入はこのような企業にとっては最悪で、彼らを破壊してしまいます。 ↩︎
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このエッセイではプログラマーについて言及していますが、我々が輸入する必要があるのはプログラマーだけでなく、デザイナーや電気技師に至るまでの幅広い人材です。これを総称するには「デジタルタレント」という言葉が最善かもしれません。新しい造語で読者を混乱させるよりも論点を少し狭める方が良いと思えました。 ↩︎
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