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細谷 功『具体と抽象』の読書メモ

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序章:抽象化なくしては生きられない

  • 「具体=わかりやすい」「抽象=わかりにくい」というのが一般的に認知されているこれらの概念の印象
  • 「抽象化を制するものは思考を制す」といっても過言ではない

具体と抽象の特徴

具体 抽象
直接目に見える 直接目に見えない
「実体」と直結 「実体」とは一見乖離
ひとつひとつ個別対応 分類してまとめて対応
解釈の自由度が低い 解釈の自由度が高い
応用が利かない 応用が利く
「実務家」の世界 「学者」の世界
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第6章:往復運動 たとえ話の成否は何で決まるか

  • 「たとえ話」は、説明しようとしている対象を具体的につかんでもらうために、抽象レベルで同じ構造を持つ別の、かつ相手にとって卑近な世界なものに「翻訳」する作業といえます。
  • うまいたとえ話の条件を考えてみましょう。①たとえの対象が誰にでもわかりやすい身近で具体的なてーま(スポーツやテレビ番組など)になっている。②説明しようとしている対象と右記テーマとの共通点が抽象化され、「過不足なく」表現されている。
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第7章:相対的 「おにぎり」は具体か抽象か

  • 手段と目的の関係も、すべて相対的なものです。目的一つに対して手段は複数という形で改装が成立しますが、目的にはつねに、さらに抽象度の高い「上位目的」が存在します。
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第8章:本質 議論が噛み合わないのはなぜか

  • 世の「永遠の議論」の大部分は、「どのレベルの話をしているのか」という視点が抜け落ちたままで進むため、永遠に噛み合わないことが多いのです。
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第10章:価値観 「上流」と「下流」は世界が違う

  • 上流と最下流ではぼ「違う仕事」といってもいいほど、必要な価値観やスキルセットが変わってきます。
  • 上流の仕事は、コンセ嘔吐を決めたり、全体の構成を決めたりする抽象度の高い内容なので、分割してすすめるのは不可能です。
  • 下流に進むにつれて具体化され、作業が飛躍的に増えていくとともに、作業分担も可能になっていきます。
  • 同時に、求められるスキルも変わってきて、「全体を見る」よりは個別の専門分野似特化して深い知識を活用する能力が求められていきます。
  • 上流で重要なのは個人の創造性で下流で必要なのは、多数の人が組織的に動くための効率性や秩序であり、そのための組織のマネジメントやチームワークといったものの重要性が相対的に上がっていきます。
  • 意思決定は、多数の人間が関われば関わるほど「無難」になっていく
  • 下流のしごとは、大勢の人にわかりやすいように体系化・標準化され、また、どんな人が担当してもスムーズにいくように、各分野の専門家を含む多数の人が目を通す(管理する)必要が生じてくる
  • 抽象度の高い上流の仕事に「コラボレーション」はなじまない
  • オープンソーシングやクラウドソーシングのような、「衆知を集める」のは、とくに上流の方針が決まった上での下流の具体的なアイデアを多数出すときには有効な手段になります。
  • 上流の仕事というのがまさに「自由度の高い」仕事で、下流の仕事が「自由度の低い」仕事です。
  • どちらが良い悪いではなくて、求められている仕事の特性がどちらによって適材適所の活用が求められますが、このミスマッチを認識していないことによって、実際の現場では不幸な事象が頻発しています。
  • 価値観の違いに関しては「質の上流vs量の下流」という視点もあります。
  • 下流のしごとは多くの人が関わったほうがレベルが上がり、速く安くなりますが、上流の仕事の質は、むしろ関わった人の量に反比例します。
  • 下流の仕事のやり方に慣れている人は、多人数で議論を繰り返して多数決による意思決定をすることが仕事の品質を上げるという価値観
  • 上流側の仕事では、口を出す人の下図が増えれば増えるほど、焦点がぼやけて角の丸くなった凡庸なものになっていく

価値観の違い

上流 下流
抽象度が高い 具体性が高い
全体把握が必須 部分への分割可能
個人の勝負 組織の勝負
少人数で対応 多人数で対応
創造性重視 効率重視
多数決は効果なし 多数決が効果あり
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全然意図せず読み始めたけど、まさにSIerの世界はこれなんだよな。構想とか要件定義のような上流の世界と設計以降の下流の世界ではまったく性質が異なるものなのに、それを同じメンツでやろうとするケースが多いからうまくいかないプロジェクトが多いんじゃないかと思う。

