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ゲームに使われるインタラクティブミュージックをディズニーリゾートに適用してみる【後編】

2023/08/02に公開

正直、これが tech かどうかは悩ましいところですが、前回の記事は tech として投稿しているので、今回も tech として投稿します。

インタラクティブミュージックについて

ざっくり、復習します。

このような、双方向に影響を与える音楽のことをインタラクティブミュージックと言います。

そして、独自の分類として、

を定義したのでした。

そもそもなんで、ディズニーリゾートの音楽?

ディズニーの音楽ではなく、ディズニー リゾート の音楽です。
重要なポイントは、その音楽がテーマパークという 多くの人がさまざまな場所で同時にさまざまな体験をする という環境で流れているということです。

ゲーム音楽で要求されていたインタラクティブミュージックをテーマパークの音楽に適用しようと考えたのは、聞く人の行動によって音楽が変化するという点で共通しているからです。
ゲームでは聞く人がプレイヤーであり、その行動によって音楽が変化します。
テーマパークでは聞く人がゲストであり、その位置や体験によって音楽を変化させなければいけません。

当然距離が遠ければ、音が聞こえなくなるのでいいのですが、そこまで距離を取れない時というのがテーマパークにはあります。

ディズニーリゾートのインタラクティブミュージック的解釈について

テーマパークの音楽も分類していきます。
とはいえ、そこまで複雑な分け方はしません。

  • パーク内
  • アトラクション
  • パレードショー

それぞれで流れている音楽について考えていきます。

パーク内で流れている音楽

パーク内で流れている音楽は、エリアごとに分かれています。
すると当然、エリアの境界線では、複数のエリア BGM が混ざるという現象が起こります。
曲の遷移では、フェードの時間を調整することで音楽的な問題をある程度解消できますが、ゲストが足を止めれば無限のフェード時間となり、音楽的に違和感を与えてしまいます。

さて、ここで東京ディズニーランドのマップを見てみましょう。
と言いたいのですが、ダウンロードできるマップの権利関係がよくわからないので、ここからダウンロードして見てください。
エリアごとに色分けされているのがわかると思います。

まず、前提として、そもそもエリアの境目は狭い道でつながっていることが多いです。
中央のシンデレラ城前広場からの道が非常にわかりやすいと思いますが、橋で繋がっていたり、建物によって道が狭くなっていたりします。
有名なものに、滝や川をエリアの境目に配置し、インパクトの遷移(効果音で前のエリアの BGM を掻き消す)で遷移する方法があります。(東京ディズニーシーはほぼこれだと思います。)
ただ、これが出来ていない、というか世界観や配水的に出来ない箇所も複数あります。
この場合、エリアの境目を狭い道にし、しかも境目にトイレやレストランなどの外の音が聞こえない建物 のみ を配置しています。
こうすることで、用がなければすんなり通り抜け、用があっても建物内に入るという形になり、曲の遷移のフェード時間を調整できています

当然、スピーカーの配置や向きも調整されています。
エリアの境目のスピーカーはそもそも音が鳴っていないことが多いです。

じゃあ建物ごとの音楽は? というと、実は建物ごとの音楽は建物に入らないと聞こえないくらい外に漏れ出ていません。
多くの人がアトラクションに並んでいる時、建物に入るとワクワクが増すと思いますが、それは外に並んでいた時に聞こえなかった音楽が聞こえてくるからです。

例外

東京ディズニーシーのマーメイドラグーンの海底トリトンズ・キングダムのみ少し特殊です。
あそこは大分アトラクションごとの音が混ざっています。
ただ、マーメイドラグーンに並ぶと外の音は聞こえにくくなりますし、アリエルのプレイグラウンドも同様です。

パーク内で流れている音楽は、インパクトの遷移曲の遷移 が主だというのが結論です。

アトラクションで流れている音楽

ディズニーに限らず、アトラクションの建物内では、複数のゲストグループが同時に別の体験をしています。
これは、大きく分けて2種類あります。

  1. 展開型
  2. 環境型

わかりやすいのは、プーさんのハニーハントやタワー・オブ・テラー、美女と野獣"魔法の物語"などの、 部屋ごとに体験およびゲストグループが分かれている 展開型です。
展開型は、部屋ごとに体験が分かれています。
そのため、ライドの位置に合わせて音楽を遷移させる必要があります。
残念ながら、 おもしろくないことに 展開型の音楽の遷移の仕方は、無音を挟むパターンが多いです。
これは、部屋ごとに体験の時間が定まっており、その時間に合わせて音楽が設計され(もしくはその逆)、曲を一旦終わらせることが可能だからです。
無音を挟むと言いましたが、正確には、次のシーンのイントロ的なのが聞こえてくるので、無音ではないです。
しかし、曲の遷移というよりは、単純に次の曲が始まるだけです。

