3 人組を作る
TL;DR
- 一般的な組織に存在している階層構造とサイロ化について
- 階層構造ではない、横の繋がりが多数あることによるメリットとそれを満たすための最小単位としての 3 人組
- 横の繋がりを増やしてくためのモチベーションとなる評価制度の一例としての「インパクト」
はじめに
最近、ネットワーク組織とか、ダイナミック組織、有機体、といった組織の形に興味があり、それについて少し思うところを書いてみようと思います。
参考文献は最後のほうに載せておきます。
会社の階層構造以外の繋がり
この記事を読んでいる皆さんの組織はどのような組織体制になっているでしょうか。
いわゆる社長をトップとした本部長、部長、課長、係長、なんでもいいんですが、そういったヒエラルキー、階層構造になっている組織がほとんどかと思います。
なお、ヒエラルキーという言葉を使いましたが、ここではカタカナ語としての色がついていない純粋な hierarchy のことを指しています。
一方で、それだけではない繋がりはどれほどありますか。
隣のチームの A さんに聞けば解決したのにー、ということはどれほど経験がありますか。
B さんに依頼すればこの仕事早く済ませられるのにそっちの稼働とる許可が得られないから自分でやるしかない、ということになったことはありませんか。
いわゆるサイロ化と呼ばれる現象ですが、さまざまな原因によりこういったことは起こりえます。
サイロ化が起こる原因
こんなもん調べればいくらでもでてくるのであまり書きませんが、一例として部署ごとの予算・KPI とかを定めるととたんにサイロ化が進みます。
よその部署の仕事してるくらいなら自分の部署の売上を増やせよ、というモチベーションが働くのでこれは当たり前、仕方がないことで、仕組み上当然の帰結です。
横の繋がりが多い組織
サイロ化と比較して、横の繋がりが多い組織が達成されると、先ほど挙げたような課題が解決できます。
上司の承認がいるかどうかは別として、ある事柄について詳しい人がいれば部署かかわらずその人に聞いてメンバー同士の連携により課題を解決できればそれほど良いことはないわけです。
ここで、横の繋がりが「多い」としているのにはちゃんとした理由があり、一部の人間同士が単に仲がいいことは繋がりが「強い」だけであって「多い」ということにはなりません。
目指しているのは、なんとなくちょっと仲がいいとか、仕事上のかかわりがあるとか、お互いに仕事を依頼しあえるくらいの関係性が社内に「多く」存在していることです。
こういった組織があると、その組織の中で解決できる仕事が増えてきます。
One なんたらー[1]、という標語を挙げる組織もありますが、これもこういった組織を目指すためのものだと思っています。
ただし、後半で述べるように、標語を掲げるだけではモチベーションにつながらない・続かないため、それを支援する評価制度も併せて設けることが必要です。
こういった組織の状態、横の繋がりがいっぱいある組織をネットワーク組織・ダイナミック組織といった言葉で表現されると思っています。
私自身のオリジナルのメタファーとしては、マスクで使われる「不織布」というのもいいんじゃあないでしょうか。
不織布の最小単位としてはあまり長くはない繊維ですが、それらがランダムに複雑に絡み合うことで組織体である布を構成する様子が今回説明している内容と合っている気がします。
加えて、こういった繋がりが多く生まれている状態は、組織の構造が変更されたときにもメリットを生み出すと考えています。
組織の構造が変わり、今まで一緒のチームにいる人が別の部署に行って、でも今度は営業とエンジニア、みたいな立ち位置に代わる可能性があります。
また、仕事上のかかわりが減っていったとしてもある技術的な事柄について、「ちょい聞き」できる関係が残っていると仕事の進めやすさは段違いです。
慣習的なものなのか、どうも上の人たちは組織の構造を数年おきに変えたい病にかかっているようですが、横の繋がりが多ければそういったものにもすぐ順応できる可能性が高まります。
3 人組を作る
で、タイトル回収になるわけですが、これを目指すための最小単位・最小目標は何かと考えると 3 人組を作るということになるわけです。
仲良しの 2 人組が 2 組あったとして、その仲介役というか中央にいたメンバーがいなくなると、残っている 2 人の間には関係性が残りません。
一方で、3 人組が 2 組あったとすると、その仲介役となったメンバーがいなくなったとしても、少なくとも残っている 2 組の 2 人の間には関係性が残っています。
また、残っているメンバーどうしでまた繋がりが生まれるような可能性も残されています。
two member group v.s. three member group
まるでねずみ講のようなものですが、繋がりを繋げていく、まさにインターネットのような仕組みを持つことが組織の hierarchy とは関係ない、潜在的な課題解決能力を高めることにつながると考えています。
副次的な効果として、2 人組ではないことによりそこでの会話内容に少しパブリック感というか、他のメンバーにも共有されていること前提のコミュニケーションが行われることになります。
起こるべきことではないですが、セクハラ・パワハラの類を防ぐ意味でもなるべく 3 人組でしゃべっていくということができれば、その意味でも良いことだと思います。
わたしが実施してきた 1on1 は、メンターが 2 人いる 1on2? 2on1? の形式で行っていて、個人チャットで送るようなことであっても共有の意味を含めて 3 人のグループ チャットに送ったりすることがありました。
まったく関係ない 3 人組をランダムに作り飯でも行ってこい、みたいな背策を見たこともありますが、まぁその場では一応コミュニケーションするものの、あまり長続きはしなかったように思います。
どう作っていくか、また自分の行動を振り返ってどう作ってきたか、の例を示してみます。
- 自分があまり詳しくない事柄について E さんから聞かれた
- これに関して、わたしは F さんが詳しいことを知っている
で、ここでわたしが F さんに聞いてその内容を E さんに伝えるパターンと、わたしと E さん、F さんの 3 人のチャットを開くパターンの 2 つが考えられます。
