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[ふりかえり]を有益なものにするために心がけていること。あとエセ外人のカルロ

2022/12/04に公開約5,800字

この記事はふりかえりAdventCalendar2022 5日目の記事です
4日目はkenzyさんです

前提

我々のチームはスクラム開発をしています。
自分はスクラムマスターの役割を果たします。
スクラムマスターはふりかえりにおいて単なるファシリテータの役割におさまらない仕事をします。
そのために自分が心がけていることをここに書いていきます。

わたしはカルロ

自分はカリブ海に面したバルベルデ共和国からやってきた陽気なラテン系中年男性のカルロだと思い込みます
カルロは陽気な中年です。テキーラとボサノヴァを愛しています。
かわりに日本の事情はよく分かりません。
しかしチームとメンバー、そして仕事に対しては誠実です。

すみませんちょっと大袈裟に書きました。
実際にはエセ外人風の言動とリアクションの多い男としてふりかえりの時だけ私は振る舞うとご理解ください。

カルロは陽気な男です。

ふりかえりの冒頭で「アミーゴ!もうすぐ週末だよ!VIVA週末!さあみんなも週末を喜ぼう!ムーチョムーチョ!」と言います。
陽気なカルロにとって週末とは祝うべきものです。だから陽気に祝います。
メンバーにも付き合うよう促すので、付き合いのいいメンバーはアミーゴとかムーチョとか返してくれます。

開始30分間沈黙したミーティングでいきなり口を開くには勇気が必要です。
しかし冒頭でアミーゴとかムーチョとかVIVA!!とか叫んでしまえばあとは口は滑らかに動きます。
またアホなノリに見えるかもしれませんが、このアホさ加減が重要です。
潜在的な意識の中でメンバーは大なり小なり不安を抱えています。
未熟なメンバーや新参のメンバー。つまり問題をうまく言語化することが苦手なメンバーはこの特徴が顕著です。
「この発言をして怒られないだろうか?」
「過去の行動について激しく叱責されたりしないだろうか?」
そんなメンバーは目の前でアホのように騒ぐエセ外人のスクラムマスターを見てこう思います。
「このチームで怒られないラインってこのレベルか……(だいぶ低いな……)」
すくなくとも不安には思わないでしょう。

チームが失敗した時こそが勝負

スプリントプランニングでコミットしたはずのゴールに遠く届かず、ベロシティはガッタガタ。
出せるものも少なくえ?これだけ?状態でスプリントレビューは終了(あるいはスキップかも)
そのような状態ではスプリントレトロスペクティブはお通夜状態になります。
特に「PRレビューの段階でほぼ設計からやり直しになってスケジュールを狂わせた大戦犯」と自分のことを思い込んでいるような人間の口は重くなります。
そんな時こそカルロの陽気さが助けとなります。
「思い出したくもないほどの失敗」はえてして「不幸なピタゴラスイッチ」の果てに出現します。
(基本的に練度の高いメンバーは「必死に考えたがこいつは無理だ」と考えたら「誠に遺憾ながら遅延が発生します」と傷が浅いうちに申告します。我々のマネージャーの度量は幸いなことにその申告を受け入れてくれると信頼されています。だからこそ、それを突破した「大失敗」が厄介なのです)
そしてその中にピタゴラを発生させた複数の要因。
そして焦りやがんばり、果敢な挑戦と評価されるはずだった拙速な失敗が隠れています。
陽気なカルロは失敗の嫌な記憶やどんよりとした雰囲気を払拭し「そのとき何が起きたか?」を明らかにします。
この「ポストモーテム報告」は非常に大事です。このふりかえりではなく、「将来」失敗を繰り返さないために、です。

ある日の夜21時、人が少なくなったオフィスと蓄積した疲労。遅れているスケジュールへの焦りと空腹による判断力の低下が悪い運命を呼び寄せます。
ここで焦って手を動かすのではなく、冷静になって現状や課題を整理することを何日程度の遅れになるのか。
今苦しめられていた問題はどの段階で生まれてしまった問題なのか。ここで焦って過去にボヤが大火事に発展してどうなったか。

