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AI開発時代におけるデリゲーションレベル

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1. はじめに

近年、GitHub CopilotをはじめとするAIコーディング支援ツールや、自律型エージェントによる自動開発が注目を集めています。これらのツールは、エンジニアの作業を効率化するだけでなく、コードの実装からテスト、さらにはデプロイまで一連の開発フローを自動化・自律化する可能性を秘めています。

こうしたAI開発ツールが進化するなかで重要になるのが、「どこまでAIに任せるか」という考え方です。これはソフトウェア開発だけでなくマネジメントの世界でも議論されてきた「デリゲーション(権限委譲)」の発想に通じます。本記事では、アジャイル開発で用いられる「デリゲーションポーカー」の考え方を参考にしながら、AI開発におけるデリゲーションレベルを5段階に整理し、各レベルに対応するAI開発ツールを比較します。


2. デリゲーションレベルとは

2.1 デリゲーションポーカーの考え方

本来、デリゲーションポーカーでは7段階のカードを使い、「誰がどの程度の裁量をもって物事を決定するか」を可視化します。例えば、マネージャーが全てを決定するレベルから、チームメンバーの自主裁量に任せるレベルまであるわけです。本記事ではシンプルに5段階にまとめ、AIツールと人間の役割分担を表す目安とします。

2.2 5段階のデリゲーションレベル

  1. レベル1(完全手動)

    • 人間がすべての意思決定と作業を行う
    • AIは一切介入しない
  2. レベル2(部分的AIアシスト)

    • AIが補助を行うが最終決定は人間
    • 例: コードの入力補完や断片的な提案
  3. レベル3(半自動化)

    • AIが大部分の作業を行い、人間は随所で確認・承認
    • 例: マルチステップのコード生成や自動リファクタなど
  4. レベル4(高度な自動化)

    • AIがほぼすべての開発フローを担当し、人間は最終チェックのみ
    • 例: 開発タスクを自動で計画・実行し、適宜レポートを提示
  5. レベル5(完全自律)

    • AIが全てを決定・実行し、人間は要件を伝えるだけ
    • 例: コードの生成からテスト、デプロイまで完全自動

3. 各AI開発ツールとデリゲーションレベル

ここでは、代表的なAI開発ツールであるCline, Devin, Cursor, GitHub Copilotを取り上げ、それぞれがどのレベルに相当するのかを考えてみます。

3.1 GitHub Copilot: レベル2(部分的AIアシスト)

  • 概要: GitHub Copilotはエディタの補完機能として動作し、開発者が書いているコードやコメントに合わせて次の一行や関数を提案してくれます。
  • デリゲーションレベル: 部分的なAIアシスト
    • 開発者が主導権をもち、提示されたコードを採用するかどうか決める
    • AIによる自律的な編集や複数ステップのタスク実行は行わない

Copilotは「とりあえず書きたいコードがあるのでサジェストしてほしい」というシーンで非常に有用ですが、プロジェクト全体の構成やタスクの連続実行を一括で任せるにはまだ遠い段階と言えます。

3.2 Cursor: レベル3(半自動化)

  • 概要: 「次世代AIコードエディタ」として登場したCursorは、エディタ内でAIとチャットしながらコードを指示できます。コードベースを横断的に参照し、複数ファイルにまたがるリファクタリングや修正案を提示するなど、Copilot以上に大きい単位での作業を支援します。
  • デリゲーションレベル: 半自動化
    • AIが作業の大部分を進め、変更案を適用するかどうかを人間が都度承認
    • Agentモードなどを使えばある程度連続的なタスク実行も可能

Cursorはインタラクティブな対話を通じて人間が方向性を示し、AIが適宜コードを生成・変更しながら進めるスタイルです。基本的に最終的な判断と承認は人間が行い、AIは連携しながら作業を進めます。

3.3 Cline: レベル4(高度な自動化)

  • 概要: ClineはVS Code向けのAIコーディングエージェントで、タスクの計画から実装・修正・テストなどを自動化する機能を備えています。チャットで指示を出すと、Clineが複数ステップの作業を自動実行し、必要に応じて変更点を提示します。
  • デリゲーションレベル: 高度な自動化
    • 人間は基本的に「実装したい機能や修正」を指示するだけ
    • 作業フローの大部分をAIが担い、必要に応じてチェックや承認を人間に求める