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第11章:量と質 「分厚い資料」か「一枚の図か」

  • 具体の世界は「量」重視、抽象の世界は「質」重視
  • 量が少なければ少ないほど、シンプルであればあるほどよい
  • 抽象化の帰結として、抽象度が上がるほど異なる事象が統一されて同じになる
  • 抽象度が下がって具体化するほど異なる事象の数が増えることになる

パスカルの手紙

  • パスカルは17世紀に生きた数学者・哲学者
  • 「人間は考える葦である」ということばが有名
  • 友人に出した手紙の一節が、具体と抽象をよく表している。

今日は時間がなかったために、このように長い手紙になってしまったことをお許しください。
- パスカル

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第12章:二者択一と二項対立 そういうことを言ってるんじゃない?

  • 「二者択一」と「二項対立」は似て非なることばなので注意

二者択一

  • 2つのうち1つをとること

例:

  • 賛成 or 反対
  • ◯ or ✕

二項対立

  • 相対する2つの概念を比較して考える手法

例:

  • 必然 ⇔ 偶然
  • 一般 ⇔ 特殊
  • 単純 ⇔ 複雑
  • 革新 ⇔ 保守
  • 具体 ⇔ 抽象
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第13章:ベクトル 哲学、理念、コンセプトの役割とは

  • 哲学や理念を持たずにすべてにおいて個別に行動することは無駄が多い
    • 場当たり的判断
    • 昨日の行いと明日の行いで整合性がとれない
    • 場合によっては後戻り作業や二重作業が大量に発生してしまう
  • 哲学のレベルで方向性が共有されていれば、個別に見える案件もすべてその大きな方向性に合致しているかどうかで判断できるため効率的
  • 個別の行動の判断に困ったときの拠り所になるのも、「最終的に何を実現したいか?:という長期的な上位目的
  • 「枝葉を切り捨てて幹を見る」という抽象化の考えがここに生きてくる
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組織において、組織目標と個人目標を据える意義はここにあるのだろう。さらにいえば、会社理念や中期経営計画のようなビジネス目標が最上段にある。組織のピラミッドの末端に行けば行くほど、個人の範囲しか見えなくなるが、上長は経営目標からブレークダウンされた組織目標があり、さらにそこから個人目標が生まれてくるのだということを示すべきと思った。

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第14章:アナロジー「パクリ」と「アイデア」の違い

  • アナロジーとは「遠くからアイデアを借りてくる」ための手法
  • 先進企業や競合他社のアイデアを真似する行為は、具体レベルで見た目のデザインや機能をまねすることであり、これは単なる「パクリ」
  • アナロジーは「抽象レベルのまね」、パクリは「具体レベルのまね」
  • 抽象レベルでまねすれば、「斬新なアイデア」となる
  • 身の回りの「一見遠い世界のもの」をいかに抽象レベルで結び付けられるかが創造的な発想力の根本である
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アナロジーとは

類推(るいすい)は類比(るいひ)、アナロジー(Analogy)ともいい、特定の事物に基づく情報を、他の特定の事物へ、それらの間の何らかの類似に基づいて適用する認知過程である。古代ギリシャ語で「比例」を意味する ἀναλογία アナロギアーといった概念に由来し、広義においてこれはロゴスに含有する。

類推は、問題解決、意思決定、記憶、説明(メタファーなどの修辞技法)、科学理論の形成、芸術家の創意創造作業などにおいて重要な過程であるが、論理的誤謬の排除が難しい場合も多く、脆弱な論証方法である。科学的な新概念の形成過程は、チャールズ・パースによるアブダクション理論として区別されることもある。

異なる事象に対し類推することで、共通性を見出す言語的作業が比喩である。 言語学では、言語自体に対する類推が言語の変化の大きな要因とされる。
類推 - Wikipedia

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アナロジー(Analogy)は「類推」「類比」とも呼ばれ、特定の物事に関する情報を理解しやすくするために他の物事になぞらえることを指します。例えば、赤色で丸い形をしていて片手に載るくらいの大きさの金属性の物体『X』について誰かに説明するとしましょう。『X』は金属製ですが、「赤くて、丸くて、片手にのるくらいの大きさ」という要素は「リンゴ」と共通しています。そこで、「『X』は金属製だけど、見た目はリンゴに似ている」と説明します。多くの人が知っているリンゴに例えることで、実際に『X』を見たことがない人でも「金属でできたリンゴのような物体」を直感的にイメージしやすくなるでしょう。このようにわたしたちが普段から良く使う比喩表現も、アナロジーの一種といえます。
アナロジー思考とは?クリエイティブな発想を導き出す思考法 | MY FUTURE CAMPUS