それを思い出してもらうために失敗を「思い出したくもない惨めな失敗」ではなく「前もこんなふうに焦って失敗したなと思い出せる過去の糧」にするのです。

カルロといれば、嬉しいことは倍に。悲しいことは半分に。

あるときメンバーが閃きました。
「このうざったいコード、ここで共通関数を作ってしまえば簡潔なコードで記述できるし、処理を一塊にできるからバグの温床だった処理の漏れを防げるぞ?」
しかしそのコードを書くには3時間程度の時間が必要です。
彼は定時後の時間を使って共通関数を作成し、利用が必要な箇所を置き換えるPRを作成しました。
彼はそのせいで大好きなゲームをやる時間が3時間減りましたがそのPRはチームにとっては利益になります。

彼は「ついカッとなってやった」とふりかえりで供述しました。
この行為は褒められなければいけません。彼の3時間のゲームタイムを削った献身はチームの利益になったからです。
また褒められれば本人は承認欲求が刺激され、また次もチームのために働こうと思うし、他のメンバーもそれをやると承認されるのかと学習します。
後進育成や厄介なバグに苦しむ同僚のヘルプ、ブルシットジョブを自分のスキルで解決する行為
時間を使えばチームのためになるが人事評価には反映されるとは保証されない行為はいくつもあります。
メンバーにとってチョロく評価を稼げる行為や楽しい娯楽の誘惑が待ち構えているならなおさらそれらの献身行為に時間を割くことは利口には見えなくなります。
なにより我が社のメンバーは皆ぼんくらではありません。
該当部分のコードに触った人間は何人もいるはずです。しかし皆共通関数を作るPRに3時間を費やすことを見送りました。それはおそらく損益分岐点を超えるか自信がなかったから、あるいはそれを思いつかなかったからです。
カッとなってやった該当メンバーはその分水嶺を超越してチームへの貢献を実行しました。

だからこそカルロはチームへの献身行為を大袈裟に祝福します。
大袈裟に祝福すれば貢献した人間は嬉しいし、人の記憶に残り評価につながりやすいし、メンバーはチームの貢献をポジティブなものと学習するからです。

(ラテン系の熱烈祝福するカルロのイメージ)
選手を抱き上げるマラドーナ監督

またカルロは悲しみを和らげます。

あるメンバーが大きなタスクに手間取り2日以上作業に遅延したせいでプロダクトバックログアイテムがDONEになりませんでした。
ベロシティにつまれるはずだった13ポイントが宙に消え、ギリギリで終わらなかったそのチケットは再見積の結果1ポイントとして次スプリントに積まれました。
そのメンバーは悲しみます。切腹せんばかりの勢いでチームメンバーの前で謝罪します。もうなんなら会議室の窓から身を投げんばかりの勢いです。
カルロは彼を許します。涙は幸福を遠ざけるからです。
「なぜ泣いているんだい?そんなこと忘れて踊ろうよー!楽しく原因分析さー!」
メンバーは許されることで心が軽くなるでしょう。
花の慶次の秀康が許された画像

メンバーは本気で悲しんでいるというのもあるでしょう。
本心の奥底には「これ以上追撃で叱責されたくない」「早く許されて楽になりたい」という気持ちもあるかもしれません。
しかしそのために大袈裟な謝罪と悲哀をされてはふりかえりのリラックスしたムードは壊れ、貴重な時間が浪費されます。
ふりかえりのタイムボックスは厳格です。
貴重な時間は原因分析のために効率的に使われるべきです。
またリラックスされた雰囲気で情報は積極的に出され淡々と分析されるべきです。査問や異端審問のような空気の中ではそれは不可能です。
またより大掛かりなポストモーテムが必要であればそれは別の時間をとって行われます。
失敗に対して人への断罪や切腹は必要ありません。しかし原因究明や次回の被害極限は必要です。

カルロは好奇心旺盛な男です。

ふりかえりでメンバーがなにかしら躊躇するような言動やこれはすべきでないと特に理由も示さず言った場合、日本の「ソンタク文化」に疎いカルロはそのメンバーに対して
「私、日本のことよく分からないよー!なぜそう判断した?教えてヨー!」
と言います。カルロは日本には詳しくありませんがメンバーと仕事に対しては誠実だからです。
メンバーに自分の口から自分の言葉でそう判断した理由を話させることで解決の糸口が掴めるかもしれません。
またそこで出てきた糸口は裏バックログアイテムとして格納され、ふりかえりの後でスクラムマスターが解決できるよう動けるかもしれません。
大事な点は糸口を掴むこと、そしてそれをメンバーの口から話させることです。
それがなければメンバーの陰で不満や怒り、歪みや不効率、保身やごまかしがカビのように繁殖してしまうからです。
その場では解決できないにせよ、せめてカウンセリングやメンタリング程度はしてやることが必要です。
また目の前のエセ外人ムーブしているおっさんに話せば、確実ではないにせよある程度の打率で解決するかもしれないというメンバーからの淡い期待やあやふやな信頼を維持し続けることも大事です。

