XP入門2
前回の振り返り
簡単に前回を振り返ると、XP (エクストリームプログラミング) は、アジャイル開発の手法の一つです。
XP において「価値」「原則」「プラクティス」は重要な概念であり、それぞれの要素が連携してソフトウェア開発を効率化します。
前回の記事はこちら
今回の内容
今回は9~16章を読み進めました。
その中で印象的だった、導出プラクティス、チーム全体、制約理論と時間の重要性についてまとめていきます。
エクストリームプログラミング / ケント・ベック 著
導出プラクティス
導出プラクティスは主要プラクティスを補強し、より効果的な開発を可能にするプラクティスです。
そのため主要プラクティスを実践していて、ある程度チームが XP に成熟していることが推奨されます。
本物の顧客参加
- 自分たちのシステムによって生活やビジネスに影響を受ける人をチームの一員にすること。
- 顧客参加のポイントは、ニーズを持つ人とそれを満たす人が直接やりとりをして、ムダな労力を減らすこと。
- 信頼できる行動をとり、何も隠さなければ、生産性は高まる。(隠すことや取り繕うことに時間を費やす必要がないため)
チームの継続
- 優秀なチームは継続させること。
- 大きな組織は、ヒトをモノに抽象化する傾向がある。互換性のあるプログラミングユニットだと考えている。
- ソフトウェアのバリューは、みんなが知っていることや行なっていることだけでなく、人間関係やみんなで一緒に成し遂げることによっても生み出される。
- 要員計画の問題を単純化するためだけに、人間関係や信頼の大切さを無視するのは経済的ではない。
チームの縮小
- チームの能力が高まったら、仕事量を維持しながら少しずつチームの規模を縮小すること。
- チームを離れた人は、また別のチームを作ることができる。
- より多くの仕事量をこなすために、チームの規模を拡大するような戦略もあるが、それではうまくいかない。他の方法を考えるべき。
- チームメンバーの誰かの手が空くまで、開発を改善していくこと。そうすれば、規模を縮小しながらチームを継続できるはず。
コードとテスト
- コードとテストだけを永続的な作成物として保守すること。
- その他のドキュメントについては、コードとテストから生成すること。
- プロジェクトの重要な履歴の維持については、社会的な仕組みに任せること。
- 顧客は、システムの今日の挙動と、チームが開発する明日のシステムの挙動に対してお金を支払っている。
- この2つのバリューの源泉に貢献する作成物は、それ自体にバリューがある。
利用都度課金
- 利用都度課金システムがあれば、システムが利用されるたびにお金を請求することができる。
- お金は究極のフィードバック。
- お金には実体があり、これから自分で使うこともできる。
- お金の流れをソフトウェア開発に直接接続すれば、改善を推進するための正確でタイムリーな情報が得られるはず。
- 利用都度課金にできなくても、サブスクリプションモデルに移行することはできるかもしれない。
- チームは自分たちの行動の状況を把握する情報源として、少なくとも定着率(サブスクライブを継続する顧客数)を見ることができる。
- ライセンス収益のフィードバックだけを頼りにしているチームよりも、利用都度課金の情報を使っているチームの方が効果的な仕事ができるはず。
XP チーム全体
XP における「チーム全体」は、単なる開発チームではなく、プロジェクトの成功のために協力し合う、より広義のチームを指します。
さまざまな人の視点を注ぎ込み、チーム全体が一体となって取り組むことで、より良いソフトウェアを開発し、ユーザーの満足度を高めることができます。
この章では次の比喩を用いて、チーム全体の重要性が説明されていました。
- 異なる視点を持つ人たちがロープに結ばれて氷河の上を歩いているときに、誰が先頭になるかは重要ではない。
- 本当に重要なのは、全員がロープに結ばれているという感覚をチーム全体が共有していること。
- 誰かが先頭になって他の人を追従させるよりも、全員で足並みをそろえて歩いたほうが、ずっと先まで進める。