もう一つの環境型は、イッツ・ア・スモールワールドやホーンテッドマンションのような、おおまかな部屋はあるものの、複数のゲストグループが同時に同じ演出空間に存在するもの です。
環境型は、ゲストグループが同時に存在するため、曲の遷移はできません。
そのため、イッツ・ア・スモールワールドのように、複数の編曲された曲を同時に流し、ライドが進むにつれてパートが変わるパートの遷移を行っています。
さらに、ホーンテッドマンションのように、ライドそのものから部屋全体の音楽に同期した音声を流すパートを重ねる構造をしているものもあります。

重ねる場合はパレードショーと同様の遷移をするため後述しますが、アトラクションで流れている音楽は主に、パートの遷移 で音楽を遷移しています。

パレードショーでの音楽

ここが本題の本題というか、語りたかったところです。
この2回の記事の内容に加え、導入・まとめ・ゲーム音楽の歴史まで加え、不完全でわかりにくい引用文献を記した9000字のレポート中1000文字を超える文字量を費やしてなお、語り足りなかった部分です。

まず、パレードショーの音楽の中でもパレードの音楽に話を絞ります。
その上で東京ディズニーランドのパレードの音楽は2種類のスピーカーから音が流れています。

  1. パーク内に固定されたスピーカー
  2. パレードの車両に搭載されたスピーカー

このうち、1つ目から流れる音楽を アンダーライナー 、 2つ目から流れる音楽を フロートライナー というそうです[1]。(孫引ですが)
ちなみにパレードの車両、山車のことをフロートと言います。
フロートから流れるのでフロートライナーなんでしょう。

さて、まずはおおまかな流れを説明します。

  1. パレードが始まるまでパーク BGM が流れている
  2. 先頭フロートが到着前、もしくは先頭フロートが見えてからアンダーライナーが流れる
  3. 先頭フロートが到着するとフロートライナーが聞こえてくる
  4. フロートは通り過ぎるとフロートライナーが聞こえなくなる
  5. パレードが終わるとアンダーライナーがパレードを締める

まず、パーク BGM からアンダーライナーのイントロの遷移ですが、これはパーク BGM をフェードアウトさせてから、アンダーライナーを再生するというものです。
展開型のアトラクションと同じと思うかもしれませんが大きく違う点があります。
それは、アンダーライナーのイントロは 最初から聞かせるつもりで作られている という点です。
展開型のアトラクションは前の展開からの繋ぎの意味で聞こえてくるだけなので、ワクワクを醸し出すような音数が少ないものの始まりを予感させるイントロはパレード特有のものです。
このイントロの後に、パレード曲のメインテーマが流れます。
そしてこのアンダーライナーは、ほぼずっと流れ続けます。

次にフロートライナーの遷移ですが、前提としてフロートライナーは(最近のパレードの場合)同じ音源を繰り返していると考えて問題ないです。
そのため、アンダーライナーと同期させて流しておけば(正確にはフロートライナーに合わせてアンダーライナーを再生すれば)、フロートライナーは 単純なパートの遷移 となります。

最後に終わり方ですが、特筆すべき点はないと思います。
フロートライナーが聞こえなくなったあたりでアンダーライナーを終わらせて、パーク BGM に戻すだけです。

アンダーライナーとフロートライナーの同期

ここまでで、音楽の遷移については説明しました。
ここから少し、細かい部分について説明します。

まず、同期について。
出典が不明ですが、パレードルートの地面にはフロートの位置を特定することができるセンサーがあるそうです。
また、キャスト募集のページにはショーキャストの仕事として、パレードのフロートの誘導があります。
誘導だけでなく、フロートの現在位置を報告するのも仕事の一つではあるでしょう。
この2つの情報を組み合わせることで、フロートの現在位置と到達予想時間を算出することができます。

これはあくまで予想ですが、フロートライナーの再生位置に応じて、アンダーライナーの再生位置候補を決めておくということはしていると思います。
そのためにも、フロートごとにワイヤレスで音楽情報を授受しているはずです。
当然フロートごとの同期も必要なので。
そう考えると床を通じて送るのが最も安価で確実だとは思います。
ただ、メンテナンスをどうしてるのかは気になるところ……
なにせ舞浜は埋立地で地盤がゆるいので、床の下にメンテナンス用の通路を作るのは現実的ではないでしょうし、床を剥がしてまた埋め直してを年中無休のパークでやるのも現実的ではないでしょう。
(大抵飾り付けなどは一晩でやってしまうそうです。)

