成長を設計する──初心者支援から始まるチームの未来
成長を設計する──初心者支援から始まるチームの未来
成長は、偶然には起きない。
壊してもいい環境、小さな成功体験、そして探索の余白。
これらを意図的に設計すれば、人は自然に歩き始める。
はじめに
新しい技術に触れるとき、多くの人は不安を感じるものだ。
とくに初心者にとっては、「何から始めたらいいのか分からない」「失敗したらどうしよう」という心理的な壁が高い。
私は、いくつもの新技術に自分自身で「突撃」してきた経験を持っている。 知らない技術に飛び込んで、失敗しながら、動かして、壊して、直して、そうして少しずつ「慣れ」を積み重ねてきた。
この過程で気づいたことがある。
成長は、偶然には起きない。
成長するためには、成長しやすい環境が必要なのだ。
とくに初心者にとっては、「最初の成功体験」をどう設計できるかが、すべてを左右する。
だから私は、プロジェクトに人を迎え入れるとき、必ず──
- 壊しても怖くない環境を用意する
- 小さくても確実に成功できる手順を整える
- そして、ほんの少しだけ余白を残しておく
──そういう設計を意図的に行うようになった。
今回は、その考え方と実践例をまとめておきたい。
1. 成長を支える三本柱──環境、ガイド、余白
壊しても怖くない環境をつくる
初心者にとって最大の敵は、失敗への恐れだ。
だから、どれだけ壊しても簡単にリセットできる環境を最初に用意する。
ICT分野なら、Docker Composeが理想的だ。コマンド一つで環境を作り直せる。 失敗しても、やり直しは簡単だ。
この「試してもいい。壊しても簡単にリセットできる」という安心感があるだけで、学びへの意欲と探索のスピードはまったく違ってくる。
成功しやすい手順を用意する
もう一つ大事なのは、最初の成功体験を確実に得させることだ。
- 最小限のステップで
- 確実に「動いた!」と思える
そんな小さな成功を設計する。
たとえば、Kafkaなら「1メッセージ送れたらOK」という基準にする。 Flinkなら「KafkaのデータをConsoleに出力できたらOK」くらいでちょうどいい。
小さな成功体験は、心理的な追い風になる。
それが次の探索を自然に後押ししてくれる。
少しだけ余白を残す
そして、すべてを手取り足取り教えすぎないことも、実は大切だ。
完全な手順書だけを渡すと、人は「指示通りにやった」だけになりやすい。
だから、ほんの少しだけ「考えるポイント」を残しておく。
たとえば、
- この設定、他にどう変えられるだろう?
- もう一歩先に進むには、何を調べればいいだろう?
そんな、小さな問いかけをガイドの中に埋め込む。
これが、「自分で探索して発見する」という体験を生み出す。
2. 実践例──成長設計が効いたプロジェクトたち
Flink・Kafka・OpenSearch環境の立ち上げ支援
Docker Composeで整えた最小環境を用意し、まずはKafkaにメッセージを送り、Flinkで受け取り、Consoleに出力するところまでを目標にした。
最小のゴールを確実に達成できたことで、未経験のメンバーもすぐに「できた!」という成功体験を得ることができた。
AWS 初期スタック(CDK)
AWSに不慣れなメンバー向けには、CLIのセットアップから始め、シンプルなVPCネットワークをCDKでデプロイするだけのタスクを設定した。なんのことはない、私自身も、最初は初心者だったから、少しずつ少しずつ拡張してきた。その過程をなぞってもらっただけのことだ。
これにより、AWSに対する心理的なハードルを、最初の数アクションで一気に下げることができた。
FastAPIの雛形コード提供
動く最小限のFastAPIアプリコードを提供した。最初は、Routing、ビジネスロジック、DBアクセスがすべて1つのファイルに詰め込まれた状態だった。
だが、これがよかった。やっていることがすべて見渡せるので、初心者にとって見通しがよく、APIからDBアクセスできるという強力な成功体験を最初に積むことができた。
その後、Controller層とRepository層にリファクタリングし、さらに認可制御機能を追加していった。
こうして、段階的に設計を分解する流れを体験してもらった。
3. 成長設計メモ
プロジェクトごとに、簡単な成長設計メモを作るようになった。 記録する内容はシンプルだ。
- 対象技術やスコープ
- 開始時期
- 誰に対して
- 設計方針
- 実施した工夫
- 成果と気づき
- 改善ポイント
この蓄積が、次のプロジェクトでの成長設計力を高めてくれる。 また、同じ失敗を繰り返さずに済む。
4. これから──成長設計をさらに深めていくために
私はこれから、
- 成長設計メモをもっと体系化し
- 初級・中級・上級に応じたガイド設計を整え
- 探索と成功体験の両立をさらに洗練させ
「成長設計」という技術そのものを発展できると思っている。
5. 成長を信じる
チームが伸びないとき、
つい「能力の問題ではないか」と疑いたくなることがある。
でも、私は信じている。
能力ではない。環境だ。
多くの人は、もともと十分に頭がいい。
ただ、最初の一歩が遠すぎるだけだ。
ただ、失敗が怖すぎるだけだ。
壊していい場を用意し、
小さな成功体験を与え、
自分で探索する余白を残す。
それだけで、人は自分の力で育ち始める。
私は、そういう成長の瞬間を、これからも支えていきたいと思う。
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