-
わたしが F さんに聞いてその内容を E さんに伝える
「情報の非対称性を武器にする」という言葉で表現されるような立場の場合は前者となり、E さんにとって回答は得られるものの毎回わたしに聞く必要があります。
わたしに聞かないと情報が得られない、そのことによりわたしの立場・立ち位置・組織における存在意義を維持するわけです。 -
わたしと E さん、F さんの 3 人のチャットを開く
後者を選んだ場合には、そこに 3 人組が生まれます。
わたしが仲介者として E さん F さんをつなぐことで、いつか私がいなくなってもそこの繋がりが組織の資産として一つ残ることになりました。
ぶっきらぼうにやってもいいですがいきなり話しかけても大丈夫な全体的な雰囲気・カルチャーの醸成が大前提にはあります。
create trio
どう評価するか
なんとなくこの横の繋がりを多く持っていくことがよいことであることは伝わってきたんじゃないかと思います。
で、次に考えなければならないのはこれをどう評価するか、ということです。
サイロ化のところでも書きましたが、人間はある程度意図をもって行動するということを考慮すると、横の繋がりが多いことがいいことだ・評価されることだ、ということを明確にしなければなりません。
ここで、わたしが勤務していた日本マイクロソフト (世界中の Microsoft 全体でも同じですが) での評価基準の一つとして インパクト (Impact) というのがあります。
株価史上最高値を記録するマイクロソフト流「驚異の評価制度」 や 日本マイクロソフト、「インパクト重視の組織」に向けた「働き方改革」 などでもインパクトという言葉について触れられています。[2]
社内では「他人に対するインパクト」「他人からどんなインパクトを受けたか」というような感じで使われています。
これはいわゆるカタカナ語として「インパクトを受けた!」「感動した!」、のような意味ではなく、もっと狭義の意味で使われているわけです。
具体的には資料を作って共有してそれを他人が流用して使ったり、逆もあったり、まぁなんでもいいんですが、いずれにせよ大事なことは メンバー同士の繋がりが評価基準に組み込まれている ということです。
ちょっと分かりづらいかもしれませんが、メンバー同士の複数の繋がりがあり、それらがインパクトを与えたり受け取ったりしている様子を示したつもりです。
give impact each other
世の中の会社でよくある「何かについて調べて、資料を作って、~月までに発表する」みたいな目標を立てている若手のメンバーは多いんでしょうが、そのねらいはどこにありますか、という話です。
インパクトをベース同じ目標をとらえるのであれば他人の資料を流用したり他人の資料を最新の内容に更新したり、あくまでほかのメンバーとのコラボレーションを前提としたワークになります。
一方でインパクトがベースになければ、単に資料を作って、プレゼンの練習・資料作成の練習・調べ物の練習というようなねらいに見えるのではないかと思います。
ちょっとイメージが弱いなと思いつつ、なんとなく雰囲気で、同じことをやるとしてもインパクトをベースにすると他人とのコラボレーションが前提になる、ということを示したかった図がこちらです。
same task but for impact
ややファジーでありふわっとした指標であることはそうなんでしょうが、いずれにせよ他のメンバーとのコラボレーションの多さ・強さを評価する、ということが評価基準から受け取れるメッセージは大きいです。
コラボレーションがあまり多くない組織だとその行動自体が白い目で見られる可能性もありますが、評価されることが分かっていればやったもん勝ちなわけです。
組織ごとの KPI はありますが、他のメンバーのワークを手伝った場合の工数入力手段、というのも用意されているので、稼働率というような数字の評価でも損をすることがないように設計されています。[3]
どのような組織がネットワーク組織を目指せるか
理想の組織構造というか、組織の形作り方としてネットワーク組織を挙げてきましたが、正直なところ アベンジャーズ とか攻殻機動隊の 公安 9 課 のようなプロフェッショナル集団でなければ成り立ちづらいことも感じています。
新卒や若手メンバーにとっては自分が give できる内容に対して take する部分があまりに大きすぎ、依頼がしづらいとか恐縮してしまう結果としてこの組織に溶け込めない可能性は高いと思っています。
ここに関してはまた別の組織の形づくりの中で解決していく必要があると感じています。
ネットワーク組織における hierarchy とは何か
ここはもはや蛇足というか別の記事でまた書こうかと思いますが、ネットワーク組織のように自己解決能力が高い組織体において、じゃあ上司・マネジャーなどの階層構造は何を果たすべきか、というのもまた検討が必要です。
簡単な結論としては人間の神経のような、上層部からの連絡役のような、あまり制御の強すぎない役割がいいのではないかと思っていますがまたいつか書きます。
いまんところの意見として、ある程度のサイズがある組織においては、完全フラットではなく情報伝達経路としての hierarchy は必要だと思っています。
まとめ
日本マイクロソフトで働いていた経験を振り返りながら本を読み、3 人組を作るというのがキーというか、意図せずやってきたことではあるもののとてもよく機能していたんだなと思っています。
関係が増えていくことでお仕事もいっぱいもらえるようになりますし、自分の繋がりを含めて解決できる課題は加速度的に多くなっていくことは全能感につながります。
直近転職したこともあり関係性はかなり少なくなってしまった状況ではありますが、こういった振り返りをもとにもっと戦略的に繋がりを作っていくのもいいのではと考えています。
参考
Amazon のリンクはアフィリエイト付けていませんので自由に見ていただければと。
- 組織 「組織という有機体」のデザイン 28のボキャブラリー - 横山 禎徳 (著)
Update log
- 画像の内部的なファイル パスを変更 - 2024/07/14
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