御社の公式テックブログが採用に寄与せず廃墟になる理由
この記事を読む前に
kinoppyd さんの記事が完全上位互換なんでそっちを読んでください
CTOがテックブログなんとかしてって言って一ヶ月が過ぎました
こっちは読まなくていいです
前提
Web系で、サービス運営していて内製開発している会社の話をします
エンジニアの採用ターゲットは中上級者です
ある日採用の人が言いました
「私この前聞いたんですよ!会社の公式ブログにテックな記事を書くとエンジニア採用に有効なんだって!」
「ということでエンジニアの皆さん!公式ブログにテック記事の投稿お待ちしてます!」
だいたいこういうパターンは失敗します
失敗するとどうなるかというと、廃墟化します
問題
問題その1:稼働に全く余裕がない
「常に締切に追われ、毎日残業が常態化している」
そんな状態でブログを書く余裕はありません
そもそもインプットしている余裕がないからです
またプロジェクトマネージャーサイドとしても、限られた工数は進捗を出すために全力投入してほしいです
採用のKPI達成という「ついでの仕事」のために自分の部下のリソースを割きたくはありません
割かなかったとしてもペナルティがないなら尚更です
問題その2:書いて見返りがない
執筆時間を勤務時間につけられない
となると執筆者にとっては持出しになります。
それで何かメリットがあるのでしょうか?
実質的に採用のKPIやOKR達成のために無償ボランティアをしろと言われているに等しい行為と見てしまうと、モチベーションが保てなくなります
問題その3:何を書いていいのか分からない
レギュレーションがゆるふわで「なんでもいいよ」みたいな感じで、誘われたから記事を書いたとして
せっかく書いたのに「会社ブログでプライベートで触った技術の話をされても…」みたいな後出しジャンケンでリジェクトされると執筆意欲が壊滅します
ちなみに結構ある話です
問題その4:そんな話、社内でしたことあった?
技術的な話をブログで書いてくれと言われても、slackなどで普段話をしていない内容を会社の記事として出すのは難しいです
社内に文化が育っていないからです
- RubyKaigiやRSGT, Go ConferenceやAWS Summitみたいなテックイベントの参加レポートみたいな話が社内で出回らない
- 勉強会やテックイベントのパブリックビューイングイベントみたいな文化がない
そんな状態でテックブログを運営しようとしてもすぐネタ切れになります
問題その5:そもそもウケない
こちらは逆に中上級者向けの記事を書く人間が感じる問題です
どうして会社のブログで、会社の名義で書かないといけないのでしょう?
退職したらそのブログにさわれなくなるし、そもそも頻繁に起きる「ブランドのリニューアル」で記事ごと闇に消えるかもしれないのに
それなら自分の名前でqiitaやzennに書けば大量のLikeがつきます
会社名義で書くよりも多いでしょう。であれば自分の名前で書きたいです
会社の都合に縛られる必要もありませんしね
また書きたい内容ができたら書ける人間はすぐに自分のブログに記事にしてしまいます
そうそうストックがあるわけがありません
解決策(アンチパターン)
上記の問題があるために、テックブログの記事が集まりません
なのでこういう施策を多く見かけます
だいたいアンチパターンとしてあげています
KPIとしてあげているPVや応募数には好影響を与えるものの、訴求対象の求職者に刺さらない点が問題です
なにより無賃労働にしろ工数を割いているにしろ、会社のリソースを大して有益でない点に投射している点を私は問題視しています
解決策その1:ノルマ制
とにかく数を稼ぐために、チームごとにノルマを割り振って書かせようとします
しかし上記の理由から皆忙しいかリターンが合わないので書きたくありません
となると「社内地位の低い人」「あまり多くの仕事を任せられていない人」が執筆を拝命させられます
チームとしては重要度の低い仕事ならその程度の人材に任せたいからです
すると結果として質の低い記事や初級者向けの記事が出てきます
また練り込みも甘いため、対象読者に刺さりません
解決策その2:インセンティブ
もっともPV数を集めた記事を書いた人には!Amazonギフト1万円分プレゼント!