Clineは自律的にコードを編集・生成し、テストなども行うため、作業の自動化レベルが高いのが特徴です。ユーザは最終的な成果物や各ステップの変更点を確認し、承認やフィードバックを行うだけで大部分の開発が進みます。

3.4 Devin: レベル5(完全自律)

  • 概要: Devinは自律型AIソフトウェアエンジニアとして登場し、人間が大枠のタスクや要件を伝えるだけで、コードの生成・テスト・デプロイまでを自動で完遂することを目標としたツールです。
  • デリゲーションレベル: 完全自律
    • 開発者は「これを実装してほしい」という要望を出すだけ
    • 以降の細かい作業はAIが自律的に実施し、最終的な成果物が提示される

Devinは「AIにプロジェクト一式を任せる」ような体験を提供します。あたかもリモートのエンジニアがひとりで開発を進めるように、バックグラウンドでタスクを実行していくのが特徴です。


4. ツール選択とエンジニアの役割変化

4.1 ツールを使い分けるポイント

  • プロジェクトの性質

    • 既存システムの保守や重要度の高い本番コードの修正では、あまりに自律性の高いAIに丸投げするのはリスクが高い場合があります。
    • 新規機能のプロトタイプや検証など、失敗してもダメージが少ない場面では自動化レベルを高めたツールを試してみる価値があります。
  • チームのスキル・文化

    • AIとの協働に慣れていないメンバーが多い場合、いきなりレベル4や5のツールを使うと混乱する可能性があります。
    • AIの提案や自律的な判断を人間が適切に監督できるよう、チームとしてのルールやフローを整備するとよいでしょう。
  • 開発速度 vs. 安全性

    • レベル4や5のツールは高速な開発が期待できますが、ミスがあった場合に気づきにくいリスクも伴います。
    • レビュー体制を強化して、AIによる変更を人間が確認する仕組みを整えることが重要です。

4.2 エンジニアの役割の変化

AIが開発フローの多くを担うようになると、エンジニアは「コードを手で書く」時間が減り、代わりに以下のような業務に時間を割くようになるでしょう。

  • 要件定義とタスク設計: AIが動きやすいように、適切な指示や要件を定義するスキルが重要になります。
  • AIの出力レビューと品質管理: AIが生成したコードを検証し、必要があれば修正やフィードバックを行う役割が増えます。
  • チームリード・マネジメント: AIを1人のチームメンバーとみなし、うまく活用するためのプロジェクト管理やコミュニケーションが求められます。

完全自律のAIが当たり前になっても、人間の判断や最終責任は依然として欠かせません。今後、AIの「自律開発レベル」が上がるにつれ、エンジニアが果たすべき役割もより高度な抽象度へと移行していくでしょう。


5. まとめ

  • AI開発とデリゲーションレベル

    • AI開発ツールを使いこなすうえでは、「どこまでAIに任せるのか」を明確にするデリゲーションレベルの考え方が役立ちます。
    • レベル1~5に分けて整理することで、ツールの導入方針や開発プロセスへの適切な組み込み方を判断しやすくなります。
  • ツール別の位置づけ

    • GitHub Copilotは部分的補助(レベル2)
    • Cursorは半自動化(レベル3)
    • Clineは高度な自動化(レベル4)
    • Devinは完全自律(レベル5)
  • エンジニアの新たな価値

    • AIによる自動化が進むほど、人間エンジニアはタスクの設計やAI出力の品質管理、プロダクト全体の整合性を監督する役割へシフトします。
    • AIを使いこなしつつ、必要な部分で人間が判断を下せる仕組みづくりが鍵となります。

AIがさらに進化すれば、現在レベル4とされているツールも将来的にレベル5へ近づく可能性があります。一方で、そのような自律開発ツールを使いこなせる人材や、最終責任を担うリーダー的なエンジニアの存在がますます重要になってくるでしょう。今後のAI開発の潮流を見据え、自分や自社のチームに合ったツール選択と運用体制を検討してみてはいかがでしょうか。

よかったら、CursorとClineの話をするのでご参加ください!
https://hackermeshi.com/parties/740

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