パブリック クラウドの導入が「検討」で止まる、止めることができる、そんなビジネスもあるんじゃあないか
TL;DR
- ビジネスのスピード感との関連でパブリック クラウドの必然性が高くないケースもあるのではないか
- いつ求められるかわからないパブリック クラウドの導入に備えるフレームワーク
- こっちの世界も覗いてかない?(KICK THE CAN CREW / マルシェ)
はじめに
「うちはオンプレミスしか使ってないからクラウドはいらないんだよ」みたいな話、いまでもたまに聞くと思うんですよね。
パブリック クラウド側に染まった人間としてはうーんと思いますが、逆にそちらの立場に立って考えてみた、という話です。
パブリック クラウドのメリットは何か
それこそメリットなんて挙げたらきりがないですし、今さらオンプレミスの設計・構築はめんどいなぁという気持ちがありますね。
重要であるのは承知の上ですが、あらかじめどれくらいの IOPS が必要か緻密に計算するくらいならとりあえず乗っけてから金で殴ったほうが早いです。
パブリック クラウドのメリットが小さい・魅力的に感じられないケースは何か
じゃあ逆にメリットが小さい・魅力的に感じられないケースが何かを考えてみます。
一つ考えた例として、重工業のようにビジネス全体の規模が大きく多くの時間がかかり、それがゆえに全体的なビジネスもゆっくりにならざるを得ない、というケースがあるのではないかと思っています。
ビジネスで求められるスピードが早ければインフラ構築にもスピード感が求められ必然的にパブリック クラウドが選択されるでしょう、の逆ということです。[1]
パブリック クラウドが出てきてからよく聞くようになった言葉の一つに PoC (Proof of Concept) があり、これはビジネスのサイクルがどんどん早くなっていく中で、小規模に機能要件を確認していったりビジネスの方向性を検証していくことと強く関わっているのではないかと感じます。
もちろん、パブリック クラウドの台頭によりビジネスの PDCA サイクルをより速く回すことができるようになった、とも考えられます。
逆説的に言えば、ビジネスの全体的な時計の進みがゆっくりなおかげで、オンプレミスのころのように時間をかけて機器を調達をして、というスケジュールでもニーズを満たせている、ということです。
加えて、やや余談になるかもしれませんが、10 年ほど前の記憶を頼りにすると、金額規模が大きくなるにつれて、不思議と金額は下げやすくなる、ということがありました。
企業ごとに利益目標はあるものの、それよりもまずは売上を上げることを優先するため、利益率をある程度下げたとしてもその機会を逃さないようにする、ということがあったように思います。
パブリック クラウドの導入メリットの一つとしてコスト メリットを挙げているケースもありますが、こういった経験もあり私自身として コスト観点「のみ」をポイントとしたクラウド移行では思ったような結果を得られない ケースがあるのではと考えています。
VM のみを利用して 1 台から数台で構成されるシステムがあったとして、コストのみを比較ポイントとすると、いわゆる VPS が最適解になるのではないでしょうか。
パブリック クラウド導入の納得感
結局あらゆるビジネス上の判断は人間によって行われることを考えれば、納得感、のようなものが結局支配的な要素になるのではないかと思っています。
技術選定における組織の力学 という記事を以前書きましたが、これに則るのであれば導入にいたるまでの力が足りなかったということになります。
パブリック クラウドの導入検討した結果、止める、止めることができる、という結果に至る根拠はいくらでも挙げられます。
では、これを覆す十分な理由・力が必要になってくるということになります。
コロナ禍において、リモートワークの需要から VDI・DaaS やゼロトラストネットワークなどが大いに注目されました。
これに関してはもう納得感を飛び越えた、ビジネス上や政治的な理由で導入を決めるケースも多かったのではないかと思っています。
パブリック クラウドのメリットの一つとしてその調達に時間がかからないということがあるので、例に挙げた重工業においても、急速に立ち上げなければならないビジネスのニーズがあればパブリック クラウドの導入ももっと進んでいくんでしょう。
それがなければやはり売上を上げている現場・工場が最上位に据えられ、それのおまけとしての IT という位置づけであればビジネスのニーズまではいかず、今までどおりのオンプレミスのままでも別に問題はないのではないでしょうか。
検討のままでいいのか
別に問題はないのではないでしょうか、と書きましたが、コロナ禍をはじめとしたビジネスの環境の急速な変化はいつでも起こりえます。
じゃあどうするのか、といえば備えるしかないですね。
Azure を例に出すと Azure 向けの Microsoft Cloud 導入フレームワーク - Cloud Adoption Framework というのが無料で公開されています。
読むのにはやや時間がかかるかもしれませんが、世の中のさまざまなお客様のベスト プラクティスの最大公約数的な内容が書かれているので、これを参考にしていくのもいいのではないかと思います。
もちろん、それぞれの組織に応じた最適な形はスキルの習熟度や外注の利用有無、ビジネスの規模などによって異なりますが、CAF をたたき台とすると議論も進めやすいです。
いずれにせよ、やるとなったら強力に進めることができる、そのための準備がなされていることが理想です。
パブリック クラウド側の人間として
やや後ろ向きというか、やらない理由・やらなくてもいい理由もあるんじゃあないかということで記事を書きましたが、パブリック クラウド側に長いこといる人間としてこちらの世界がどのようになっているのか、やっぱり楽しいよ🎉というのを少し並べてみようかと思います。
- 勉強会に参加して楽しむことができる
- Azure も AWS も GCP も OCI もしょっちゅう勉強会が開かれていて、ユーザ・エンジニア同士が盛んに交流しています。今どんなことやってるよ、とか、あーそれ苦労したよね、とか同じような境遇・経験を語り合えるのは純粋に楽しいですね
- 自分たちのやっている仕事に誇りを持つことができる
- オンプレミスを卑下する意図はありませんが、はやりの技術を触っていることに対する自尊心の高まりはあるんじゃないでしょうか
- 新しいことをやるのは楽しい
- 全員が同意できるものでもないかもしれませんが、どうでしょうか、この業界は新しい物好きの人たちは多いと感じます。1 番目にも通じますが毎週のように新しい機能が出てきて、たまに大きなイベントがあって受け止めきれないくらい大量のアップデートがあり、いつまでも飽きることがありません
- お金稼いでいきましょう
- やや飽和気味な感じも受けますが、逆にクラウドの知識はあって当たり前になってきている気がしますし、「駆け出しエンジニア」というように可能性は大きく広がっている世界なんじゃないかと信じています。ある程度汎用的な知識と、英語が嫌いじゃあなければパブリック クラウド屋さんの中の人になることも難しくありません
まとめ
ビジネス上のニーズとしてスピード感が求められなければ、パブリック クラウドも意外と選択肢から落ちる可能性があるというか、別にオンプレミスでいいんじゃない?という話もあるんじゃないかということを書きました。
パブリック クラウド側の住人として、その導入を否定・先送りするあらゆる理由に対して反論することはできるとは思いますが、それはそれで納得感にはつながらないですし無理はできないかなという印象です。
クラウドの売上が自分の給料に直結するようなロールであれば全力で推していきますが、いまんところそうでもないのでまぁ必要だったらやればいいんじゃないでしょうか、必要がなければ別になんでもいいよ、というスタンスです。
営利企業として売上・利益などのビジネス的な観点は非常に大事ですが、「楽しい」とか「ワクワクする」とかそういった点も天秤に乗せながら検討が進められるとみんなはっぴーになりませんかねぇ。
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ネットワーク機器とかがそうでしたが、一時期半導体不足で調達に長い時間がかかる時期もありましたね ↩︎
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