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スタートアップのSREがコーポレート部長を1年間兼務した話

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コーポレート部長を1年間兼務していました

こんにちは、スマートラウンド執行役員VP of Reliabilityの@shonansurvivorsです。SREのほか、情シス[1]やセキュリティの領域を担当しています。

実は2024年7月から2025年5月末までの1年弱、上記の役割に加え、コーポレート部長を兼務していました(現在は6月に入社したCFOに引継ぎ済み)。

当社のコーポレート部は総務/労務/経理/法務/人事といった機能を担っています。私がコーポレート部長として行なった仕事はメンバーのピープルマネジメントや他の役員・部署との調整などが中心でしたが、事情(詳細後述)により任期終盤は一部の実務も担当していました。

兼務の経緯

スマートラウンドはシリーズBのスタートアップであり、社員は40〜50人程度です。この規模のスタートアップであれば、限られた人数で多くの役割を担うことがよくあります。

私が今回の兼務を開始する以前も、コーポレート部には専任の部長がおらず創業以来CEOが管掌していたのですが、CEOがより経営に専念できるようにという経営判断のもと、当時、私がSRE/情シス/セキュリティを管掌する執行役員になったタイミングで、コーポレート部長も引き継ぐことになりました。なお、当社のコーポレートを全面的に私に任せるかというとそうではなく、以下のような期待値調整がありました。

  • いずれCFOなどを採用したら交代することを前提とした、暫定的な立場であること
  • 私に期待するのは各業務に深く関わるというよりも、ピープルマネジメントや業務の整理・管理であること
  • 人事のうち採用に関しては特に経営戦略に強く関わることから引き続きCEOが深く噛み込んでいくこと

当時この兼務の話を初めてCEOから聞いた時はとても驚きましたが、全く突拍子もない話というわけでもありませんでした。というのも、コーポレート部長を兼務する以前から、私は情シスの立場で、部を跨いでコーポレート部のメンバーを側面支援するようにしており、コーポレート部の毎日の朝会などにも出席させてもらい横の繋がりを作ってきました。SREであれば開発チームのエンジニアを支援してサービスの信頼性向上を図るアプローチを取ることがありますが、これをヒントとした行動でした。そのようにして関係性を構築していたこともあり、コーポレート部のメンバーも私を部長として迎え入れてくれました。

未経験のコーポレート領域でどうマネジメントしたか

とはいえ、私はコーポレート部が担う業務への深い知識も経験もありません。専門書籍など[2]を読んでキャッチアップを図るようにはしましたが、業務の細部に関しては当然メンバーの方が詳しいため、進め方やその内容に関して細かい口出しなどはしないようにしました。一方で、私に判断を仰ぐような各種の相談事項がやってきた場合には、以下の方針で対処しました。

  • 執行役員でもある自分の立場で責任を取れそうなものはスピード感を持って判断し、時間をかけない
  • とはいえ、自分が少ない情報を元に誤った判断を下してしまうことがないよう、一通り相談内容の説明を受けた後は、不足を感じた観点について質問して情報を引き出し状況を整理する(この時、メンバーに対して詰問調にならないよう気をつける。質問が必要となる背景には自分の経験不足が多分にあることを自覚し、メンバーへのリスペクトを忘れない)
  • 全社への影響の大きいものなどリスクの高いものは経営会議の決議事項として自分で持ち込む

その他、以下のような取り組みを行いました。

  • 各メンバーとの1on1を週次で行った
  • 部内のタスク管理について、従来は自由記述の文章形式であったところ、Notionを使ったカンバン方式に変更し、部内の各タスクのステータスを可視化し、アサインのし直しなどを視覚的にも行えるようにした
  • 四半期ごとなどのタイミングで、従来の業務の進め方で課題を感じているものが無いかを振り返ってもらい、これをもとに専用SaaSの導入検討などの改善プロジェクトにトライすることを後押しした

コーポレートの実務も担うことで考えたこと

このようにマネジメントを中心に行ってきましたが、兼務した約1年のうちの終盤3ヶ月はメンバーの退職や出産・育児休暇などにより実務の担い手の数が減少したため、引継ぎを受けて私自身も労務や経理の実務の一部を担当するようになりました。