カルロは陽気だが、甘いわけではない

我々のスクラムチームは主な場合6〜8人で構成されています。スクラムガイドに従っているからです。
昨今の人件費の高騰を考えると、1年間のチームの稼働コストは1億円強になります。
社会保険など諸費用やオフィス代、ステークホルダーの稼働費用や間接費賦課も考えると2億円/年はかんたんにいくでしょう。

カルロは陽気な男です。しかし彼の軽快なボサノヴァのリズムと喉を潤すテキーラに夢中になってチームメンバーが時折大事なことを忘れてしまうこともままあります。

例えばあるプロジェクトが2ヶ月稼働しました。
3ヶ月で終わるはずがまだ進捗は半分以下。バーンダウンチャートは中程より少し高い程度の推移で上下動しています。
チームには「最初の見積が間違っていた。もう何ヶ月で終わるかも見当もつかない」という諦めムードが漂い始めます。
「そんなことよりボサノヴァ踊ってテキーラ飲んで不安を忘れようぜ!仕事をし続ければ何ヶ月か後には終わるさ!」という捨て鉢な発言すらも出てきます。

そこでカルロは言います。
「すでに我々は金銭換算で2千万円以上を浪費しています。当初の予算の7割近くを消費しながら完了の見込みもありません」
「ではいくら予算を追加すればいいのか?期間の延長やスコープの縮小というプランBを我々は提示することすらできません」
「会社は我々のチームの自治と自律を信じて年あたり億の単位の金を任せてくれました。ですがこれ以上経営陣の忍耐を試し、信頼を裏切ればそれは取り上げられるでしょう」
「スクラムという面倒な手法よりも締切とスコープを壁越しにぶん投げる方法の方が経営陣にとってはずっと簡単で楽です。それを今まで使わなかったのは、彼らが我々チームを信頼していたからです。」
重々しい口調で告げた後、カルロは付け加えます。
「そんなことをマックで女子高生が言っていたヨー!あとこうも言っていたヨー」
「会社がVCから調達した資金をチームに任せるにあたって、最も大切なのは『信頼』なんだ」
「それに比べたら頭がいいとか才能があるなんて事はハナクソほどの価値もない」
メンバーの一人が(それは女子高生ではなくパッショーネ幹部のポルポでは?)という顔をしますが些細な問題です。

陽気でボサノヴァとテキーラを愛するカルロはチームメンバーを信じています。
しかしあまりにも計画と現実がズレすぎて心が荒んでいるメンバーが軽口を叩いてしまうことにも心を痛めています。
プロジェクトや大規模な開発は時として荒馬のように制御を受け付けなくなってしまいます。
しかし最初に出した見積を大きく外れたとしても、今までの開発を経ての経験や学習を踏まえて計画を新たに作り直す必要があります。
それがスクラムチームとしての「説明責任(Accountability)」だからです。

テキーラやボサノヴァは時には激流のようにもなる気まぐれな大河の如き現実と向き合い疲弊した心を癒してくれます。
しかし辛い現実から逃れるためだけにそれらを使うべきではありません。
時間がなんとかしてくれるという諦観も不要です。
なんとかするのは常に我々チーム自身であらねばならないからです。

まとめ

スクラムマスターというのは一種の役割です。
本来の個人の人格とふりかえりにおけるスクラムマスターが振る舞うべき人格は一致しません。
口から出る言葉と心の中での思考もまた異なります。
時には言いたくないことまで言わねばなりません。

またチームメンバーをリラックスさせ、チームの心理的安全性を確保し、建設的な意見を出させる必要があります。
時には目を覆いたくなるようなひどい有様のスプリントの「敗因分析」が相手であってもです。

その時に「カルロ」というエセ外人風の振る舞いは「今は普段よりもさらに、安全で発言が求められる場だ」という意識をメンバーに植え付けさせることを狙っています。
また一度始めたら定着してしまい「今日はカルロやらないんですか?やりましょうよ」と言われたので今更エセ外人ムーブをやめられないという事情もあります。

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