また XP においてそれぞれの役割は固定化されるものではなく、チーム全体の成功のために柔軟に変化することが重要です。
チームの状況や目標に合わせて変化し、チーム全体の成功に貢献することが求められます。
プロジェクトマネージャー
- XP チームのプロジェクトマネージャーは、チーム内のコミュニケーションを円滑にしたり、顧客、サプライヤー、その他のチーム外の組織とのコミュニケーションを調整したりする。
- チームの歴史学者となり、チームに進捗状況を思い出させる。
- プロジェクトの情報をまとめて、経営幹部や同僚にプレゼンするために、クリエイティブでなければいけない。
- 正確性を保つために、プロジェクトの情報を頻繁に変更することになる。
- したがってプロジェクトマネージャーには変更をうまく伝える能力が求められる。
- チーム内のコミュニケーションを円滑にして、一体感や信頼関係を築くようにしなければいけない。
- そのためには、重要な情報の管理者になるよりも、効果的なファシリテーターになるほうが、得られる力は大きい。
プロダクトマネージャー
- XP のプロダクトマネージャーは、ストーリーを書いたり、四半期サイクルのテーマやストーリーを選択したり、週次サイクルのストーリーを選択したり、実装によって明らかになったストーリーのあいまいな部分の質問に答えたりする。
- チームがオーバーコミットしていたら、想定していた要件と現実の違いを分析して、チームが優先順位をつけられるように支援する。
- プロダクトマネージャーは、今実際に起きていることにストーリーやテーマを適応させる。
- ストーリーの順番は、技術ではなくビジネスの理由で決めるべき。
- プロダクトマネージャーは、顧客とプログラマーのコミュニケーションを促進する。
- 顧客の最も重要な課題がチームに伝わり、きちんと対処されるようにしなければいけない。
- チームが本物の顧客参加を実践していれば、ストーリーを選択した顧客やマーケット全体のニーズを満たせるように、システムの成長を促さなければいけない。
経営幹部
- 経営幹部は、XP チームに勇気、自信、説明責任を提供する。
- 共通の目標に向かって一緒に進んでいく XP チームの強みは、弱みにもなり得る。
- チームのゴールが会社のゴールと合っていなかったらどうなるだろう?
- 成功のプレッシャーと興奮によって、ゴールを見失ってしまったらどうなるだろう?
- 大きなゴールの明確化と維持は、XP チームのスポンサーや監督を務める経営幹部の仕事。
- もうひとつの仕事は、改善の監視、促進、円滑化。
- 経営幹部はチームが作り出す優れたソフトウェアだけではなく、継続的な改善についても目を配らなければいけない。
- 経営幹部は、XP プロジェクトのあらゆる側面について自由に説明を求めることができる。
- 説明は筋が通ったものでなければいけない。
- 筋が通っていなかったなら、経営幹部はチームに対して考察と明確な説明の提供を求めるべき。
- XP チームの評価を決める人たちは、優秀なチームがどのようなものかを理解するべき。
- XP チームは会話しながら仕事をする。
- にぎやかな話し声は健全である証拠。
- 静寂はリスクがたまっている音色。
- 経営幹部が XP チームを理解し、自身の経験や視点をうまく適用するには、新しい経験則を学ぶ必要がある。
テクニカルライター
- XP チームにおけるテクニカルライターの役割は、フィーチャーのフィードバックを早期に提供したり、ユーザーとの密接な関係を築いたりすることである。
- フィーチャーのフィードバックを早期に提供。
- 文章と図を使ったシステムの説明は、チームにフィードバックをもたらす要素のひとつである。
- ユーザーとの密接な関係を築くこと。
- ユーザーがプロダクトを学習できるように支援したり、ユーザーからのフィードバックを受け取ったり、ユーザーが混乱しないように発表資料や新しいストーリーを追加したりする。
- フィーチャーのフィードバックを早期に提供。
- XP チームは実際の利用状況からフィードバックを得るべき。
- マニュアルサイトを掲載しているなら、利用状況を監視できる。
- ユーザーがドキュメントを見ていなかったら、その部分を書くのはやめる。
