毎日1時間を“資産化”する──LROI(Long-term ROI)という投資指標
毎日1時間を“資産化”する──LROI(Long-term ROI)という投資指標
仕事が終わったあと、1時間だけ自分のための時間を確保するようにしている。
目的は「長期的に回収される設計資産」を育てることだ。
この1時間は、単なる休憩や趣味ではなく、明確な前提をもった投資時間である。
ただし、ここで言う“投資”とは、金銭的リターンを意味しない。
私が意図しているのは「LROI」──Long-term Return on Investment の観点で、知的資産を増やすことだ。
LROIとは何か?
LROI(Long-term ROI)は、短期成果ではなく、時間をかけて回収される資産を対象とした投資概念である。
- 金銭ではなく、知識・構造・表現・信頼・設計様式といった 「構造的に再利用される価値」 への投資
- 回収タイミングを自分で制御せず、 未来の文脈に委ねる設計
- すぐに成果が出なくても、 中長期的に“積み重なりうる領域”に焦点を当てる
ソフトウェア設計における「抽象化」や「思想のモジュール化」もLROIの対象になり得る。
投資期間の分割:短期・中期・長期
LROIにおける投資は、期間ごとに目的と密度が異なる。
これは、金融の世界で債券の性質を決める**デュレーション(回収期間の構造)**にも似ている。
LROIの構造理解における「デュレーション」の比喩
金融における債券の評価指標として「デュレーション」がある。
これは単なる満期までの年数ではなく、「キャッシュフローの現在価値加重平均としての回収期間」を意味し、金利変動に対する感応度も表す。
LROIにおいても、同様の“時間の構造”が重要になる。
たとえば、ある設計思想やプロンプトのテンプレートは、すぐには回収されないが、半年後に読み返して役立つかもしれない。
一方、抽象的な設計原則は、数年後にようやく他者との議論の中で芽吹くこともある。
ここでいう「デュレーション」は、投資した思考が回収されるまでの“期待的な時間”の分布構造であり、
単なる満期(=完成)とは異なる。むしろ、回収タイミングが予測不能であることにLROIの本質がある。
投資期間 | 回収目安 | 対象例 | 投資密度(リソース配分の傾向) |
---|---|---|---|
短期 | 〜1ヶ月 | 技術の試習、試し書き、短文アウトプット | 粗く、数を打ち、失敗を許容 |
中期 | 数ヶ月〜2年 | 書籍、設計思想、社内文化形成、OSS活動 | 濃く、反復し、磨き続ける |
長期 | 5〜10年超(不定) | 表現様式、構文、信頼、構造的文法、哲学 | 深く、遅く、再利用可能性重視 |
LROIの実践:毎日の1時間で何をすべきか?
LROIを意識した時間の使い方は、次の3つのステップに集約できる。
-
対象を明確化する
例:「設計思想」「再利用可能なプロンプト」「抽象モデル」など、資産化し得る思考対象を定める。 -
記述可能な形に落とす
図・文章・コード・DSL・Notion・Zenn記事など、他者や未来の自分が読み解ける構造に変換する。 -
再利用可能性を内在させる
一度書いて終わりではなく、何度も活用されうる形に整えておくことが重要だ。
リンク・カテゴリ・名前付け・再配布可能性などを通じて、将来の利用を可能にする設計を施す。
たとえば、設計思想や表現パターンは、記録しておくだけでも将来のコンテンツや他者支援に転化される可能性がある。
1時間を「ただの学習時間」にとどめず、再利用可能な構造体を残す時間にする
それが、LROIの実践における鍵である。
結び:この1時間が、誰かのために回収される日を信じて
このようにして記述された思想や設計の断片は、いつ、誰に、どのように回収されるかは分からない。
1年後の自分かもしれないし、偶然たどり着いた他者かもしれない。
あるいは、形を変えて別のプロジェクトの中で芽吹く可能性もある。
重要なのは、「すぐに成果が出なくてもよい」と構えていられること。
それは諦めではなく、**“構造に信を置く姿勢”**である。
未来の文脈に託して蒔かれた1時間は、時間を超えて誰かの知的資産になり得る。
そして、その“誰か”の最初の候補は、自分自身なのだ。
著作と再利用に関する方針
本記事における「LROI(Long-term ROI)」という用語自体は、もともと経営・マーケティング領域で用いられてきた概念です。
本記事ではそれを再解釈し、「時間投資の構造設計」「知的資産としての回収性」という観点から再構成したものです。
この再構成されたLROIの構造分類(短期・中期・長期)、デュレーションの比喩、実践ステップ等は、sisiodos による独自の思想設計に基づいています。
これらの構造・用語群はMITライセンスに準じて再利用可能です。
再利用や派生作品の際には、可能であれば「Designed by sisiodos」または本記事URLを出典として明記してください。
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