2025年正月に宇宙ビジネスの今後の展開を学ぶ
2025年になりました。 一昨年11月に宇宙関連会社に転職したのをきっかけに、昨年はSAR衛星に関する技術的な内容をStudyしてきましたが、今年はビジネス面、社会への適用の流れもより理解していきたいとおもいます。
宇宙ビジネスの成長予測2030, 2035
昨年4月に世界経済フォーラムより公開された下記のレポートの要点を理解していきます。
WEF_Space_2024
全体の市場規模
上記のグラフは宇宙関連の収入を、BackBoneとReachと2つのカテゴリにわけて集計、予測したものです。Backboneはロケットや、衛星、衛星データ、通信サービスといったいわゆる宇宙産業といったときに直接的にイメージするようなインフラ産業を指しています。一方で、Reachとは、気象サービスや宅配追跡といった宇宙からのデータをもとに提供される応用サービスのことを指しています。
2023年時点で Backboneが3300億ドル、Reachで3000億ドル だったものが 2030で5250億ドル、6350億ドルへ、 2035 では、Reachがいっきにふくらみ1兆ドル、Backboneが7550億ドルになるという予想です。
年平均で9%ずつ市場規模が伸びていくという予想です。Google(Alphabet) の2023年の年間売上が3056億ドルなのでこれから5-6年でReachの売上でGoogleに相当する規模の新しいビジネスが立ち上がるということですね。
Backbone(ロケットや衛星や通信サービス)の市場予測
Backboneの内訳をみてみると 国主導の投資は、引き続き宇宙産業の成長を支える重要な要素であることがわかります。米国や中国が主に大規模な投資を行っており、宇宙機関の数も増加中です(2000年の40から75以上になりサウジアラビア、アラブ首長国連邦、タイ、ペルーなどの国でも独自の計画が進行中です)。宇宙機関は研究、リスク予測、災害対応など宇宙アプリケーションの利用を拡大させます。政府機関は特に宇宙、衛星に関する「ハイエンド製品・サービス」の重要顧客としての役割を持ちつづけると予想されます。
Backbone::Commercial-communicationの詳細予測
市場規模の成長:
2023年の収益は1330億ドルで、2035年には2180億ドルに増加し、通信分野は依然として商業市場で最大の収益源でありつづける。大型コンステレーションSpaceXのStarlinkやAmazonのProject Kuiperなどの展開が進み、ブロードバンドや接続性アプリケーションが加速していく。衛星TV加入者数が減少傾向(年間3%減)で、インターネット配信への移行がすすむ。ブロードバンド接続の成長
新規の大型コンステレーションや多軌道システムが、低遅延・高カバレッジを提供していく。
データ価格は2023年から2035年の間に10%減少し、データ需要は同期間で60%増加する。
デバイス直結型データ(Direct-to-Device)スマートフォンへの衛星通信チップ埋め込みによるデータ需要の急増が予想されます。
Backbone::Earch-Observation
割合は小さいのですが、成長率は大きいです。商業衛星運営者による宇宙ベースのEOは、リアルタイムでの高解像度データと分析を提供し、意思決定に不可欠なツールになっていくと予想されます。
2023年の商業EOデータとサービス市場は20億ドルで、バックボーンの中では小規模なセグメントです。
しかし、大規模なデータセットの無料提供や商業的ソースの発展により、価格が下落し、データ処理、融合、個別分析を組み合わせたサービスへの価値転換が進行が予想されます。
特定の場所や頻度の高い分析への需要に応え、収益は2023年から2035年までに年額90億ドルを超える規模に成長すると予測されます。
Backbone, Reach両方での位置情報、航法、タイミング(PNT)の急増
2023年時点で、国家主導の無料衛星信号を基盤とし、地図や追跡ツールを提供、GPSのようなシステムが商業利用で不可欠となっています。2035年までに、PNT関連のデバイスは年間30億台製造(現在20億台)。
収益は400億ドル(現在)から950億ドル(2035年)に成長する見込みです。
また応用アプリケーションとして、以下のような用途が想定されます
- ライドヘイリング(ウーバーのような)アプリ:2023年の610億ドルから2035年に3,000億ドルへ成長。
- 車両シェアリングアプリ:2023年の110億ドルから2035年に640億ドルへ。
- ラストマイル配送の効率化:
生鮮食品や飲料の配送:2023年の1,000億ドルから2035年に3,340億ドルへ。 - 個人用トラッキングサービス:
エンターテインメントやスポーツ向け:2023年の20億ドルから2035年に90億ドルへ。 - スマートウェアラブルの増加:2023年の50億ドルから2035年に200億ドルへ。
また、サプライチェーンへの影響としてフリート管理(複数の移動体の管理効率化)サービスが、地上、航空、海上輸送あわせて2023年の60億ドルから2035年に150億ドルへ成長する見込み。宇宙技術はグローバルな供給網全体に影響を与え、コスト効率を高め、リスク軽減に寄与することが期待されます。
宇宙関係の、市場規模拡大予測において 実は地上のモビリティ、サプライチェーンへの影響が一番大きいということはこのデータをみて改めて認識しました。
予測の下振れ、上振れ要因
アップサイドシナリオ(成長する場合):
宇宙経済規模は2.3兆ドルに達する可能性(基準値より+27%)。
-
宇宙データへのアクセス向上:
- データの普及と調和が新たな収益源を生み出す。
- AIがさらなる洞察を提供。
-
宇宙参入コストの削減:
- バリューチェーン全体での大幅なコスト削減が宇宙の完全なアクセスを可能にし、経済全体を加速。
ダウンサイドシナリオ(停滞する場合):
宇宙経済規模は1.4兆ドルに留まる可能性(基準値より-24%)。
-
宇宙へのアクセスが停滞:
- コスト曲線の維持やアクセスの停滞が活動拡大を妨げる。
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地上代替技術との競争:
- 地球上の技術進歩が衛星通信や航法などの従来型宇宙技術に代替手段を提供し、影響を与える。
-
需要減少
- 打ち上げコストが高止まりすることや宇宙ゴミ、規制強化などが民間投資を抑制。
- 民間企業や政府も、研究開発で民間投資に依存するため影響を受ける。
世界に与える変化
災害予測と軽減における宇宙技術の役割
宇宙技術はリアルタイム情報を提供することで、自然災害の影響を軽減し、初期警戒能力を革新する可能性があります。
自然災害のモニタリング:
衛星画像の普及により、公共機関は災害の評価を改善し、応答時間を短縮。
- 通信ネットワークの回復力:
- 改良された衛星通信で、初動対応者が早期警告を発し、遠隔地でも継続的な更新を提供。
- 地上動態の追跡:
- 衛星位置データを活用し、被災者を迅速に特定し、避難チームとの調整を最適化。
山火事への対応例
- 火災発生前:
- 衛星データと分析で火災の発生場所や条件を予測。
- 応急処置リソースを事前に配置し、早期避難を実施。
- 火災発生中:
- 新たな火災の検知を強化し、迅速な初動対応を実現。
- 火災鎮火後:
- 衛星データで地上状況をモニタリングし、緊急支援や復興プロセスを支援。
気候変動対策の支援
- 例:メタン漏出検知衛星
- 老朽化したインフラからのメタン漏出を早期に発見。
- パイプライン全体にセンサーを配置するよりもコスト効率が高い。
- 年間600万トンのメタン排出を削減する可能性。
人道的対応(Humanitarian response)
宇宙技術は、世界中での人道的危機対応と犯罪削減において重要な役割を果たすことができる。
データを統合し分析を展開することで、政府や国際機関は次のことが可能になる:
- 重要インフラのリスク特定:
- ダムや原子力発電所など、地域社会に大きなリスクを及ぼす可能性のある構造物を自律的に監視。
- 犯罪や人身売買対策の強化:
- 情報収集や国境監視を通じた対策の向上。
- 移民と難民に関する政策立案:
- 資源の最適な配分と派遣をサポート。
繁栄へのアクセス(Access to prosperity)
宇宙技術は教育、経済活動、天然資源へのアクセスを向上させ、不平等を解消する上で中心的な役割を果たすことができる。
特に遠隔地では、衛星通信が唯一の接続手段であり、安価で広範囲な接続が可能な衛星コンステレーションによって以下を支援:
- デジタル経済へのアクセス:
- eコマース、デジタル革新、起業を促進し、経済成長を推進。
- 遠隔地での健康管理や教育を支援し、人権格差を軽減。
- 持続可能で広範な経済的繁栄:
- 森林、水資源、鉱物の監視。
- 輸送と都市計画の革命。
- 精密農業アプリケーションの拡大と強化。
- 気候変動の追跡(例:海面上昇、森林破壊、氷河の融解)。
以上、とても読み応えのあるレポートのなかから、印象に残った内容をピックアップして紹介させていただきました。特にPNT(positioning, navigation and timing)に関してモビリティ、食料、サプライチェーンを変革するビジネス利用の規模拡大が大きく見込まれているということを再認識したので、それにかんするビジネスニュースには今後一層アンテナ感度を上げていきたいと思います。

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