- そして、空いた時間をもっとうまく活用する。
ユーザー
- XP チームのユーザーは、開発中のストーリーの記述や選択の支援をしたり、専門領域の意思決定をしたりする。
- 構築中のシステムと類似したシステムに関する幅広い知識や経験を持っていたり、システムを実際に利用するユーザーコミュニティとの強い関係性を持っていたりすれば、そのユーザーは非常に大切な存在だ。
- ユーザーはコミュニティの代表者であることを忘れないようにしなければいけない。
プログラマー
- XP チームのプログラマーがやること。
- ストーリーやタスクを見積もる。
- ストーリーをタスクに分解する。
- テストを書く。
- フィーチャーを実装するコードを書く。
- 退屈なプロセスを自動化する。
- システムの設計を少しずつ改善したりする。
- 技術的に密接に協力しながら一緒に働く。
- つまりプログラマーは社交性や人間関係のスキルを身に付ける必要がある。
人事
- チームが XP を適用し始めるとき、人事評価と雇用という2つの課題が発生する。
- 人事評価の課題
- XP はチームのパフォーマンスに集中しているのに、実際の人事評価や昇給は個人の目標や達成度に対して行われているから。
- XP 適用前の評価の仕方を大きく変える必要はない。
- 以下は、XP における重要性の高い従業員
- リスペクトを持って行動できる。
- 他人とうまくやれる。
- イニシアチブをとれる。
- 約束したものをデリバリーできる。
- 2つの方法で解決できる。
- このまま個人ベースの目標、評価、昇給を続ける。
- もしくはチームベースのインセンティブや昇給に移行するか。
- 雇用の課題
- XP チームでの雇用は、既存の雇用方法と異なる可能性がある。
- XP チームはチームワークとソーシャルスキルを重要視している。
- ずば抜けたスキルを持っているが孤独を好むプログラマーと、そこそこ優秀でソーシャルスキルのあるプログラマーがいれば、XP チームは常にソーシャルスキルのある候補者を選ぶ。
- チームと一緒に1日働いてもらうことが最高の面接方法。
- 人事評価の課題
制約理論
制約理論とは、システムのボトルネック(制約)を特定し、それを改善することで、システム全体の効率を最大化する理論です。
導入するには組織全体の意識改革が求められます。個人の生産性よりも、システム全体の効率を重視し、ボトルネック解消に協力する体制作りが重要です。
- 先ずはどの問題が開発の問題かを見極めるところから、ソフトウェア開発の改善の機会を発見すること。
- 洗濯を例にした理論の説明
- 洗濯機が衣類を洗濯するのに45分かかり、乾燥機が衣類を乾燥するのに90分かかり、衣類を畳むのに15分かかるとする。
- このシステムのボトルネックは乾燥。洗濯機が2台あっても、洗濯がすべて完了した衣類が増えるわけではない。
- 洗濯だけが終わった衣類は一時的に増えるかもしれないが、濡れたままの衣類が至るところに山積みになり、その対応をしなければいけなくなる。
- より多くの衣類の洗濯をすべて完了させたければ、乾燥をどうにかする以外に選択肢はない。
- システム全体のスループットを改善するには、最初に制約を見つけなければいけない。
- 次に、その制約が最大限に稼働していることを確認する。
- そして、制約のキャパシティーを増やすか、制約以外の負荷を下げるか、制約を完全に排除するかのいずれかの方法を探す。
- システムの制約をどのように発見するか。
- 仕掛品が山積みになっているところが制約。
- 洗濯の例では、これから畳まなければいけない乾燥した衣類は山積みになっておらず、これから乾燥する濡れた衣類が山積みになっている。
- ER 図が多くのフィーチャーを網羅しているにもかかわらず、やることが多すぎて実装から外されている場合は、実装プロセスが制約になっているかもしれない。
- 多くのフィーチャーの実装が終わっているにもかかわらず、インテグレーションやデプロイが待機中になっている場合は、インテグレーションプロセスが制約になっているかもしれない。
設計 : 時間の重要性
