欧州衛星コンステレーションIRIS²解説(随時更新)
はじめに
本記事では、欧州で計画されている衛星コンステレーションIRIS²の解説をします。
概要
IRIS²は、欧州委員会(EC: European Commission)主導の衛星コンステレーション計画です。測位衛星のGalileoや地球観測衛星のCopernicusもECのプロジェクトです。
IRIS²はInfrastructure for Resilience, Interconnectivity and Security by Satelliteの略語であり、直訳すると「レジリエンス、相互接続性、セキュリティのための衛星によるインフラ」となります。
このコンステレーション計画のプログラムは、2022年11月17日に、欧州理事会と欧州議会によって合意されました。
IRIS²のファクトシートによると、IRIS²の主要な目標は
- 重要インフラの保護、監視、対外行動、危機管理のために、安全な政府衛星通信サービスへの世界的なアクセスを確保すること
- 欧州全域で高速ブロードバンドとシームレスな接続を可能にし、(通信の)デッドゾーンをなくすことで、民間企業による商業サービスの提供を可能にすること
の2つであり、主な機能は
- マルチオービット
- 軍需ニーズの取込み
- EU宇宙計画の構成要素の能力およびサービスの向上と拡大
- 通信以外のペイロードを追加で相乗りさせるための容量(公共・民間)
- サードパーティへの依存を避けるためのガバナンスと適格性の条件
- NEW SPACEをはじめとするEUの産業に関する専門的な知識
- 戦略的関心の高い地理的領域(アフリカ、北極圏)での接続
です。
また、IRIS²の実装スケジュールは
- Development: 2023 - 2024
- Initial Service: 2024 - 2027
- Full Service: 2027 -
となっており、2024年後半から初期サービスを開始する計画です。
さらに、2023年3月23日には、ECの防衛産業 ・宇宙総局(DEFIS: Directorate-General for Defence Industry and Space)から本コンステレーションプログラムに関する入札情報が公開されています(日本からの直接的な参加は不可)。
Tender Specifications
本節では、前節で説明した入札情報に含まれている文書のうち、"Annex I:Tender Specifications"に記載されている概要を示します。
- 本プログラムの契約期間は12年間
- 本プログラムの全期間にわたる予算見積額は60億ユーロ(日本円で約8400億円@1EUR=140JPY)
- そのうち、ECのMultiannual Financial Framework 2021-2027で割り当てられている予算は、
- 開発:3億8,000万ユーロ(上限)
- 展開・利用活動:9億5,000万ユーロ
- そのうち、ECのMultiannual Financial Framework 2021-2027で割り当てられている予算は、
- 本プログラムの契約まではPhase I, II, IIIの3フェーズで審査
- Phase I: Invitation to Participate and selection (2023/03/16 - 2023/05/17)
- Phase II: Invitation to submit Initial Proposals and negotiations (2023/05/25 - 2023/10/13)
- Phase III: Best and Final Offer and Contract Award (2023/10/30 - 2024/02/09)
- 契約先の決定は2024年1月26日を予定
- EUのメンバー国に設立されている法人に限定
- Phase Iにおいて審査される技術・専門能力は以下の通り。
Ref # | 領域 | 技術的な選択基準 |
---|---|---|
T1 | Design (設計) |
以下の設計の経験 ・衛星通信システム ・人工衛星のコンステレーション ・セキュアな政府宇宙システム運用 |
T2 | Development, Deployment and Validation of ground and space segment of relevant space systems (関連する宇宙システムの地上・宇宙セグメントの開発・展開・検証) |
以下の開発・展開・検証の経験 ・コンステレーションを含む宇宙システム ・セキュアな政府宇宙システム |
T3 | Operations and maintenance of relevant space infrastructure (関連する宇宙インフラの運用・保守) |
コンステレーションを含む宇宙システムの運用・保守経験、またはセキュアな政府宇宙システムの運用・保守経験 |
T4 | Communication satellites operator and service provider (通信衛星事業者及びサービスプロバイダー) |
衛星通信サービスの提供および商業化の経験 |
T5 | Hosting of secondary mission payloads (二次ミッションのペイロードのホスティング) |
衛星システムまたは小型衛星を利用したエンドユーザへのサービス提供プロジェクトにおいて、二次ミッションのペイロードを統合した経験 |
T6 | Frequency filing for commercial services (商用サービスの周波数申告) |
商業サービスに適した周波数帯で、GSO以外のコンステレーションとの間でサービスリンクやフィーダリンクを提供するために使用できるITU衛星周波数ファイリングを使用するための権利 |
High-Level Requirements
本節では、前節で説明した入札情報に含まれている文書のうち、"Annex II.A:High-Level Requirements for Phase I"を解説します。
1. INTRODUCTION
1.1. Scope of the Document
本書は、IRIS²プログラムの上位要件(HLR: High-Level Requirements)を提供する。Descriptive Document(Annex II)と矛盾する場合、このHLRで定義された要件が優先されるものとする。このHLRは、IRIS²システムの政府サービスを提供する部分に適用され、商用インフラとのインタフェースや共有部分に関連する関連要件も含まれる。この文書の要件は、ミッション要件文書およびPhase IIで提供されるセキュリティ要件における要件に取って代わられるものとする。欧州委員会は、IRIS²のミッション要件を所有し、維持する。
1.2. Guide to the IRIS² High Level Requirements Document
本書では、以下のキーワードを使用している。
- shall: 厳しい要求事項
- should: 推奨
- may: 許可
セクションや要件の理解に必要と思われる場合、セクションには備考(Remark)、要件には注記(Note)が追加されている。これらの備考や注釈は、明確に識別され、イタリック体で書かれている。それ自体は要求事項ではないので、検証する必要はない。
各要件はSC-HLR-XXXXとしてラベル付けされ、XXXXは一意の番号である。要件ラベルで識別されないこの文書のすべての段落は、要件ではない(推奨でも許可でもない)。
以下の用語は、統合される要素を識別するために使用される:
- TBD: 産業界が更なる議論のために値を提案し、ECによって承認される
- TBC: ECが後の段階で値を確認する
Discussion