スクラムの前に山登りで道に迷った時の話をしよう
前振り
なんの下準備もなし、原稿のネタの熟成もなしだと私はこのクオリティでしか書けないです。
ということで本文
数日前に書いたスクラムの記事の中で気に入っている表現があります。
生産性向上の沢
スクラム開発チームの進歩を山登りに例えた上で、「生産性向上の沢」という表現を使いました。
このポンチ絵ですね。
山登りっていいですよね。
さてここから山登りの話をしましょう。
大丈夫!あとでちゃんとスクラムの話に戻るから!
あっ、ちょっとブラウザバックしないで!
大丈夫、ちゃんと私の経験と反省に基づいた話をするから!
山登りにおけるセオリー
山登りにおいて「たとえ下山中でも、道に迷ったら登れ」というセオリーがあります。
理由は「上に登ると視界が確保できて道を見つけやすい」というのもあります。
ただしそれだけではありません。
山の表面は2つの要素で構成されます。
人間が安全に移動できる道と、それ以外です。
後者の「それ以外」は山の99.9%以上を構成しています。そしてそういう場所で怪我や地形障害などの理由で移動不能になり携帯も通じないと不幸な結果になります。
上にのぼれというのは、山の上にある尾根や頂上では高確率で道が通っているからです。
谷川岳の地図とか見るとわかりやすいですね。これだけ大きな山なのに、上下の移動が可能な道は数本しかありません。そしてほぼすべてが尾根に沿っています。
山で道に迷うとどうなるの?特にうかつな行動をした時。
遭難します。運がいいと死にません。
山をくだろうとするとき、人間は通りやすいところ、通れるところを通ろうとします。
くだるうちに「あれ、この段差を飛び降りてもし行き止まりだったら、上に戻ってこれなくなるのでは?」とか深いことを考えなくなります。
そしてくだって遭難する知識のない人間は高確率で沢を通ろうとします。
- 容易に水が確保できる
- 川なのだからそのまま行けば人里に通じるだろうと信じる
このあたりが理由です。
また「水の通り道」は人間が通りやすい地形が多いという理由もあります。
そしてどこかで「進行方向には下りの滝。それ以外の三方向は切り立った崖」という地形に出くわし、移動不能になり、数ヶ月後に発見されて遭難犠牲者のリストに名を連ねます。
じゃあなんで遭難した人は沢を降りたの?
前述の沢に落ちて遭難した人も、その割合のいくらかは山で道に迷った時点で
- 来た道を戻る
- 一度登って道にでくわすまで登り続ける
という選択をすれば助かったでしょう。
そうしない理由はいくつかあります
- 下山したいのだから、道以外を進んだとしても山をくだりつづければ下山できるだろうという「直感に適合した判断」をするから
- 「下山中に迷ったので山を登る」 という判断は「直感に反するから」
- 「山で迷ったら登れ」というセオリーを知らないから
- 山の表面のほぼすべては人間が通行に適さないという知識がないから
- 「来た道を戻る」という行動も「くだり続ければいつかは山から出られる」という直感に反し、遠回りで不合理に思えるから
このあたりですね。
端的に要約するとこうです。
山登りで今まで出くわしたことのない問題にぶつかったとき。知識がなく、直感で行動すると失敗する。最悪死ぬ。
航空事故とかだとわかりやすいですね
航空事故で不時着して運良く生き残ったらどうすべき?という問題は座学研修でよく出ます。
だいたい飛行機は不毛の砂漠や荒野のど真ん中に落ちます。
ベストアンサーは ただじっとその場で待機して1分1秒でも長く延命する。助けが来ると信じて待つ です。
でもベストアンサーを選べるのは班に1人いればいい方で、みな無謀にも大した確信もなくどこかに進もうと言い出します。
だってそれが 直感に適合した行動 であり、「その場で待機」は 直感に反した行動 だからです。
はい、ここからスクラムの話に戻りますよ
スプリントレトロスペクティブにおいて、課題や問題を発見した時において、ほぼすべての人間は自分の知識や経験の引き出しの中から解決策を探します。
(そうでない人間はなんでしょうね。知識や経験に頼らないってことは、タロット占いとかで判断するんでしょうか。あるいは卜占?)
この際に経験則ベースで判断しようとすると、自分が見たことがない問題を見た時に「直感で判断」しがちになります。
多数決に任せても同様です。
みな大体同じような現場で同じような経験を積んでいるため、同じような経験や知識の中から同じような選択を選びます。
要するに 直感的な判断に適合した「合理的」に見える選択 を選ぶわけです。
逆に 「直感に反する選択」 を取らせるのは難易度が高いです。
スクラムマスターは知識と権威がないといけない
スクラムのセオリー、「まずはベロシティを安定させないといけない」「安定させるまで、ベロシティを上げようとするな」は 「直感に反する選択」 の最たる例の1つです。
知識があれば。あるいはベロシティを安定させてどう言った便益を得ることができるかの成功体験があれば一見直感に反する選択でも人は取ることができます。
しかし知識がない人間だけの場合。あるいは知識がない人間が多数派で、破滅から回避する手段を知っている人間があまりに少数で無力の場合直感的な選択を選ぶ、数の論理 に負けてしまいます。
つまりチームの大半が「道に迷ったけど、早く下山したいから沢に沿って進もうぜ!」と言い出したときに、それを回避するなにかがチームは悲しい未来を迎えることになるでしょう。
そして私はスクラムマスターはその結末を回避するための能力がないといけないと考えています。
なのでスクラムマスターはチームに対して 直感に反する選択 をさせるために正しい知識があり、それを論理的に説明でき、なにより数の力に逆らえる権威が必要になります。
あるいは「うん、以前やろうぜ、っていったアレね!やっぱなし!取り消し!」という「来た道を戻る勇気」を持つ必要もあります。
最後に
スクラムマスターの役割を拝命したら、知識を得るために死ぬほど本を読まないといけないです。
また経験者、特に中級者の壁を乗り越えた人と会って話をするのも有益です。
辛いと思うでしょう?
……うん厳しい。だいぶ厳しい。
がんばりましょう。
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