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MATSim入門:大規模交通シミュレーションを可能にするオープンソースの交通モデリングツール

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1. はじめに

皆さんは「交通シミュレーション」と聞いて、どんなものを想像しますか?

  • 渋滞の様子を再現するアニメーション?
  • 駅やバス停の混雑状況を予測するシステム?
  • それとも未来のスマートシティに向けた交通の最適化?

実は、これらすべてを支える技術のひとつに、MATSim(Multi-Agent Transport Simulation Toolkit) というオープンソースのツールがあります。

筆者も独学で学び始めて間もないですが、本記事では「MATSimとは何か」を簡単にご紹介します。

MATsim公式サイト:https://matsim.org/


2. MATSimとは?

MATSim(マットシム) は、個人(エージェント)の1日の交通行動を仮想都市で再現し、都市全体の交通状況をシミュレートできるオープンソースのソフトウェアです。

  • 開発:ETH Zurich(スイス連邦工科大学)・ TU Berlin(ベルリン工科大学)
  • ライセンス:MIT(商用利用可)
  • 使用言語:Java
  • シミュレーション単位:市区町村~都市圏規模
  • 主な対象:自動車、鉄道、バス、自転車、徒歩 など

交差点での交通流動シミュレートというようなミクロなシミュレートというよりは、市区町村レベルのマクロな交通施策の影響や、モビリティの変化による都市全体の挙動を評価するのに適したツールです。
商用ソフトに比べて導入コストが低く、自由に拡張できるのも大きな魅力です。


3. MATSimの仕組み

MATSimは、エージェント(人や車両)の1日をシミュレーションし、行動・行動の評価を繰り返すことで、現実に近い都市交通の再現を可能にします。

基本的な仕組みは、以下のようなステップで構成されます。

  1. Scenario Data(シナリオデータ)

    • ネットワーク(道路や路線)、初期の行動スケジュール、公共交通のダイヤ、施設などを入力として定義します。
  2. Execution(実行)

    • 各エージェントが1日の行動スケジュールに従って移動します。
    • 交通状況(混雑など)は他のエージェントの行動にも依存します。
  3. Scoring(スコアリング)

    • 各エージェントが、自分の計画に対する満足度(スコア)を評価します。
    • スコアは、移動時間、待ち時間、到着時刻などから計算されます。
  4. Replanning(再計画)

    • スコアが低いエージェントは、移動手段や出発時刻などを変更してより良い行動計画を生成します。
  5. Analysis(分析)

    • 一定の繰り返し(iteration)を経て、交通状態が収束した後に結果を分析します。

このようにMATSimは、エージェントごとの移動とその評価を繰り返すことで、都市全体の交通行動の再現や施策による交通行動に変化をシミュレートできるようになっています。


4. 基本構成ファイル

MATSimを実行するには、主に以下のXMLファイルを用意します。

ファイル名 内容
network.xml 道路ネットワーク(ノードとリンク)
population.xml エージェントの行動スケジュール
config.xml シミュレーション全体の設定ファイル
facilities.xml (任意)施設情報(職場や店舗など)

Javaで動作しますが、Pythonを活用しながらxmlを作成することで効率的にデータを準備・可視化することができます。


5. 活用事例

MATSimは欧米を中心にで実運用・実証実験に用いられています。以下に代表的な事例を紹介します。

スイス連邦鉄道(SBB)

スイス全体を対象とした「SIMBA MOBi」というMATSimモデルを運用し、旅客需要の予測や鉄道ダイヤの検討、CO2排出量の算出などに活用。独自のルーティングエンジン「SwissRailRaptor」や鉄道シミュレーション拡張「railsim」も提供。

MOIA(フォルクスワーゲングループ)

ドイツ・ハンブルクで展開されたライドプーリングサービスの設計・評価にMATSimのDRT拡張を使用。Mobility Impact Analyzer(MIA)を開発し、シミュレーション結果の可視化を実現。

ARUP(英国コンサルティング)

イギリス東部での脱炭素化政策評価や、ニュージーランドでの災害対応・料金制度評価など、国家規模でのエージェントベースモデルを活用。

ベルリン交通局(BVG)

空港移転による交通影響や、自動運転の導入効果の研究など、実際の政策検討にMATSimを適用。大学との連携による共同研究も展開。

詳細な事例や導入情報は公式サイトに掲載されています:https://matsim.org/examples/


6. おわりに

MATSimは、都市交通の複雑な仕組みを仮想的に再現し、データに基づいた施策評価を可能にする強力なツールです。

  • 「自転車通勤を増やしたら渋滞はどう変わる?」
  • 「歩行者天国にしたら周囲の道路でどんな影響が出る?」

こうした問いに対して、現実の都市空間を模した環境で“実験”できるのがMATSimの魅力です。

今後、実際にmatsimを動かす方法をなどについても発信していきます。

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