  • 勤怠の確認と承認
  • 立替経費の確認と承認
  • 給与の振込
  • 各種納税
  • 受け取った請求書の確認と支払い
  • 雇用契約書の締結
  • 業務委託契約書の締結
  • 従業員から依頼された就労証明書の作成

など。

社員や業務委託を補充するという選択肢もありましたが、ちょうどこの頃に数ヶ月後のCFO入社が見えていたため、CEOとも相談の上、いまこの段階で私が体制を中途半端にいじるよりも入社後のCFOに当社にとってベストな体制を構築してもらうのが適切と考え、一時的に私が実務を担う判断をしました。

一部ではありますが実務を担当したことで、コーポレート部の業務に対する解像度が非常に上がりました。マネジメント中心だった約9ヶ月間の理解度は何だったのかという気持ちにもなりました。ただし、1年前のコーポレート部長兼務開始当初に一度実務をやらせてもらえば良かったかというと、必ずしもそうでもないという考えに至っています。というのも、メンバーの目線からすると、新任の、それも業務知識の無いマネジメントが現場理解のために実務をやらせて欲しいと言っても、熱心なことと感心はされるかもしれませんが、短期的にはメンバーの手間を増やし負荷をかけてしまうと考えられるからです。また、そのマネジメントの「現場理解」がメンバーにとって早期にメリットとして還元されれば良いのですが、そうではなかった場合、逆にマネジメントへの信頼感を下げる結果に繋がるリスクも考えられます。人にもよりますが、マネジメントはマネジメントでしか解決できないことに優先的に取り組んで欲しいと思う人もいるでしょう。未経験領域のマネジメントを任せられた際のファーストアクションをどうすべきかという観点で、なかなかに難しい問題だと今も思っています。

兼務を終えたこれから

現在はCFOへの引継ぎも終わり、本来のSRE/情シス/セキュリティの領域に専念できる状態になりました。ですが、引き続き私はコーポレート部の会議体に参加し、CFOと横の連携を図るようにしています。CFOは当社に対して様々な改善を計画していますが、その中に会社のステージに見合った内部統制の整備があります。内部統制のうちIT統制については私も責任を持ち率先して取り組みたい領域と考えており、ここをCFOとタッグを組んで徐々に推進していくつもりです。そのようなことを意識して、最近はCISA(公認情報システム監査人)の資格を取得するなどもしました。

会社にとってコーポレートとは

コーポレート部の兼務を経て振り返ると、会社にとってコーポレートとはまさに「基盤」と言えると感じました。プロダクトを持つ会社であれば、各社でSREやPlatform Engineerと呼ばれるようなロールが、様々な仕組みを整えることで他のエンジニアが開発や運用に専念できる環境を作っているのではないかと思いますが、コーポレートはその会社で働く人たち「全員」に対して、各自の業務に専念できるようにするための仕組みを整えてくれています。

何らかの会社に所属していれば、毎月のあなたの給料の計算や振り込みも、各自の所得税や社会保険料の納付も、会社法や労働基準法や労働安全衛生法などの企業が遵守すべき法令に従った会社運営も、会社のお金の計算や管理も、入社時や退職時の健康保険や厚生年金保険や雇用保険の手続きも、あなたの会社のコーポレートが行なってくれていると思います。

今回の「越境」はこうしたコーポレートの重要性に実体験とともに改めて気付くことのできた、貴重な1年間でした。

おわりに

以上、スタートアップのSREがコーポレート部長を1年間兼務した話でした。エンジニアがエンジニアリング以外の未経験領域に携わることになった時に、この話を思い出して何かのヒントにしてもらえたら幸いです。

また、スマートラウンドではエンジニアもコーポレートも含め全職種で仲間を募集中です。本記事を読んで興味を持たれた方はぜひ以下もご覧ください。

https://jobs.smartround.com/

脚注
  1. 正式には当社では情シス的な役割をコーポレートITと呼んでいるのですが、この記事では、たびたび登場する「コーポレート」と紛らわしくならないよう敢えて情シスと呼称しています。 ↩︎

  2. バックオフィス業務のすべてがわかる本が非常にわかりやすく、為になりました。 ↩︎

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