という施策を見たことがあります。
この施策のよくない点は、PV数と記事の価値が関係しない点です
PV数を稼ぐには以下の要素が含まれるほど稼げます
・初学者/初級者向けである
・煽り要素が多分に含まれる
・ある程度人口のいる特定の言語やエディタ、フレームワークなどを攻撃する(しかも主観で)
しかし最初の要素では本来リーチしたい層には刺さりません
ワナビー層が釣れるだけです
後者2つはさらによくありません
ヘイトを稼ぎブランド価値が低下します
なにより中上級者に刺さる記事を一生懸命書いた人間より、お手軽な記事や刺激的な記事を書いた人間の方がPVを稼げてしまいます
すると中上級者に刺さる記事を書ける貴重な人間が「馬鹿馬鹿しい」と感じてしまいます
これはテックブログの継続的運営に強い悪影響があります
上記のやり方で募集した時のことです
「入社半年、入社してからPHPに触り始めた俺が感じるPHPのクソなところ!」みたいな記事が大バズりしてMVP賞をかっさらって行った時には私の執筆意欲がゼロになりました
煽りまくってアフィリエイトと広告収入で稼ぎたいまとめブログみたいなブログと、テックブログは性質が根本的に異なります
CTOが審査員になり、最優秀の記事を顕彰する方式も良くありません
訴求対象の読者が見ているのは記事の質の「中央値」と「投稿量と投稿間隔」であって、頂上の高さではないからです
解決策その3:技術顧問に書いてもらう
パーフェクトRailsの著者などを技術顧問として雇っている場合、その人に書いてもらう場合があります
たしかに良質な記事は書けるでしょう
記事自体はバズるし価値がブランドも高まると思います
……しかし求職者の立場で見ると、それは技術顧問がすごいのであって現場エンジニアの凄さとはあまり関係がありません
他の技術記事を読んで「数が少ない上に質も……」となるケースはよく見ます
あくまで認知度の向上や流入のフックまでしか使うべきではないと考えています
解決策その4:アメリカンコーヒースタイル
水でコーヒーを薄めるように、デザイナーやPdM、マーケ、企画の人などを駆り出して記事を書いてもらいます
あるいはお手軽にPVを稼ぐために各人のキーボードやリモートワークの時の机の周りの写真をアップしてもらうという手もあります。
「とにかく記事の数が必要。でもエンジニアの人はなかなか記事を書いてくれない」
「テックブログだけどプロダクト開発に関わることだからいいでしょ?」
そういう理屈です
「こういう有名な企業だと、こういうクールでイケイケな雰囲気で仕事できるんだ!」
というワナビー層は喜ぶのでPVは稼げるかもしれません
しかし求職者から見ると、ある程度雰囲気は分かるにせよ、肝心の
「具体的にエンジニアのレベルはどういう感じなの?」
「どこに課題を感じている?どういうレベルのところで苦しんでいる?」
という情報はありません
問題を整理すると?
プロジェクトマネージャーはすべてのエンジニアリソースを無駄なく進捗に投入してほしい
採用はエンジニアリソースを採用数や応募数増加のために、会社公式ブログに投入してほしい
本来は限られたエンジニアリソースをどの比率で分配すべきか?どちらの人事目標に貢献させるべきか?という話を(誰も責任を取りたくないので)曖昧にしたまま、二者がゼロサムゲームで得をするためにグリーディに振る舞おうとするので板挟みになったエンジニアが苦しむと言う構図です
そもそも多くの場合コストの支払い手と利益の受け手が一致していません
「会社にエンジニアが搾取される」
この構造的問題がある限りブログは続きません
機能する解決策としては?
社内に勉強会文化やテックカンファレンスのリポート、OSSのPRについてワイワイする盛り上がっているコミュニティを作るのが一番先かと思います
ワイワイ盛り上がる
するとどこかにそれを書きたくなる
「じゃあ会社のブログで記事書いてみたら?」
と言われれば「インプットとアウトプットが会社に絡んでいる」「会社がらみで得た利益を会社に還元する」「コミュニティの仲間を増やす」という方向になるので会社にエンジニアが搾取されなくはなると思ってます
会社やエンジニア組織とはコップであり、その中に溜まった水がコミュニティであり、コップの表面について水滴がブログとして表に出る
そういう理解をしていただけるとわかりやすいかなと思います
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