errors.Is, errors.As は(単なる)比較関数ではない
という記事を見かけたが微妙に「???」な印象だったので,私なりに書き直してみる。
Go におけるエラー・ハンドリングの戦術
Go におけるエラー・ハンドリングの戦術は大まかに以下の3つのいずれか,または組み合わせである。
-
error
インスタンス同士の同値性[1] を調べる(ポインタ値を含む) -
error
インスタンスから具体的な型で括り出す -
error.Error()
メソッドで出力される文字列を解釈する
まぁ,3番めはバッドノウハウなので華麗にスルーするとして,1番目に相当するのが errors.Is()
,2番目に相当するのが errors.As()
の各関数である。
昔々...
errors.Is()
,errors.As()
各関数がなかった頃はどうしてたか。
たとえば,以下のようなファイルをオープンしてみるだけの関数があったとする。
func checkFileOpen(path string) error {
file, err := os.Open(path)
if err != nil {
return err
}
defer file.Close()
return nil
}
この関数の返り値は以下のように評価できる。
func main() {
if err := checkFileOpen("not-exist.txt"); err != nil {
switch e := err.(type) {
case *os.PathError:
if errno, ok := e.Err.(syscall.Errno); ok {
switch errno {
case syscall.ENOENT:
fmt.Fprintf(os.Stderr, "%v ファイルが存在しない\n", e.Path)
default:
fmt.Fprintln(os.Stderr, "Errno =", errno)
}
} else {
fmt.Fprintln(os.Stderr, "その他の PathError")
}
default:
fmt.Fprintln(os.Stderr, "その他のエラー")
}
return
}
fmt.Println("正常終了")
}
まず,返ってきた error
インスタンスから *os.PathError
型で括り出し,更にその属性 Err
を syscall.Errno
型で括りだしている。その上で syscall.Errno
型の値を定義済みインスタンスと比較してエラーを判定しているのだ。
このように Go でエラーハンドリングを行う際はエラーの内部構造をあらかじめ知っておく必要があるため,どうしても煩雑になる。
改訂版エラーハンドリング
上の評価を errors.Is()
,errors.As()
各関数を使って行うとこんな感じにできる。
func main() {
if err := checkFileOpen("not-exist.txt"); err != nil {
var errPath *os.PathError
if errors.As(err, &errPath) {
switch {
case errors.Is(errPath.Err, syscall.ENOENT):
fmt.Fprintf(os.Stderr, "%v ファイルが存在しない\n", errPath.Path)
default:
fmt.Fprintln(os.Stderr, "その他の PathError")
}
} else {
fmt.Fprintln(os.Stderr, "その他のエラー")
}
return
}
fmt.Println("正常終了")
}
もっと言えば syscall.Errno
型の値を定義済みインスタンスと比較するだけでいいのなら
func main() {
if err := checkFileOpen("not-exist.txt"); err != nil {
switch {
case errors.Is(err, syscall.ENOENT):
fmt.Fprintln(os.Stderr, "ファイルが存在しない")
default:
fmt.Fprintln(os.Stderr, "その他のエラー")
}
return
}
fmt.Println("正常終了")
}
で済む。カンタン!
Unwrap()
メソッドで垂直方向にエラーを構造化する
Go 1.13 からは,エラーハンドリングにおいて Unwrap()
メソッドの有無が考慮される。
// Unwrap returns the result of calling the Unwrap method on err, if err's
// type contains an Unwrap method returning error.
// Otherwise, Unwrap returns nil.
func Unwrap(err error) error {
u, ok := err.(interface {
Unwrap() error
})
if !ok {
return nil
}
return u.Unwrap()
}
これによって標準パッケージだけで垂直方向の構造化エラーを扱えるようになった。たとえば,先程の *os.PathError
型であれば
func (e *PathError) Unwrap() error { return e.Err }
と定義されていて Unwrap()
メソッドで原因エラーを返すようになっている。
これにより,内部構造をすっ飛ばして
if errors.Is(err, syscall.ENOENT) {
...
}
のように原因エラーを直接評価できるのである。
errors.As()
は恥だが役に立つ
errors.Is()
関数 はともかく errors.As()
関数はちょっと... いや,だいぶカッコ悪い。
var errPath *os.PathError
if errors.As(err, &errPath) {
...
}
本来なら変換した型を返り値として返すべきなのに引数としてポインタ渡ししている。C言語か(笑)
実は,元々の proposal では errors.As()
関数は総称型(generics)の実装と抱き合わせだったのだ。たとえばこんな感じ。
func As(type E)(err error) (e E, ok bool) {
for {
if e, ok := err.(E); ok {
return e, true
}
err = Unwrap(err)
if err == nil {
return nil, false
}
}
}
でも総称型が投入されるのはしばらく先だし,とりあえず現行の仕様の範囲で実装するとあんな感じにダサくなってしまうのだ。まぁ,内部構造を気にせず指定した型で括り出せるのは便利だし,総称型の登場を楽しみにしつつ現状でなんとかやりくりしよう。
というわけで,宣伝
自作パッケージで使っているエラーハンドリングを切り出して,独立したパッケージとして公開している。そのまま使うなりコピペしてアレンジして使うなり,ご自由にどうぞ。
その他,参考
- エラー・ハンドリングについて(追記あり) — プログラミング言語 Go | text.Baldanders.info
- Go 1.13 のエラー・ハンドリング — プログラミング言語 Go | text.Baldanders.info
- 構造化エラーをログ出力する — プログラミング言語 Go | text.Baldanders.info
-
等値とか等価とかの言葉を使うと絶対に混乱が起きるし,この手の宗教論争に巻き込まれるのは御免なので,インスタンスの値またはポインタ値が単純に同じという意味で「同値」とした。 ↩︎
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