ソフトウェア開発における設計は、一度で完璧なものを作り上げるのではなく、段階的に改善していくことが重要です。
柔軟性、シンプルさ、チームとの連携を意識することで、より良いソフトウェアを開発することができます。
- インクリメンタルな設計は、機能を早期に届ける方法であり、プロジェクトの全期間にわたって毎週継続して機能を届ける方法。
- 設計が日常の業務の一環になれば、プロジェクトがもっとスムーズに進む。
- ソフトウェアはレバレッジゲーム
- ひとつの優れたアイデアが何百万ドルものコストを削減したり、何百万ドルもの収益を生み出したりする。
- 残念ながらソフトウェアの設計は、物理的な設計活動のメタファーにとらわれている。
- たとえば、50階建てのビルを所有しており、すべての空間をすでに貸し出しているからといって、そこに別の50階を付け足すことはできない。
- ソフトウェア開発における実践的でリスクの低い方法。
- 犬小屋から開始して、少しずつ部品を置き換えながら、基本的な構造はそのままにして、最終的に超高層ビルにする。
- ソフトウェアの世界でインクリメンタルな設計が重要なのは、アプリケーションをはじめて書く機会が多いから。
- 設計には大きな影響力があり、設計のアイデアは経験によって改善される。
- しかがって、ソフトウェア設計者が持つべき最も重要なスキルのひとつは忍耐。
- フィードバックが十分に得られる分だけ設計を行い、そこから得られたフィードバックを使って、次回のフィードバックが十分に得られる分だけ設計を改善する。そうした技能が求められる。
- 前もった設計は必要だが、最初の実装ができるだけで十分。
- それ以上の設計は実装後に設計の本当の制約が明らかになってから行えばいい。
- XP の戦略は「何も設計しない」ではなく「常に設計する」。
- ソフトウェア設計のおもしろいところ。
- 設計の品質は成功を約束するものではないが、設計の失敗は確実に失敗につながる。
- 最も強力な設計方法は、「Once and Only Once (一度、ただ一度)」
- データ、構造、ロジックなどは、システムのひとつの場所に存在するべき。
- 重複を見つけたら設計を改善する必要がある。
- 重複した表現をひとつにまとめる方法を思いつくまで、設計の改善に取り組んでいく。
- ソフトウェアの設計はそれ自体では完結しない。
- 設計とは、技術側の人間とビジネス側の人間の信頼関係を築くためのもの。
- 要求された機能を毎週デリバリーすることが、信頼関係の構築に欠かせない。
- チームの中でバリューを生み出す多様な関係性を維持することに比べたら、設計者の利便性は優先順位が低い。
- XP チームはできるだけシンプルな解決策を好む。
- 設計のシンプリシティを評価する4つの基準
- 対象者に適している
- 設計がいかに見事で洗練されているかは重要ではない。その設計を使うべき人たちが理解できなければ、それはシンプルではない。
- 情報が伝わりやすい
- 伝えるべきすべてのアイデアがシステムに表現されている。
- システムの要素は、用語の単語と同じように、未来の読者に情報を伝えるものである。
- うまく分割されている
- ロジックや構造の重複は、コードの理解や修正を困難にする。
- 最小限である
- 上記の3つの制約を守った上で、システムの要素はできるだけ少なくする。
- 要素が少なければ、その分だけ必要なテスト、ドキュメント、コミュニケーションが少なくなる。
- 対象者に適している
- 設計のシンプリシティを評価する4つの基準
まとめ
今回読んだ範囲では、より実践的な側面に焦点を当てた内容が多かったと感じました。
特に印象的だったのは「チーム全体」で、経営幹部や人事など、チーム外の人たちがどのような役割を果たすべきかも学べたので、メンバーをサポートするためにより大きな視点を得ることができました。
XP は単なる開発手法ではなく、組織全体の文化を変えるための取り組みとも言えそうです。
メンバーがチームに最善を尽くせるように、これからも学びを深めていきたいと思います。
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