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第15章:階層 かいつまんで話せるのはなぜか

  • 抽象化の能力は、インターネット上にあふれる膨大な情報から自分の目的に合致した情報を短時間で収集したり分析したりする場面でとくに力を発揮する
  • 場面場面での目的に応じて、「幹」と「枝葉」を見分けることで、当店を掴んで効率的に情報処理をしている
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第16章:バイアス 「本末転倒」が起こるメカニズム

  • 文法とは、人々が話している言葉から共通ルールをみつけ、明示的に言語化してまとめたもの
  • 具体 → 抽象の産物である
  • 不思議なことに、文法という抽象レベルのルールが出来上がってしまうと、いつのまにかルールが一人歩きをはじめてしまう
  • つまり、文法に合っていない表現に対して、「それは間違った使い方である」という指摘が生まれる
  • これは、文法という抽象度の高いルールで、実際の会話という具体を縛るという現象である
  • 抽象化された知識や法則は、一見「高尚に見える」だけに取り扱いに注意が必要である
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例示があまり良くない気がした。
言語と文法は表裏一体であり、具体 ⇔ 抽象を行き来する必要がある。文法とは意思疎通を円滑に、間違いなく行うために必要なツールであり、その文法から外れた表現が「間違っている」という指摘をすることは意思疎通の正確さを求める観点からすると正しい指摘である。一方で、これが行き過ぎるとたしかに「ら抜き言葉」のように意思疎通に影響は及ぼさないにもかかわらず、過剰に文法至上主義を貫く姿勢に違和感を覚えることも事実。第16章の説明だけでは、いらぬ敵を生みかねない、また誤った価値観を植え付けかねないように感じた。

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第17章:理想と現実 実行に必要なのは何か

  • 起業家は「大きな理想」という抽象レベルの目標を掲げながらも、目の前の実行(具体レベル)も手掛ける
  • まさに「具体と抽象の往復」を日常的に行うことになる
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マジックミラー 「下」からは「上」は見えない

  • 「見えている」側に立ったときに「見えていない相手」にどのように対処すべきかは難しい
  • 「見えている人(見えてしまった人)」が持つ、共通かつ永遠の悩み
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終章:抽象化だけでは生きにくい

  • 結局重要なのは「抽象化」と「具体化」をセットで考えるべきであるということ
  • これらはひとつだけでは機能せず、必ずセットになって機能する

高尚な理は卑近の所にあり
- 福沢諭吉

  1. まずは徹底的に現実を観察する
  2. 実践の活動を通して世の中の具体をつかむ
  3. それを頭の中で抽象化して思考の世界にもちこむ
  4. そこで過去の知識や経験をつなぎ合わせてさらに新しい知を生み出す
  5. それを再び実行可能なレベルにまで具体化する

これが、人間の知とその実践の根本的なメカニズムということになる。

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IT業界で考えると "IT" は課題を解決するためのツールである。このツールを使ってものごとを改善していくために、「システム化要件定義」や「システム化構想」のような最上流の工程が行われる。このような工程は "抽象度の高い工程" と言われるが、ようやく頭のなかで整理がついた気がする。

"抽象度の高い工程" というよりは、具体として現れているあらゆる課題や問題をカテゴライズ (=グルーピング=抽象化)することで、上位目的を設定し、この上位目的からシステム要件に落とす具体化を行う、これが最上流の工程の真髄といえるのではと思った。


最上流工程の流れ(イメージ)

「最上流の工程は難しい」「何から手を付けたらいいかわからない」と言って途方に暮れる人たちの姿をたくさん見てきたが、具体化(課題・問題を列挙)→ 抽象化(課題・問題をカテゴライズ)→ 抽出(最上位目的の設定)→ 階層化(最上位目的の下に課題・問題とその解決方法を整理)→ 具体化(システム要件への変換)という流れを外れなければ扱いやすくなるのではないだろうか。

このスクラップは2020/11/27にクローズされました