アンダーライナーとフロートライナーの使い分け

次に、そもそもなんでこんな面倒な仕組みにしてるのかという話です。
技術的な理由演出的な理由 があると考えています。

技術的な理由は 低音の問題 です。
パレードの曲は、ダンサーが踊るのもあり、低音が多く使われています。
しかし、低音を鳴らすためには大きなスピーカーが必要です。
パレードのフロートは飾りが多く、移動するため低音を鳴らすためのスピーカーを積むことは不向きです。
そこで、低音を鳴らすためのスピーカーは客席側の固定設置のアンダーライナーに任せて、フロートライナーは高音を鳴らすためのスピーカーを積んでいると考えられます。

演出的な理由は セリフとメロディーの定位 です。
パレードでは、フロートの上にキャラクターが乗っています。
このキャラクターのセリフがキャラクターの位置から聞こえず、後ろの大きなスピーカーから聞こえてきたらどうでしょうか?
違和感を感じると思います。
また、多くの人が音楽を後ろから聞くことはないと思います。
特に最も印象的なメロディーを後ろから流すのも違和感を感じさせる要因になるでしょう。
そして、先ほど少々省きましたが、そもそもダンスミュージックの低音の定位を動かすのもおかしいです。
そこで、フロートライナーはキャラクターのセリフとメロディーを流し、アンダーライナーは低音などのリズム隊を流すという使い分けをしていると考えられます。

曲全体で見た遷移

最後に、曲全体で見た遷移についてです。

ここまで説明してきた通り、パレードの曲はアンダーライナーとフロートライナーの2つの音源で構成されています。
このうち、フロートライナーは同じ音源の繰り返しであろうと考えました。
では、アンダーライナーはどうでしょうか?

アンダーライナーは実はフロートの進行によってなっている音が変化しています。
つまり、アンダーライナーには 展開があります
フロートライナー単体の遷移の説明時に、「(最近のパレードの場合)」と書きました。
というのも、5年以上前のパレードにはパレード中に4から5回ほど、完全にフロートが停止して、手遊びパートが挟まることがほとんどでした。
つまり、任意のタイミングで手遊びパートに移行できる 変換点 が用意されていたわけです。
おそらく、現在も変わらないと思います。
というのも非常に稀にですが、フロートが止まって動かなくなることがあります。
この時に、アンダーライナーがパレード時間ぴったりで作られては、フロートがまだあるのに(フロートライナーが流れているのに)アンダーライナーが終わってしまうことになります。

そこで、アンダーライナーは フロートの進行によって変化するようになっている と考えられます。

まとめ

以上が、テーマパークミュージックの音楽遷移にゲームミュージックの音楽遷移を適用した考察のレポートのまとめというかブラッシュアップです。
結論として、聞く人に応じて音楽を変化させるインタラクティブミュージックは、聞く人の数や空間の広さにかかわらず適用できるものでした。
当時の自分は、これを演劇や大道芸に応用しようと思いましたが、今考えてみれば、あまり効果がなさそうですね。
いずれも、観客を巻き込むことをしたりしなかったりしますが、そこまでのインタラクティブさ(と言っていいのかわからないけど)はなさそうです。

自分的には、ちょっとしたゲームにどんどん応用して、最終的にインタラクティブミュージックメインの何かしらのコンテンツつくれないかななんて思ってます。
現在構想中なのは、盤面の埋まり具合や有利不利に応じて音楽が変化するオセロゲームです。
GUI と再生システムの実装に折れて、それよりやりたいことができて放置中ですが、いつかやりたいですね。

追記

まず、ここまで読み切った方、お疲れ様でした。
初めての内容のある記事で約一万文字と、拙い文章にもかかわらずここまで読んでいただきありがとうございました。
元々は、昔書いたレポートを簡単にまとめるつもりでしたが、書き始めるとどんどん膨らんでしまいました。
なんだかんだ、色々当時から理論は修正していますが、このページで書かれていることは9割当時のままです。
何より衝撃なのは、当時の自分と今の自分と、知識量が全然違うのに、当時の自分の考えをほとんど修正していないことです。

ちなみに一個前で記事の中に出てきたじーくどらむすさんもディズニーの音楽についての記事を書いています。

https://note.com/geekdrums/n/n3e4b44d3bd3b

レポート書いてた時期にすでにこの記事は存在していたはずなのに、初めて見ました……
ちょっと先を越されたようで悔しいですが、高校生にそこまで要求するのはさすがに酷な気がします。(言い訳です)

そして、最後に。
ここまで語ったのはインタラクティブミュージックの遷移についてのみです。
例えば、音楽に合わせてゲームを展開したり、複数の音楽を同期させたりなんてこともインタラクティブミュージックの一部だと思います。
もし、興味があれば、ぜひ調べてみてください。
そして、間違いがあれば、ぜひ教えてください。

脚注
  1. ディズニーリゾート音楽を語ろう! ↩︎

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