「ビジネスパーソンのための使われ続けるダッシュボードづくりの教科書」を読んでみた
概要
データエンジニアとして5年近くキャリアを積む中で、私は「ダッシュボード」という領域には特に踏み込んでこなかった。他職種の課題を理解するため、書店で複数の関連書籍を比較検討し、『ビジネスパーソンのための使われ続けるダッシュボードづくりの教科書』をKindleで購入した。
ダッシュボード活用の現状と課題
「ダッシュボードが使われない」という話はよく耳にする。多くの場合、公開後の閲覧数などによる効果測定についてはあまり聞かない。そのため、問題の実態を具体的に把握することが難しかった。
本書では、ダッシュボードが使われなくなる原因を「品質・導線・保守」の3つの観点から説明している。この構造は、ソフトウェア開発の課題と非常に似ている。ダッシュボードもソフトウェアの一形態として捉えることで、問題の本質がより明確になるように感じた。
ソフトウェア開発との共通点と相違点
一般的なソフトウェアでは、利用者がデータを入力し結果を閲覧するのに対し、ダッシュボードではデータをもとに行動を起こすことが主目的となる。この違いにより、ダッシュボードは一般的なソフトウェアと比べて用途が不明確になりやすい特徴がある。
効果的な要件定義のアプローチ
本書では、「品質・導線」の課題を要件定義段階で解決することを提案している。特に社内利用を想定したダッシュボードでは、利用者の特定が比較的容易であり、これを活かした要件定義が可能となるとしている。
重要なポイントとして、ダッシュボードの利用者をセグメント化し、実在する人物をサンプルユーザーとして設定することが挙げられる。各セグメントの職責や想定される行動を詳細に分析し、それらをドキュメントとして整理するというもの。
ダッシュボードの利用者を分類する例
特筆すべきは「ビジネスクエスチョン」というアプローチ。これは、ダッシュボードにQA形式の見出しを設置し、データの閲覧に明確な目的を持たせる手法である。
目標がある場合は、以下のような観点でビジネスクエスチョンを設定する。
また、従来のKPIツリーに代わり、ビジネスプロセスを視覚化した「数地図」を活用することで、滞留やリードタイムなども考慮できる実践的な指標の設計が可能となると紹介している。
運用フェーズにおける品質管理
本書の特徴的な点は、運用面に関する詳細な言及だ。多くのダッシュボード関連書籍では軽視されがちな領域である。
公開後のダッシュボードに対する変更要望については、「誰が必要としているか」「実際の価値は何か」という観点から慎重に判断する必要性を説いている。改修を安易に行うことは、ダッシュボードの品質低下につながりかねない。ただし、この判断を適切に行うためには、要件定義段階での詳細な文書化が不可欠であると思われる。
追加要望に対しての検討項目(「実現可能性」は独自に追加)
ユーザビリティ向上への実践的アプローチ
特に印象的だったのは、ダッシュボードの「試験」という概念だ。これは、ダッシュボードから読み取れる情報に関するクイズを出題し、利用者の理解度を測定する取り組みである。正答率や理解が困難だった用語、集計定義などをヒアリングすることで、具体的な改善につなげることができる。
この手法は、Webサイトのユーザビリティテストに近い考え方だが、ダッシュボード特有の文脈に適応させている点が興味深い。
結論:データエンジニアの視点から見た本書の価値
本書から得られた最大の学びは、ダッシュボードがソフトウェア開発と同様の体系的なプロセスを必要とする点だ。特に社内利用に焦点を当てているからこそ、具体的な利用者を想定した実践的な設計手法を提示できている。
初心者にとっても価値のある内容だが、実務経験のあるベテランにこそ推奨したい一冊である。見た目の表現方法にとどまらず、実際の利用価値を重視する本質的なアプローチを学ぶことができる。
本書の知見を得た今、既存のダッシュボードの改善点がより明確に見えるようになった。この学びを今後の業務に活かし、より効果的なデータ活用の実現に貢献していきたい。
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