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JavaScriptの舞台裏: エンジン開発者たちが支える言語の進化

2025/03/01に公開

JavaScriptの進化の裏には、C++で書かれたJavaScriptエンジンの開発者たちの不断の努力があります。この関係性を深掘りしていきましょう。

JavaScriptエンジンとは

JavaScriptエンジンとは、JavaScriptコードを解析し、実行するプログラムです。主要なJavaScriptエンジンには以下のようなものがあります:

  • V8 - Google Chrome、Node.jsで使用
  • SpiderMonkey - Mozillaが開発、Firefoxで使用
  • JavaScriptCore - Appleが開発、Safariで使用
  • Chakra - かつてMicrosoftが開発、Internet Explorerとかつてのedgeで使用

これらのエンジンは主にC++(一部C言語)で実装されており、JavaScriptの実行環境を提供します。

仕様の策定と実装プロセス

1. 仕様策定:TC39の役割

ECMAScript(JavaScriptの仕様)は、TC39(Technical Committee 39)という委員会によって策定されます。この委員会はGoogle、Mozilla、Appleなど主要なブラウザベンダーやその他の関連企業のエンジニアたちで構成されています。

新機能の提案から仕様への組み込みまでには、以下のステージがあります:

  • Stage 0: アイデア提出
  • Stage 1: 提案
  • Stage 2: 草案
  • Stage 3: 候補
  • Stage 4: 完成(次のECMAScriptリリースに組み込まれる)

2. エンジン開発者による実装

仕様が決まると、各ブラウザベンダーのエンジン開発者がC++でその機能を実装します。例えば、ES2015(ES6)で導入されたletconst、アロー関数などの機能は、各エンジンのC++コードに以下のような変更をもたらしました:

  • 新しい構文の解析ルールの追加
  • 新しい実行コンテキストの作成方法の実装
  • メモリ管理や変数スコープの扱い方の変更

3. 実装例:Optional Chaining(?.)

ES2020で導入されたOptional Chainingを例に見てみましょう。

JavaScriptでの使用例:

// オブジェクトのプロパティに安全にアクセス
const value = obj?.prop?.nestedProp;

V8エンジンのC++コードでの実装(簡略化):

// プロパティアクセス時の処理
if (expr->is_optional()) {  // ?. が使われているか確認
  if (receiver->IsNullOrUndefined()) {  // null/undefinedチェック
    return isolate->factory()->undefined_value();  // undefinedを返す
  }
}
// 通常のプロパティアクセス処理を続行

この実装により、JavaScriptプログラマはobj?.propのように書くことで、objnullundefinedの場合にエラーを発生させずにundefinedを得ることができます。

エンジン開発の複雑さ

JavaScriptエンジンの開発は非常に高度な作業です:

  1. パフォーマンス最適化 - 高速な実行のためのJIT(Just-In-Time)コンパイラの実装
  2. メモリ管理 - ガベージコレクションの実装と最適化
  3. 互換性確保 - Webの後方互換性を維持しながら新機能を追加
  4. セキュリティ - サンドボックス化やメモリ安全性の確保

新機能が利用可能になるまでの流れ

  1. TC39が仕様を決定 - 例:Promise.allSettled()やNullish Coalescing(??)
  2. エンジン開発者がC++で実装 - Google、Mozilla、Appleなどの開発者チーム
  3. テストとブラウザへの統合 - リグレッションテストや互換性確認
  4. ブラウザリリース - 定期的なアップデートで新機能が一般ユーザーに届く
  5. 開発者が新機能を利用 - Webサイトやアプリケーションが新機能を活用

結論:JavaScriptとエンジンは共進化する

JavaScriptの進化は、エンジンの進化と切り離せない関係にあります。新しい言語機能の追加は、それを実装するC++開発者の存在があってこそ可能になります。

この関係を理解することで、私たちが日々使っているJavaScriptの背後にある複雑な仕組みと、多くのエンジニアの貢献を知ることができます。また、新機能がすぐに全ブラウザで使えるようにならない理由や、ブラウザ間での機能の違いが生じる背景も理解できるでしょう。

JavaScriptエコシステムの進化は、仕様策定者、エンジン開発者、そしてWebプラットフォーム全体の協力の賜物なのです。

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